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第一章 理想の生き方
第三話 小さな変化
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十剣。
それは、ここサリア王国を含む四国において神器に選ばれた十人の騎士達の総称。
天臨の耳飾り、影落の指輪、大地の腕輪などと呼ばれるそれ等は神器と呼ばれる装飾品として四ヵ国に10個程存在している。
その中で俺の選ばれたの神器は、炎刻の腕輪と呼ばれるもの。
名前の言葉通り炎の力を秘めているソレは、神器の中でも極めて上位の存在であると昔から言い伝えられていた。
かつてサリア王国が混沌の時代を送っていた頃、帝国との争いが絶えなかった頃にサリアの窮地を救った伝説の女王、リースハイル・ラグド・サリア。
そんな彼女に仕え生涯支え続けたという、十剣の中でも歴代最強と称された、ハイド・アルクスという男が使っていたという逸話がある。
今の時代にもその活躍は語り継がれている程であり、俺自身も彼に憧れを抱いた一人でもある。
しかし、かの腕輪に選ばれた俺に付けられた異名は、無能の騎士。
炎の力に選ばれながらも、炎を扱えないという無能の存在なのだから………。
⚫
帝歴403年 7月9日 午後十時半頃
その後、俺はしばらく一人で考え込んでいた。
姉さんとの一件から時間が幾らかの時間が過ぎようとも、自分の迷いや憤りの禍根が今も残り続ける。
晴れない想いが残り続けるなかで、ようやく俺の毛布の上で寝ていた妖精のリンが目を覚ました。
「あれ……シラフ?
目、覚めたんだね」
眠そうな自分の目をこすりながら、羽をパタパタと動かし体を伸ばしながらも呑気に彼女は話掛けて来た。
「ああ……、少し前にな」
俺の素っ気ない態度に、リンは羽を広げ俺の右肩の上に座った。
俺の返答で何かを察したのか軽くあくびをすると、視線をこちらに向け口を開いた。
「また、シファ姉を困らせたの……?」
まるで、先程のやり取りを見ていかのような言い方だ。
思わず動揺したが、それを隠すように何食わぬ事を装い返答を返す。
「お前には関係ないだろ……」
軽く俺を見るなり、リンは視線を下ろし諭すように呟いた。
「まあそうだけどさ……。
でも、心配掛けないようにしたらどうなの……?
何気に、一番心配しているのは私なんかよりもシファ姉なんだからさ……。
色々責任感じてるよ、きっと………」
リンの言葉は俺も充分に理解している事だ。
それに対し否定は出来ない。
「そうだな……」
それから彼女は少し間を置くと、足をぱたぱたとさせながらゆっくりと話を続けた。
「私達、変わって無いよね……あの時からさ」
「そうか?
俺はだいぶ変わったと思うが……」
そう、ここに来てから俺はかなり背も伸びたし力もついてる。
リンは、昔からこんな姿だったような気がするが彼女も昔よりは大分変わっているように思えた……。
「こうして毎日さ……、他愛ない会話を交わしていられる。
少し変わったのは、その中にシファ姉が加わって、最近はアノラさんが増えたって事くらいだし」
「確かに……。
思えば、お前とは一番長い付き合いなんだよな。
姉さんですら俺達とは少し距離を取っているくらいなのにさ」
「そうだね、でもシファ姉はいい人だと思うよ。
以前の荒れていたシラフを、変えてくれた人だし。
まだ謎が多い人だけど、私達の事を本当の家族として迎え入れてくれたから……」
荒れていた……。
それは確かにそうだった。
両親を失って自暴自棄になっていた俺を一身に受け止めてくれたのが姉さんその人なのだから。
「そうだな」
「シラフはこれから先、どうしたいの?」
どうしたいと言われて俺はすぐに答えた。
「十剣に選ばれた使命を果たせるようになる事だ。
それに、騎士としての役割もあるだろう。
それに学院には、ルーシャがいる。
こちらにいた頃と違って第2王女としての自覚を持ち、その務めを立派に果たしていると陛下からは多少聞いてるが……」
「十剣としての使命、それにルーシャの騎士ねぇ
あの王女、私少し苦手だなぁ。
昔からすぐ手を出すじゃん、あの子……」
リンは小さくため息をつくと、俺の頭の上にちょこんと座り優しく髪を撫でてくる。
「もう少し年相応には、甘えてもいいんじゃない?
正直、今のシラフは色々と詰め過ぎだと思うよ。
もう少し気楽に行こうよ、今の時期くらいじゃないと出来ない事は沢山あるんだからさ」
「甘えるって、俺はもう十六だろ。
もうすぐ大人と変わらないのに甘えてなんていられない。
それに俺は未熟でも十剣の一人だ。
そしてこの国の王女である、ルーシャに仕える騎士でもある。
その立場が変わらないし、その役目から逃げる事は出来ないだろ」
「だから、そうゆう所だよ。
無理して大人の真似をしなくても、シラフはまだ未熟で子供なんだぁえ。
もう少し周りを頼るとかしたらどうかな?って事だよ。
その内無茶し過ぎて色々と痛い目に遭うよ」
無理して大人の真似をする。
確かにそうかもしれないと思って視線が下を向く。
するとリンは、俺の頭上飛ぶと再び俺の髪を撫で始めた。
「私はさ、シラフが無理し過ぎていなくなるのは嫌だよ。
そしたらさ、もう私一人なんだよ。
私は嫌だからね、一人だけ残されるなんて事は」
リンが何を伝えたいのか、俺は理解している。
リンは昔に仲間から捨てられ、飢えていた所を俺が助けたのだ。
それから俺の両親達と家族のように暮らしていた。
しかし、火災の時に俺とリンの二人だけが生き残ってしまった。
それ以降、俺とリンは何があっても常に一緒であり唯一の肉親のような掛け替えのない存在でもある。
最近は時の流れもあって別行動の機会が多いが、リンはあの時みたいな事が起こって欲しく無い……。
だがそれは勿論、俺も同じ想いである。
「分かったよ。
それに、こうして俺を心配して姉さんと看病してくれたんだろ?お前は」
「そうだった………かな……?」
「まぁ、ぐっすりと熟睡してたくらいだからな」
「熟睡は余計!」
「あはは、確かに…でも、まぁありがとうな。
それなりに、心配してくれて」
俺がそう言うと照れたのかリンは俺にそっぽを向き俯いて返事を返した。
「そういう言葉はもっと相手を選んだらどうなのかな、もう。
全く、これだからシラフは駄目なんだよ」
リンは俺の頭から飛び去ると、目の前で止まる。
「明日から学院に向かうんだったよね?
色々な人達と出会えば、いずれ私の言葉がシラフ自身で分かる時が来ると思うよ。
シファ姉の言葉もきっと伝わるだろうから」
「そうだと、いいな」
「それじゃあ、おやすみなさい、シラフ」
リンは扉の前で止まり、開けようと必死で足掻くが開かない。
まあ、あの小さな体では無理があるか……。
それを見て仕方ないと思いながら俺は代わりに扉を開けてやった。
「無理はするな、だろ」
「そうだね、それじゃあ改めておやすみ。
体はちゃんと洗ってから寝てよ」
「はいはい、分かりました。
じゃあおやすみ、リン」
リンが飛び去るのを見送ると、俺は扉の前に立っていたアノラに気付いた。
俺と鉢合わせ僅かに驚きの表情を浮かべていた彼女の手には、細長い布に包まれた荷物を抱えていた。
「シラフ様、お目覚めになりましたか。
その、入浴の準備は用意出来ております。
入った後は栓を抜いて置いて下されば、朝方には私が掃除をしておきます。
それと、昼と夜共に何も食べていないでしょうから軽食の作り置きもご用意しておきますので必要でありましたら、いつでも私をお呼び下さい。
それと、これが今朝の物です」
「了解した。
わざわざありがとう、アノラさん。
中身は見ましたか?」
「いえ、私は何も。
しかし、国王陛下からの貴重な贈り物ですので大事になさって下さい。
私は一度失礼させて頂きますね……。
では、ごゆっくりと」
俺に軽く会釈をすると彼女は去って行った。
一人残された俺は部屋の中へ一度戻り、彼女から渡されたその包みを確認する。
青を基調とした持ち手が見えるとそれをしっかりと握り、ゆっくりと引き抜く。
研ぎ澄まされた華奢な一振りの剣の刃が姿を覗かせ、圧倒的な存在感を放っている。
いつも使う剣と寸法は変わらないが、それでもこの剣は他のモノとは明らかに一線を越えた至宝の一品であるというのが手に取るだけで理解できた。
一種の神々しさえ漂わせる一振りに対して思わず見惚れる程である。
部屋に差し込む月の明かりが、美しく造形された刃を更に輝きを増して照らし出してくる。
「これだけの名剣を……陛下が俺に」
剣の鞘となる部分には、この剣の銘が刻まれている。
シュヴァリエ・ブラン、恐らく白騎士という意味合いの名前だろう。
剣を鞘にしまい、静かに祈りを捧げる。
この剣に見合う立派な騎士になれるようにと……、
俺は心に誓った。
それは、ここサリア王国を含む四国において神器に選ばれた十人の騎士達の総称。
天臨の耳飾り、影落の指輪、大地の腕輪などと呼ばれるそれ等は神器と呼ばれる装飾品として四ヵ国に10個程存在している。
その中で俺の選ばれたの神器は、炎刻の腕輪と呼ばれるもの。
名前の言葉通り炎の力を秘めているソレは、神器の中でも極めて上位の存在であると昔から言い伝えられていた。
かつてサリア王国が混沌の時代を送っていた頃、帝国との争いが絶えなかった頃にサリアの窮地を救った伝説の女王、リースハイル・ラグド・サリア。
そんな彼女に仕え生涯支え続けたという、十剣の中でも歴代最強と称された、ハイド・アルクスという男が使っていたという逸話がある。
今の時代にもその活躍は語り継がれている程であり、俺自身も彼に憧れを抱いた一人でもある。
しかし、かの腕輪に選ばれた俺に付けられた異名は、無能の騎士。
炎の力に選ばれながらも、炎を扱えないという無能の存在なのだから………。
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帝歴403年 7月9日 午後十時半頃
その後、俺はしばらく一人で考え込んでいた。
姉さんとの一件から時間が幾らかの時間が過ぎようとも、自分の迷いや憤りの禍根が今も残り続ける。
晴れない想いが残り続けるなかで、ようやく俺の毛布の上で寝ていた妖精のリンが目を覚ました。
「あれ……シラフ?
目、覚めたんだね」
眠そうな自分の目をこすりながら、羽をパタパタと動かし体を伸ばしながらも呑気に彼女は話掛けて来た。
「ああ……、少し前にな」
俺の素っ気ない態度に、リンは羽を広げ俺の右肩の上に座った。
俺の返答で何かを察したのか軽くあくびをすると、視線をこちらに向け口を開いた。
「また、シファ姉を困らせたの……?」
まるで、先程のやり取りを見ていかのような言い方だ。
思わず動揺したが、それを隠すように何食わぬ事を装い返答を返す。
「お前には関係ないだろ……」
軽く俺を見るなり、リンは視線を下ろし諭すように呟いた。
「まあそうだけどさ……。
でも、心配掛けないようにしたらどうなの……?
何気に、一番心配しているのは私なんかよりもシファ姉なんだからさ……。
色々責任感じてるよ、きっと………」
リンの言葉は俺も充分に理解している事だ。
それに対し否定は出来ない。
「そうだな……」
それから彼女は少し間を置くと、足をぱたぱたとさせながらゆっくりと話を続けた。
「私達、変わって無いよね……あの時からさ」
「そうか?
俺はだいぶ変わったと思うが……」
そう、ここに来てから俺はかなり背も伸びたし力もついてる。
リンは、昔からこんな姿だったような気がするが彼女も昔よりは大分変わっているように思えた……。
「こうして毎日さ……、他愛ない会話を交わしていられる。
少し変わったのは、その中にシファ姉が加わって、最近はアノラさんが増えたって事くらいだし」
「確かに……。
思えば、お前とは一番長い付き合いなんだよな。
姉さんですら俺達とは少し距離を取っているくらいなのにさ」
「そうだね、でもシファ姉はいい人だと思うよ。
以前の荒れていたシラフを、変えてくれた人だし。
まだ謎が多い人だけど、私達の事を本当の家族として迎え入れてくれたから……」
荒れていた……。
それは確かにそうだった。
両親を失って自暴自棄になっていた俺を一身に受け止めてくれたのが姉さんその人なのだから。
「そうだな」
「シラフはこれから先、どうしたいの?」
どうしたいと言われて俺はすぐに答えた。
「十剣に選ばれた使命を果たせるようになる事だ。
それに、騎士としての役割もあるだろう。
それに学院には、ルーシャがいる。
こちらにいた頃と違って第2王女としての自覚を持ち、その務めを立派に果たしていると陛下からは多少聞いてるが……」
「十剣としての使命、それにルーシャの騎士ねぇ
あの王女、私少し苦手だなぁ。
昔からすぐ手を出すじゃん、あの子……」
リンは小さくため息をつくと、俺の頭の上にちょこんと座り優しく髪を撫でてくる。
「もう少し年相応には、甘えてもいいんじゃない?
正直、今のシラフは色々と詰め過ぎだと思うよ。
もう少し気楽に行こうよ、今の時期くらいじゃないと出来ない事は沢山あるんだからさ」
「甘えるって、俺はもう十六だろ。
もうすぐ大人と変わらないのに甘えてなんていられない。
それに俺は未熟でも十剣の一人だ。
そしてこの国の王女である、ルーシャに仕える騎士でもある。
その立場が変わらないし、その役目から逃げる事は出来ないだろ」
「だから、そうゆう所だよ。
無理して大人の真似をしなくても、シラフはまだ未熟で子供なんだぁえ。
もう少し周りを頼るとかしたらどうかな?って事だよ。
その内無茶し過ぎて色々と痛い目に遭うよ」
無理して大人の真似をする。
確かにそうかもしれないと思って視線が下を向く。
するとリンは、俺の頭上飛ぶと再び俺の髪を撫で始めた。
「私はさ、シラフが無理し過ぎていなくなるのは嫌だよ。
そしたらさ、もう私一人なんだよ。
私は嫌だからね、一人だけ残されるなんて事は」
リンが何を伝えたいのか、俺は理解している。
リンは昔に仲間から捨てられ、飢えていた所を俺が助けたのだ。
それから俺の両親達と家族のように暮らしていた。
しかし、火災の時に俺とリンの二人だけが生き残ってしまった。
それ以降、俺とリンは何があっても常に一緒であり唯一の肉親のような掛け替えのない存在でもある。
最近は時の流れもあって別行動の機会が多いが、リンはあの時みたいな事が起こって欲しく無い……。
だがそれは勿論、俺も同じ想いである。
「分かったよ。
それに、こうして俺を心配して姉さんと看病してくれたんだろ?お前は」
「そうだった………かな……?」
「まぁ、ぐっすりと熟睡してたくらいだからな」
「熟睡は余計!」
「あはは、確かに…でも、まぁありがとうな。
それなりに、心配してくれて」
俺がそう言うと照れたのかリンは俺にそっぽを向き俯いて返事を返した。
「そういう言葉はもっと相手を選んだらどうなのかな、もう。
全く、これだからシラフは駄目なんだよ」
リンは俺の頭から飛び去ると、目の前で止まる。
「明日から学院に向かうんだったよね?
色々な人達と出会えば、いずれ私の言葉がシラフ自身で分かる時が来ると思うよ。
シファ姉の言葉もきっと伝わるだろうから」
「そうだと、いいな」
「それじゃあ、おやすみなさい、シラフ」
リンは扉の前で止まり、開けようと必死で足掻くが開かない。
まあ、あの小さな体では無理があるか……。
それを見て仕方ないと思いながら俺は代わりに扉を開けてやった。
「無理はするな、だろ」
「そうだね、それじゃあ改めておやすみ。
体はちゃんと洗ってから寝てよ」
「はいはい、分かりました。
じゃあおやすみ、リン」
リンが飛び去るのを見送ると、俺は扉の前に立っていたアノラに気付いた。
俺と鉢合わせ僅かに驚きの表情を浮かべていた彼女の手には、細長い布に包まれた荷物を抱えていた。
「シラフ様、お目覚めになりましたか。
その、入浴の準備は用意出来ております。
入った後は栓を抜いて置いて下されば、朝方には私が掃除をしておきます。
それと、昼と夜共に何も食べていないでしょうから軽食の作り置きもご用意しておきますので必要でありましたら、いつでも私をお呼び下さい。
それと、これが今朝の物です」
「了解した。
わざわざありがとう、アノラさん。
中身は見ましたか?」
「いえ、私は何も。
しかし、国王陛下からの貴重な贈り物ですので大事になさって下さい。
私は一度失礼させて頂きますね……。
では、ごゆっくりと」
俺に軽く会釈をすると彼女は去って行った。
一人残された俺は部屋の中へ一度戻り、彼女から渡されたその包みを確認する。
青を基調とした持ち手が見えるとそれをしっかりと握り、ゆっくりと引き抜く。
研ぎ澄まされた華奢な一振りの剣の刃が姿を覗かせ、圧倒的な存在感を放っている。
いつも使う剣と寸法は変わらないが、それでもこの剣は他のモノとは明らかに一線を越えた至宝の一品であるというのが手に取るだけで理解できた。
一種の神々しさえ漂わせる一振りに対して思わず見惚れる程である。
部屋に差し込む月の明かりが、美しく造形された刃を更に輝きを増して照らし出してくる。
「これだけの名剣を……陛下が俺に」
剣の鞘となる部分には、この剣の銘が刻まれている。
シュヴァリエ・ブラン、恐らく白騎士という意味合いの名前だろう。
剣を鞘にしまい、静かに祈りを捧げる。
この剣に見合う立派な騎士になれるようにと……、
俺は心に誓った。
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