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第四十二話 基本のキから始めましょう。
しおりを挟む―――翌日の明け方、オスカーさんとレグルスさんが滞在する家へと転移した私達。
やる気に満ち溢れたユキと、乗りかかった船だ仕方なしとばかりに、時折ふぅと溜息を零すやる気のみられないスノウ。
そして―――ただ金魚のフンのようについてきただけの、私。
二人は、オスカーさんとレグルスさんに念話の魔法を教えるとして来るのは分かるんだけど、何も出来ない私も一緒に転移してこっちにくる必要はあるのかなぁ…と内心首を傾げつつ…
伸ばされたスノウの手に条件反射のように手を重ねて来てしまった。
「なんで? って顔してるけどさ、リティシアだって念話を覚えていて損はないでしょう? 僕らといつも一緒にいるから、その時教えてくれればいいっていうのはナシ」
スノウが何でもお見通しだよとばかりに、ジト目でリティシアを見る。
「…そこまでは考えていなかったよ。ただ、お邪魔かなぁ? と、思ったりしただけだよ」
「ふぅん? まぁいいよ。それにさ、もう忘れたの? 僕たちがリティシアの傍を絶対離れないってこと。何処へ行くにもずっと一緒だってこと。早く覚醒したかったし、ユキと一緒に狩りに行こうと思えば行けたのに、行かなかったのもそれが理由。その狩りの時だって、すぐにリティシアの傍にいける距離しか僕らは移動してないし」
…ああ、そんな事言ってた。
狩りの時もそんな感じだったんだ。
かなり大きくて強そうなのをバンバン狩ってくるから、結構深いとこまで行ってるんだろうって勝手に思ってた。
「忘れるなんて酷いよ。僕たちは何の為にリティシアの傍に居るのかって、これからは忘れないでね。女神様から絶対に守るようにって任命されてこの世界に降りたんだからね。
もう…今はそれだけじゃなくて、リティシアの傍に居たい気持ちの方が強くなってるんだけどさ…」
薄桃色の唇を拗ねたように尖らせ、ツンと顎を上げるスノウはどこからどう見ても、可愛くて愛くるしい美少女のような美少年だ。
今獣化してたら、ずっとモフリ倒したいくらいに超絶可愛い。
「ありがとね。私もいつも一緒に居てくれるスノウとユキが大好きで大切だよ。ずっと一緒にいようね。責任感のある飼い主ってだけじゃないからね?」
「――飼い主…」
「もう家族だよ。弟とかじゃなくってさ、前世、子供産んだ事ない筈なのにこんな事言うのは可笑しいけれど、お腹を痛めて産んだ息子のような……?」
「――息子………?」
スノウの表情がどんどん険悪な顔になっていく。
眉を顰めた表情も、目が爛々と肉食化するように光っていても、甘い顔立ちのせいで余り迫力はない。
「そ、それくらい親密で深い絆を感じてるって事だよ! 変な深読みしないの。ほら、眉間の皺がすごいことになってるし…」
スノウの眉間に人差し指をツンとあて、そのままグリグリする。
機嫌よ良くなれ~と願いをこめながら、ぐりぐりぐりと。
ぐりぐり。
構って貰ってるのが嬉しかったのか、あっという間に機嫌が治ってふにゃりと笑うスノウ。
(よーしよし、機嫌良くなった。)
スキンシップするとすぐ機嫌が良くなるのは日頃の経験で分かっているので、それを見越してのぐりぐりである。
シンとした室内にやっと気付く二人。
ふと周囲を見渡すと、オスカーさんとユキが呆れたような顔―――
レグルスさんも耳は聴こえている。
結構大きな声で遣り取りしていた為、二人の会話はバッチリ届いていた。
その遣り取りが面白かったのか、口元に手を当てクスクスと笑い続けていた。
私室でもないのにやっちゃったわー…
スノウと私は恥ずかしくなって俯いた。
レグルスさんが笑っているので、それに気付いたオスカーさんも嬉しそうにしている。
「もういいな? さぁ始めようか!」
ユキの一声で、恥ずかしくて堪らない空気の場がシャキッとしたのだった。
念話を習得する為の指導が始まった。
流石SランクとAランクの冒険者という事で、魔力量は問題ないそう。
コントロール力も申し分ないので、まずは基本の魔力コントロールを習得してからはすっ飛ばす事が出来るようだ。
念話は己の中の魔力の流れを掴み、細い糸の様に微量の魔力を外に放出して念話したい相手に繋げる魔法らしい。
その細い糸のような魔力の放出がコントロールが出来ないと、最初っから難しいという事で、基本では魔力コントロールを徹底的に学んで貰うつもりだったんだって。
二人はコントロールが出来るので、今は糸の様に細く魔力の放出をし、持続させる事をユキから指導されている。
魔力の可視は人間には無理だけれど、聖獣である二人には視る事が出来るようで、オスカーさんとレグルスさんに「まだ太い、もう少し細くしないとすぐに何度も念話するだけですぐ枯渇するぞ」とユキが指導している。
―――私?
未だに基本のキやってますが何か?
創造魔法で念話に代わる何かを作る事は可能かもしれないけれど、スノウが良い機会だからコントロールを学ぼうと提案したので、一生懸命体内を巡る魔力を動かしているところ。
体を巡る血液を意識しながらぐるぐると回すイメージをすると、イメージ通りに魔力が体内を巡ったらしく不思議な感覚におそわれる。
「やっぱり女神様のいとし子だからか、コツ掴むのも上手いね!」
スノウが嬉しそうに褒めてくれるけれど、次のステップには進ませてくれない。
延々と体内の魔力を循環させられている。
両足を肩幅と同じ長さに開いて、両手を前に突出したポーズでずっと循環させてるけれど、もう両腕がぷるぷるしてきた。
「循環は、上手く、いってる…のに、まだ…ダメ…なの?」
循環すればするほど体温が上がっていくのか、額に汗が浮かぶ。
「リティシアは創造魔法とかは使ったけど、日常的に大きな魔法は使ってないよね? だから、魔力が凝り固まってるいうのかなー…なんて例えるのが分かり易いだろう…」
うーん…と、スノウが口元に手を当てて悩み始める。
「先に溶けた魔力で押し流すように循環させてるとね、徐々に淀みやシコリのような魔力が解れていってね……」
スノウが納得できる説明がしたいようで、ああでもないこうでもないと色んな言い回しを口にしている。
スノウが一生懸命説明してくれている所、大変申し訳ないと思うんですけど…
ですけども…
私の両腕のぷるぷるがブルッブルしてきて、もう限界……取りあえず一旦休憩させて……
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