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【期間限定】web版 どうぞお続けになって下さい。のラスト3話

第65話 新しい関係。

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 季節はめぐり、もう夏。
 レティシアとレナトは侯爵邸の庭を朝涼みがてら散策中。
 日中の暑さを感じさせないこの時間帯は快適である。
 澄んだ朝の空気含んだ風がレティシアの長い髪を揺らす。
 隣で並んで歩いていたレナトが風に流れた髪の一房をそっと手に取った。
 レティシアは無言のままそのさまを眺めていた。
 その髪の先にレナトがそっと口づけるまでは。

「うええっ!!??」

 素っ頓狂な声をあげたレティシアにレナトはふはっと吹き出した。
 相変わらず甘い空気にはさせてくれないレティシア。
 レナトはずっとその先を望んできたというのに。

「レティ、そろそろボク……いや、俺のこと意識してくれた?」
「レナト?」

 レティシアがやりたかったことのすべてに協力を惜しまなかったレナト。
 傍を片時も離れることがないレナトの思いに、さすがのレティシアも気付きはじめている。
 レティシアを見つめる強い熱を孕んだ瞳も、繋がれた手を離す時の名残惜しそうな指先も。
 向けられた好意を弟のようだから家族だからだと思い続けて鈍感極まるレティシアででも、ここ一年のレナトには勘違いしようもない熱烈なアプローチを受けていた。

「意識、していると……思う。たぶん?」

 認めたらその瞬間から二人の関係がぐるりと変わる。
 往生際悪く曖昧さで付け足した「たぶん」がレティシアらしい。
 レナトは往生際の悪いレティシアを可愛く思った。

「俺の本当の家族になって。レティ」

 レナトを見上げる透き通るほど美しい瞳。
 今までも家族のように近くて親密だった。
 けれど、レナトはそんな意味で言ったことじゃない。
 レティシアはごくりと喉を鳴らした。

「奥さんになって欲しいってこと?」

「唯一無二になって欲しいってこと。俺はレティ以外ほしくない」

 溢れんばかりの愛がこめられた声色にレティの頬が赤く染まる。
 この一年でレナトは更に背が伸びて顔立ちも美少年から美青年へと変化した。
 少年と大人の間のアンバランスさが妖しさを醸して耽美的な色気を発しているのだと思われたが、生来のものだったようだ。
 背景にバラが咲き乱れるような濃厚な色気に絡め取られてレティシアは呼吸が浅くなる。心臓が壊れるか心配なほどに高鳴りはじめている。

 赤く染まり熱を放つ頬の輪郭をレナトは宝物に触れるように指の背で優しく辿った。

「レティ?」

 先ほどから無言なままのレティシアの顔を覗き込む。

「わ、わわ、わたしも! レナトがレナトだけがずっと一緒に――――」

 最後までいい終える前にレナトの長い腕が背に回されて強く引き寄せられる。
 レティシアの唇がレナトの胸にぶつかって言葉が途切れた。

「レナト!」

 ぷはっと胸から顔を上げてレナトへ抗議をこめて睨んだ。
 開いた距離を埋めるようにレナトの顔が近づき、レティシアの顔中にキスの雨が降る。

「!?」

「唇は結婚式まで待ちたい所だけど、俺の我慢が続くかどうか。もう何年もずーっと待たされて限界。もっとレティが俺のキスに慣れてから唇に、ね?」

 突然のことにレティシアは抗議も忘れて固まるレティシアの耳元でレナトが囁くように話し続ける。

 レティシアの頭は真っ白だ。
 長年の婚約者はいたが男女の触れ合いなど甘いものなど一切ない関係だった。
 前世の記憶は蘇ったが、その記憶でも婚約者がいたがそういう関係になる前に妹との浮気で破断になった。
   記憶のおかげで、ネットや雑誌等でソレ系の知識豊富にある。ただ、その行為をする対象が自分となると耐性ゼロである。

「レティ?」

 いつまでも呆然としているレティシアが心配になるレナト。
 耳も頬も瞼も鼻先もレナトが口づけを降らせた箇所すべてが鮮やかなレナトの赤に染まっていた。

「こう、いうこと、はじめて……だ、から」

 だからお手柔らかにして欲しいと伝えたかったレティシア。
 しかし、長年の恋情が成就した男の前で選ぶ言葉ではなかったかもしれない。

「はじめて!!」

 レナトはレティシアを執着を示すように強く抱き締めて快哉を上げた。

「ボクがぜんぶ初めて!?」

 喜びのあまり口調が元に戻っているレナト。
 レナトの問い掛けに強い力で拘束されたままのレティシアが何度も頷く。

「レナト苦しい!!」
「あ、ごめんレティ。嬉しすぎて……あー、あの王太子に優しくしてやりたくなってきた。今までずっといつか殺してやりたいって思ってたけど、アイツが居たからレティに異性が寄ってこなかったんだし。よし、アイツの治世には力を貸してやるか」

 ひどく物騒な発言があるが、レティシアは失った酸素を取り戻すのに忙しく聞いていない。

「レティの初めても最後もボクだけだからね。約束して」
「……結婚するなら当然じゃないの?」
「人間はね、結婚してから増やす人だっているんだよ。レティは人間だからその手の誘惑が多いかもしれないでしょう? したヤツは消すけど」
「私、レナトが唯一だって言ったよ。最後まで言わせてもらえてないけど……」

 今度は優しい力で腕の中に囲い直したレティシアにレナトは約束を迫ってきた。

「レティ、約束」

 しつこいレナトをジト目で見やれば、赤い瞳は揺れていて。

「もう、しょうがない子ねー。私にはずっとレナトだけだよ。私のすべての最初も最後も約束する!」

「ありがとう! 俺のすべての最初も最後もレティだけだよ! 魂が天に還ろうとも新たな生命として生まれようとも、ずっとレティだけだから!」

 激重が返ってきてレティシアは聞き間違えたとスルーする。
 レナトはそういう部分も愛しているので微笑みを浮かべた。
 己の重さは種族的には普通であると開き直っている。

「近々、また二人だけで旅に出よう。婚前旅行ってことで」
「……! こ、こんぜんりょこう……」

 レナトがサラッと提案すれば、レティシアは意識してどきまぎとした。

「侯爵様にも侯爵夫人にも伝えてあるからね」
「お父様にもお母様にも……」

 言われたことをただ繰り返すレティシア。
 外堀はとっくに埋められている。

「これからも二人で、結婚したら三人か四人か……いくらでも増えてもいいね」
「こっ、こども……」

 恥ずかしがって腕の中で身を捩るレティシアを愛しく思いながら、レナトは幸せいっぱいの笑い声をあげる。それに釣られてレティシアも笑う。

 婚約者にずっと浮気されていたのを我慢した日々、とうとう妹ともってショックを受けた時に前世の記憶が蘇った。

 浮気したいならすればいい。
 どうぞお続けください。と、婚約者の何もかもを突き放したセリフを言えたのはその記憶のおかげ。
 そして何もかもすべて捨てて逃げ出した。

 傷ついたレナトを保護して共に旅をして。

 逃げるだけでは終わらないと国に戻ってきて。

 王族になったとしたら取り組もうと思っていたことも、王族ではないけれど取り組むことができた。
 陛下にも王妃様にもたくさん協力してもらって達成出来た。

 レナトはずっと傍にいて手伝ってくれた。

 いつしか、弟ではしないような、もっと深くて近い距離を受け入れるようになっていた。

 好きが、愛に変わるまであっという間。
 それはずっと私の中にあって、あとはただ「気付いくだけ」だったのかもしれない。

 また二人で旅をする。
 予定は未定のようなぶらり旅。

 逃げ出した時のような定住の地を探すことはないけれど、
 それでもレナトとの楽しい旅だ。

 嬉しくなってレナトを見上げれば、レナトから瞼にキスされた。
 慣れないスキンシップにまだ固まってしまうけれど、実はちょっとうれしい。

「海が見える場所に行きたいな」
「いいね。レティが望むなら、そこが俺も行きたい場所だよ」

 願望を口にすれば全肯定。
 レナトはちょっと私を甘やかしすぎだ。
 口にするワガママに気をつけないと、とんでもない望みも下手すれば叶えてきそうである。

「そろそろ朝食かな?」

 レナトが抱き締めた腕を解いて私と手を繋ぐ。
 邸の中へと向かいながら、ずっとこんな日が続くのだと思うと、幸せな気持ちがふわふわと泡のように湧いてくる。

「レナト、ずっと一緒にいようね」
「もちろん。ずっとずーっとね」

 即答するレナトに微笑みかけると、レナトの頬にチュッとお返しのキスをした。

「えっ!!」

 唖然としたレナトを見て「お返し」と口にした私はきっと悪い顔をしているだろう。

「じゃあボクも!!」と口にしたレナトの手を離し、私は笑い声をあげながら邸へと走り出す。


 これから二人の新しい関係が始まる。
 甘くて楽しくて穏やかな関係が。




 ―――fin――――




 強引でしたが無事に完結しました!!
 ご覧くださいましたすべての皆様に感謝を!!
 ありがとうございました!!

 今日の夜に書籍化に伴い取り下げます。

 書籍化はまた違った要素や展開がありますので、
 宜しければ書籍の方もご覧くださいますと物凄く嬉しいです。

 本当にありがとうございました!!
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