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しおりを挟む緑豊かな大国エングストランド王国において、建国から続く歴史あるヴァレニウス公爵家。
大きな権力も豊かな資産も併せ持つ公爵家は、当然の事ながら筆頭公爵家を任されおり、その地位は揺るぎない。
過去幾度か王女を娶った事もあり、王族の血も混じっている。
先々代の当主が王女を娶った事もあり、血を薄める為に先代と今代は王族の血は入れない事としている。
次代をどうするか…であるが、今代の当主自身が政略の為の婚約にあまり乗り気でない為、王族と縁付く事は無さそうだ。
代々宰相職を務めるヴァレニウス公爵家、今代の当主も現宰相だ。
地位も権力も備えている為、これ以上を欲してないと語っているそうだ。
「お断りを。それに我が家が今代でまた王族と縁づくと、他家が黙っていないのではないですかな?」
「我が家もこの国の長い歴史の分ずっと身を粉にして宰相職を務めて参りましたが・・・
他家にも優秀な人材はおりますしね・・・寄る年波には勝てないのでしょうね、そろそろ引退の文字が頭を過ることも、あるかもしれません」
と不敵な微笑みを浮かべ王を権勢したという。
まだ三十代になったばかりの男盛りの年齢のヴァレニウス公爵が・・・? 絶対わざと言っている。
そこでひとつ信憑性の高い噂がある。
宰相である公爵が王を牽制したのは、第一王子の婚約者に公爵の娘をと望まれたからではないかと。
第一王女であれば「検討します」と言ったのではないかと言われていた。
ヴァレニウス公爵家の掌中の珠、宰相の最愛の娘を望んだ為に王は優秀な宰相の虎の尾を踏んだのではないか?と。
そんなヴァレニウス公爵の最愛の娘、長女オフィーリア・ヴァレニウス公爵令嬢。
とんでもない美貌を持つ美しい娘だそう。
まだ幼い幼女であるこの年齢から釣書が届くそうで、公爵が額に青筋を立てて私室の暖炉の火にくべているとかなんとか。
(事実は丁重なお断りの文を添えて手紙も何もかも根こそぎ全て送り返している。)
このお話は、父親を筆頭に周囲から愛され過ぎる令嬢の物語―――――
新しい朝が来た。
ほんの小さな虫にも、食物連鎖頂点の人間にも平等に朝はくる。
ヴァレニウス公爵家にも朝が――――
豪奢な天蓋付きベッドで健やかな寝息をたて眠るは、極上の美少女。
眩しい朝の光にも負けない輝きを放つ純金の様な黄金の髪は豊かに波打ちシーツに広がる。
髪と同色の長く濃い睫毛は整った形の添い彩る。
滑らかな白磁の様な肌が完璧な美を誇る人形のようであるが、それを否定するように色づき生気を宿すのは、薔薇色の頬と、その花びらを落としたような柔らかそうな紅い唇。
どこを切り取っても素晴らしく美しい容貌である。
娘を天使の生まれ変わりだと本気で信じてそうな娘バカが執着するのも同意せざるを得ない美貌がそこにある。
そんな幼い少女の瞼が震え、パチリとその瞳が開く。
髪と同じ鮮やかな黄金色の瞳を何度も瞬きする。
肌ざわりのいいシーツの上で大きな伸びをすると――――
「んーーーー。今日もいい朝ですわ・・・」
独り言を口にして、少女は驚いたように瞳を見開くとビシリと固まった。
―――ですわ・・・? 何この話し方・・・どっかのお嬢様みたいな・・・私の口から出たの?
「あーーーーー」
もう一度声を出す。
幼い声、砂糖菓子のような甘く高めの声は…絶対私の声じゃない。
どくどくと早まり始めた鼓動を抑えつけるように手で押した。
(夢? 夢の中で目覚めるというよく分かんない状態なの・・・?)
まさか・・・? いやでもそれは・・・疑問と否定を繰り返す。
疑問と否定のネタも尽きたころ、ようやくハッとして、慌てて起き上がり周りを見渡した。
(ここどこ・・・・・)
全く見覚えの無い部屋。
テレビで見たことはあるが日常の中で滞在するようなレベルの部屋ではない。
こんな部屋は外国旅番組などで紹介されるような代物だ。
ヨーロッパのお貴族様が代々受け継いで来ましたと紹介される城の一室の様な部屋だ。
何調・・っていうんだっけロココ調?
私の乏しい知識ではそれすらも適当だ。
それくらい身近にない雰囲気の室内だった。
でもさ、そもそも―――
「あれ・・・私何故ココに・・・?」
である。
寝る前の記憶を探ろうとして、突如激しい吐き気と目眩に襲われた。
身体を起こしている事も辛く、そろそろ体を横たえた。
吐き気を堪えていると、今度はまともに思考を保てない程の勢いで、数々の記憶で頭の中が満たされたのだ。
脳内をぐっちゃぐっちゃとかき混ぜられているような、ぐるぐるとした感覚。
「ふぅっっ・・・うぅ・・・きもちわるぃ・・・」
激しい吐き気は治まることなくますます酷くなる。
ベッドでは絶対に吐きたくない・・・けど、どこにお手洗いがあるかも分からない・・・
記憶が満たされると共にお手洗いの場所が分かったけれど、身体を起こせる力もない。
口を両手で抑え体を丸めた。
助けて・・・誰か・・・・
そして、私は意識を失った。
――――そんな究極の具合いの悪さから四日後経過。
あれだけ酷かった体調など一切感じず私はケロッと目を覚ました。
倒れる前のあの記憶の本流が落ち着いている。
あの時はもうひとつの記憶、所謂前世の記憶というモノだろうが、それだけが頭を占め、ただただ混乱するだけだった。
今は、前世と現世の記憶が融合して、頭の中で整頓された様だ。
前世の自分もちゃんと覚えているが、現世の自分の身分や教育など諸々もしっかりと頭の中にある。
眠った事で頭の中の記憶がいい感じに混ざったような、うまく共存してくれたようだ。
記憶が融合した事であの混乱が解消されたのはいいけれど・・・
いろいろ大変な環境だという事も思い出したのだった。
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