寵愛の行方。

iBuKi

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02話

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――まぁ、そろそろ潮時ですわね。



子爵令嬢と戯れる婚約者を尻目に、学院内の寮へ戻る。

王族・高位貴族の寮はとても豪華だ。
目の肥えた者が住まう場所だという事でかなり気を使われているのか、快適である。

自室へ戻り座り心地の良いソファ座りお茶の準備を頼む。

頭の中は「婚約破棄か解消か…」でいっぱいになるアルベルティーナ。

婚約者が同じ学び舎に居る状態で、あれだけ派手な振る舞いをして、私と婚姻出来ると思ってるのかしら。
バカな人では無かったと思っていた。
事前調査は完璧だったし、自国の諜報機関はとても優秀だ。


物腰柔らかく協調性もあり、どの身分であろうとも取り敢えず耳を傾け話を聞く公平さ。
王配として女王の補佐としてなら問題ない資質、そして私が御しやすそうという点から選びましたけど…
そんな理由で選んだからおかしな人選になったのかしら。
他となるとヴィレムスの皇子しかいなかった。
でも、ヴィレムスの皇子怖いですし…
はぁぁと溜息がこぼれた。


――お母様の目が正しくて、私の目が曇っていましたわ。


物腰柔らかく協調性に公平さ。
美点は時に欠点にもなるものなのですね。
優秀で人柄のいい王子は優柔普段で強気な押しに弱く、人の話を聞く公平さは王族との壁を簡単に取っ払った。
学園という身分制度を出来るだけ抑えた環境下は誘惑され易い。


殿下もまだ若いものね、若さ故の暴走という事で手を打ちましょう。
そうとでもしないと、色々面倒な後処理になりそうですし。


王族とはこの国の顔。

下位の貴族は「王族は贅沢を享受して蝶よ花よで育てられている選ばれた者達」とでも勘違いるだろう。
だから、覚悟なく王子妃や皇太子妃を夢見るのだ。
王族の伴侶になるという事は、お伽噺を夢見る乙女心を捨て去る事なのだ。

高位貴族は現状が分かっている筈だ、王族はとてつもなく厳しい教育を経て作られるのだと。
努力せずとも天才的な能力がある者は極一部で、ほとんどは血反吐を吐く努力を経てその地位を保つ。
国を動かす力を持つ一族では、能力の無いものは早々に見限られる。
利用価値の無いものを王族として悠々自適には生活させるほど王家は甘くない。
高位貴族の令嬢は覚悟を持って王子と接している筈。

――侯爵家が王子に靡いたのは権力欲かしらね?第二王子ですけど…それも婿入り予定の。
侯爵家でも思慮の足りない方も居るという事ですわね。


見限られた王子や姫は住まう部屋が粗末になり、1番はじめに使用人の数が減る。
三ヶ月に一度開かれる予算会議で割り当てられる予算が減るからだ。
雇い続ける為の資金が少ない為、まずは使用人を減らすのだった。
衣装もランクダウンする為、お茶会で見かける貴族はすぐに分かるのだ。
「見放された王子(姫)なのだな」と。
そこで屈辱を感じて一念発起すれば僥倖である。
そのまま沈むなら、その後は他国への政略結婚の駒以上に有用性はないだろう。
自国で優秀な駒だったなら兎も角、見放された駒が他国でどの様な扱いを受けるかは推して知るべし。

ここまで厳しいのは我が国だけかもしれませんから、あくまで憶測ですわね。


第二王子は大層優秀だった筈だから、優秀な駒扱いで我が王国でも王配の地位を獲得する筈であったけれど。
私との解消後はどうなるかしら。
臣下に下って公爵位でも授けられれば御の字って所でしょうか。
王は知らないけれど、王妃が溺愛してた筈だから悪い様にはされないかもね?


我が国では、王族とは死にものぐるいで努力させられる世界だ。
座学は満点を取らなければ鼻で嘲笑われるし(母に)、腕力でどうこうされぬ様に剣術も結構なレベルを要求される(女ですけど…)

姫=女の子であれどいずれ女王な為に、男性が受ける様なハニートラップなんて日常茶飯事。
勿論ハニートラップを仕掛けてくるのは男性達…あ、稀に身の危険を感じる性癖をお持ちのご令嬢からもある。

女ってあざといのね…と仰る方に声高に言いたい。
男もあざといのはたくさん居ると。
あの手この手の搦手は、女より長けてる気がする。


毒や媚薬への耐性を持たせる為に、ほんの幼い頃から致死量ギリギリの毒を少量ずつ取り込んだりもしましたし。
初潮が来てからの媚薬摂取は地獄だった。うん。

この国の王子だって様々な教育を受けてる筈だけど…なんであんな風に後先考えなかったのかしら。



――うん、今更ですわね。


さて、王子に手紙を出しましょう。

巷に溢れる小説の様に派手な場所での婚約解消はしません。
あんなバカな振る舞いなどしては、他国の笑いもの。
例え私に何の瑕疵がなくとも、どこかに隙が無いかと痛くもない腹を探られるなんて真っ平御免ですわ。



自室で筆を取りサラサラッと手紙を書く。

「サウロ、これをルシアノ様にお願いね。」

「かしこまりました。」

スッと音も無く近づいて来た侍従が手紙を受け取り退室した。

手紙には明日の放課後時間を作って欲しい旨を書いた。
会う場所は、王族か王族と同等の身分の他国の王族しか使用を許されない学院内にあるプライベートサロンだ。
そこなら人に話を聞かれる心配もない。
自室で会う事も考えたが、内容が内容だけにさっさと退室出来る場所を選んだ。

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