私だけを愛してくれたなら、それだけで。

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第一章 王女に婚約者が出来るまで。

第五話 婚約者。

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 ひょろひょろと背だけは高く、折れそうな程に細い身体と手足、視力が悪い為分厚すぎるメガネをかけ、不健康そうに青白い顔色をしたルカリオン・コルベール公爵令息。

 ティアローザは、初顔合わせの為に用意された席で向かい合って座っていた。

 昔とは随分と見た目は変わったようだけれど、だがそこが好ましい。
 ティアローザがルカリオンを見る目は、捕食者のソレだ。

( 理想通りの方だわ!)

 見た目の可憐さとは裏腹に内面は獲物を狙う肉食獣である。

「……王女殿下は、私のような者と婚約などを望まれなくとも、もっと――「貴方がいいのです!」……えっ?」

 ルカリオンが話しているのを強引に横からぶった斬る。
 分厚いメガネで瞳はよく分からないが、ルカリオンは唖然としている。

「ルカリオン様と呼んでよろしくて?」
「は、はい……」
 もじもじとルカリオンは応じる。

 昔一度だけ会ったルカリオンは、もっと女の子馴れしてるようにスラスラと美辞麗句を並べるタイプだった。
 天使だとか妖精だとか、ティアローザの小さな胸を高鳴らせる言葉をくれた。

 その男の子がそのまま育てば、大層なプレイボーイに育ちそうだったけれど、そうはならなかったようだ。
 今のルカリオンは酷く奥手で照れ屋らしい。

「わたくしの事はティアローザとお呼び下さい。王女殿下だなんて婚約者になるのですもの他人行儀はやめましょう。」
「は、はぃ…ティ、ティア…ローザ様。」

 頬を染めもごもごと名前を口にする姿は大層可愛らしくティアローザは感じた。
 見た目は風が吹けば飛びそうな程に華奢であるし、長身で骨格は立派に育ったのか、可愛い系ではないのだが。

「ふふっ」
 ティアローザが思わず笑うと、ますます頬を染めるルカリオン。

( これではどちらが女か分からないわね…)

 ちょっと可愛らし過ぎやしないかと思うが、可愛くないよりはいいと思い直す。

「今日は婚約を結ぶ最終段階の顔合わせなのだけれど、ルカリオン様はこの婚約をどう思ってらっしゃいますか?」

「…僕、なんかがどうして…とは思います。確かに、ティアロー様の兄である王太子殿下とは幼少の頃より懇意にさせて頂き、今では側近としてお傍に侍る栄誉を頂いておりますが…。それが妹姫であるティアローザ様の婚約者に抜擢されるなんて――――身に余る光栄なのではないかと。」

「お断りしたい、という事ですか?」
「いえ、滅相もございません! そういう訳ではなく!」
「訳ではなく…?」
「ティアローザ様が嫌ではないのかと……」
「わたくしは、ルカリオン様がいい。と先程お伝えした通りですわ。」
「えっ、はい…それはお聞きしました。空耳ではなかったのか……っ!? で、ですね。」

 ルカリオンは、最後独り言のように思わず口から零れたことに気付き、慌てて言葉を付け足した。 
 ソワソワと落ち着きがなくなってきている。
 頬の熱もずっと引かずに赤いままだ。

「私の中で絶対に譲れない条件がございますの」
 ティアローザは強い眼差しをルカリオンに向ける。

「譲れない条件…」
 ゴクリと喉を鳴らし、ルカリオンは強い眼差しを受け止めた。
「ええ。恐らく書面にて確認されたかと思うのですが―――」
「ティアローザ様をどんな時も死が二人を別つまで愛し敬い続ける…ですね?」

 ルカリオンの口から訊くと、何だか気恥ずかしくなるのは何でだろうか。
 ティアローザの頬がカッと染まる。

「可笑しいですか?」
 一国の王女の婚約相手に望む条件にしては幼稚だろう。
「いいえ、私はとても好ましいと思いました。そのような条件を付ける方ならば、
 貴族間での政略にあるような義務だけの間柄ではなく、愛し愛される関係が望めるのではないかと、胸が高鳴った程ですから。」

 ルカリオンは真摯な言葉で己の思いを語る。
 ティアローザが先程の奥手感何処!? と内心驚いてしまう程に流暢に紡がれる言葉。

「…――そう、ですか。嬉しいですわ。とても。では、わたくしと婚約を結ぶ意思はあると…受け取っても?」
「…はい。ティアローザ様が私のような者でもお望み下さるのであれば、是非に。」

 ルカリオンは淀みなくそう話すと、ニッコリと微笑んだ。
 とても痩せておどおどしていた男には見えない、艶やかな笑みだった。


この日、ティアローザはルカリオン・コルベール公爵子息と正式に婚約を結んだ。
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