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189年
描いた未来
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成廉に追い立てられた鹿が木々の間から飛び出した。
まだ仔鹿と言ってよい大きさだ。
魏越はすかさず仔鹿の側面へ馬を寄せ、仔鹿が茂みへ戻るのを阻んだ。馬をほんの少し斜行させて、仔鹿が林から遠ざかるように仕向ける。
矢をつがえながら、魏越は「右か」と独りごちた。
身体を右に捻った騎射は、左のそれと比べて窮屈で、魏越は得意ではなかった。しかし、位置取りを直す余裕はない。一瞬でも魏越が消えれば、仔鹿は林に戻ろうとして跳ねるだろう。もう西の空が赤く染まり始めていた。仔鹿を逃してしまったら、次の獲物を探す時間は残されていない。
明日は住み慣れた并州を後にする。
刺史として并州にやってきた丁原が、呂布の剛勇を聞きつけ、配下に引き入れた。呂布の伝手で、魏越も二年前から丁原に仕えていた。今では弟の続も厄介になっている。その丁原が都で役職を得たため、魏越らも都に移り住むことになったのだ。
都に行ってしまえば、狩りは思うように行えなくなるに違いない。出立の準備を終え、余った時間で魏越は林に分け入ることにしたのだ。呂布と、親交の深い僚友である成廉を誘い、それに弟の続を加えて、林へ馬を乗り入れた。夕暮れまでのほんの一時で、仔鹿を見つけられたのは幸運だとも言える。なんとしても仕留めたかった。
弓を引き絞り、息を止めた。窮屈さに不自由しながら、片目で狙いを定める。
放った矢は、仔鹿の背中をかすめ、草原に突き刺さった。
魏越は慌てて二の矢をつがえたが、驚いた仔鹿はもう向きを変えて、魏越の背後へと回ってしまっていた。馬首を返して追いかけたが脚を一度止めて反転した後では、加速するのに時がかかった。
「続! そっちに行ったぞ」
仔鹿は恐怖で前後がわからなくなっているのだろう。元の林へではなく、開けた草原のほうへと駆けていた。
「おう!」
続が応じて、「はっ」と馬に合図を出した。
続の馬は、一歩が大きい。翔ぶように駆け、そして疾い。馬が、というより続の手綱さばきが違うのだろう。続は、どの馬もそのように乗りこなす。
あっという間に仔鹿の背後を取り、続は矢筒に手をやっている。
そして、弦の唸る音がした。
しかし仔鹿は倒れずに走り続け、葦の生い茂った川辺へと消えていった。どうやら当たらなかったらしい。
それと同時に林から成廉が出てきた。
「仔鹿はどうなった? やったか!」
「すまん。逃した」
「おいおい。頼むぜ、魏兄弟」
続は常歩で戻ってきて、「面目ない」と悄気げた。
「騎射のときは、股を締めて上体を安定させろといつも言っているだろう」
魏越がそう説教すると、続は不満げに反発した。
「兄貴だってはずしたじゃないか」
「背後からなら俺は仕留めてる」
「どっちもどっちだ。そのくらいにしとけ。兄弟喧嘩じゃ腹はふくれんよ」
成廉が間に入って取りなした。成廉は魏越と同い年であるが、丸く、ころっとした童顔の持ち主だった。その顔でにっこりと微笑まれると、なんだか諍い続けるのは難しくなる。
「魏兄弟の機嫌はともかく、問題は腹の虫のほうだ」
そう言って、成廉は都合よく腹の虫を泣かせた。
狩りには加わらず、騎乗したまま、仰向けに馬の背にもたれかかって空を眺めていた呂布が、のっそりと起き上がった。
「いいさ。仔鹿といえど、四人じゃ一頭は食いきれん」
呂布はおもむろに弓を取り、矢をつがえた。そして、空を飛ぶ鳥の群れに向かって一矢放つと、一羽の鳥の軌道が跳ね上がるように変わった。異変を察知した他の鳥が列を乱して翔ぶ中、さらにもう一羽が浮かび上がってから墜落を始めた。
「魏続、回収は任せたぞ」
呂布の指示に、続が馬の腹を蹴った。
「じゃあ、俺は薪を集めてくるよ」
そう残して、成廉がまた林の中へ消えていった。
「なら、俺は小刀を研ぎ直しておくか」
「ああ、それがいい。捌くのはお前が一番上手い」
砥石を濡らすために、魏越は仔鹿が姿を消した川辺のほうへ向かった。馬を降り、葦をかきわける。水辺が近くなり、足元が悪くなったとき、葦がかさりと音を立てた。音のしたほうを振り向くと、葦と葦の隙間から白い斑点の混じった赤茶色の毛並みが遠ざかっていくのが見えた。どうやら先程の仔鹿らしい。
呂布がその気になっていたら、林から出てきた瞬間に仔鹿は射抜かれていただろう。
「命拾いしたな」
魏越は、見えなくなった仔鹿に向かって呟いた。
「都はどんなところなんだろうな?」
手についた鳥の脂をねぶりながら、成廉が言った。
「天子様の御座すところですから、最も天に近きところでしょう」
夢見がちな少年のような顔になって、続は上気している。
この国に生まれて、帝のことを知らぬ人間はいない。貴賎を問わず物心ついたときに、帝が世の頂きに君臨しているということを教わる。そして、誰もがそのことを当たり前の理として受け止めるのだ。帝は夜となく昼となく民の安寧を祈願し、民の苦難に涙していて、日々の暮らしは帝のおかげで成り立っている。帝というのは太陽と同じ存在で、どちらもなくしては、人々は生きていくこともできない。子供の頃、魏越もそう親に言い聞かされた。
二十歳を過ぎたばかりの頃、この理に疑念を抱いたことがある。黄巾の乱だ。太平道という宗教の信者を中心に各地の農夫が黄色い頭巾を被って蜂起した。この乱は半年ほどで鎮圧されたが、帝が日がな一日、民の暮らしを思って祈っているのに、何故これほどにも大きな乱が起きるのかと思った。黄巾の乱で最も苦しめられたのは、民草だ。そして乱に加わって暴れたものもほとんどが困窮した暮らしを強いられてきた民草だった。帝は本当に民草のために祈っているのかと不遜にも思ったものだ。
しかし、魏越が帝に対する敬愛と畏怖を失うことはなかった。むしろ帝への崇敬はより深まることとなった。結局のところ、帝の祈願を側近や要職にある人間が無駄にしているのだ。それが魏越の見出した真実だった。帝が祈っても願ってもその想いが天に届かぬほどに、側近や要職を担う人間は無能で怠惰なのだということだ。その証拠に、心労が祟った帝は先ごろ崩御した。三十代とまだ若かったのにだ。
いや、無能で怠惰なだけならまだいい。帝の威光を笠に着て、私利私欲に走り、主食に耽る、そんな輩が都には蔓延っている。だから、魏越にとって、都は堕落の園のような印象だった。
「そうだな。都の女人はきっと皆、天女のように美しい。着物を剥げば、透き通るような白い肌を拝めるだろうよ。家族を呼び寄せる前に数人抱いておきたいものだな」
「兄上! みっともないとは思わないのか」
「なんだ? 男だったら、誰だっていい女を抱いてみたいと思うもんだろう」
「呂布殿は、そんなことを言わないよ」
「言わないだけさ。思ってはいる」
呂布は魏越の言葉に反応は示さずに、鳥肉を頬張っていた。
「まぁ、呂布殿の奥方は天女並みに美しいからな」
呂布の妻は、魏一族の娘だ。それも、一族の誉れとも言うべき器量よしだった。
「義姉上だって、綺麗だよ」
実際のところ、魏越は妻に満足していた。続の言うように美女の類であると思っている。都には妻以上の容姿をした女はごまんといるのかもしれないが、それでも都の女を抱く気は魏越にはなかった。
「なんだ? お前、ああいうのが好みなのか」
「兄上!」
魏越のからかうような口ぶりが気に触ったのだろう、憤慨した続が、手にしていた身のほとんど残っていない鳥の骨を地面に叩きつけて立ち上がった。
魏越は、成廉に目線をやった。成廉は、仕方ないなとでも言うように溜息をひとつ吐いた。
「魏続、座れ。いいか、お前がそうやって反応するから、こいつは面白がってからかうんだ。話半分に聞いときゃいいんだよ。どうせ、戯言しか言わん」
「戯言しかとはあんまりだな」
魏越が苦笑しながら、口をとがらせると、成廉はやり返してやったぞとばかりに続に向かって、白い歯を見せた。それで少しは溜飲が下がったのか、続はどさりと腰をおろした。
「続、おまえは独り身だ。誰に気兼ねすることはない。思う存分に天女たちを抱け」
魏越がそう言うと、続は魏越をきつく睨みつけてきた。
魏越への反発心から、たぶん、これで続は都の女に溺れることはないだろう。
呂布も成廉も魏越が続に突っかかる訳を理解しているから、いちいち咎めたりはしなかった。
一段落ついたことを察して、呂布が口を開いた。
「都か。てっきり俺は、この并州で一生を終えるものだと思っていたがな。お前たちと共に馬を駆って北狄を討ち払いながら、歳をとっていくものだとばかり」
魏越もそういう未来を思い描いていた。ただ、描いた未来に呂布はいなかった。桁違いに強い呂布の噂は、いつか中原にまで届くだろうと思っていたのだ。そして召し出された呂布は、そのうちに将軍位を得て、万を超える兵を率いることになるだろうと。呂布の器は、并州に留めておくには大きすぎるのだ。
「未来とはわからぬものだな」
まだ呂布の武技を傍で見ることができるらしい幸運に、魏越は感慨深く、そう呻いた。
空を見上げると一番星が光っていた。その周りに、星はまだ見えない。
まだ仔鹿と言ってよい大きさだ。
魏越はすかさず仔鹿の側面へ馬を寄せ、仔鹿が茂みへ戻るのを阻んだ。馬をほんの少し斜行させて、仔鹿が林から遠ざかるように仕向ける。
矢をつがえながら、魏越は「右か」と独りごちた。
身体を右に捻った騎射は、左のそれと比べて窮屈で、魏越は得意ではなかった。しかし、位置取りを直す余裕はない。一瞬でも魏越が消えれば、仔鹿は林に戻ろうとして跳ねるだろう。もう西の空が赤く染まり始めていた。仔鹿を逃してしまったら、次の獲物を探す時間は残されていない。
明日は住み慣れた并州を後にする。
刺史として并州にやってきた丁原が、呂布の剛勇を聞きつけ、配下に引き入れた。呂布の伝手で、魏越も二年前から丁原に仕えていた。今では弟の続も厄介になっている。その丁原が都で役職を得たため、魏越らも都に移り住むことになったのだ。
都に行ってしまえば、狩りは思うように行えなくなるに違いない。出立の準備を終え、余った時間で魏越は林に分け入ることにしたのだ。呂布と、親交の深い僚友である成廉を誘い、それに弟の続を加えて、林へ馬を乗り入れた。夕暮れまでのほんの一時で、仔鹿を見つけられたのは幸運だとも言える。なんとしても仕留めたかった。
弓を引き絞り、息を止めた。窮屈さに不自由しながら、片目で狙いを定める。
放った矢は、仔鹿の背中をかすめ、草原に突き刺さった。
魏越は慌てて二の矢をつがえたが、驚いた仔鹿はもう向きを変えて、魏越の背後へと回ってしまっていた。馬首を返して追いかけたが脚を一度止めて反転した後では、加速するのに時がかかった。
「続! そっちに行ったぞ」
仔鹿は恐怖で前後がわからなくなっているのだろう。元の林へではなく、開けた草原のほうへと駆けていた。
「おう!」
続が応じて、「はっ」と馬に合図を出した。
続の馬は、一歩が大きい。翔ぶように駆け、そして疾い。馬が、というより続の手綱さばきが違うのだろう。続は、どの馬もそのように乗りこなす。
あっという間に仔鹿の背後を取り、続は矢筒に手をやっている。
そして、弦の唸る音がした。
しかし仔鹿は倒れずに走り続け、葦の生い茂った川辺へと消えていった。どうやら当たらなかったらしい。
それと同時に林から成廉が出てきた。
「仔鹿はどうなった? やったか!」
「すまん。逃した」
「おいおい。頼むぜ、魏兄弟」
続は常歩で戻ってきて、「面目ない」と悄気げた。
「騎射のときは、股を締めて上体を安定させろといつも言っているだろう」
魏越がそう説教すると、続は不満げに反発した。
「兄貴だってはずしたじゃないか」
「背後からなら俺は仕留めてる」
「どっちもどっちだ。そのくらいにしとけ。兄弟喧嘩じゃ腹はふくれんよ」
成廉が間に入って取りなした。成廉は魏越と同い年であるが、丸く、ころっとした童顔の持ち主だった。その顔でにっこりと微笑まれると、なんだか諍い続けるのは難しくなる。
「魏兄弟の機嫌はともかく、問題は腹の虫のほうだ」
そう言って、成廉は都合よく腹の虫を泣かせた。
狩りには加わらず、騎乗したまま、仰向けに馬の背にもたれかかって空を眺めていた呂布が、のっそりと起き上がった。
「いいさ。仔鹿といえど、四人じゃ一頭は食いきれん」
呂布はおもむろに弓を取り、矢をつがえた。そして、空を飛ぶ鳥の群れに向かって一矢放つと、一羽の鳥の軌道が跳ね上がるように変わった。異変を察知した他の鳥が列を乱して翔ぶ中、さらにもう一羽が浮かび上がってから墜落を始めた。
「魏続、回収は任せたぞ」
呂布の指示に、続が馬の腹を蹴った。
「じゃあ、俺は薪を集めてくるよ」
そう残して、成廉がまた林の中へ消えていった。
「なら、俺は小刀を研ぎ直しておくか」
「ああ、それがいい。捌くのはお前が一番上手い」
砥石を濡らすために、魏越は仔鹿が姿を消した川辺のほうへ向かった。馬を降り、葦をかきわける。水辺が近くなり、足元が悪くなったとき、葦がかさりと音を立てた。音のしたほうを振り向くと、葦と葦の隙間から白い斑点の混じった赤茶色の毛並みが遠ざかっていくのが見えた。どうやら先程の仔鹿らしい。
呂布がその気になっていたら、林から出てきた瞬間に仔鹿は射抜かれていただろう。
「命拾いしたな」
魏越は、見えなくなった仔鹿に向かって呟いた。
「都はどんなところなんだろうな?」
手についた鳥の脂をねぶりながら、成廉が言った。
「天子様の御座すところですから、最も天に近きところでしょう」
夢見がちな少年のような顔になって、続は上気している。
この国に生まれて、帝のことを知らぬ人間はいない。貴賎を問わず物心ついたときに、帝が世の頂きに君臨しているということを教わる。そして、誰もがそのことを当たり前の理として受け止めるのだ。帝は夜となく昼となく民の安寧を祈願し、民の苦難に涙していて、日々の暮らしは帝のおかげで成り立っている。帝というのは太陽と同じ存在で、どちらもなくしては、人々は生きていくこともできない。子供の頃、魏越もそう親に言い聞かされた。
二十歳を過ぎたばかりの頃、この理に疑念を抱いたことがある。黄巾の乱だ。太平道という宗教の信者を中心に各地の農夫が黄色い頭巾を被って蜂起した。この乱は半年ほどで鎮圧されたが、帝が日がな一日、民の暮らしを思って祈っているのに、何故これほどにも大きな乱が起きるのかと思った。黄巾の乱で最も苦しめられたのは、民草だ。そして乱に加わって暴れたものもほとんどが困窮した暮らしを強いられてきた民草だった。帝は本当に民草のために祈っているのかと不遜にも思ったものだ。
しかし、魏越が帝に対する敬愛と畏怖を失うことはなかった。むしろ帝への崇敬はより深まることとなった。結局のところ、帝の祈願を側近や要職にある人間が無駄にしているのだ。それが魏越の見出した真実だった。帝が祈っても願ってもその想いが天に届かぬほどに、側近や要職を担う人間は無能で怠惰なのだということだ。その証拠に、心労が祟った帝は先ごろ崩御した。三十代とまだ若かったのにだ。
いや、無能で怠惰なだけならまだいい。帝の威光を笠に着て、私利私欲に走り、主食に耽る、そんな輩が都には蔓延っている。だから、魏越にとって、都は堕落の園のような印象だった。
「そうだな。都の女人はきっと皆、天女のように美しい。着物を剥げば、透き通るような白い肌を拝めるだろうよ。家族を呼び寄せる前に数人抱いておきたいものだな」
「兄上! みっともないとは思わないのか」
「なんだ? 男だったら、誰だっていい女を抱いてみたいと思うもんだろう」
「呂布殿は、そんなことを言わないよ」
「言わないだけさ。思ってはいる」
呂布は魏越の言葉に反応は示さずに、鳥肉を頬張っていた。
「まぁ、呂布殿の奥方は天女並みに美しいからな」
呂布の妻は、魏一族の娘だ。それも、一族の誉れとも言うべき器量よしだった。
「義姉上だって、綺麗だよ」
実際のところ、魏越は妻に満足していた。続の言うように美女の類であると思っている。都には妻以上の容姿をした女はごまんといるのかもしれないが、それでも都の女を抱く気は魏越にはなかった。
「なんだ? お前、ああいうのが好みなのか」
「兄上!」
魏越のからかうような口ぶりが気に触ったのだろう、憤慨した続が、手にしていた身のほとんど残っていない鳥の骨を地面に叩きつけて立ち上がった。
魏越は、成廉に目線をやった。成廉は、仕方ないなとでも言うように溜息をひとつ吐いた。
「魏続、座れ。いいか、お前がそうやって反応するから、こいつは面白がってからかうんだ。話半分に聞いときゃいいんだよ。どうせ、戯言しか言わん」
「戯言しかとはあんまりだな」
魏越が苦笑しながら、口をとがらせると、成廉はやり返してやったぞとばかりに続に向かって、白い歯を見せた。それで少しは溜飲が下がったのか、続はどさりと腰をおろした。
「続、おまえは独り身だ。誰に気兼ねすることはない。思う存分に天女たちを抱け」
魏越がそう言うと、続は魏越をきつく睨みつけてきた。
魏越への反発心から、たぶん、これで続は都の女に溺れることはないだろう。
呂布も成廉も魏越が続に突っかかる訳を理解しているから、いちいち咎めたりはしなかった。
一段落ついたことを察して、呂布が口を開いた。
「都か。てっきり俺は、この并州で一生を終えるものだと思っていたがな。お前たちと共に馬を駆って北狄を討ち払いながら、歳をとっていくものだとばかり」
魏越もそういう未来を思い描いていた。ただ、描いた未来に呂布はいなかった。桁違いに強い呂布の噂は、いつか中原にまで届くだろうと思っていたのだ。そして召し出された呂布は、そのうちに将軍位を得て、万を超える兵を率いることになるだろうと。呂布の器は、并州に留めておくには大きすぎるのだ。
「未来とはわからぬものだな」
まだ呂布の武技を傍で見ることができるらしい幸運に、魏越は感慨深く、そう呻いた。
空を見上げると一番星が光っていた。その周りに、星はまだ見えない。
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