【完結】君とは友だちになれない

夏目みよ

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09.犬猿の闘い

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 次の日、六堂によって組まれたチャットルームは荒れに荒れていた。一応、六堂や坂木に声を掛けることにしたらしい三島くんだったが、それを巡って六堂が大量にコメントを打ち返したのだ。
 荒れたと言っても、殺伐としたやりとりが続いたわけではない。むしろ逆だ。六堂の絡みが凄すぎたのと、メッセージを送ってくる頻度が高すぎて誰もついて来れなかったのだ。
 坂木は慣れているのか、六堂からのメッセージやスタンプに対して既読無視を決め込んでいた。だが、意外にも三島くんがそれらを拾おうとしていて、結局六堂の独壇場になったのが正しい。
 そのことを朝、掻い摘みながら孝晃に話したら、孝晃が怪訝そうな顔をした。

「その集団、大丈夫なのかよ?」
「まぁ、大丈夫なんじゃないかな……」
「ヒロが心配だわ。そんなわけ分かんねぇ連中の中に放り込まれて……」
「心配しすぎだって」

 孝晃はちょっと過保護だ。
 引っ込み思案な性格をしている俺を心配してなのかもしれないが、それを抜きにしたって面倒見が良すぎるところがある。
 今も孝晃的にはヤンキーなんかと仲良くして、と三島くんのことは目の敵にしている。暴力を受けているわけでも、いびられているわけでもないのだが、孝晃から見て三島くんと俺のツーショットは不安になるらしい。

「大丈夫だよ。それに、二人でバイトしようかなって思ってるし」
「は? バイト!? なにそれ聞いてない」
「いま、言ったしね」

 孝晃は何故か黙りこくってしまった。いつもは朗らかな孝晃だが、今はささくれだった雰囲気を纏っている。
 孝晃はあーっと唸ると、横で引いていた自転車をはっ倒さん勢いで俺に迫った。

「俺も天文部に入る」
「へ?」
「あとバイトもする!」
「いや、サッカーはどうするの……」
「それはそうだけどさぁ!」

 孝晃は物理的に天文部へは入れない。サッカー部は毎日練習があり、土日も練習試合などで潰れてしまうからだ。
 兼部する暇もなければ、バイトをする余裕すらない。おまけに、孝晃は相当サッカーがうまい。このまま行けば、一年でレギュラー入りできるかもと言われている。
 緑桜はサッカー部が強く、毎年地区大会では優勝している。県大会はそこそこの成績ではあるものの、過去には全国まで行ったこともある。今年もきっと地区優勝は当たり前、全国大会を目指して頑張ることだろう。
 そうなると必然的に練習はきつくなり、時間的な余裕がなくなる。こうして朝、一緒に登校している時間だって贅沢なことだった。

「俺は大丈夫だから」
「でも……」

 何故か項垂れる孝晃を慰めながら校門を目指す。そのとき、前方に見慣れたシルエットを見つけた。

「夜鷹くん!」
「……紘?」

 くるりと振り返った三島くんが足を止める。だが、同じように足を止めた男がもうひとり。

「今アイツ、ヒロって呼ばなかったか?」
「アイツ、って夜鷹くんのこと?」
「そ! れ!! いつから名前で呼び合う仲になったんだよ!?」

 今度こそ自転車から手を離した孝晃に詰め寄られる。それを見ていた三島くんが絡まれていると思ったのか、すっ飛んできた。

「おい、テメェ! 紘から手ェ離せ!」
「は? お前には関係ないだろ。俺とヒロの問題なんだわ」
「あ゛?」
「は?」

 二人の間で、謎の睨み合いが勃発する。どうして怒っているのかよく分からなかったが、ここは恐らく自分が仲裁せねばならないところだろう。
 俺は二人の間に割って入った。

「タカちゃん。睨んじゃダメ」
「夜鷹くんも。別に絡まれたわけじゃないから。そもそも俺等幼馴染だし……」
「……分かった」
「……チッ」

 ひとまず、二人共離れたことにホッとする。俺は孝晃と一緒に倒れた自転車を起こした。

「ほら、あとちょっとだし、みんなで学校行こう。ね?」
「ヒロは緊張感ないんだよ……」
「そこだけは同意してやる」
「別にあんたの同意なんか求めてねぇけど。……ヒロ、しっかりしろよ。つけ入れらんねぇようにな」
「幼馴染だかなんだか知らねェが、構いすぎは嫌われんぞ」

 終始、二人は小声でバチバチと罵倒を繰り返しながら校門をくぐる。その間にいる俺はたまったものではない。

「じゃあな、ヒロ! また週明け」
「うん」

 孝晃とはここでお別れだ。放課後は練習で土日も試合があるから、会えるのは週明けの月曜日だ。頑張ってね、と孝晃に手を振る。
 三島くんは孝晃と別れる最後までムスッとした顔をしていた。案外、似た者同士で仲良くなれそうな気もするのだが同族嫌悪に近いのか、お互い馴れ合う気はないらしい。

「行こっか、夜鷹くん」
「ん」

 俺は三島くんと一緒に昇降口で靴を履き替え、教室を目指す。
 朝のまだ生徒が居ない廊下を歩くのにも慣れたものだ。窓から差し込む朝日が磨き上げられた廊下の床をキラキラと照らす。遠くの方から聞こえる朝練をする生徒たちの声や楽器の音、人の往来で撹拌されていない澄んだ空気は、この時間に来る生徒だけが味わえる特権だ。
 それに今日は三島くんも隣にいる。いつもより特別な朝に思えた。

「バイトだけど、早速来てくれていいってよ」
「本当?」
「あぁ。明日からでもいいらしいけど、どうする?」

 教室に入り、鞄を下ろしながら三島くんが言う。すぐに決まるとは思っていなかったから、まだ心の準備が出来ていない。だけど準備が出来るまで先延ばしにしていたら、いつまで経ってもバイトに行けなさそうだ。
 ここは勢いに任せて行くことにした。

「行く」
「分かった。じゃあ、話しとくわ」
「よろしくね」

 高校で出来た初めての友人と一緒にやる初めてのバイト。緊張もあるけれど、楽しみの方が勝る。
 それから朝礼が始まるまでの間、集合場所や時間を三島くんと決めた。授業を受けている間も、昼休憩も頭の中はバイトのことばかりで、三島くんには「始まってもないのにソワソワしすぎ」と帰る間際に釘を刺された。


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