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戻りました!

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 エリと中等部で別れ、俺は1人寮へと戻る。
 不思議なもので、ここ最近使ってきた道でさえ懐かしく感じてしまうし、短く感じてしまう。


 「これでしばらく、中等部へは行かないのか」


 1人つぶやいて、一歩一歩寮へと進む。
 あっ、休みが終われば高等部か。
 なんだかすごく懐かしいというか、忘れられてないだろうなぁ。

 そんな事を考えていたら、あっという間に寮の扉の前。
 これで本当に、中等部での依頼は完了だ。

 扉をあけて中に入ると、何故かクリムが立っている。


 「おークリム。寮に何か用あったのか?」


 俺の質問に、クリムは少しオーバーなリアクションで。


 「あっ、う、うむ。そうだ、マスターに用があってだなぁ、大樹にも関係あるし、その、ついてきてくれ」

 「ん? わかったけど、何をそんなに……」


 緊張してるんだ、と聞こうとしたが。


 「何でもないぞ!?」


 おかしなことになっていた。
 ……こんな状態のクリムについていっていいものか?


 「なぁクリム。マスターに用事ってまさか……緊急事態なのか」

 「へ? ま、まぁそうだなぁ。それよりも早く……」


 やはりだ!
 何か良からぬことが起こっているんだ!


 「おいクリム! いいから早く何があったか教えてくれ」


 するとクリムはものすごいスピードで、マスターのいる方へ走り出す。


 「追ってくるなぁ! なんかもう、全部違うぞ!」


 よくわからない事を叫びながら、奥へと消えていく。
 クリムがあれだけテンパる事?

 目の前には、マスターのいる部屋へとつながるドア。


 「何があっても驚くなよ、俺!」


 1人覚悟を決め、マジックキーを掲げる。
 慣れてきたとはいえ、一瞬目が開けられないほどの眩しい光。
 それをくぐり抜けて。


 「クリム、俺は覚悟できた……」


 決意表明の前に。
 俺の目の前にはフローラが立っていて。


 「お、お疲れ様でした! 今日はお疲れ様会です」

 「いえーい!」


 フローラの一声に、リッシュが大げさに声を出す。
 ……お疲れ様会?

 すると、騒ぐリッシュの隣にクリムの姿が。
 目があったので、話してみよう。


 「なぁクリム、これはどういう事だ?」

 「ん? そのままの通り、大樹のお疲れ様会だが。中等部での活躍を含めてな」


 なるほど。
 どうやらこの3人、おそらくマスターも含めて前もって準備していたらしい。
 ただ気になることが1つ。


 「クリムはどうして嘘ついた? サプライズが狙いだったのか?」

 「ふふふ、その通りだ。こういったことには、当然サプライズでとマスターが話してくれてな」


 マスターの入れ知恵だったか。
 俺が目を向けると、すぐに気がついたのか親指をそっと立てた。


 「あの、それで大樹さん。皆からのプレゼントですが」

 「え、プレゼントまであるのか。まったく、しょうがないなぁ」


 こういったことはどうにも気恥ずかしい。
 照れを隠しながら、フローラの持つ箱を受け取る。


 「中見てもいいのか?」

 「はいどうぞ」


 反応が気になるのだろうか、フローラが少しソワソワしながら答える。
 ……まさか、これもサプライズってことはないだろうなぁ。

 俺は頭の片隅で、その時に備えたリアクションを思い描く。


 「あっ、これってもしかして」


 箱の中には、見覚えのある魔道具が。


 「大樹さんがアルバイトしていた時、気になるものがあったと聞いたので。店長さんに話を聞いて選んだんです」


 フローラにそんな話をしたっけか?
 自分でも覚えていないことに驚きながら。


 「これ、少しの魔力で明かりをつけられるやつだよな? 欲しいなって思ってたんだ」


 もちろん、少しの魔力ってのがポイント。


 「喜んでもらえて嬉しいです」


 フローラが笑顔で言う。
 すると、それを見ていたクリムが。


 「これは全部フローラが考えて選んだんだ。大樹、感謝して大事にしろよ?」


 そうだったのか!
 と、フローラの方へ顔を向けると。


 「クリムさん、恥ずかしいのであまり」


 照れるフローラを見て、戻ってきた事を感じるのだった。
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