古代種ドラゴンになったら、異世界で犬を飼う事になりました。

iBuKi

文字の大きさ
上 下
2 / 22
異世界転生でドラゴンとして生きてみる。

第2話

しおりを挟む
 二日徹夜の激務をやっとの事で終わらせ、草臥れた身体を引きずるように動かし、ボロボロの体で帰宅出来た早朝。
 1LDKの我が城への鍵を回し扉を開く。

 嗅ぎ慣れた自分の部屋に漂っているのは癒しのラベンダーの香り。
 忙しい仕事漬けの日々に疲れきっていた私は、仕事以外にも何か夢中になれるものを欲して、短絡的ではあるが癒しがある趣味を持とうと考えた。

 決意してすぐに多岐に渡っているアロマ系と称する物たちに手当たり次第手を出してみた。
 アロマキャンドル、アロマディフューザー、アロマセラピー等々。
 一度凝り始めると一直線な性分なので精油すら手作りしてみたりもした。
 とってもめんどくさかった。

 今はアロマオイルで作れるハンドクリームやボディクリーム作りに凝っている。
 しっとり、さっぱり、サラサラとしたりコッテリとしたり。
 色んな質感を試して気に入った物をリピートする。
 そうやって凝りに凝って作った物たちは、自分で使用するのは勿論、妹や母に送り付けていた。

 その中でも一番癒し効果が高く感じたラベンダーの香りは私のお気に入りだ。
 ハンドクリームもボディクリームも、私のものは全てラベンダーの精油を使用している。
 どれだけ癒しを欲しているのか自分の事なのに分からないが、とにかく癒されたい欲求が常にある。

 今日も疲れきった身体で足を引きずるように進めながら帰る道の間にも、次のアロマの使い道を考えていた。
 色々試してみたけど、そろそろトリートメントにも混ぜて使おうかと考えていた。
 元々、あまりしっとりしたのが好きではないので、精油の配分はどれくらいがベストか考えているところで……

 スンっと空気中の匂いを嗅いだ。

 ここは確かラベンダーに異様に執着している私の部屋、な筈で。
 だから、この香りがするって事は、間違いなく私の部屋、の筈で。

 けれども、視覚から入る情報が理解不能過ぎて脳が拒否信号を送ってくる。
 とうとう幻覚まで見るようになった? 幽霊とか妖怪とかオカルトな類は一切興味がなかっただろう、夢なら目を覚ませと一度扉を無言で閉めた。

「……今のはナニ?」

 冷静になれと深呼吸をひとつふたつして、部屋番号を確認。
 周囲の景色も一応確認。
 そもそも違うマンションに居るとかいう落ちではないだろうね?

「301……の、角部屋。間違いなく私の部屋だよ、ね?」
 ぶつぶつと独り言を口にしながら思わず首を捻る。

(オーケー、私はまだイカレてない。イカレてない。)

 心の中でおまじないのように繰り返す。
 段々と冷静になってきたような、ないような。曖昧な気持ちではあるが。

「よし。」
 もう一度深呼吸をすると、扉を開く。

 そこには、
 先ほど見た景色が無常にも広がっていた。


 真っ白な丸くフワフワした白い何か。
 それが玄関から室内側に向かってびっしりと存在している。
 タンポポの綿毛のような見た目ではあるが、綿毛よりも大きい。
 それが部屋いっぱいに所狭しとフワフワと漂っていた。

「な、何これ……気持ちわる……。」

 思わず漏れた声に反応したかのようにフワフワ浮かんでいた綿毛もどきがピタリと一時停止した。
 それは見ていた映像を一時停止したかのように、空中で浮いたまま止まっている。

「え!?」

 重力に従って落ちる訳でもなく、フワフワと浮いてる訳でもなく、まるでその場に留め置かれたように止まっている。

 ズザザザザザザ!

 突然、ぞわぞわと何かが床を這いずりまわっているような音がしたと思ったら、空中に大量にいた綿毛もどきたちが一点に吸い込まれるように集まっていく。

 声すら出せずただ凝視するしか出来ないまま見つめていると、あれだけ大量に浮かんでいた綿毛もどきたちが消えていた。

 ポンッ!

 ワインのコルクを開けた時のような音がしたと思ったら、私の目の前には先程の白い綿毛の大きいバージョンになった白い綿毛もどき。

 大きいといっても、私の拳ひとつ分くらいの大きさなので、全然怖くない。


『いやいや、すみませんねぇ』

 何処かから声がした。

「えっ、誰!?」

 綿毛もどきの背後から話しかけられた気がして、そちらを見る。

 しかし、私の部屋というだけで誰もいない。

『あー、こっちこっち、貴女の目の前にいて浮いてるのが話しかけてますんで。』

「はい?」

 目の前で浮いてるといえば、この綿毛モドキしかいないんだけど……。

『そーです、そのワタゲモドキ? って何なのか分からないですけど、浮いてるのは自分しかいないんで、それが貴女に話しかけてます。』

「な!? 口に出してないのに何で考えてた事がわかるの!?」
 心を読まれる事に怖くなって思わず思いついた事そのままを口にしてしまう。

『あー、うーん、精神に作用する魔法……っていう、説明難しいんですけど、端的に言うと貴女の脳に直接話しかけてる感じですか。なので貴女の思考もそのままこちらに駄々洩れという感じでして。』

「……」
 何それ超怖いんですけど!
 魔法とか何ソレ。
 もしかして激務で私の脳がぶっ壊れて今可笑しな幻聴を聴かされてるのだろうか。

『そう考えてしまう気持ちも分からないんでもないんですけどね。何故私がここに居るのかを説明したいとこですが、それも長くなるので端的に言いますと、貴女が選ばれてどこかの世界に転生しますので宜しくお願いします。っていう感じでしてね。』

「はぁ!?」
 本気で自分の脳が心配になってきた。

 よし少し冷静になろう。

 目の前で浮かぶ毛玉を避けて私は無言で靴を脱ぎ室内に入る。
 綿毛もどきなのか毛玉なのか謎だが、そいつは無言で淡々と仕事着を脱ぎ部屋着に着替える私の周囲をくるくると周りながら話しかけてくる。
 こいつの言うように、話が長い。
 冷蔵庫の前に移動して中から冷たい水のペットボトルを取り出してコップに注ぐ。
 ごくごくと水を飲み干して、やっとひとごこちついた。

 ……しかし、この綿毛もどきは消えていない。

 頬を抓る。
 痛い……。
 やっぱりこいつの存在は現実かもしれない。

『―――っていう訳でして、最強種の存在がずっと不在な世界はそのバランスが崩壊しつつあって、現状だいぶおかしな事になってましてね? 食物連鎖って知ってると思うんですけど、ピラミッド型の。わかります? 古代エジプトのですよ、曲がりなりにも地球人なら分かりますよね?』

 その物言いにますますイラッとするも無言で頷く。

『学が無い方に説明するのは大変なので、それなりの知力があるのは助かりますです。話は戻りますが、そのピラミッド型の綺麗な三角形をしていた筈の世界の現在は頂点が不在。今で五百年程不在ですかねぇ……。いやぁ短いようで長いわけで。
 その五百年の間に中間層が劇的に増えてしまいましてね、いま世界は歪な台形のようとでもいいますか、そんな風になってる訳です。』

 ふーん。台形でもいいんじゃないの。
 またいつか三角形になるでしょうよ。中間層から突出した生物が出れば。

『その予測はハズレです。そんなに簡単にいってれば私が此処に、貴女の前に出現すること等なかったでしょう。物事がそう単純に回れば苦労なんてしないってもんですよ。いかに突出した存在が出てたとしても、所詮は中間層は中間層ですから。世界の均衡という前提が崩れるんですね。最強種は最強種の中からしか生まれない訳です。』

 またもや思考を読まれて綿毛モドキがぺらぺらと語る。
 この綿毛モドキは私のイライラスイッチを押すのが本当に上手である。
 そのフワフワした綿毛を毟りとってやろうか。

 私の頭の中は物騒になっているというのに、読めてる筈の思考はスルーしている。
 何も訊いてないかのようにいまだにぺらぺらと語り続けていた。

『そこで選ばれたのが、歴代最強の最強種に匹敵する魂の力を持つ貴女様という訳でして! いやー、これは大変喜ばしい事ですよ。誰も貴女に逆らう事も出来ない世界に生まれ直せるわけですからね! 人生の超勝ち組おめでとうございます!』

 はい?

 何いってるの、この綿毛モドキ。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

紗南
ファンタジー
異世界に神の加護をもらって転生した。5歳で前世の記憶を取り戻して洗礼をしたら魔力が∞と記載されてた。異世界にはない記号のためか魔力0と判断され公爵家を追放される。 国2つ跨いだところで冒険者登録して成り上がっていくお話です 更新は1週間に1度くらいのペースになります。 何度か確認はしてますが誤字脱字があるかと思います。 自己満足作品ですので技量は全くありません。その辺り覚悟してお読みくださいm(*_ _)m

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

処理中です...