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第一章 王女に婚約者が出来るまで。
第四話 それは私が欲しいものですか?
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王女宮に訪れた王女の兄王子エミリオは、自分が一番好きな茶葉を使用して淹れてくれたお茶を飲みながら安堵していた。
ここは、宮の中においても妹のプライベートな私室。
今までもここに通された来たけれど、今回、もしかしたら応接室へと通されるのではないのか不安だったのだ。
王女宮に招待されるような貴族夫人はそれほど多くはないが、それでも付き合いというものがあり、王妃の繋がりで定期的に高位貴族夫人が令嬢を伴って宮へ来る事があるのだ。
それに王家御用達の外商をする商人たち等も応接室に通されている。
というわけで、大して親しくない者でも通される応接室ではなく、妹ティアローザの私室に通された事で自分が妹の怒りの対象内で無いことが分かってホッとしたのだった。
「それでリオ兄様、政務が山のように積み上げられ毎日逃げたいと嘆かれる程にお忙しいお兄様が、わざわざ私の所へ来られる程の大変な御用がお有りなのですか?」
ティアローザの言葉の棘がチクチクと刺さる。
(これは、僕に対しても少し怒ってそうだなぁ…)
それもそうか、父と母があの詐欺祈祷師を呼ぶことを止められなかったし、暴走してるなぁと思ったけれど(ちょっとだけ面白い)と思って本気で止めようとはしていなかったから。
娘が醜い婚約者でいいと言ったくらいで大騒ぎし過ぎなんだよ、親ばかどもめ。
王と王妃の暴走を諌めようとする真っ当な臣下たちに「まぁちょっと様子見したら?」と進言したのもバレてるのかもしれない。
あれ? 僕なんで許されたんだ? 結構やらかしてない?
「用があったら、来てはいけないのかい?」
令嬢達の甲高い悲鳴を独占する微笑みを浮かべてみせる。
「フッ、妹のわたくしに、リオ兄様のその笑みが通用すると思ってますの?」
ティアローザに鼻で笑われてしまった。
「ははっ、手厳しいな。用が無くてもティアローザに会いに来たいし来るつもりだけれど、今日はティアが喜ぶものを持ってきたよ。」
「喜ぶもの…?」
疑り深い眼差しを僕に向けると「私の欲しいものですか?」と訊いてくる。
「今、一番欲しそうなものだとは思うけれど。違ったかな?」
そう言いながら釣書を掲げ軽く振ってみせた。
ティアローザの瞳がカッと見開かれる。
「そのような事を仰って、お父様たちが持って来たような令息たちなら、わたくしはリオ兄様としばらく口をきかないつもりですけれど。よろしいの?」
「口をきかないのは堪えるからやめてほしいが、きっと気に入ってくれると信じて持って来たから、ティアに喜んで貰えると嬉しい。」
ティアローザに釣書を差し出し、それを受け取り開くのを見守る。
「まぁ…この方は!」
ティアローザはハッとしたように驚き、顔を上げた。
「この方ってこのような容姿の方でした? お兄様と昔から懇意にしておられてお付き合いの長い公爵令息様じゃないですか?」
絵姿の下に情報が細かく書いてあるので、それに目を落とし読み進めるティアローザ。
「ええ、間違いないわ。お名前もルカリオン・コルベール公爵令息様ですし。
嫡男という所も同じですわ…。
何がおありになったのかしら、ご病気だと訊いた事はない気がいたしますのに。
こんなに痩せて…。」
酷く心配するティアローザにエミリオはおや? と思う。
「ティアは挨拶程度しかルカとの接点は無かった気がするけれど、どこかで接点があった?」
「いえ、ご挨拶だけですわ。その時に仰ってくれた言葉が印象的で、ステキな方だなとは思っていましたの。」
「へぇ…あのルカがねぇ」
詩的な事でも言われたか? いやでも、あの令嬢にブリザード吹かせていたルカだぞ? 僕の妹だからといってもやりそうにないが。
「あの頃、わたくし天使になりたくて。」
ティアローザが何て? エミリオはきょとんして目を丸くする。
天使といったか? 確かに昔は白くてフリフリしたドレスばかりを着ていた気がするが。
「天使…」
「ええ、天使様が出てくる本を読んで、どうにかして自分も天使になれないかと頑張っていた時期があるんですの。」
幼い自分の夢を今更に兄に語っているのが気恥ずかしく、少し頬を染めふふっと可憐に笑うティアローザ。
( うん、確かに今からでも天使になれそうな可愛さではある。)
「庭園で、お花に囲まれて空を見上げて、私を天使にさせて下さいって祈っていた時、たまたまお兄様とコルベール公爵令息様が庭を散策されていて、お会いした時に――――」
急に口を噤むと、更に頬を染め上げ、もじもじとするティアローザ。
「時に?」
「…言わなきゃダメかしら。今、話しながら思い返したら恥ずかしくなってきましたわ。」
「僕にその記憶が無いのだけれど、そこに僕はいたの?」
「リオ兄様も居ましたわよ? え、居なかったかしら…?」
混乱したように視線を俯かせ「いや…あれは…でも…」と呟くティアローザ。
「ティア、それで何て言われたの?」
続きが気になるエミリオはティアローザを促す。
「…王女殿下でしたか、天使様だと思いました。お初にお目に掛かります。コルベール公爵家のルカリオンと申します。以後お見知りおき下さい。と仰ったの。」
あれ、普通だな? 天使様という単語はあるけど。
ティアローザが恥ずかしがるので、どんなことを言われたんだと心配したじゃないか。
それなら僕も覚えてなくて納得した。普通の挨拶の場面だもの。
「まだ続きがありますの。綺麗な花に誘われてここへ来てみれば花の妖精に見え、近付けば何と愛らしい天使様かと。その白いドレスがとてもお似合いですね。って! ああ恥ずかしいわ!」
ティアローザは最後まで一息に言い切ると、両手で顔を覆い悶えるように左右に体を揺らした。
有り得ない。あのルカが…? 特にあの頃はまだ十にも満たない幼い自分らに、年上の令嬢達までがしつこくて、よく庭園に逃げ出していた。
ルカは追いかけチヤホヤと纏わりつく令嬢達を心底嫌がっていたし、凄い冷たい対応をしていたと記憶している。
「あ、思い出しましたわ。お兄様は少し距離があったのか追いついて来て、私に白いドレスを汚すと落とすのが大変だってメイドが嘆いてたぞって言ったのよ。」
「じゃあ記憶にない訳だ。訊いてないんだもの。」
まだ頬に赤みを残したティアローザ。
あの頃のルカに苦笑しつつ、納得するエミリオ。
「それで、ティアはどうかな? ルカリオンは。
実は、もう父と母の許可は得ていてね。ティアの婚約者としてほぼ決定なんだけど。
ティアが嫌なら、また別の人間を探してくる。
僕の昔からの友人で最も信頼する側近だから一番最初に選ばれたし、婚約の許可に誰も異を唱えなかったからね。」
「ルカリオン・コルベール公爵令息様と、婚約いたしますわ! コルベール公爵令息様がお嫌でないのでしたら…ですけれど。」
「嫌なものか。大喜びしていたよ。」
長い付き合いの僕だけが知る反応を見て判断しただけだけど。
「……それなら、安心いたしました。周りが騒ぎ立てたので頭がおかしくなった王女
と思われて嫌がられていたらと…不安でしたの。」
「…早めにその噂は消しておく。王と王妃のご乱心に差し替えとくよ。親ばかの暴走ってね。王と王妃のイメージなんてしるか。」
ニヤリと笑うエミリオに、ティアローザも同意するようにニヤリと笑った。
似た者兄妹かもしれない。
「じゃ、ティアが同意したと伝えてくるよ。そのまま婚約式の日程まで決めてしまうけどいいかい?」
「っ…! ええ、お願いします。」
また頬を赤く染めた妹を見遣り、兄王子エミリオは嬉しそうな笑い声をあげた。
ここは、宮の中においても妹のプライベートな私室。
今までもここに通された来たけれど、今回、もしかしたら応接室へと通されるのではないのか不安だったのだ。
王女宮に招待されるような貴族夫人はそれほど多くはないが、それでも付き合いというものがあり、王妃の繋がりで定期的に高位貴族夫人が令嬢を伴って宮へ来る事があるのだ。
それに王家御用達の外商をする商人たち等も応接室に通されている。
というわけで、大して親しくない者でも通される応接室ではなく、妹ティアローザの私室に通された事で自分が妹の怒りの対象内で無いことが分かってホッとしたのだった。
「それでリオ兄様、政務が山のように積み上げられ毎日逃げたいと嘆かれる程にお忙しいお兄様が、わざわざ私の所へ来られる程の大変な御用がお有りなのですか?」
ティアローザの言葉の棘がチクチクと刺さる。
(これは、僕に対しても少し怒ってそうだなぁ…)
それもそうか、父と母があの詐欺祈祷師を呼ぶことを止められなかったし、暴走してるなぁと思ったけれど(ちょっとだけ面白い)と思って本気で止めようとはしていなかったから。
娘が醜い婚約者でいいと言ったくらいで大騒ぎし過ぎなんだよ、親ばかどもめ。
王と王妃の暴走を諌めようとする真っ当な臣下たちに「まぁちょっと様子見したら?」と進言したのもバレてるのかもしれない。
あれ? 僕なんで許されたんだ? 結構やらかしてない?
「用があったら、来てはいけないのかい?」
令嬢達の甲高い悲鳴を独占する微笑みを浮かべてみせる。
「フッ、妹のわたくしに、リオ兄様のその笑みが通用すると思ってますの?」
ティアローザに鼻で笑われてしまった。
「ははっ、手厳しいな。用が無くてもティアローザに会いに来たいし来るつもりだけれど、今日はティアが喜ぶものを持ってきたよ。」
「喜ぶもの…?」
疑り深い眼差しを僕に向けると「私の欲しいものですか?」と訊いてくる。
「今、一番欲しそうなものだとは思うけれど。違ったかな?」
そう言いながら釣書を掲げ軽く振ってみせた。
ティアローザの瞳がカッと見開かれる。
「そのような事を仰って、お父様たちが持って来たような令息たちなら、わたくしはリオ兄様としばらく口をきかないつもりですけれど。よろしいの?」
「口をきかないのは堪えるからやめてほしいが、きっと気に入ってくれると信じて持って来たから、ティアに喜んで貰えると嬉しい。」
ティアローザに釣書を差し出し、それを受け取り開くのを見守る。
「まぁ…この方は!」
ティアローザはハッとしたように驚き、顔を上げた。
「この方ってこのような容姿の方でした? お兄様と昔から懇意にしておられてお付き合いの長い公爵令息様じゃないですか?」
絵姿の下に情報が細かく書いてあるので、それに目を落とし読み進めるティアローザ。
「ええ、間違いないわ。お名前もルカリオン・コルベール公爵令息様ですし。
嫡男という所も同じですわ…。
何がおありになったのかしら、ご病気だと訊いた事はない気がいたしますのに。
こんなに痩せて…。」
酷く心配するティアローザにエミリオはおや? と思う。
「ティアは挨拶程度しかルカとの接点は無かった気がするけれど、どこかで接点があった?」
「いえ、ご挨拶だけですわ。その時に仰ってくれた言葉が印象的で、ステキな方だなとは思っていましたの。」
「へぇ…あのルカがねぇ」
詩的な事でも言われたか? いやでも、あの令嬢にブリザード吹かせていたルカだぞ? 僕の妹だからといってもやりそうにないが。
「あの頃、わたくし天使になりたくて。」
ティアローザが何て? エミリオはきょとんして目を丸くする。
天使といったか? 確かに昔は白くてフリフリしたドレスばかりを着ていた気がするが。
「天使…」
「ええ、天使様が出てくる本を読んで、どうにかして自分も天使になれないかと頑張っていた時期があるんですの。」
幼い自分の夢を今更に兄に語っているのが気恥ずかしく、少し頬を染めふふっと可憐に笑うティアローザ。
( うん、確かに今からでも天使になれそうな可愛さではある。)
「庭園で、お花に囲まれて空を見上げて、私を天使にさせて下さいって祈っていた時、たまたまお兄様とコルベール公爵令息様が庭を散策されていて、お会いした時に――――」
急に口を噤むと、更に頬を染め上げ、もじもじとするティアローザ。
「時に?」
「…言わなきゃダメかしら。今、話しながら思い返したら恥ずかしくなってきましたわ。」
「僕にその記憶が無いのだけれど、そこに僕はいたの?」
「リオ兄様も居ましたわよ? え、居なかったかしら…?」
混乱したように視線を俯かせ「いや…あれは…でも…」と呟くティアローザ。
「ティア、それで何て言われたの?」
続きが気になるエミリオはティアローザを促す。
「…王女殿下でしたか、天使様だと思いました。お初にお目に掛かります。コルベール公爵家のルカリオンと申します。以後お見知りおき下さい。と仰ったの。」
あれ、普通だな? 天使様という単語はあるけど。
ティアローザが恥ずかしがるので、どんなことを言われたんだと心配したじゃないか。
それなら僕も覚えてなくて納得した。普通の挨拶の場面だもの。
「まだ続きがありますの。綺麗な花に誘われてここへ来てみれば花の妖精に見え、近付けば何と愛らしい天使様かと。その白いドレスがとてもお似合いですね。って! ああ恥ずかしいわ!」
ティアローザは最後まで一息に言い切ると、両手で顔を覆い悶えるように左右に体を揺らした。
有り得ない。あのルカが…? 特にあの頃はまだ十にも満たない幼い自分らに、年上の令嬢達までがしつこくて、よく庭園に逃げ出していた。
ルカは追いかけチヤホヤと纏わりつく令嬢達を心底嫌がっていたし、凄い冷たい対応をしていたと記憶している。
「あ、思い出しましたわ。お兄様は少し距離があったのか追いついて来て、私に白いドレスを汚すと落とすのが大変だってメイドが嘆いてたぞって言ったのよ。」
「じゃあ記憶にない訳だ。訊いてないんだもの。」
まだ頬に赤みを残したティアローザ。
あの頃のルカに苦笑しつつ、納得するエミリオ。
「それで、ティアはどうかな? ルカリオンは。
実は、もう父と母の許可は得ていてね。ティアの婚約者としてほぼ決定なんだけど。
ティアが嫌なら、また別の人間を探してくる。
僕の昔からの友人で最も信頼する側近だから一番最初に選ばれたし、婚約の許可に誰も異を唱えなかったからね。」
「ルカリオン・コルベール公爵令息様と、婚約いたしますわ! コルベール公爵令息様がお嫌でないのでしたら…ですけれど。」
「嫌なものか。大喜びしていたよ。」
長い付き合いの僕だけが知る反応を見て判断しただけだけど。
「……それなら、安心いたしました。周りが騒ぎ立てたので頭がおかしくなった王女
と思われて嫌がられていたらと…不安でしたの。」
「…早めにその噂は消しておく。王と王妃のご乱心に差し替えとくよ。親ばかの暴走ってね。王と王妃のイメージなんてしるか。」
ニヤリと笑うエミリオに、ティアローザも同意するようにニヤリと笑った。
似た者兄妹かもしれない。
「じゃ、ティアが同意したと伝えてくるよ。そのまま婚約式の日程まで決めてしまうけどいいかい?」
「っ…! ええ、お願いします。」
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