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第二章 婚約者はやり手。
第六話 本当の姿。
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魔法のある世界。
誰でも使えるという訳ではなく、一部の選ばれ人間が魔法を使える世界である。
この国でも魔法が使えるものは両手で足りる程。
その数は、魔法が使えると申告している者の数が、と補足が付く。
魔法が使えるだけでどの国でもかなりの高待遇で迎えられる。
選ばれた人間という訳だ。
その為、魔法が使えるのを申告しない理由がないと思われる訳だ。
魔法が使える方が圧倒的に有利な人生を送れるからだ。
世の中に魔女と言われてるものたちの中にも数名魔法が使える者がいるらしいが、真偽の程はわからない。
魔女と言われる物たちは呪具を使っていかがわしい事をしているイメージの方が強い為、信じていない者の方が多いかもしれない。
しかし、申告しないという選択をし、親にすらそれを隠して生活している者もいる。
何故申告しないのかと問われるのだとしたら、人に纏わりつかれるのが嫌だからだと単純な理由だったりするのだが。
親にすら隠すのは、上昇思考が強い親だから。と、真顔で答えただろう。
魔法が使える者と結婚し子を成せば、稀に魔法の使える子供が生まれる事がある。
そのせいで、魔法が使える者は複数の伴侶を持たされる事が多いのだ。
女なら子を成し産むまで一人だが、男なら相手さえ居れば際限がない。
望むのなら最高の環境だが、望まないのであれば地獄でしかない。
ティアローザが婚約を結んだ相手は、申告をしない者だった。
念願の王女との婚約を結ぶ事が出来たルカリオンは、内心叫びだしたい程の興奮を内に押し殺し、冷静な態度を崩さぬよう細心の注意を払い公爵邸に戻った。
大勢の使用人から帰宅の挨拶と王女との婚約を祝う言葉を受ける。
婚約に対する祝いの言葉には、いつも冷静な態度を見せていたルカリオンらしからぬ笑顔を一瞬浮かべてしまった。
少し緩んだ表情をキュッと引き締め軽く頷くと、自分付きの侍従を伴って颯爽と私室へと向かう。
私室へと入り、ここには侍従と己しか居ない事を確認すると、全体的にかけていた認識阻害魔法を解いた。
認識阻害が解かれた後に現れたのは絶世の美貌と、長身でしなやかな筋肉がしっかりと付いた体躯。
現役の騎士程ガチガチに鍛えていないが、敵対する者と俊敏に戦う為に必要な程度には鍛錬を続けている。
公爵令息でそれも嫡男。まして幼い頃から王太子と懇意にしており将来有望の地位も名誉も兼ね備えた男である。
恨まれる理由には事欠かない。護衛が居なければ殺されるだけだなんて、バカバカしい。弱みがあるのなら、無くせばいいだけ。
惚れた女が王女という事も大きかっただろう。強く賢く立ち回れる人間になり王女を手に入れると幼い頃から決めていたのだから。
「いつ拝見しても阻害解いた後に驚かされますよ。おまけに認識阻害なんて超高等幻影魔法じゃないですか、そんな魔法を独学で使える人が我が主だなんて…
認識阻害をこの目で見なかったら信じないとこですよ。」
侍従が苦笑しながら零した。
「―――仕方ないだろう。見た目に寄りつく女が多すぎるのだから。
その為に必死で阻害魔法を学んだんだ。これのお陰でストレスも無くなった。
チラホラ地位目当てのバカは湧くけど、この姿で冷たくされると腹が立つのか、昔ほど執着されず助かっている。」
「ああ、主のトラウマになる程ですもんね。可憐な女性も一皮剥けば猛獣だなんて、主の侍従にならなければ気付かなかったでしょう。
綺麗な男には冷たくされても縋り付くのに、金や地位の為とはいえ醜い男に冷たくされるのはプライドが許せないんですかねー?」
醜いから女馴れしてなく玉の輿ちょろいと思うのか、下品な誘惑が多い。
それをバッサリと斬る時は見ていて爽快感はあるが、公爵家の嫡男であるというのに身分の低い令嬢から「この醜男が、私が情けで声をかけてやってるのにいい気になるな!」と罵倒されるのは、控えめにいって殺意がわくほどに腹が立つ。
主にバレぬようこっそりと報復をしていたりするのは秘密である。
昔、ルカリオンの目の前で、まだ幼い令嬢たちが掴み合いの喧嘩をするのは珍しい事ではなかった。
長い髪を掴み合い、ドレスの裾を破り、甲高い声で罵倒し合う。
どいつもこいつもルカリオンを自分のものだと主張する。
正直、気持ち悪くてうんざりだった。
「おまえにもトラウマを与えてしまったか。すまない」
「いやぁ、早いうちに知れて良かったですよ。目が曇らないで済みました。」
ニコニコと機嫌良さそうに話す侍従は、最近恋人が出来たのだ。
見た目に惑わされる事なく、内面を知ってからのお付き合い。
内面を好きになると、見た目までどんどん可愛く思えてくるんだから不思議だ。
つまり、とっても幸せなのである。
「主、でもいいんですか…? 王女様まで騙しちゃって。あんな奥手な男を演じる大根芝居まで…」
「…仕方ないだろう。醜い男で王女を一途に愛せる男が婚約の条件だったのだから。」
憂い顔のルカリオンは、醜いとは最も遠い場所にいる美貌を持っている。
「あと少しだったんですけどねぇ。長年じわじわとライバルを蹴落とし、側近としての地位を固め、王女を囲う外堀を完璧に作りあげて、物語の王子様宜しく迎えにいく準備が整うまで。」
侍従もその外堀を作るのに散々駆り出され働かされていた為、重い溜息がこぼれた。
「少し遠回りになっただけだ。気持ち悪い令嬢除けに使っていた認識阻害魔法は、王女に婚約を申し入れる時に解くつもりだった。それがもう少し延びただけだ。
王女の心も体も完全に手に入れてから、少しずつ少しずつ阻害魔法を弱めていけばいい。それに、魔法で醜く装っておかげで、最短で婚約者の座を手に入れる事が出来たんだ。問題ない。」
「…まぁ、主が喜んでるなら、今までの苦労が報われるってもんです。」
「いい侍従を持って、私は幸せものだな。」
ぞくりとする程の美貌にニヤリと笑いかけられ、その笑顔が「これからもっと働かせてやるからな」と伝えてくる。
侍従は、コキュンと喉を鳴らすと、人使いの荒い主とどうにか交渉して恋人とデートする為の休みだけは死守しようと思うのだった。
誰でも使えるという訳ではなく、一部の選ばれ人間が魔法を使える世界である。
この国でも魔法が使えるものは両手で足りる程。
その数は、魔法が使えると申告している者の数が、と補足が付く。
魔法が使えるだけでどの国でもかなりの高待遇で迎えられる。
選ばれた人間という訳だ。
その為、魔法が使えるのを申告しない理由がないと思われる訳だ。
魔法が使える方が圧倒的に有利な人生を送れるからだ。
世の中に魔女と言われてるものたちの中にも数名魔法が使える者がいるらしいが、真偽の程はわからない。
魔女と言われる物たちは呪具を使っていかがわしい事をしているイメージの方が強い為、信じていない者の方が多いかもしれない。
しかし、申告しないという選択をし、親にすらそれを隠して生活している者もいる。
何故申告しないのかと問われるのだとしたら、人に纏わりつかれるのが嫌だからだと単純な理由だったりするのだが。
親にすら隠すのは、上昇思考が強い親だから。と、真顔で答えただろう。
魔法が使える者と結婚し子を成せば、稀に魔法の使える子供が生まれる事がある。
そのせいで、魔法が使える者は複数の伴侶を持たされる事が多いのだ。
女なら子を成し産むまで一人だが、男なら相手さえ居れば際限がない。
望むのなら最高の環境だが、望まないのであれば地獄でしかない。
ティアローザが婚約を結んだ相手は、申告をしない者だった。
念願の王女との婚約を結ぶ事が出来たルカリオンは、内心叫びだしたい程の興奮を内に押し殺し、冷静な態度を崩さぬよう細心の注意を払い公爵邸に戻った。
大勢の使用人から帰宅の挨拶と王女との婚約を祝う言葉を受ける。
婚約に対する祝いの言葉には、いつも冷静な態度を見せていたルカリオンらしからぬ笑顔を一瞬浮かべてしまった。
少し緩んだ表情をキュッと引き締め軽く頷くと、自分付きの侍従を伴って颯爽と私室へと向かう。
私室へと入り、ここには侍従と己しか居ない事を確認すると、全体的にかけていた認識阻害魔法を解いた。
認識阻害が解かれた後に現れたのは絶世の美貌と、長身でしなやかな筋肉がしっかりと付いた体躯。
現役の騎士程ガチガチに鍛えていないが、敵対する者と俊敏に戦う為に必要な程度には鍛錬を続けている。
公爵令息でそれも嫡男。まして幼い頃から王太子と懇意にしており将来有望の地位も名誉も兼ね備えた男である。
恨まれる理由には事欠かない。護衛が居なければ殺されるだけだなんて、バカバカしい。弱みがあるのなら、無くせばいいだけ。
惚れた女が王女という事も大きかっただろう。強く賢く立ち回れる人間になり王女を手に入れると幼い頃から決めていたのだから。
「いつ拝見しても阻害解いた後に驚かされますよ。おまけに認識阻害なんて超高等幻影魔法じゃないですか、そんな魔法を独学で使える人が我が主だなんて…
認識阻害をこの目で見なかったら信じないとこですよ。」
侍従が苦笑しながら零した。
「―――仕方ないだろう。見た目に寄りつく女が多すぎるのだから。
その為に必死で阻害魔法を学んだんだ。これのお陰でストレスも無くなった。
チラホラ地位目当てのバカは湧くけど、この姿で冷たくされると腹が立つのか、昔ほど執着されず助かっている。」
「ああ、主のトラウマになる程ですもんね。可憐な女性も一皮剥けば猛獣だなんて、主の侍従にならなければ気付かなかったでしょう。
綺麗な男には冷たくされても縋り付くのに、金や地位の為とはいえ醜い男に冷たくされるのはプライドが許せないんですかねー?」
醜いから女馴れしてなく玉の輿ちょろいと思うのか、下品な誘惑が多い。
それをバッサリと斬る時は見ていて爽快感はあるが、公爵家の嫡男であるというのに身分の低い令嬢から「この醜男が、私が情けで声をかけてやってるのにいい気になるな!」と罵倒されるのは、控えめにいって殺意がわくほどに腹が立つ。
主にバレぬようこっそりと報復をしていたりするのは秘密である。
昔、ルカリオンの目の前で、まだ幼い令嬢たちが掴み合いの喧嘩をするのは珍しい事ではなかった。
長い髪を掴み合い、ドレスの裾を破り、甲高い声で罵倒し合う。
どいつもこいつもルカリオンを自分のものだと主張する。
正直、気持ち悪くてうんざりだった。
「おまえにもトラウマを与えてしまったか。すまない」
「いやぁ、早いうちに知れて良かったですよ。目が曇らないで済みました。」
ニコニコと機嫌良さそうに話す侍従は、最近恋人が出来たのだ。
見た目に惑わされる事なく、内面を知ってからのお付き合い。
内面を好きになると、見た目までどんどん可愛く思えてくるんだから不思議だ。
つまり、とっても幸せなのである。
「主、でもいいんですか…? 王女様まで騙しちゃって。あんな奥手な男を演じる大根芝居まで…」
「…仕方ないだろう。醜い男で王女を一途に愛せる男が婚約の条件だったのだから。」
憂い顔のルカリオンは、醜いとは最も遠い場所にいる美貌を持っている。
「あと少しだったんですけどねぇ。長年じわじわとライバルを蹴落とし、側近としての地位を固め、王女を囲う外堀を完璧に作りあげて、物語の王子様宜しく迎えにいく準備が整うまで。」
侍従もその外堀を作るのに散々駆り出され働かされていた為、重い溜息がこぼれた。
「少し遠回りになっただけだ。気持ち悪い令嬢除けに使っていた認識阻害魔法は、王女に婚約を申し入れる時に解くつもりだった。それがもう少し延びただけだ。
王女の心も体も完全に手に入れてから、少しずつ少しずつ阻害魔法を弱めていけばいい。それに、魔法で醜く装っておかげで、最短で婚約者の座を手に入れる事が出来たんだ。問題ない。」
「…まぁ、主が喜んでるなら、今までの苦労が報われるってもんです。」
「いい侍従を持って、私は幸せものだな。」
ぞくりとする程の美貌にニヤリと笑いかけられ、その笑顔が「これからもっと働かせてやるからな」と伝えてくる。
侍従は、コキュンと喉を鳴らすと、人使いの荒い主とどうにか交渉して恋人とデートする為の休みだけは死守しようと思うのだった。
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