上 下
14 / 82

第十四話 想像より凄かった。

しおりを挟む

『…リティシア、我は本当にこのような格好で出掛けねばならないのか? 道化のようではないか?』
『あー、ユキが言いたい事も分からないでもない。僕は少し気に入ってるから安心してね。ただリティシアの瞳と同じ色の宝石がついてなかったら、絶対付けなかったかな、こんなの。』

(二匹とも凄く嫌そうなんですけど…)
 顔立ちが小さな狼なのでどんな表情はわかりづらいが、声で判断しやすい。
 スノウなんて尻尾が床をタシタシ叩いている。
 私の瞳の色の宝石がついてようが、やっぱり不機嫌ですよね?


 王宮に聖獣様たちと共に招待されたのはつい先日の事。
 王城に行くという事は、それなりの恰好が必要だと、準備期間を貰ったのは有難いのだけれど…。

 日頃冷静なお父様も「聖獣様に首輪など用意すればわざわざ災厄を呼ぶようなものだ! 不敬極まりない!」と大騒ぎし始めちゃって。
 女神信仰が篤い国という事もあって、例外なくお父様も信心深き当主様なのである。

 首輪は駄目だとからといって、何もないシンプルな素の状態で登城させるも良くない。
 公爵家お抱えの服飾デザイナーと様々な図案を提出させ、熟考した結果。

 何ていうんでしょうね…ミニマント? 的な?

 首元を宝石が付いたブローチで留め、艶のある紺色で、素材はシルクを使用している為、とても軽い仕様になっている。それが背中を背中の中程までを覆っていた。
 四足で立ってもマントが地面に付いてしまわぬよう計算された長さと型なのだそうで…。
 マントにも小粒の宝石が夜空の星のように散りばめられていまして…
 大変お高そうなマントになっております。
 宝石は私とお父様の瞳の色、イエローダイヤモンドを使用しております。

 私はプリンセスラインの白のシフォン素材を幾重にも重ねたフワフワなドレス。
 レースやフリルなどの装飾を無くし、シフォン素材を花びらのように重ねる事で、花の妖精風ドレス。
 お父様は私のドレス姿に「……ああっ! 私の天使…っ!」と嬉しそうに呟いて、私を抱っこすると、くるくると楽しそうにその場で回った。

 ―――お父様…?
(私、赤ちゃんじゃないんですけど…?)
 カーッと頬が赤くなるのが分かった。

「旦那様、天使では無くて妖精風ドレスなのですけれど…ウフフ、天使なのは間違いないからどちらでもいいですわね。」
 と突っ込みなのか同意なのかよく分からない言葉を呟き、くるくる回る私達を微笑んで見守っている。

(お母様、そこで笑って見守らず助けて下さい…っ!)

「め、めが…」
「ああ! 可愛くてやり過ぎてしまった! 大丈夫か? シア」

 ああ世界が回るぅぅ…

「だ、だいじょうぶではありませんが…だいじょうぶてす。」

 目が回って視界はぐちゃぐちゃだが、気持ちの面ではちょっぴり嬉しい。

(恥ずかしいけど、嬉しい)

 出掛ける前に色々あったけれど、礼装姿の聖獣様と、お父様とお母様と私を乗せた馬車は王城へと向かいました。





 ◇◆◇◆◇◆◇

 王城は白亜の宮殿でした。
 アラビアの宮殿に良く似ていて、タージ・マハルとアルハンブラ宮殿を足して融合させたような、華美さと城塞の良いとこどり的な不思議な雰囲気のお城。

(うわー…豪華絢爛! 凄い……公爵家だって凄い大きいし、どちらかというと屋敷っていうよりも城っぽい巨大さだったけど、本家は桁が違うんだなぁ。)

 観光に来た旅行者のように口を丸くポカンと開けて、お父様に手を引かれながら王宮の中を歩く。
 お父様の前には、場所までの案内役と警護を兼ねてるのか騎士様が歩いている。
 私達の後ろにも数名の騎士様。

(結構厳重だね?)

 お父様はお仕事で王城に行く事が多いけれど、ここまで厳重に警護されながら移動しているのだろうか。
 王宮は魑魅魍魎の巣窟とか訊くし、物騒なのかもなぁ。

 そんなことを考えてる間にも、どんどん目的地へと進む。

 そして騎士様が足を止めて「こちらに陛下がお待ちです。」と言われたの扉の前。

 扉の両隣に立っている騎士様が「聖獣様、ファルメール公爵様、ファルメール公爵夫人、ファルメール公爵令嬢がいらっしゃいました。入室の許可を願います。」と発言すると、中から「入れ」と声がした。

 あの低い声は意外に近くから感じた気がしつつ、開かれた扉から入室すると…

 ――――あれ? ここは謁見室ではない感じ? 謁見室の様な公的な場所へ呼ばれると思っていた私はキョトンとした。


(もしかしてここは陛下の私室…?)

 視界に広がるシックな色合いの重厚なテーブルや椅子を見る。
 プライベートな交流を持つ時に呼ぶ応接室的なところなのかな? お父様は陛下の弟だから?

 気になる事も見る所もいっぱい! と好奇心がムクムクとする中、
 ユキが突然『我らはリティシアを守護するものであり、国を守る気はない』と、不敬な発言を放り込んできました。

 ―――…ユ、ユキさん!? 

 飼い主である私が血の気が引く瞬間であった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

乙女ゲームの悪役令嬢は生れかわる

レラン
恋愛
 前世でプレーした。乙女ゲーム内に召喚転生させられた主人公。  すでに危機的状況の悪役令嬢に転生してしまい、ゲームに関わらないようにしていると、まさかのチート発覚!?  私は平穏な暮らしを求めただけだっだのに‥‥ふふふ‥‥‥チートがあるなら最大限活用してやる!!  そう意気込みのやりたい放題の、元悪役令嬢の日常。 ⚠︎語彙力崩壊してます⚠︎ ⚠︎誤字多発です⚠︎ ⚠︎話の内容が薄っぺらです⚠︎ ⚠︎ざまぁは、結構後になってしまいます⚠︎

何も出来ない妻なので

cyaru
恋愛
王族の護衛騎士エリオナル様と結婚をして8年目。 お義母様を葬送したわたくしは、伯爵家を出ていきます。 「何も出来なくて申し訳ありませんでした」 短い手紙と離縁書を唯一頂いたオルゴールと共に置いて。 ※そりゃ離縁してくれ言われるわぃ!っと夫に腹の立つ記述があります。 ※チョロインではないので、花畑なお話希望の方は閉じてください ※作者の勝手な設定の為こうではないか、あぁではないかと言う一般的な物とは似て非なると考えて下さい ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※作者都合のご都合主義、創作の話です。至って真面目に書いています。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。

曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」 「分かったわ」 「えっ……」 男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。 毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。 裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。 何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……? ★小説家になろう様で先行更新中

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

【完結】ドレスと一緒にそちらの方も差し上げましょう♪

山葵
恋愛
今日も私の屋敷に来たと思えば、衣装室に籠もって「これは君には幼すぎるね。」「こっちは、君には地味だ。」と私のドレスを物色している婚約者。 「こんなものかな?じゃあこれらは僕が処分しておくから!それじゃあ僕は忙しいから失礼する。」 人の屋敷に来て婚約者の私とお茶を飲む事なくドレスを持ち帰る婚約者ってどうなの!?

処理中です...