桜姫の受難 

文字の大きさ
上 下
5 / 9

前生徒会長、満を持して登場。

しおりを挟む


前生徒会長、満を持して登場。



俺は困っていた。
相当困っていた。なぜなら、俺は新入生歓迎会の時に貰った指輪を今だに持っているのだ。
無くしたらいけないので、鎖を通して首にかけている。
が、確か愛鵡先輩はこの指輪は代々受け継がれてきたといっていた。
俺の記憶が確かなら、愛鵡先輩のお爺さまがパリで有数の貴族の出とかで、この指輪はいわば家紋みたいな…ものなのではないだろうか?

恐いことを考えながら、俺はじっと生徒会室の自分の机で、黙々と書類の束を処理していた。

「姫はいるか?」

コンコンと軽くノックされ、返事も聞かずに生徒会室にその人物は入って来た。
彼を見るなり、室内が驚愕に包まれる。
むろん、俺もその一人で……ただ名前を譫言のょうに呟いたのだった。

「帝先輩?」

「ああ、姫。いてくれて良かった」

俺を確認して、広大路帝(こうだいじみかど)、帝先輩はこちらへとゆっくりと歩いて来た。
距離は短いのにどこか悠然とした様は圧倒されるものがある。
他の事務員、小柴達に軽く挨拶をして俺の傍に来ると、ふわりと抱きしめられた。
そして軽く距離をとり、頭を優しく髪を撫でられた。
帝先輩の長い指が俺の銀髪を搦め捕って、弄ぶ。

「久しぶりだな、元気にしていたか?ますます綺麗になったな」

「全然久しぶりではないでしょう。たしか先日そちらに資料をお届けした時にお会いしたはずですよ?今回はどんな件で来られたんですか?」

苦笑しながらも、俺は帝先輩から離れた。この人はスキンシップが好きで、いつも後輩を構うのだ。

「帝前生徒会長様、用件を早く言ってくださいませんか?」

「よぉ真司。相変わらず不機嫌な顔をしているな」

帝先輩の後ろに振り返り、軽やかに挨拶をした。
真司先輩は何だか不機嫌そうな顔をしたが、その後ろでは無表情の愛鵡先輩や、睨み付ける早瀬と警戒している藤村や小柴達がいた。

「相変わらず俺の姫様はモテるようだな」

「誰が帝先輩のになったんですか。ふざけた事を言わないでください」

「つれないな」

帝先輩は、俺の言葉に肩を竦めたが、何とも思っていないみたいだった。

「所で、新入生歓迎会で面白い事をしたそうだな。なんでも姫に家紋つきの指輪を渡したそうじゃないか。俺としても心中穏やかじゃないんだよ、愛鵡」

「……は?帝先輩?」

先輩の言っている意味がよく理解できない。何故、指輪の事を知っているのかとか、何で穏やかじゃないのか、わからない。

「私は桜姫が好きです。だから指輪を渡したんです。羨ましいのでしたら、同じ事をしたらいいかがでしょう」

凛とした声で、愛鵡先輩が告げた。
帝先輩はまじまじと愛鵡先輩を見てから、爆笑した。
それこそ腹を抱えて。
その様子に愛鵡先輩が眉を潜めたが、帝先輩は気にしていないようだった。

「俺がそんな事をするわけないだろう。欲しいものは奪ってでも手に入れる」

ぞうさもない事だ。帝先輩はそういうと、ひらひらと手を振り、生徒会室を出ていことする。
俺は直ぐさま後を追い掛けて、帝先輩に問い掛けた。

「帝先輩!!結局、何しにいらっしゃったんですか?」

「ん?あぁ……敵情視察かな…………しかし、姫は愛鵡みたいなのがお好みか。まぁ渡すつもりはないけどな」

「……っな!何をざれ言を……!」

「……自覚なかったのか?愛鵡に好きだと言われて嬉しそうに笑っていたぜ?」

囁くように言われて、俺にもチャンスはまだありそうだなと、意味不明な言葉を残して帝先輩はその場を後にした。
俺は、無意識に胸の指輪を握りしめていた。

この指輪は返せそうにない。ふいに俺はそんな事を考えたのだった。







終幕






次回問題だらけの運動会。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ祭

葉津緒
BL
親衛隊による制裁の現場で、意外な出来事が。 王道・脇役・平凡・嫌われ→?

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

使命を全うするために俺は死にます。

あぎ
BL
とあることで目覚めた主人公、「マリア」は悪役というスペックの人間だったことを思い出せ。そして悲しい過去を持っていた。 とあることで家族が殺され、とあることで婚約破棄をされ、その婚約破棄を言い出した男に殺された。 だが、この男が大好きだったこともしかり、その横にいた女も好きだった なら、昔からの使命である、彼らを幸せにするという使命を全うする。 それが、みなに忘れられても_

顔だけが取り柄の俺、それさえもひたすら隠し通してみせる!!

彩ノ華
BL
顔だけが取り柄の俺だけど… …平凡に暮らしたいので隠し通してみせる!! 登場人物×恋には無自覚な主人公 ※溺愛 ❀気ままに投稿 ❀ゆるゆる更新 ❀文字数が多い時もあれば少ない時もある、それが人生や。知らんけど。

イケメン大学生にナンパされているようですが、どうやらただのナンパ男ではないようです

市川パナ
BL
会社帰り、突然声をかけてきたイケメン大学生。断ろうにもうまくいかず……

悪役令嬢の双子の兄

みるきぃ
BL
『魅惑のプリンセス』というタイトルの乙女ゲームに転生した俺。転生したのはいいけど、悪役令嬢の双子の兄だった。

元生徒会長さんの日常

あ×100
BL
俺ではダメだったみたいだ。気づけなくてごめんね。みんな大好きだったよ。 転校生が現れたことによってリコールされてしまった会長の二階堂雪乃。俺は仕事をサボり、遊び呆けたりセフレを部屋に連れ込んだりしたり、転校生をいじめたりしていたらしい。 そんな悪評高い元会長さまのお話。 長らくお待たせしました!近日中に更新再開できたらと思っております(公開済みのものも加筆修正するつもり) なお、あまり文才を期待しないでください…痛い目みますよ… 誹謗中傷はおやめくださいね(泣) 2021.3.3

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

処理中です...