竜王の娘は父の隣でのんびり暮らしたい~竜族の男達は病み(闇)属性持ち~

iBuKi

文字の大きさ
上 下
12 / 12
異世界転生したら竜族の姫になっていた。

アラクシエルの懸念。

しおりを挟む
「面倒な事になりそうだな……」

 アラクシエルは呟く。

 イオと過ごした間に溜まった決裁待ち書類を淡々と捌いていく。
 先程マナメールを聖竜族の長に送った所だった。
 国として送るのは大事になりそうな為、個人的にマナメールとして送った。

 マナメールとは魔力が生物の形を取り送り主が伝えたい内容を声や手紙にして送る魔法である。
 個人によって魔力の質などが違う為、全く同じ形にはならない。
 一目で誰からのマナメールか特定しやすいが、送り主が指定した者以外に見れないようにする事も出来るので、使い勝手の良さからかなり普及している魔法だ。


 簡潔に“聖竜族の子竜を城で保護している。連絡を待つ”とだけ送った。

「返答次第ではこちらで保護する事も考えねばな」

 子は宝。
 親の身分が高い場合、両親共に役目があり常に側に居る事は叶わない。
 それ故、信頼できる養育係と護衛が何人も付けられた生活をする。
 元々竜族は他種族が呆れる程に過保護だが、聖竜族はその中でも特にその傾向が強かった筈。
 御つきの者すら居ないのは不可解。
 何らかのトラブルで引き離されたのだとしたら、今頃は聖竜一族総出で大捜索が行われている上に、竜王である私の方へも連絡が来てなければおかしい。
 静かすぎる今の現状は、違和感どころの話ではない。

「―――イオがとても気にかけてる様子だしな…迎えに来た長に押し付けて解決とはならないだろうな」

 イオは心優しく素直な愛らしい子だから。
 子竜が本当に幸せになると思わない限り手を離さない気がした。







「んん…くすぐったい」

 鼻の頭、頬、瞼、に次々と柔らかくてちょっとザラっとして温かい何かの感触。

「キュッ!」

「もう少し寝かせて…」
 眠たくて仕方ない璃音はシーツを引き上げ顔を隠す。

「キューッ!キュキュ!」

 シーツが引き剥がされ、責めるような鳴き声。

 重たい瞼を何とか少しだけ開けると、目の前には子竜が。
「あ……子竜ちゃん」

 そうだった!
 昨日、迷子の子竜ちゃんを保護して私の部屋で一緒に寝たんだった。

「キュゥゥン、キュー、キュキュ」

「えーっと、お腹が、ペコペコ?」

 子竜が璃音の顔の前でお腹をさすってジェスチャーをしている。
 何となくそんな感じに見えたジェスチャーのままに口にした璃音。

「キュッ!」
 それに同意するように鳴き、上下にこくこくと振る子竜。

 璃音は子竜のその愛くるしさに目がパッチリと冴えてしまう。
 お腹が空いてるなら可哀想だと寝るのをすぐに止めて上半身を起こす。
 そのまま子竜の脇に手を回してひょいっと抱っこした。

「子竜ちゃんが好きなのは何かなー? すぐに朝ご飯に行こうね」

 ベッド横テーブルに置いてある、花の形を模った魔道具を手に持ち、真ん中にあるボタンを押した。

 使用人を呼ぶ時に押して知らせる便利な魔道具である。

 それからしばらくしてノックの音がする。

「姫様、入室の許可を頂いてもいいですか?」
 と、外から声がした。

「どうぞー」と応える璃音。

 現れたのは昨日の庭で子竜を見たメイドだったので、璃音はホッとした。
 子竜を色んな人に見られるのはあまり良くないと思ったから。

「お腹が空いたから朝食を食べたいの。準備をお願いしてもいいかな?」
 子竜にチラチラと視線をやりつつ璃音がメイドにお願いする。

「子竜様の分もご用意いたしますね」
 璃音の視線の先を見たメイドがふふっと少し笑った。

「ありがとう!」
 璃音がパァっと花が咲くような笑顔でお礼をいった。

 王女だというのに気さくな態度の璃音は、まだそんなに接する時間が長い訳でもないが使用人達から好かれていた。
 本当はもっと王女然とした態度でなければならないのだが、竜王自身が今はまだ幼いイオの好きなようにさせるようにとのお達しがあり、教育係も注意する事はなかった。
 もう少し成長したらしっかり教育されるのかもしれないが、今は真綿に包むように大切にされつつ、のびのびと過ごさせて貰っていた。


「子竜様とご一緒にとられるだろうとのことで、陛下からは部屋にお食事をお運びするようにと言われていますので、お支度後、こちらにお持ちしますね」

「うん、わかった」
「キュッ!」

 子竜も言葉をしっかり理解しているようで、小気味よい返事をしている。

 そして、璃音に抱っこされた子竜は仲良く寝室を出ると支度部屋へと移動したのだった。
しおりを挟む

この作品は感想を受け付けておりません。

あなたにおすすめの小説

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

【完結】竜人が番と出会ったのに、誰も幸せにならなかった

凛蓮月
恋愛
【感想をお寄せ頂きありがとうございました(*^^*)】  竜人のスオウと、酒場の看板娘のリーゼは仲睦まじい恋人同士だった。  竜人には一生かけて出会えるか分からないとされる番がいるが、二人は番では無かった。  だがそんな事関係無いくらいに誰から見ても愛し合う二人だったのだ。 ──ある日、スオウに番が現れるまでは。 全8話。 ※他サイトで同時公開しています。 ※カクヨム版より若干加筆修正し、ラストを変更しています。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

だってお義姉様が

砂月ちゃん
恋愛
『だってお義姉様が…… 』『いつもお屋敷でお義姉様にいじめられているの!』と言って、高位貴族令息達に助けを求めて来た可憐な伯爵令嬢。 ところが正義感あふれる彼らが、その意地悪な義姉に会いに行ってみると…… 他サイトでも掲載中。

失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた

しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。 すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。 早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。 この案に王太子の返事は?   王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。

今夜で忘れる。

豆狸
恋愛
「……今夜で忘れます」 そう言って、私はジョアキン殿下を見つめました。 黄金の髪に緑色の瞳、鼻筋の通った端正な顔を持つ、我がソアレス王国の第二王子。大陸最大の図書館がそびえる学術都市として名高いソアレスの王都にある大学を卒業するまでは、侯爵令嬢の私の婚約者だった方です。 今はお互いに別の方と婚約しています。 「忘れると誓います。ですから、幼いころからの想いに決着をつけるため、どうか私にジョアキン殿下との一夜をくださいませ」 なろう様でも公開中です。

処理中です...