私だけを愛してくれたなら、それだけで。

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第二章 婚約者はやり手。

第八話 婚約式当日①

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 ティアローザは朝からメイド達に徹底的に磨き上げられていた。
 深く神秘的なアメジストの宝石のように輝いている艶やかな髪は、丁寧に手入れをされた事によって艶が増し、シルクのように滑らかなさわり心地になった。

 髪色より少し暗い紫紺の瞳は吸い込まれそうな引力がある。
 その瞳がハッキリと見えるように顔周りの髪は細く幾筋か沿うように垂らすだけに留め、後りの髪は全てドレスと一緒に贈られていた紺色の絹のレースのリボンと一緒に綺麗に編み込んでサイドへ流した。
 絹のレースリボンにもところどころに小指の先より小さい小粒の真珠が縫い付けられており、ドレスと似た雰囲気の装飾品だ。編み込んだ髪にチラリチラリと真珠が見え、複雑に編み込んだ髪型がとても華やかに見えた。


 夢見るようなドレスに身を包むと、ティアローザの白い肌が藍色に映えて女王のような気高い美しさが増した。

「まぁ姫様、本当に夢みるようなお美しさですわ…」
「夜の女神のようですわね!」

 ティアローザの支度を手伝っていたメイド達がうっとりと口にする。

「ありがとう」
 婚約者の色をこれでもかと身に纏い褒められて、ティアローザの頬がほんのり染まる。
 大きな姿見に映る自分の姿を見て、夢見るような美しいドレスを着た自分がまるで別人のように感じた。

(早くお見せしたいわ…)

 婚約者の到着を心待ちにした所で、タイミングよく部屋の扉がノックされた。
 メイドが扉前に移動し、少し隙間を開ける。

「姫様、ご婚約者様が到着されたようですわ。どうしましょう?」

 婚約式が始まるまで、まだ時間があった。
 優秀なメイド達はテキパキと動いてくれた為、いつもより支度に掛かった時間は早い。

「部屋にお通しして。まだ婚約式の開始まで時間があるわ。お茶を少し頂きましょう。」
「はい、姫様」
 メイドは仲睦まじそうな関係を想像したのか嬉しそうに返事をすると、扉へと向かった。




 すぐに扉が開かれ、ルカリオンは笑顔で入室した。
 私室に招かれ二人だけでお茶をする。

 勿論使用人は要るが―――
 だが、それがどんなに大きな事かルカリオンは理解している。
 胸に湧き上がるのは歓喜。
 それをどうにか宥めつつ、品の良い微笑みを浮かべ入室したというのに…

 己が送ったドレスに身を包んだティアローザを一目見てしまったら…
 笑顔のまま硬直したように固まってしまった。

 固まったまま上顎に舌が貼りついたように声が出ない。
 けれどその全てを記憶しようと、目線だけはティアローザからしっかりと離れない。
 というより、離れられない。
 言葉にするのが惜しい、美しくて愛らしい、愛らしいのに美しい。
 何ということだ、私のティアローザは美の天使でもあり女神でもあったのか。

 ルカリオンは呆然としながら、ともすれば零れそうな思慕の情を漏らしそうな口と高鳴り過ぎる胸を抑えた。






 強い視線に晒され、ティアローザの頬がカッと熱くなった。
「ルカリオン様…?」

 するとルカリオンが「うっ…」と胸と口元をそれぞれ片手で押さえた。

「まぁ! 大丈夫ですか!?」
 急に体調を崩したようにティアローザには見え、慌ててルカリオンの傍へと寄る。

「誰か、医者…医者を呼んできて!」
 オロオロと慌てふためくティアローザ。

「い、いいえ! 医者を呼ばないで下さい、私は大丈夫です!」
「そんなに苦しそうに胸と口を押さえているではありませんか! 
 無理をなさらないで下さいまし!」

 ティアローザは心配でルカリオンを叱りつける。

「ティアローザ様が…ティアローザ様が、お美し過ぎて愛らし過ぎてっ、胸の動悸が増しただけですから、病気ではありませんのでご心配なさらずとも!」
 パニックになったティアローザを落ち着かせる為、ルカリオンはその時の気持ちをぺらぺらと正直に打ち明けてしまった。

 そして落ちる沈黙。
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