桜姫の受難 

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番外編

桜姫の逆鱗

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桜姫の逆鱗



「はーやーせー」

 今、俺は絶大なピンチに陥っていた。目の前には可愛いあの子。学園の人気者、桜姫が一度も周りに見せた事がないほどの表情で、仁王立ちしていた。
 ことの起こりは俺がいつものように桜姫の教室に休み時間のチャイムの音と共に向かっていった時だった。
 桜姫の教室に入ろうとすると、同じクラスの奴に呼び止められた。なにか用?と首をかしげると、顔を赤くしてその可愛らしい顔に手をあててもじもじしていた。
 ああ、告白かなと瞬時に理解して、面倒くささと短い時間の中での逢瀬を邪魔されたことにより、俺は少しだけ苛立ちを覚え、ついつい冷たい態度になってしまった。

「用がないなら、もう行くけどいいかな。俺、君みたいな子に構っているほど暇じゃないんだけど」
「あっ・・・・・・」

 蔑んだ視線にその子が傷付いた顔をしたが、俺は無視して、そのままいつものように桜姫の教室に入っていった。まったく無駄な時間を過ごしてしまった。
 この時に、ちゃんと対応しておけば良かったのだと後悔する事など俺が知るはずもない。
 ある日の放課後。今日は三年は進路について話し合うため遅れてくる。そして一年の藤村達もオリエンテーリングで遅くなると言っていた。
 今日は桜姫と二人でいられると、うきうきしながら生徒会室に向かうと、桜姫が珍しくお出迎えしてくれた。
 愛? とか浮かれた俺だったが、すぐにその愚かな思考は打ち消した。突然胸倉を捕まれて、生徒会室に引きずり込まれた俺は、有無を言わさず頭を鷲掴みにされ、笑顔を浮かべた桜姫に問詰められていた。
「今日、貴方のクラスにいる花村君という子が俺の元にきました。しかもご丁寧にも剃刀レターなんてものをくれましたよ。本当、感激です。今までそう言った体験は皆無でしたからねぇ」

「え? 花村? え、誰?」

 俺は意味が分からず、戸惑う。その様子に桜姫の米神に青筋が浮かぶのが見えた。

「先日貴方に告白しようとして、酷い態度をとったようですね。俺の教室の前で」

 ネタは上がってるんですよ。この馬鹿が。という言葉と一緒に俺は先日の出来事を思い出して、苦虫を噛んだようになる。
 どうやらあいつは歯牙にもかけなかった俺への鬱憤はらしに桜姫に嫌がらせをしたらしい。桜姫の綺麗な指をチェックして、怪我をしていないことに内心安堵していると、首を締められた。
 急に呼吸が出来なくなって、桜姫の腕を離そうとするが、思っていたよりも力が強く、それは敵わない。
 助けてと懇願するように桜姫を見れば、悪鬼のごとく恐ろしい顔をしていた。涙が浮かんでくる。

「まだ剃刀レターだけなら許してあげましょう。ええ、さらに呼び出ししてリンチしてきた事も百歩譲って許しましょう。日ごろの鬱憤を晴らす事もできましたしね。ですが!」

 凶悪な表情で、怖いことをもらす桜姫に血の気が下がる。いや、実際にうっすらと意識も薄れてきて、血がなくなってきてる感じがする。リンチもやり返したらしい桜姫は、それも許すという寛大さを見せていたが、許せない事があったらしい。

「何で、俺がお前に惚れてなくちゃいけないんだ? あぁ?」

 やくざ口調になった桜姫は首に込める力にラストパートをかけたきた。
 それこそ、リンチよりちょっと間違ったあの子の認識を許してあげるべきだと思う。闇に包まれた思考の中で、俺は心の中で抗議したのだった。


 それから眼を覚ますと、藤村がこちらを見下ろしてきて鼻で笑った。
 どうやら生徒会室前の廊下で倒れていた所をこいつが中へと運んでくれたらしい。
 桜姫は俺が意識を失った後に廊下に捨てたのかと涙がにじみでてきたがなんとか堪えた。

「早瀬先輩、大丈夫でしたか? 首は苦しくありませんでしたか? あともう少しで桜様が犯罪者になる所だったんですよ?」

 事務役員の小柴が心配そうに俺に冷たいタオルを渡してくれたが、彼の言葉に引っかかる。
 信じられないという目で桜姫の元へ掛けていく後輩を見つめ、俺はガタガタと震えだした。

「如何したんですか?」
「な、なんでもない。なんでもない」

 俺は一生懸命首をふった。怪訝な顔でこちらを藤村が見てくるが、それを無視した。
 あの一年の中ではピカイチ可愛いと評判の小柴はまったく俺のことは心配しておらず、先ほど俺の顔に濡れた布を置こうとしていた。まさに、証拠隠滅。
 桜姫の方向性の間違った怒りと、無害そうな小さな恐怖に戦慄したのであった。






                     終幕




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