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番外の章
番外編 レナト②
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狩りと称してコミニュティ外に出る大人たちを羨望の眼差しで見送る。
「はぁ……」
視界から狩りへ行く姿が消えた途端、大きなため息がこぼれる。
狩りへ行く大人たちのメンバーのリーダーはレナトの父だ。
リーダーである父に許可を貰えるなら、もしかしたら例外になれるかもしれないと安直な考えでレナトは父親に縋った。
「何故行きたい」と父に訊かれ、レナトは日頃の鬱屈した気持ちも相まって興奮気味に語った。
大人顔負けの強さを持つ自分が毎日コミニュティの中だけに居て、狩りに貢献しないのは、勿体ないことではないかと。
やる気があるものは参加させるべきではないか。
勿論、何の予習もしていないのに思いたっただけですぐ参加することは、自分も仲間も危険に晒す行動だと分かっている為するつもりはない。
しっかりと狩りの知識を学んで頭に叩き込み、それから大人たちの誰かに監督して貰いながら簡易的な講習で経験させて問題が無ければいいのではないかと語る。
レナトの話を遮ることなく最後まで静かに訊いていた父は「しっかり考えているのだな」と言ったあと「しかし、駄目だ」とバッサリと拒絶した。
「我々長命種は肉体の育ちは遅く精神の育ちは肉体よりは早い。私とお前の種は特に長い時を生きるから子供の姿であっても中身は大人のように成熟し始めている。その部分がおまえに外への渇望を感じさせるのだろうが―――」
淡々とした口調で父の口から語られる話。
レナトはもどかしさを感じる。
「それが危ういのだレナト。知識は増えて大人と遜色ない会話が出来るようになると一人前になったような錯覚をする。それは何もかも分かったようでいて分かっていない。コミニュティの外への認識がまだ甘い。狩りに行く私達は捕食する側としてその場に向かう。それはそうだ。だがコミニュティの外には果てしなく世界が広がっていてそこでは私達は捕食される側に成り得るときもある。魔物や動物には負ける事はないだろう。だが、あの世界で最も危ないのは人族なのだ。最も数が多い種族だ。その扱いを間違えばたちまち我々は捕食される側になる」
ぞわりとレナトの背に悪寒が走る。
人族は我らを食べるということか?
レナトの表情から言いたい事を察した父は「そうではない」と否定した。
「では……」
言い淀むレナトに父を悩ましげに見遣る。
「捕食されるというのはものの例えだ。捕らえられ利用されることもある。人族にとって我々の湧き水のように常に吹き上がる魔力は何をしてでも欲しいものだ。最上級の警戒を怠らず常に緊張を続け疑い続けなければならない相手が人族だ。思考だけが大人になったってまだ甘いお前には無理だ。他種族の100年は成人の者も多いが、我々の種族ではまだ100年足りぬ。成人を迎えるその時までコミニュティの外へは出さない。それが古くから続くコミニュティのしきたりだ。例外はない」
強い口調で断じた父との話は終わった。
最大の警戒と緊張感、油断のならない相手?
我ら種族が無詠唱で唱える簡単な魔法だけで全滅させる事が可能な弱々しい種族が?
慎重過ぎるのではないか。
父との話を終えて、レナトは尊敬していた父に対して幻滅し苛立ちを覚える。
(もやもやする……憂さ晴らしに魔法でも撃ちにいくか……)
攻撃的な気持ちになりレナトは屋敷の外へ出る。
本邸から少し歩いた場所に訓練棟と呼ぶ場所があり、そこでレナトや兄弟たちは日々鍛錬をしている。
魔法特化の種族なので建物丸ごとに破壊した部分を即座に元どおりにする修復の魔法と、魔法が誤って外へ飛び出さない為の結界が張ってあった。
他種族の者たちの屋敷にもそれぞれその戦闘スタイルに適した訓練棟を建築している為、こういった建物はコミニュティの中では特段珍しくない。
訓練棟の入口に見知った集団を発見してレナトは内心ゲンナリした。
「あ、ソル様!」
十数人いるかと思われる集団の中で特別目立つ女の子がレナトを呼ぶ。
レナトと同じ黒髪は長く波打ち背に流れている。
愛らしい顔立ちをした緑の目の黒猫のような子だ。
その子の視線の先のレナトへと集団の全員が一斉に振り返った。
(あー、面倒)
元より表情が豊かなレナトではないが、この面々の前では無になる。
父との会話で下がっていた気分が益々下降した。
「そろそろ鍛錬に来られる時ではないかと皆で話していたのです」
「…………」
その子の会話に同調するように次から次へと有象無象が語りかけてくるがすべてを無視して素通りする。
視線すら向けることはないまま関係者以外は入ることの出来ない訓練棟の中へと入っていった。
訓練棟の中に入り特殊なローブへを羽織って着替えを済ませると、訓練場へと向かう。
レナトが訓練場へと姿を現した途端に黄色い歓声が飛び交った。
訓練場は半円形の形をしており魔法を外へと出さない強固な結界が張ってあるが、中で何をしているのか外から丸見えである。
どこの訓練場も似た形状をしているので、何らかの意図があっての設計だと思うがレナトは興味がなかった。
ただこの形状のせいで毎度のことながらうるさい悲鳴が耳障りで鬱陶しいとは思っている。
地面から静かに長方形のプレートが出現する。
高さと幅が二メートルあるプレートは魔法の的当てである。
ある程度の魔法の攻撃なら吸収して壊れる事のないプレートは、魔法に特化した種族からは鍛錬道具として人気だ。
レナトは胸の高さまで腕を上げるとまっすぐに伸ばす。
上から強い力でズズンと押し潰すような圧力がその場に満ちた。
ガラスにヒビが入るような甲高い耳障りな音が鳴ると同時にレナトの手の先から放たれた何かが高速で地面を滑り的に向かっていく。
それが滑っていった跡の周囲には寒くもないのに雪の結晶がチラチラと舞う。
ビシッと音を鳴らし的へと直撃したソレは的のすべてを覆い尽くし巨大な氷の結晶となる。
それを視認しレナトは開いたままの手を内側へとギュッと握り込む。
直後に巨大な氷の結晶にビキキッと亀裂が入り、結晶はガラガラと音を立てて的と共に崩れ落ちていった。
地面には的へと向かう氷の道が出来ていた。
的が壊れた直後に新たなプレートが出現すると、今まで地面に転がっていた氷の結晶も氷の道も消え失せる。
レナトはまた手を開いた。
突如としてたくさんの火の玉がレナトの周囲に十数個出現する。
レナトが指を的へとツイッと動かすと、すべての火の玉が一斉に的へと向かった。
激しい爆発音とともに爆風が起きて赤く溶けたプレートが空中に散らばった。
レナトの頭上へもいくつか降り注ぐが、レナトに直接当たることはない。
当たる寸前に透明な壁に阻まれるように何かに当たり滑り落ちていく。
レナトは鍛錬の際は常時自分にも強固な結界を張っているのだった。
鍛錬場の外で大きな歓声と悲鳴が飛び交っているが、レナトの耳には届いていない。
魔法の行使が始まった直後から結界のモードが戦闘モードへと切り替わり音すらも遮断している。
戦闘モードから通常モードに戻るとまた騒がしい音が聞こえるが、魔法を使っている間は煩わされないようになっていた。
「あまり上位の魔法を使うと修復が間に合わないからな……」
施設の管理者の説教を想像してブルッと震えてしまい鳥肌まで立つレナト。
上位魔法を撃ち込みたくてうずうずしてきたところだが、中位程度に済ませようと思い直した。
氷、火のあとにも違う属性の中位魔法をいくつも行使して魔力とストレスを発散するレナトであった。
✂----------補足----------
レナトという名前は本編の主人公レティシアが名付けた名前です。
この時のレナトはレティシアとは巡り会えておらず(そもそもレティシアは生まれてすらいないので)
レナトという名前で呼ばれるのには違和感があります……が!!
レナトではない名前を使用する場合ややこしくなる……という。
ソルテルカという名にします。
という訳で、家族とコミニュティーの周囲がレナトを呼ぶ場合は「ソル」と短く愛称のように呼ばせることにしました。
「はぁ……」
視界から狩りへ行く姿が消えた途端、大きなため息がこぼれる。
狩りへ行く大人たちのメンバーのリーダーはレナトの父だ。
リーダーである父に許可を貰えるなら、もしかしたら例外になれるかもしれないと安直な考えでレナトは父親に縋った。
「何故行きたい」と父に訊かれ、レナトは日頃の鬱屈した気持ちも相まって興奮気味に語った。
大人顔負けの強さを持つ自分が毎日コミニュティの中だけに居て、狩りに貢献しないのは、勿体ないことではないかと。
やる気があるものは参加させるべきではないか。
勿論、何の予習もしていないのに思いたっただけですぐ参加することは、自分も仲間も危険に晒す行動だと分かっている為するつもりはない。
しっかりと狩りの知識を学んで頭に叩き込み、それから大人たちの誰かに監督して貰いながら簡易的な講習で経験させて問題が無ければいいのではないかと語る。
レナトの話を遮ることなく最後まで静かに訊いていた父は「しっかり考えているのだな」と言ったあと「しかし、駄目だ」とバッサリと拒絶した。
「我々長命種は肉体の育ちは遅く精神の育ちは肉体よりは早い。私とお前の種は特に長い時を生きるから子供の姿であっても中身は大人のように成熟し始めている。その部分がおまえに外への渇望を感じさせるのだろうが―――」
淡々とした口調で父の口から語られる話。
レナトはもどかしさを感じる。
「それが危ういのだレナト。知識は増えて大人と遜色ない会話が出来るようになると一人前になったような錯覚をする。それは何もかも分かったようでいて分かっていない。コミニュティの外への認識がまだ甘い。狩りに行く私達は捕食する側としてその場に向かう。それはそうだ。だがコミニュティの外には果てしなく世界が広がっていてそこでは私達は捕食される側に成り得るときもある。魔物や動物には負ける事はないだろう。だが、あの世界で最も危ないのは人族なのだ。最も数が多い種族だ。その扱いを間違えばたちまち我々は捕食される側になる」
ぞわりとレナトの背に悪寒が走る。
人族は我らを食べるということか?
レナトの表情から言いたい事を察した父は「そうではない」と否定した。
「では……」
言い淀むレナトに父を悩ましげに見遣る。
「捕食されるというのはものの例えだ。捕らえられ利用されることもある。人族にとって我々の湧き水のように常に吹き上がる魔力は何をしてでも欲しいものだ。最上級の警戒を怠らず常に緊張を続け疑い続けなければならない相手が人族だ。思考だけが大人になったってまだ甘いお前には無理だ。他種族の100年は成人の者も多いが、我々の種族ではまだ100年足りぬ。成人を迎えるその時までコミニュティの外へは出さない。それが古くから続くコミニュティのしきたりだ。例外はない」
強い口調で断じた父との話は終わった。
最大の警戒と緊張感、油断のならない相手?
我ら種族が無詠唱で唱える簡単な魔法だけで全滅させる事が可能な弱々しい種族が?
慎重過ぎるのではないか。
父との話を終えて、レナトは尊敬していた父に対して幻滅し苛立ちを覚える。
(もやもやする……憂さ晴らしに魔法でも撃ちにいくか……)
攻撃的な気持ちになりレナトは屋敷の外へ出る。
本邸から少し歩いた場所に訓練棟と呼ぶ場所があり、そこでレナトや兄弟たちは日々鍛錬をしている。
魔法特化の種族なので建物丸ごとに破壊した部分を即座に元どおりにする修復の魔法と、魔法が誤って外へ飛び出さない為の結界が張ってあった。
他種族の者たちの屋敷にもそれぞれその戦闘スタイルに適した訓練棟を建築している為、こういった建物はコミニュティの中では特段珍しくない。
訓練棟の入口に見知った集団を発見してレナトは内心ゲンナリした。
「あ、ソル様!」
十数人いるかと思われる集団の中で特別目立つ女の子がレナトを呼ぶ。
レナトと同じ黒髪は長く波打ち背に流れている。
愛らしい顔立ちをした緑の目の黒猫のような子だ。
その子の視線の先のレナトへと集団の全員が一斉に振り返った。
(あー、面倒)
元より表情が豊かなレナトではないが、この面々の前では無になる。
父との会話で下がっていた気分が益々下降した。
「そろそろ鍛錬に来られる時ではないかと皆で話していたのです」
「…………」
その子の会話に同調するように次から次へと有象無象が語りかけてくるがすべてを無視して素通りする。
視線すら向けることはないまま関係者以外は入ることの出来ない訓練棟の中へと入っていった。
訓練棟の中に入り特殊なローブへを羽織って着替えを済ませると、訓練場へと向かう。
レナトが訓練場へと姿を現した途端に黄色い歓声が飛び交った。
訓練場は半円形の形をしており魔法を外へと出さない強固な結界が張ってあるが、中で何をしているのか外から丸見えである。
どこの訓練場も似た形状をしているので、何らかの意図があっての設計だと思うがレナトは興味がなかった。
ただこの形状のせいで毎度のことながらうるさい悲鳴が耳障りで鬱陶しいとは思っている。
地面から静かに長方形のプレートが出現する。
高さと幅が二メートルあるプレートは魔法の的当てである。
ある程度の魔法の攻撃なら吸収して壊れる事のないプレートは、魔法に特化した種族からは鍛錬道具として人気だ。
レナトは胸の高さまで腕を上げるとまっすぐに伸ばす。
上から強い力でズズンと押し潰すような圧力がその場に満ちた。
ガラスにヒビが入るような甲高い耳障りな音が鳴ると同時にレナトの手の先から放たれた何かが高速で地面を滑り的に向かっていく。
それが滑っていった跡の周囲には寒くもないのに雪の結晶がチラチラと舞う。
ビシッと音を鳴らし的へと直撃したソレは的のすべてを覆い尽くし巨大な氷の結晶となる。
それを視認しレナトは開いたままの手を内側へとギュッと握り込む。
直後に巨大な氷の結晶にビキキッと亀裂が入り、結晶はガラガラと音を立てて的と共に崩れ落ちていった。
地面には的へと向かう氷の道が出来ていた。
的が壊れた直後に新たなプレートが出現すると、今まで地面に転がっていた氷の結晶も氷の道も消え失せる。
レナトはまた手を開いた。
突如としてたくさんの火の玉がレナトの周囲に十数個出現する。
レナトが指を的へとツイッと動かすと、すべての火の玉が一斉に的へと向かった。
激しい爆発音とともに爆風が起きて赤く溶けたプレートが空中に散らばった。
レナトの頭上へもいくつか降り注ぐが、レナトに直接当たることはない。
当たる寸前に透明な壁に阻まれるように何かに当たり滑り落ちていく。
レナトは鍛錬の際は常時自分にも強固な結界を張っているのだった。
鍛錬場の外で大きな歓声と悲鳴が飛び交っているが、レナトの耳には届いていない。
魔法の行使が始まった直後から結界のモードが戦闘モードへと切り替わり音すらも遮断している。
戦闘モードから通常モードに戻るとまた騒がしい音が聞こえるが、魔法を使っている間は煩わされないようになっていた。
「あまり上位の魔法を使うと修復が間に合わないからな……」
施設の管理者の説教を想像してブルッと震えてしまい鳥肌まで立つレナト。
上位魔法を撃ち込みたくてうずうずしてきたところだが、中位程度に済ませようと思い直した。
氷、火のあとにも違う属性の中位魔法をいくつも行使して魔力とストレスを発散するレナトであった。
✂----------補足----------
レナトという名前は本編の主人公レティシアが名付けた名前です。
この時のレナトはレティシアとは巡り会えておらず(そもそもレティシアは生まれてすらいないので)
レナトという名前で呼ばれるのには違和感があります……が!!
レナトではない名前を使用する場合ややこしくなる……という。
ソルテルカという名にします。
という訳で、家族とコミニュティーの周囲がレナトを呼ぶ場合は「ソル」と短く愛称のように呼ばせることにしました。
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