3 / 8
第一章 王女に婚約者が出来るまで。
第三話 一週間篭っていた間にしていたこと。
しおりを挟む
一週間、王女宮で静かに篭っていた王女――――
王である父、王妃である母へと顔を全く見せないという抵抗によって、静かなる抗議を行っていた。
王女宮から一歩も出る事なく、王女に堅い忠誠を誓っている信頼ある使用人だけが出入りしていた。
―――そう、建前上は。
王女は宮から一歩も出ないと宣言した翌日、王宮メイドの服装を纏い、カツラまでしっかりと頭に被ると、全くの別人にしか見えなくなった。
変装を済ませた王女は、数人の信頼できる侍従とメイドを伴い、魔女たちの元へと訪れた。
とりあえず軟禁し押し込めていた魔女たち。
ただ飯食らいをさせる訳にもいかないし、魔女の資質として狡猾で欲望に酷く忠実な奔放な性分があって魔女になれたのだろうが、ソレなだけではただの性悪女として何処にでもゴロゴロいる。
それだけでは無いから魔女になれているのだ。
ということは、それなりに才能は有る筈である。
前々から気にかけていた事に魔女を使う事で解消できると思案し、一週間の間は暇を持て余すのだから、この際どうにかするかと思ったのである。
魔女たちを押し込めている部屋を軽くノックすると返事を待たずに入室する。
「だ、誰なのよ!」
「まさか、王族を謀った罪で処刑なの!?」
「お、王女を出しなさいっ! 王女がこの部屋に居れたのには理由があるはずなのよ!」
強気そうな魔女が数人口ぐちに叫ぶ。
そこまで怯えるのなら、何故王族を謀るであろう話に乗ったのだろう。
そんなことをすれば処刑も免れない大罪だと、小さな子供でも理解してそうなのだが。
王女は耳を塞ぎたいのを我慢しカツラをとると「私がその王女よ」と正体を明かす。
赦されたと思っていた魔女たちは、王女の訪問を歓迎した。
「赦していないわ。」
「酷い思いをさせてしまったに関わらず、寛大なお心で赦しを与えて下さった王女様…」と魔女が感謝の言葉を述べようとしたときにズバッと言った言葉である。
そこからは王女の無双である。
ちくちくねちねち嫌味を混ぜ、暗く汚く臭い大罪人が収容される地下牢の話や、処刑といっても首跳ねるだけがやり方ではない事を伝え、具体的にある数種類の拷問に近い処刑方法をちらつかせながら、魔女たちを散々震え上がらせた。
青どころか真っ白になった顔色の魔女たちを一人一人確認し都合のいい夢は見てない事を確認すると、赦して欲しくば私の為に働きなさい、と仕事を与えた。
仕事内容は真っ当なもので、その仕事への対価は魔女たちの大好きなお金。
王宮の中にの空き室を三部屋程使用し、そこに機材や作業台などを持ちこみ、そこで薬草をメインに使用した病気や怪我などに使用する薬や軟膏を作らせた。
所謂、薬師である。
不思議な事に魔女は薬を作る事に適正が高いのか、元々居る薬師たちと同じ様な工程で作らせている筈なのに効果が高かった。
王女に言われた通りに働き、作業時間も休憩時間もしっかりと管理され、その上、決まった時間に掃除をする者が現れ、掃除などしたことも無いような魔女たちが汚した作業台や器具などを綺麗にしてくれる。至れり尽くせりだ。
三食の食事に休憩時間に提供される王家のシェフが作った絶品のお菓子を食べお茶を飲む。そして、綺麗な衣服と環境で任された仕事を頑張る。
頑張ればしっかり見返りがあり、もっとお金が欲しいのなら、新薬を開発してそれの効果次第では、かなりの褒美が与えられるそうだ。
真っ当な職場である。
最初、さっさと依頼をこなして金を貰ったら、こんな場所逃げ出そうと思っていた魔女たちも、王女の徹底的な管理下の元で働いてるうちに、ここで働くのも悪くないのではないか? 着の身着のままのその日暮らしより絶対いい!と思う者たちが増えていき、一週間が経過した今も誰ひとり逃げ出していない。
王女による魔女の調教完了である。
魔女たちを思うように働かせ、既存の薬にもテコ入れして効果が高い薬へと進化させたり、素晴らしい効果を発揮する化粧品関連の開発にも力を入れさせた。
騎士団の団員にサンプルとして配られた怪我によく効く軟膏や、筋肉の疲労に効く飲み薬などはかなり良質で効果が高く、騎士団からもっと欲しいと追加注文がきたほど。
狡猾で貪欲だと蔑み対象であった魔女。
それが今では立派な騎士様たちから感謝の手紙を何通も頂いていた。
魔女たちは、初めて他者に感謝され、その存在を認められる心地良さの虜になった。
もう王女から与えられたこの素晴らしい職場と環境から離れられないと、魔女たちの誰もが強く思う。
今までよりも一層新薬の開発に熱心になり、完成まではまだ時間が掛かるだろうが、現段階でも順調に一定の成果をあげつつ進んでいる。
既存の飲み薬や軟膏を怠けるのを全くしなくなった為、完成して提供するまでのスピードが格段に速くなる事で大量の薬を用意する事が出来ている。
絶対数が少なければ、そこそこ裕福な平民であっても高額に感じる値段でしか手に入らなかった薬も、魔女製であるなら比較的安価で大量に販売出来る個数が確保できた為、薬効の少ない気休め程度の効き目の薬や、民間療法で我慢していた貧しい層でも購入できそうな値段の薬も提供できるようになった。
王女がおとなしくしている訳などないと、王女の性格を誰よりも分かっている兄王子は、こっそりと動向を調べさせていた。
魔女たちのくだりの報告書を読んで、我が妹ながら何て恐ろしいと薄ら寒くなったのだった。
あの狡猾で強欲で怠け者な人間をたった一週間で真っ当に調教した王女。
人心掌握に長けすぎていて、女である事が惜しい程だ。
全ての報告書に目を通した兄王子。
時は満ちたと王女宮へと先触れを出した。
両親には許可される事は無かったが、兄王子はアッサリと王女から許可を貰うと、側近の釣書を片手に王女宮へと颯爽とした足取りで向かったのだった。
王である父、王妃である母へと顔を全く見せないという抵抗によって、静かなる抗議を行っていた。
王女宮から一歩も出る事なく、王女に堅い忠誠を誓っている信頼ある使用人だけが出入りしていた。
―――そう、建前上は。
王女は宮から一歩も出ないと宣言した翌日、王宮メイドの服装を纏い、カツラまでしっかりと頭に被ると、全くの別人にしか見えなくなった。
変装を済ませた王女は、数人の信頼できる侍従とメイドを伴い、魔女たちの元へと訪れた。
とりあえず軟禁し押し込めていた魔女たち。
ただ飯食らいをさせる訳にもいかないし、魔女の資質として狡猾で欲望に酷く忠実な奔放な性分があって魔女になれたのだろうが、ソレなだけではただの性悪女として何処にでもゴロゴロいる。
それだけでは無いから魔女になれているのだ。
ということは、それなりに才能は有る筈である。
前々から気にかけていた事に魔女を使う事で解消できると思案し、一週間の間は暇を持て余すのだから、この際どうにかするかと思ったのである。
魔女たちを押し込めている部屋を軽くノックすると返事を待たずに入室する。
「だ、誰なのよ!」
「まさか、王族を謀った罪で処刑なの!?」
「お、王女を出しなさいっ! 王女がこの部屋に居れたのには理由があるはずなのよ!」
強気そうな魔女が数人口ぐちに叫ぶ。
そこまで怯えるのなら、何故王族を謀るであろう話に乗ったのだろう。
そんなことをすれば処刑も免れない大罪だと、小さな子供でも理解してそうなのだが。
王女は耳を塞ぎたいのを我慢しカツラをとると「私がその王女よ」と正体を明かす。
赦されたと思っていた魔女たちは、王女の訪問を歓迎した。
「赦していないわ。」
「酷い思いをさせてしまったに関わらず、寛大なお心で赦しを与えて下さった王女様…」と魔女が感謝の言葉を述べようとしたときにズバッと言った言葉である。
そこからは王女の無双である。
ちくちくねちねち嫌味を混ぜ、暗く汚く臭い大罪人が収容される地下牢の話や、処刑といっても首跳ねるだけがやり方ではない事を伝え、具体的にある数種類の拷問に近い処刑方法をちらつかせながら、魔女たちを散々震え上がらせた。
青どころか真っ白になった顔色の魔女たちを一人一人確認し都合のいい夢は見てない事を確認すると、赦して欲しくば私の為に働きなさい、と仕事を与えた。
仕事内容は真っ当なもので、その仕事への対価は魔女たちの大好きなお金。
王宮の中にの空き室を三部屋程使用し、そこに機材や作業台などを持ちこみ、そこで薬草をメインに使用した病気や怪我などに使用する薬や軟膏を作らせた。
所謂、薬師である。
不思議な事に魔女は薬を作る事に適正が高いのか、元々居る薬師たちと同じ様な工程で作らせている筈なのに効果が高かった。
王女に言われた通りに働き、作業時間も休憩時間もしっかりと管理され、その上、決まった時間に掃除をする者が現れ、掃除などしたことも無いような魔女たちが汚した作業台や器具などを綺麗にしてくれる。至れり尽くせりだ。
三食の食事に休憩時間に提供される王家のシェフが作った絶品のお菓子を食べお茶を飲む。そして、綺麗な衣服と環境で任された仕事を頑張る。
頑張ればしっかり見返りがあり、もっとお金が欲しいのなら、新薬を開発してそれの効果次第では、かなりの褒美が与えられるそうだ。
真っ当な職場である。
最初、さっさと依頼をこなして金を貰ったら、こんな場所逃げ出そうと思っていた魔女たちも、王女の徹底的な管理下の元で働いてるうちに、ここで働くのも悪くないのではないか? 着の身着のままのその日暮らしより絶対いい!と思う者たちが増えていき、一週間が経過した今も誰ひとり逃げ出していない。
王女による魔女の調教完了である。
魔女たちを思うように働かせ、既存の薬にもテコ入れして効果が高い薬へと進化させたり、素晴らしい効果を発揮する化粧品関連の開発にも力を入れさせた。
騎士団の団員にサンプルとして配られた怪我によく効く軟膏や、筋肉の疲労に効く飲み薬などはかなり良質で効果が高く、騎士団からもっと欲しいと追加注文がきたほど。
狡猾で貪欲だと蔑み対象であった魔女。
それが今では立派な騎士様たちから感謝の手紙を何通も頂いていた。
魔女たちは、初めて他者に感謝され、その存在を認められる心地良さの虜になった。
もう王女から与えられたこの素晴らしい職場と環境から離れられないと、魔女たちの誰もが強く思う。
今までよりも一層新薬の開発に熱心になり、完成まではまだ時間が掛かるだろうが、現段階でも順調に一定の成果をあげつつ進んでいる。
既存の飲み薬や軟膏を怠けるのを全くしなくなった為、完成して提供するまでのスピードが格段に速くなる事で大量の薬を用意する事が出来ている。
絶対数が少なければ、そこそこ裕福な平民であっても高額に感じる値段でしか手に入らなかった薬も、魔女製であるなら比較的安価で大量に販売出来る個数が確保できた為、薬効の少ない気休め程度の効き目の薬や、民間療法で我慢していた貧しい層でも購入できそうな値段の薬も提供できるようになった。
王女がおとなしくしている訳などないと、王女の性格を誰よりも分かっている兄王子は、こっそりと動向を調べさせていた。
魔女たちのくだりの報告書を読んで、我が妹ながら何て恐ろしいと薄ら寒くなったのだった。
あの狡猾で強欲で怠け者な人間をたった一週間で真っ当に調教した王女。
人心掌握に長けすぎていて、女である事が惜しい程だ。
全ての報告書に目を通した兄王子。
時は満ちたと王女宮へと先触れを出した。
両親には許可される事は無かったが、兄王子はアッサリと王女から許可を貰うと、側近の釣書を片手に王女宮へと颯爽とした足取りで向かったのだった。
10
お気に入りに追加
668
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

貴方の事を愛していました
ハルン
恋愛
幼い頃から側に居る少し年上の彼が大好きだった。
家の繋がりの為だとしても、婚約した時は部屋に戻ってから一人で泣いてしまう程に嬉しかった。
彼は、婚約者として私を大切にしてくれた。
毎週のお茶会も
誕生日以外のプレゼントも
成人してからのパーティーのエスコートも
私をとても大切にしてくれている。
ーーけれど。
大切だからといって、愛しているとは限らない。
いつからだろう。
彼の視線の先に、一人の綺麗な女性の姿がある事に気が付いたのは。
誠実な彼は、この家同士の婚約の意味をきちんと理解している。だから、その女性と二人きりになる事も噂になる様な事は絶対にしなかった。
このままいけば、数ヶ月後には私達は結婚する。
ーーけれど、本当にそれでいいの?
だから私は決めたのだ。
「貴方の事を愛してました」
貴方を忘れる事を。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

新しい人生を貴方と
緑谷めい
恋愛
私は公爵家令嬢ジェンマ・アマート。17歳。
突然、マリウス王太子殿下との婚約が白紙になった。あちらから婚約解消の申し入れをされたのだ。理由は王太子殿下にリリアという想い人ができたこと。
2ヵ月後、父は私に縁談を持って来た。お相手は有能なイケメン財務大臣コルトー侯爵。ただし、私より13歳年上で婚姻歴があり8歳の息子もいるという。
* 主人公は寛容です。王太子殿下に仕返しを考えたりはしません。

冷遇された王妃は自由を望む
空橋彩
恋愛
父を亡くした幼き王子クランに頼まれて王妃として召し上げられたオーラリア。
流行病と戦い、王に、国民に尽くしてきた。
異世界から現れた聖女のおかげで流行病は終息に向かい、王宮に戻ってきてみれば、納得していない者たちから軽んじられ、冷遇された。
夫であるクランは表情があまり変わらず、女性に対してもあまり興味を示さなかった。厳しい所もあり、臣下からは『氷の貴公子』と呼ばれているほどに冷たいところがあった。
そんな彼が聖女を大切にしているようで、オーラリアの待遇がどんどん悪くなっていった。
自分の人生よりも、クランを優先していたオーラリアはある日気づいてしまった。
[もう、彼に私は必要ないんだ]と
数人の信頼できる仲間たちと協力しあい、『離婚』して、自分の人生を取り戻そうとするお話。
貴族設定、病気の治療設定など出てきますが全てフィクションです。私の世界ではこうなのだな、という方向でお楽しみいただけたらと思います。

心の中にあなたはいない
ゆーぞー
恋愛
姉アリーのスペアとして誕生したアニー。姉に成り代われるようにと育てられるが、アリーは何もせずアニーに全て押し付けていた。アニーの功績は全てアリーの功績とされ、周囲の人間からアニーは役立たずと思われている。そんな中アリーは事故で亡くなり、アニーも命を落とす。しかしアニーは過去に戻ったため、家から逃げ出し別の人間として生きていくことを決意する。
一方アリーとアニーの死後に真実を知ったアリーの夫ブライアンも過去に戻りアニーに接触しようとするが・・・。

悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。
ごろごろみかん。
恋愛
旦那様は、私の言葉を全て【女の嫉妬】と片付けてしまう。
正当な指摘も、注意も、全て無視されてしまうのだ。
忍耐の限界を試されていた伯爵夫人ルナマリアは、夫であるジェラルドに提案する。
──悪名高い私ですので、今さらどう呼ばれようと構いません。

最後に報われるのは誰でしょう?
ごろごろみかん。
恋愛
散々婚約者に罵倒され侮辱されてきたリリアは、いい加減我慢の限界を迎える。
「もう限界だ、きみとは婚約破棄をさせてもらう!」と婚約者に突きつけられたリリアはそれを聞いてラッキーだと思った。
限界なのはリリアの方だったからだ。
なので彼女は、ある提案をする。
「婚約者を取り替えっこしませんか?」と。
リリアの婚約者、ホシュアは婚約者のいる令嬢に手を出していたのだ。その令嬢とリリア、ホシュアと令嬢の婚約者を取り替えようとリリアは提案する。
「別にどちらでも私は構わないのです。どちらにせよ、私は痛くも痒くもないですから」
リリアには考えがある。どっちに転ぼうが、リリアにはどうだっていいのだ。
だけど、提案したリリアにこれからどう物事が進むか理解していないホシュアは一も二もなく頷く。
そうして婚約者を取り替えてからしばらくして、辺境の街で聖女が現れたと報告が入った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる