上 下
5 / 22
異世界転生でドラゴンとして生きてみる。

第5話

しおりを挟む

 あれから二日――――

 何とか生活出来ていた。
 食べ物は勝手に自殺していく魔物の肉と、木の実と、果物。

 しつこく纏わりついてくるの不快な羽虫のような魔物たちへの対処方法を得た後、
 やっとこれからどうするか? に意識が向いた。

 魔法や魔物が存在する世界へ異世界転生した場合のあるあるを一通りこなす。
 だって綿毛モドキはエンシェントドラゴンに転生出来るとか、最強種だとか、最上位の魂で強いとかを話すばかりで、基本的なことは何ひとつ説明してくれなかった。
 不親切もいいとこである。
 あとは、転生して欲しいしか訊いてない。
 と考えると、ドラゴンの生活が嫌になったら元の世界へ戻れるという話も反故にされる可能性だってある。

(反故にしたらこの世界をぶっ壊してやろう)

 なんてったって私はこの世界の最強種らしいので、世界をぶっ壊す事もきっと可能だろう。
 そっちが約束を守らないなら、こっちだって世界の均衡を正すとやらの話を守るつもりはない。

 そう決意するとスッキリしたので、まずは定番の『ステータス』なるものを調べる事にした。

「ステータス」

 右を見ても左を見ても魔物か魔物だったものの死骸しかない場所だ、何を恥ずかしがる必要があるかと呟いていたものの、何だか恥ずかしい。
 いい大人が某アニメの城を破壊する呪文を誰もいない部屋で呟く時くらい恥ずかしい。
 ドラゴンの尻尾が感情の起伏にぶるぶると思わず揺れてしまった。

 目の前には既視感のある光景。
 ゲームの画面のような電子文字が浮かびあがっていた。
 半透明なディスプレイが空中にあって、目の前にある……ちょっと近未来的な感じ。
 この暗い森の原始的な景色には違和感がありまくりであるが、そういうのを突っ込んでいると色々と長くなるので、まぁいいだろう。

「名前は人間の時のなんだねぇ、あ、仮って語尾にあるからこの世界で付け直せって事なのかな? 種族はエンシェントドラゴン……まぁ、いいかドラゴンだし。」

 誰に訊かせる訳ではないけれど、ひとつひとつを口にしながら確認していく。

「レベル上げとかした事ないけど、レベルはMaxと。」
 この世界に誕生したばかりなのにレベル1じゃないんだな。
 最強種だからかな。

(そういえば、転生特典を百倍にするとか毛玉モドキが言ってたような……)

 なるほど、納得。
 百倍になった事で初期ステータスがカンストしたのかも? しれないな。
 レベル上げを楽しみにしてた訳じゃないから、カンストしてる事を残念に感じる事はないけど、やることがなくなったような気はする。

「えーっと、全属性、物理防御力に攻撃力、魔法防御力に攻撃力は勿論Max、スキルは……ブレスに威圧に鑑定と状態異常無効と体力魔力自動回復、うわあ最強だな、いや最強種って言ってた毛玉が。」

 確認すればする程、欠点のない災害級の強さ……いやドラゴンだからそうなんだろうけど。

「アイテムボックスは嬉しいな。ん? 変化? ってなんだろう。」

 ≪変化とは、現在の姿形を変化させる事が出来るスキルです≫

「うわっ!」

 毛玉モドキのように突然脳内に抑揚のないロボットのような声が響く。

「今の声って……えっ、どこから?」
 周囲は魔物か魔物の死骸か木とか草とかしかないけど、あ、あと砕かれた岩とか。

「誰?」

 ≪私はマスターのスキルにある“知識の泉”です。初めましてマスター、新しい至らない事もあるかと思いますが、宜しくお願いします。≫

「えっ!? 知識の泉……何か賢そうな名前だね。あの毛玉モドキよりは性格良さそうに感じるのは何でだろうね。こちらこそ宜しくね。」

《はい。毛玉モドキとはなんでしょうか?》

「うーん……知識の泉に必要ないものだから、知らなくていいと思うよ。」

《承知しました、マスター。》

「ちなみに知識の泉ってどんなスキルなのかな? この世界で分からない事を知識木として教えてくれるとかそんな感じのスキル?」

 ≪はい、その通りです。この世界のありとあらゆる知識は当然のことですが、マスターの転生前の世界のありとあらゆる知識も修得しています。≫

「えっ、前の世界って地球の?」

《はい、マスター。≫

 それは眉唾ものではあるが、この魔法と魔物の世界に必要かなと思ったりもするけど、知識が無いよりはあった方がいいし、深く考えないでおく。
 異世界転生で知識チートという言葉がフワッと浮かぶが、めんどくさいので。

「スキル確認に戻ろう……。」

 知識の泉の性能に横道に逸れたけれど、ステータス確認を終えたら食事とかドラゴンの体でも安全に眠れそうな場所とか探したいところだ。

「変化の次は、人化……あ、人間になれるのね。便利なスキルがあって助かる! こんな物騒な巨体じゃずっと魔物と一緒に森の中の生活かと思ったよ……。人がいる町
 に行けるなら少し楽しみが増えたかも。」

 住む場所も人がたくさん居る所がいいな。
 さみしいし。

「えっと人化の次で最後っぽいな。スキル創作ね……。古代竜ヤバいな。何でもありじゃない。これを追求するのは色々と落ち着いてからにしよう。
 んー、あとは、加護系か。」

(この世界の神様って毛玉モドキでは……。)

 毛玉モドキかどうかは分からない。アイツ名前も教えてくれなかったし。
 転生先の世界の名前も言わなかった。
 本当に自己中心的で適当な毛玉だった。

 毛玉モドキのことを思い出すと口から青白い炎がチロチロと出てきたので、考えるのは止めた。

 こんな時こそ知識の泉!

「知識の泉くん、この世界の名前を教えて欲しい。あと、ステータスの加護に載ってる人ってこの世界の神様かな?」

 ≪この世界は“アストライア”といいます。神は一神しか存在せず、この世界のすべての信仰の対象となっています。女神の名はこの世界では“アステリア”と呼ばれています。この世界以外にもいくつもの世界を守護している神なので、いくつもの名前を持っていますが、この世界ではアステリアという女神です。マスターの加護にアステリアの愛し子とありますので、アステリアの最大の守護対象となっています。≫

「な、なるほど……あの毛玉じゃなさそう。あの毛玉はこの世界にこだわってたし、いくつも守護してるならこの世界だけを必死にならない気がする。この世界の女神の仕事をサポートしてる眷属とかかもな……それなら、あんなに必死なのも女神に怒られたくなくて、とか。でも勝手に百倍の転生特典とか付けたりするのって女神に相談済みなんだろうか。」

 うーん。
 怒られるのは毛玉モドキだし、いいか。

「ありがとう。知識の泉くん。」

 機械的な声が何となく男の子っぽいので“くん”付けで呼んでみた。

「他にもいろいろ加護があるっぽいけど、また今度いろいろ訊くね。そろそろ食事だったり寝床だったり探したいからさ。」

 ≪はい、マスター。食事はここから1キロ程の距離に果実や木の実などが手付かずで実っている場所があります。そのすぐ側には魚の捕れる湖もあります。寝床に関しては湖から北西3キロ程の場所にマスターが快適に横たわる事の出来る広さの洞窟があります。≫

「泉くん便利! 凄い助かる! 有難う!」

 全くの手探りな状態で、こんな大きな体でこれからどう探そうかと悩んでた事が即解決するのは本当に便利だ。
 もしこのスキルをくれたのが毛玉モドキだったら、自己中心的なあの態度も赦してや……らないかな。
 毛玉モドキは絶対一度は殴らないと気が済まない。

「それじゃ、食と寝床を求めていきますか!」

 大きな体を起こし、空を睨む。
 誰に教えを請わずとも飛べる気がした。

 空に浮かぶイメージで伸びあがると、ふわりと体が浮いた。

「おおー、飛べた!」

 背にある二対の翼をバッサバッサと動かし、目的の果実がある場所へと向かうことにした。








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してたった今処刑した悪役令嬢が前世の幼馴染兼恋人だと気づいてしまった。

風和ふわ
恋愛
タイトル通り。連載の気分転換に執筆しました。 ※なろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、pixivに投稿しています。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

記憶を失くした代わりに攻略対象の婚約者だったことを思い出しました

冬野月子
恋愛
ある日目覚めると記憶をなくしていた伯爵令嬢のアレクシア。 家族の事も思い出せず、けれどアレクシアではない別の人物らしき記憶がうっすらと残っている。 過保護な弟と仲が悪かったはずの婚約者に大事にされながら、やがて戻った学園である少女と出会い、ここが前世で遊んでいた「乙女ゲーム」の世界だと思い出し、自分は攻略対象の婚約者でありながらゲームにはほとんど出てこないモブだと知る。 関係のないはずのゲームとの関わり、そして自身への疑問。 記憶と共に隠された真実とは——— ※小説家になろうでも投稿しています。

【完結】転生地味悪役令嬢は婚約者と男好きヒロイン諸共無視しまくる。

なーさ
恋愛
アイドルオタクの地味女子 水上羽月はある日推しが轢かれそうになるのを助けて死んでしまう。そのことを不憫に思った女神が「あなた、可哀想だから転生!」「え?」なんの因果か異世界に転生してしまう!転生したのは地味な公爵令嬢レフカ・エミリーだった。目が覚めると私の周りを大人が囲っていた。婚約者の第一王子も男好きヒロインも無視します!今世はうーん小説にでも生きようかな〜と思ったらあれ?あの人は前世の推しでは!?地味令嬢のエミリーが知らず知らずのうちに戦ったり溺愛されたりするお話。 本当に駄文です。そんなものでも読んでお気に入り登録していただけたら嬉しいです!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

ここは乙女ゲームの世界でわたくしは悪役令嬢。卒業式で断罪される予定だけど……何故わたくしがヒロインを待たなきゃいけないの?

ラララキヲ
恋愛
 乙女ゲームを始めたヒロイン。その悪役令嬢の立場のわたくし。  学園に入学してからの3年間、ヒロインとわたくしの婚約者の第一王子は愛を育んで卒業式の日にわたくしを断罪する。  でも、ねぇ……?  何故それをわたくしが待たなきゃいけないの? ※細かい描写は一切無いけど一応『R15』指定に。 ◇テンプレ乙女ゲームモノ。 ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

酷いことをしたのはあなたの方です

風見ゆうみ
恋愛
※「謝られたって、私は高みの見物しかしませんよ?」の続編です。 あれから約1年後、私、エアリス・ノラベルはエドワード・カイジス公爵の婚約者となり、結婚も控え、幸せな生活を送っていた。 ある日、親友のビアラから、ロンバートが出所したこと、オルザベート達が軟禁していた家から引っ越す事になったという話を聞く。 聞いた時には深く考えていなかった私だったけれど、オルザベートが私を諦めていないことを思い知らされる事になる。 ※細かい設定が気になられる方は前作をお読みいただいた方が良いかと思われます。 ※恋愛ものですので甘い展開もありますが、サスペンス色も多いのでご注意下さい。ざまぁも必要以上に過激ではありません。 ※史実とは関係ない、独特の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。魔法が存在する世界です。

処理中です...