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尻尾の女の子!

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 「何というか……できればそのままで」


 クリム達が来るまで、油断はできない。
 目の前の女の子が、実は犯罪者かもしれないから。

 それに、尻尾が生えてるし。
 魔法界では当たり前なのかもしれないけど……


 「あの……」

 「っ!?」


 誰だって驚くだろうが、目の前の子が話し始める。


 「さっき通信してましたよね? 私はどうなるんですか?」


 何だろう、すごく不安そうな顔をしている。


 「とりあえず、事情聴取されると思う。でも、何も悪さしてないならすぐに解放されると……思う」


 多分ではあるが。
 それでも目の前の女の子は少しホッとしたのか、表情が緩む。


 「大樹、待たせたな。目的の人物は一緒か?」

 「ああ、クリムか。この人なんだけど」


 俺がそう言うと、クリムはすぐに彼女の方を向き。


 「うーん、制服はここのようだが、私の記憶にない顔だ。少し話せるだろうか」

 「わかりました」


 彼女は素直に応じる。
 わかったのは、そこまで怪しい人物ではないと言うこと。
 話していてわかることもある。


 「それでは一つ目だ。名前を聞いても?」

 「えっと、その、私には名前がなくて」

 「名前がない? 本当なのか。フローラに続いてここでも……」


 最近名前のない人に出会いすぎてるな。


 「名前がないとはどう言うことだ? 両親は」

 「実はですね、皆さんに見せなければならないものが」


 クリムの話を遮り、彼女はそう言うと、俺たちの前に立ちながら目を瞑る。
 すると、その足元から青い光が。


 「ぐっ!?」


 強い光を放つと、次に目を開けた時には彼女の姿がなくなっていた。


 「ど、どこに行ったかわかるかクリム?」

 「いや、わからなかった。しかしドアの音もなかったぞ」


 俺たちが探し始めようとした時、どこからか声が。


 「私は動いていませんよ? ちゃんと見てください」


 動いてない?
 でもそこには何……も。

 いや、確かに何かいる。
 そしてそれは、以前にも見たことがあって。


 「猫だ。白い猫じゃないか」


 その猫は見覚えがある。
 時間がないからと、放置していた猫。
 まさか……


 「昨日俺が見つけた猫は……君か?」


 猫は何も言わずに頷く。
 俺は軽くパニックになりそうな頭を落ち着かせる。

 ここは魔法の世界だ。
 猫が話すし、人にもなれる。
 ゲームでもありそうだよな!


 「なぁクリム。一応聞くが、今回みたいに猫が人に変身したり、話したりってのはこの世界じゃ当たり前なんだろ?」


 クリムは腕を組んで少し考えると。


 「いや、かなり珍しいケースだ。原因もわからない」


 この世界でも珍しかったようだ。


 「昔、似たような現象が書かれた本を読んだが、話せる猫ではなかった。おそらくこれは、突然変異ではないだろうか」

 「突然変異?」

 「そうだ。この国には豊富な魔力がある。その影響を受ける生物がいてもおかしくない。前にも、体の大きさを変えられる犬が産まれた。確率は低いが、可能性としてはあり得る」


 つまり、これは魔法ってことなのか。
 でも何で制服だったんだろう。

 猫に直接聞こうとすると、その体が再び強い光に包まれる。


 「……やっぱり」


 俺は思わずそう口にしてしまった。
 目の前には、さっきまでいた制服姿の女の子。
 だけど。


 「あれ? さっきまであった尻尾は?」

 「私の魔法は人の姿に変われること。ただし、定期的に休まないと魔力が尽きてしまう。尻尾は魔力が足りなくなってる証拠」


 こうなるともう、猫なのかどうかわからない。


 「なるほど。それでもう一つ聞きたいことがあるのだが……その前に名前を決めないか? 話しにくくてな」


 確かにクリムの言う通りだ。
 そしてこの流れは……


 「そうだなぁ、大樹。フローラにも名をつけたのだから、今回も任せるぞ」

 「やっぱりなぁ~。そうだな、う~んと、ハクってのはどうだ?」


 自分でも安易すぎると思う。
 言った後に恥ずかしくなるやつだ、これ。


 「いいじゃないか、その名前で決定だ」


 なぜかクリムには受けたようだ。
 気になる当人の方は?


 「……ハク……ふふ」


 小さく笑っていた。
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