愛され過ぎるのも、煩わしいのも嫌ですわ。

iBuKi

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 ――――あれから一週間後。私はいまだにベッドの住人である。

「そろそろ庭を散歩したい…きっと蔓バラもミニバラも見頃だと思うし」

 同じ室内で黙々と持ち込んだ本を読む二人を恨めし気に見遣る。

(自分たちに都合の悪い事は訊こえないフリするんだから、意地悪よねー)

 オフィーリアは小さく溜息を吐くと「無視するなら私だって無視してやるんだから」と小声で呟いた。
 やられたらやり返すと決めた。





 バカのひとつ覚えのように過保護モードで口喧しいくちやかま双子たちは、私の部屋に家庭教師から出された課題を結構な量持ち込むと机と椅子まで持ち込み当然の顔をして居座った。
 室内はとても広く、新たに机や椅子を持ち込まれても圧迫感など一切ないけれど、安らぎはなくなった。
 ほんの小さな咳でも大袈裟に捉えて騒ぎ立てる二人のせいである。

 ベッドから出して貰えないので、今は健康でも病気になってしまいそうだ。


(昔から過保護過ぎると思ってきいたけど、ここまで酷いとは思わなかった・・・)
 二人の講師が来て退室する時以外は、ずっとここに居座っているのだ。
 講師が来ない時など、朝昼晩・・・おはようからおやすみまで共にいる。

 静かな室内に本のページを捲る音だけ。


(寝るしかする事ないわ・・・)


 もうふて寝よふて寝。
 オフィーリアは拗ねてしまった。





 大国エングストランドの貴族は全て十三歳で王立学園に入学する事が義務づけられている。
 公爵から男爵まで全ての子息令嬢は入学して学園で学ばなければならず、
 病気などで通学が難しくなったり、領内の視察に当主が同行させて後継教育が本格的に始まっている者だったりすると領地運営も手伝っていたりするので仕事を既に任されていたりする場合は学園に通い勉学や交流に勤しむのは大変厳しいスケジュールになる為に通学するのが難しい者もいるのだ。
 そこで通っているという実績は付くが実際には通わないで済むという回避策は設けられている。
 そういう回避策はあるのに、ただ通えない理由も無しに通わない選択をすると厳しい罰則がある。

 学園では三年間学ぶ事が義務づけられているのだけれど、非常に優秀な人間はスキップ制度がある為その制度を利用して、入学してから半年程度で卒業とかもあったりする。

 学園も入学テストの結果によってクラスが割り振られる。
 しかし、学期末に能力テストがあり、その結果次第では次の学期ではクラス変更されたりするのだ。
 テスト結果が良ければ上のクラスへ、悪ければ下のクラスへ。
 特級クラスのSクラスを筆頭に最も低いのはEクラスまで。
 能力が一目瞭然な為、他家に侮られない為に上のクラスへ死に物狂いで勉強するしかない。

 王族や高位貴族は幼い頃から高度な教育を受けているので、スキップであっさり早い卒業を迎える。
 稀に後継やスペアではない第三王子や、大した数の公務を振り分けられていない王女達は、三年間しっかり通う事もある。
 高位貴族の嫡男以外は普通に通っているものが多い。

 王族や高位の貴族の跡継ぎ等は特に忙しいので、既に修得したレベルを学び直すのは時間の無駄で、
 親に付いて当主教育を施されたり、皇太子なら学園よりもハイレベルな講師が付くであろうし、
 交流目的であるならば定期的に開かれる王宮主催のお茶会に参加した方が有益だと判断される。

 説明が長くなったが、学園に通う事は強制だが優秀ならスキップする事も出来るという事だ。





 と、いうことで!
 双子たちが、実は既に学園の最終学年レベルの勉学内容が、九歳の年で既に後少しで修了すると話された事だ。
 これにはおねえちゃんはびっくりしました。
 うちの双子どんだけ優秀なの・・・


 スキップ以外に学園に通わずとも卒業出来る制度があって、通う学年の勉学修了証明書を提出する事で必ず授業に出て学ぶ必要はないということ。
 その終了証明書を手にするには学園に一度赴いて、その学年の特級レベルのテストを受け合格すること。
 これが・・・事情があり通学出来ない人たちに対する救済策的なやつだ。
 でも特級クラスレベルのテストって相当優秀でなければならないから救済になるかは謎である。

 そんなハイレベルのテストではあるが、領主教育だったり後継教育だったりでまともに通うのが難しい生徒達には証明書提出が推奨されてる為、頑張って受けてみる者は多い。
 ただ証明書を提出して授業は免除されても、月に1度3日間かけて行われる、全教科テストは受けないといけないらしいけど。
 そう考えるとサクッと卒業するにはスキップが一番いい! と思われたそこの貴方。
 スキップは在籍学年で一位、二位に余裕で君臨出来るレベルじゃないとさせてくれないので、あとはお察し下さい・・・



 とても優秀だと分かったけれど、弟らは双子。
 その優秀な二人が本来であれば一人で担わなけれはいけない後継としての教育だったり父のサポートだったり、
 母が担っている領主としてのノウハウは勿論、現場で管理する実務も・・・(勿論一緒に働く者たちはいるが)
 面倒なさまざま事を全て二人で分担出来るのがいい!
 同じ苦労を知るから愚痴も共感出来るし、それぞれが気付いたことの意見交換も出来る!
 双子万歳! という。
 おまけにうちの弟たちはとっても仲良し! 一緒に仕事しても不和なんて絶対なさそう。
 いやー、わが公爵家は恵まれてるなあ。

 こんな事いうと双子っていいなってなるだろう。
 だがしかし、うちの双子は違う! 貴族は身分が上に上がるに従って、当然のことだけど領地も広いし領民も多いのだ。おまけに上位貴族は国の仕事を担ったりさせられるから、うちは双子で丁度いい気がする。
 ヴァレニウス公爵家は筆頭公爵家だ。請け負わなければいけない仕事は腐るほどあるだろう。


 そいえば双子たちって五歳から後継教育がスタートしたけれど、今まで一度も弱音や愚痴を訊いた事がない。
 優秀な人間過ぎて余裕だったんだろうか・・・

 え、五歳でそんなだった?
 記憶を探るもそんな双子たち見た事なかった。

 過保護モードでは暴走したり、その時に幼い子がするような駄々をこねるけれど、厳しい教育で泣き言を訊いた事はなかったな。
 改めてうちの双子は頑張り屋なんだなと思った。(過保護以外は)


 正直この一週間、起床後に左右から蔦のように巻き付いた両腕をどかすことから朝が始まるし、
 就寝前は暑苦しいからちょっと離れてという抗議を華麗な笑顔でスルーされてイラッとしていたし、
 こいつらどんだけシスコンなの・・・と、お嫁さんに逃げられそうで将来が心配な双子だけど、
 まぁ・・・我が家の後継者としては非常に優秀でしっかりしているんだなと思う。

 ・・・おねえちゃんが行かず後家になっても養ってくださいね。



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