私だけを愛してくれたなら、それだけで。

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第二章 婚約者はやり手。

第七話 夜空のようなドレス。

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 正式な婚約者として書面を交わし、ティアローザ王女の婚約者はルカリオン・コルベール公爵子息に決定した。

 まるで横槍をさせないとばかりに異例の速さで二人の婚約式の日取りが決まったのである。


 婚約式の衣装はお互いの色味を合わせた方が周囲に好印象を与える。
 ティアローザは衣装の色味を合わせるつもりだがルカリオンはどうだろうか。

 そもそも、昔一度会ったきりのルカリオン。
 兄と懇意にしていたとはいえ、公爵子息だというのに、王女の私とは全くの接点がなかった。
 婚約者候補にすら上がっていなかったのは、兄の側近候補だったから…?

 あれ? むしろ側近が王女と結ばれるのは悪くないわよね?
 両親と宰相が候補選定を行っていたようだから、政略的に不都合と判断されたのだろうか。
 少しモヨリとするものを感じるが、結局最終的には兄がルカリオンを推して、私が快諾して婚約……? あれだけの候補がいながらも、婚約は結ばれなかったのは何故だろうか。
 私が気に入った方は次々に候補をから外れたり、辞退を申し出てきたりだった。
 なら、今回のルカリオンは何故ここまでスムーズにいくことができたのか。

 悶々と考え、何となく可能性の高い「王女が乱心したと噂を立てられないため、私が気に入った子息とさっさと婚約させた」などという、少しばかりふざけた理由だったりするかもしれない。
 おまけに相手は公爵子息、しかも嫡男。
 王女の降嫁先としても大変魅力的だろう。
 容姿も美男とはいえず、美男を嫌がった私が選ぶ中では最高の相手というわけだ。
 そんな感じかしらね。

 当たらずとも遠からずだろうと思いつつ、大事な衣装の事に思考をシフトした。
 衣装といっても、ルカリオンの好みも分からない。
 直接ルカリオンに手紙を送って色々訊いておこうかしら。
 ああ、兄にも送っておこうかしら、長い間兄の傍に居たルカリオンの好みを兄は良く知ってるかもしれない。

「そうとすれば早速…!」
 とペンを取ったところで、扉をノックされた。
 許可を得て入室した侍従が抱えていたのは、大きな箱。
 メッセージカード付きだったので、ティアローザはメッセージカードを抜き取り読む。

“婚約式はこれを着て私の隣で微笑んで居て欲しい。気に入ってくれると嬉しい。ルカ”

「……。」
 ティアローザは頬を染めて、何度もその文を読んだ。

「ルカ…」
 まるでそう呼んで欲しいとばかりに、愛称で名が書かれてある。
 直筆かどうかは分からないが、流れるように書かれた文字は男らしい癖がありつつも美しい。
 文を指でするりとなぞると、ティアローザは早速お礼の手紙を書くことにした。
 お気に入りの便箋と封筒を持ってくるようにメイドに指示する顔は未だに赤い。

 手紙を書き終え王女専用の蝋印を押すと、メイドに書き終えた手紙を渡す。

 先程から中身を見たくて堪らなかったティアローザは、丁寧に箱に巻きつけてある藍色のリボンを解き、胸を高鳴らせて箱を開けた。

 このドレス、まるでルカリオン様のようだわ。と、ティアローザは思った。

 最高級の素材なのだろう、そっと触る指先に触れる感触はとても柔らかく滑らかだ。
 夜空のようなルカリオンの瞳の色に似た藍色のドレスは、装飾自体はシンプルだが最高級の布を使い、全体に金糸で細かな花の刺繍が所狭しとあしらわれてある。
 コルベール公爵家の領地の特産でもある天然真珠が胸元に連なるように縫い付けられており、またドレス全体にも夜空に輝く星のようにあちらこちらにと、縫い付けられてあった。

「何て美しいドレスなの。」

 ティアローザはこの夢見るようなドレスを一目見てとても気に入ったのだった。


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