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しおりを挟む「「姉さん!!!!!!!!」」
バタバタと騒がしい足音が聞こえるな…と思った所で、部屋の外から大きな声が響いた。
扉が開くより前に大きな声で呼ばれるってフライングが激しいな。
気持ちが前倒し前倒しって感じのせっかちなところが彼等らしいなと思った。
声が聞こえて即扉を侍女が開ける。
幾度か経験があるかのようで慌てる事なく手慣れた姿を見て、さすがお母様専属だなと思った。
開かれた扉の前、肩で息をしながら汗だくの様子の双子の弟たち。
お父様同様走ってきたのだろうか、頬が真っ赤に染まっている。
その姿にお母様の鼻に不快を示す皴が寄った。
その表情を見た双子はビクッと体を震わせた。
お母様は基本的に優しいが礼儀には厳しい。
「貴方たち・・・そんな汗くさい姿で病み上がりの姉の部屋を訪れる人が居ますか、講師の先生をそのままに全て投げ出して来たのではありませんよね?」
迫力ある美女が極上の微笑みを息子たちに向けているが、間違いなく目が笑っていない。
「あー、二人も死にそうな程心配していたんだろう? その必死な気持ちは汲んであげようじゃないか。なぁ?」
固まる双子たちへの助け舟をお父様が寄越す。
お父様だって慌ただしく駆けてきたんだものね、二人の事を責められない。
「・・・仕方ありませんね。今回だけですよ。講師の方には後からお母様が謝罪しておきます。さぁ入ってもいいですよ」
ジロリと厳しい眼差しをお父様に注いだ後、やれやれと大きなため息を吐き出した。
許可を得た二人の顔がパっと明るくなった。
お父様も「貸し一個な?」と二人に口パクしてるのが見えた。
(お母様もばっちり見てますけど、大丈夫ですかお父様・・・)
私は庇いませんからね。
嬉しそうな笑顔を振りまき私の所へと近づく二人。
こうやって並んだ姿を見ると、二人は一卵性では無く二卵性かもしれない。
この世界にそういう区別があればだけど。
セインは私と同じようにお父様のような純金の金髪でお母様のルビーレッドのような紅い瞳。カインはその色を逆にした燃えるように輝く紅い髪に煌めく金色の瞳だ。
丁度お母様とお父様を半分ずつ貰った特徴を持っている。
けれど顔立ちはハッキリと分かれてしまったらしい。
セインがお母様似で女神顔、カインはお父様似て大天使様系だ。
どちらも麗しい双子で将来が楽しみなのは間違いない。
私が長女で十歳。弟達は私のひとつ下の九歳。
年子ってヤツだね。
弟ではあるけどたったひとつしか年の差がないせいか、三つ子のような気持ちだったりする。
三つ子のように過ごしているせいか、連帯感的なのは他家の姉弟の人達よりもかなり強い気がする。
ずっと一緒に何もかもしていたからね。
男の子がする体力を使う遊びも、女の子がする人形遊びも、いつも一緒だった。
混ざった記憶からも、姉として接しているというよりも、同年齢相手のような態度だった。
双子たちは一歳にも満たないうちから私に対するシスコンを爆発させていて、同じ室内に居ればおとなしく寝ているのに、室内から去ると激しく泣いて「戻ってこい」アピールをしていたと思う。
何事も執着し過ぎるというのはよくないし、お風呂も一緒トイレにも着いて来るというのはちょっとおかしいとやっと気付いた六歳の私は、何度か男女区別の距離を取ろうとして色々と失敗している。
上手い距離の取り方が出来ないのは私が幼い年齢だというだけではなかった。
そもそもお父様とお母様が、双子には基本的にしたい様にさせているせいだ。
勿論、厳しい礼儀作法、貴族として学ぶべき教養や多岐にわたる学問各種、それに加え次代を担う領主教育や帝王学的なものは小さいうちから行われている。
そこら辺に関しては一切の妥協無くしたいようにする事は許されていなかった。
そう。双子にやりたい放題させているのは私に関してだけである。
私の両サイドに座ってサンドイッチ状態の私たちを見て、
「あらあら、仲良しさんなのね」と嬉しそうに見つめるお母様。
「いいないいな!父様も一緒に皆と遊びたい!」ご自分の年を考えなさいなお父様。親の二人がこんな感じなものだから、双子はスクスクと私への執着を深めて行き今では何処に出しても恥ずかしいシスコンになってしまった。
ユルユルのユッルユルなのだ両親のせいだ。
・・・それに、何だかんだと双子に甘い私も悪いのだろう。
女神と大天使に冷たく出来る人間が居たら連れて来て欲しい。
そんなヤツはいない、きっと。
それから数年の時が経ち、十歳の今。
お風呂は一緒に入る事は無いし(当然のこと)、トイレに一緒に付いて来ようとする事はなくなった。
しかし、その代わりと言っては何だけれど、毎日一緒に寝ている。
大きなベッドに三人川の字のなって就寝しているのだ。
他は我慢するからこれだけは絶対にやめないと死守された。
姉弟でお茶会に参加すれば、私の両サイドにいつまでもべったりと貼り付く。
男女関係なく威嚇や脅しをするのは今や日常茶飯事。
そんなシスコン双子に男友達が奇跡的に数人はいる。
けれど、女友達は一人も出来ていない。
そりゃそうだよね・・・見目や地位が良くても幼い彼女達にはシスコンの方がギルティなのだ。
私はというと、男女ともに友人はいない。
面倒くさい双子を抜きに接触できる事はほぼないからだろう。
・・・世知辛い世の中です。
そりゃそうだよね。
双子を両脇に携えた私との会話なんて、顔見知り程度の会話しか弾まない。
もう少し時が経てば、地位と見目に魅かれた友人が出来そうだけど、そういう取り巻きのような友人なら要らないとも思ったりするのだ。
三人とも婚約者でも出来れば関係性は変わるんだろうか・・・変わらない気がする。
お父様は腕の中から私を開放した後、重みを感じないような軽々とした動きで私を抱っこしてソファまで連れてってくれた。
そっとソファに私を下ろすとすぐふかふかのクッションをベッドの背もたれに置いて、そこへそっと身体をもたせかけてくれる。
「お父様有難う」とお礼を言った。
「どういたしまして」と言いながら神々しい大天使スマイルを浮かべたお父様。
当然のようにセインとカインが両隣に陣取ってきた。
双方から体当たり宜しく抱きついて、お父様の再来の様にギューギューと抱きしめてくる。
九歳とは思えない力の強さで、また三途の川が見えた気がしないでもない。
「く、くるし・・・」
私の絞りだすような声にハッとした二人。
即座に力を抜いてくれた。
(危なかったぁ・・・)
ハフハフと酸素を吸う私。
その様を両隣からジッと見つめてくる。
すると天使の様な容貌の双子がポロポロと涙を零し始めた。
縋りつくように私に抱きつく様子は、引き絞られる程に胸が痛くなる光景だ。
「ねえ様・・・、今日からまたカインと一緒に3人で寝ましょう?」
セインがお母様譲りのルビーの瞳を涙で潤ませながら懇願してくる。
私・・・この顔にヤバイくらい弱かったのよね。
両親も縋りつく双子を見ても何も言ってこない。
その様子に、私は心の中で盛大なため息を漏らした。
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