私、諦めが悪いんですの。

iBuKi

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02話

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メイド達はアリアの事を、見た目通りの御令嬢だと思っている事だろう。

類まれなる美貌を持つ可憐な御令嬢。
第一王子に邪険に扱われ、幾度約束が破られようとも、ジッと黙って耐えて待つ姿は同情を誘う。
いつかアルフィアス王子が悪い夢から目が醒めて、未だ耐え忍ぶアリアとの真の愛に目覚め、やがて溺愛してくるとんでもストーリーを語るメイドも居た。
恋愛小説の読みすぎである。
このまま婚姻しても、ほったらかしにされる未来しか描けない。


100回まで待てたのは、アリアが第一王子を慕っているからではない。
ただの意地と惰性である。何においてもアリアは諦めが悪かった。
しかし20回目までは第一王子を思って待っていたし、来なければ(悔しくて)涙を零した。
1人で待つ回数が増えていくにつれて意地と惰性になっていたのだ。

約束を反故にされ続けるうち、自分でも分からないが意地になっていた。
30回40回では根性無しと言われる気がして止めたくなかったのだ。
何に勝負してるか分からないが、負けたくないと思った。


アリアは黙って我慢する性質ではない。
だから何も告げずに突然こんな仕打ちをされた事にも腹が立っている。
第一王子に会って庇護欲唆る態度で詰める気満々だった。
結局、お茶会などでエスコートする以外の接触はなかったので、詰める事も出来なかった。


やがて父が現状を知りブチギレて婚約解消すると屋敷を飛び出そうとしたので、慌てて引き留める。
その時の話し合いで、キリよく100回待ったら解消に同意すると決まったのだ。
時間の無駄だと喚く父を宥め、何とか100回までは待つ事が許された。
どっちみち一度来てくれたとしても、アリアの中では婚約は解消するつもりだった。
何も告げずに突然こんなことしてくる相手なんて、ハッキリ言って信用出来ない。
そんな勝手な所は、とても嫌な男だと思っている。
第一王子だからって人を舐めるのも大概にしろと言いたい。
公爵家といえど相手は王家で次期王太子だ。余計な事は言えないし、不敬だから言わないけど。



アリア本人以外は誰も理解していないだろうが、アリアからの愛などとっくの昔に消えている。
淡い思いを育てるどころか霧散させようとしてくる相手をいつまでも思う程アリアは被虐趣味はない。
愛というのは勝手に燃え上がったりはしないのだ。
ちゃんと餌と水を与えなければ、萎びれるに決まっている。

アルフィアス王子は餌と水どころか何もしてこないので、愛などとうの昔に萎びれている。
ドライフラワーのようになった愛を時々眺めて、生花の時はもっと鮮やかで綺麗だったわねと記憶の中だけにある昔の姿を懐かしむ程度だ。

そんな日々を経て、やっと迎えた今日。
無事? に100回目を迎えて、憑き物のが落ちた気分なのだ。
むしろ100回も待てた自分に最大の賛辞を送りたい。
今日で記録はストップするが、栄誉ある撤退である。
思い残す事はアルフィアス王子に嫌味のひとつも言ってやりたかった程度であるが、
過去ならともかく現在のアルフィアス王子をエスコート以外で知らないし、何があるか分からないので諦めた。

王族は華麗な笑みの裏側で非情な決断を下せるよう育てられる。
アルフィアスもその王族だ。それも次期王太子。
不満はそっと飲み込み去るのが1番だ。
向こうも私の限界チャレンジを知らないから、100回も休む事なく登城し約束の場所で待っていた私に対して気持ち悪いくらいは思ってるかもしれない。

――お互い関わらないのが1番ね。




王太子妃教育も7割程を修得した事で、王宮へ登城する頻度は減っていた。
週に一度お会いする日で第一王子にお会いする事が出来ていたのはいつだったか。


「ねぇアラン叔父様。殿下に約束を破られたのは今日で100回目…。お父様と約束した回数になってしまったわ…。
非常に腹ただしいけれど…王子を詰めるのは諦めるわ。」

公爵家の馬車に乗り屋敷へと帰るアリアは、目の前に座る護衛騎士のアランに話しかける。
元近衛騎士団副団長を勤め上げたアランは、アリアより二十歳年上でもう1人の父のような存在だった。


実際、公爵家当主の父と幼馴染で無二の親友である。
そして、アリアの母の実の兄でもある。


侯爵家次男だったアランが、怪我で近衛騎士団を去らねばならなくなった時、過保護な父が拝み倒してアリアの筆頭護衛騎士をお願いしたのだ。

アリアが第一王子の婚約者となった為、身辺警護とはいえ信用のおける護衛が喉から手が出る程欲しかった父にとってアランは誰よりも適任だった。
アランは侯爵家が所持するいくつかの爵位の内、伯爵を受け継いで居たので、この機会に領地でゆっくりと領主業をするつもりだったらしい。
近衛騎士団副団長の仕事は忙しくやり甲斐があった為、幸いか不幸か嫁も取らず職務に邁進していたアランは独り身だ。
子も居ないアランにとって、親友の娘であるアリアは本当の娘のように可愛がっていた。
週に一度の約束を破り続ける第一王子に対して激しい怒りを感じている1人である。


「アリア、もうこれで分かっただろう。彼はお前に相応しくない。素晴らしいアリアには、アリアをとても愛している伴侶が相応しい。
100回も約束を破られたんだ。アリアを愛しているならこんな仕打ちなど出来はしない。」

未だ第一王子への思慕を捨てられないアリアに言い聞かせるように話す。

「それは分かっていましてよ。叔父様。何もかも今更ですから未練もありませんわ。」


アリアは叔父の欲目を抜きにしても、大変素晴らしい令嬢だった。
類まれな美貌を持ちながら、それに驕る事ひとつなく足りぬ教養と知識を貪欲に求め、常に努力をし続ける芯のある子だった。
公爵令嬢という身分を笠に着ることない、素直で可愛い子だ。
そんな至宝の宝のような存在のアリアを、その価値に気づく事なく蔑ろにする第一王子など捨ててやればいいのだ。
見る目の無い王子は、同じ様に見る目のない令嬢を妃に迎えるのが纏まりがいいではないか。
そう考えると少し気分が良くなる。

目を伏せ髪と同色の長い睫毛が影を落とすアリアを見つめながら、少し痩せたか? とアランは心配する。
勿論痩せてなどいない。最近は肩がコリ易く、体も重く感じているアリアだ。


痩せた姪を痛ましく思いで見つめ、こんな扱いはもう終わる事だと煮えたぎる程の怒りを無理矢理堪えるのだった。
ちなみにアリアは叔父がとんでもない誤解をしている事を分かっていない。

アリアの言葉をしっかりと訊いていれば、アリアが王子に対して思慕など無い事が分かっただろうに。
暴走気味な所は、親友なだけあって父親と良く似ている。
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