1 / 33
第一話
しおりを挟む
桃の精は鉈が足の間に突き刺さったことに気付くと、じゅくじゅくした一体感と芳醇な香りで満たされた桃の中で失禁してしまいました。
鳥は卵から生まれて空を飛び、人間は女陰から生まれて大地を踏みしめる。そういう当たり前の決まりに従って、桃の精は桃から生まれる予定でありました。
しかし何の仏罰であったのか、桃が実をつける時期に大量の雨が降り、重くしなった枝から桃の精が入った果実が一つ千切れ落ちてしまいました。
桃の木はあいにくなことに旧街道の川沿いにあり、千切れ落ちた桃は川を流され、なすすべなく辺鄙な村へと流れ着いてしまったのでした。
芳醇な果肉は、幼い桃の精の成長の糧となるために肉厚です。本来であれば内側から果肉を食べてゆっくり育ち、十分に成長した後に桃を食い破って生まれるはずでした。
しかしどんぶらこっこと流されてしまった桃は、たまたま川に洗濯に来ていた婆に拾われ、柴刈りに行っていた爺の鉈で真っ二つにされたのでした。
果肉から十分に栄養を吸収できなかった幼子は、鉈を振るわれた恐怖で失禁したことを誤魔化すかのように泣き叫びます。
――こんな未熟な肉体で外界に出られるか!
しかし言葉も話せず立ち上がれもしません。その未成熟な姿は、人間の赤子とそっくりでした。子供がいなかった爺婆は、この赤子を桃から生まれた桃太郎と名付け、自分達が育てることにしました。
桃太郎にとって桃から生まれるのは当たり前のことですから、わざわざ二つ名のように「桃から生まれた」と冠されるのは居心地が悪いことこの上ありません。また、桃太郎という名前も、言ってみれば人間が人間太郎と名付けられるようなもので、大層不満でした。
とはいえ幼い体では話すこともできず、自分が入っていたあの桃を食わせろと泣いても、爺婆は理解してくれません。桃太郎の成長のために不可欠だった桃は、細かく切り分けられ、村中の人々に配られてしまいました。
若い衆が男も女も出稼ぎに行ってしまった村には爺婆しかおりませんでしたが、桃太郎の大切な桃を食べた村人達は皆一様に元気になり、まるで十ほども若返ったようだと喜びました。
さて、一方の桃太郎はお腹を空かせて泣きわめきます。山羊の乳も飲まず、粥も食べません。
せめてもの慰めにと婆に萎びた乳房を口に含まされましたが、当然お乳は出ず、かさかさとした舌触りの乳首は空腹をまぎらわせてもくれませんでした。
弱った婆は桃太郎を爺に預け、隣村まで貰い乳をしにいきました。
芝刈りに精を出す爺の背に負われた桃太郎は、このままでは死んでしまうと悲痛な泣き声を上げます。その声があまりにも煩くて、爺は何かを桃太郎の口に放り込もうと探しますが、手頃な物が見つかりません。
生来乳首が窪んでおり慰めにも桃太郎に吸わせてやれない爺は、考えあぐねて力のない摩羅を桃太郎の口に含ませました。
婆より十も年下の爺は、桃太郎の桃を食べたおかげもあって、老いたりといえども摩羅を吸われれば少しは形が変化します。角度がほんの少し変わり、舌触りも固くなって、口寂しい桃太郎は喜びました。そのままちゅうちゅうと吸い、小さな歯でかぷかぷと噛み付けば、ごく薄い子種がとぷりと口に広がりました。
多少えぐみがあるものの、生命の源である子種は桃の果肉のように体を作る源となるものだと本能的に感じ、桃太郎は喉を鳴らして飲み込みました。
するとどうでしょう。爺の摩羅は先程出したばかりだというのに、またむくむく大きくなるではありませんか。
これには爺も桃太郎も大喜びです。桃太郎は夢中でしゃぶりつき、調子づいた爺は腰を前後にかくかくと動かしました。そして、爺はうむぅと呻くと、再び子種を桃太郎の口の中に放出しました。
先程よりよほど濃く、量も多い子種を、桃太郎はごくごくと喉を鳴らして飲み干します。口から腹、そして全身へと行き渡り、体が活力を得ていくのを感じました。
どろりと濃くなった子種の後味を楽しみながら、桃太郎は桃の果汁の代わりに子種を飲めば生きていけそうだと確信しました。
爺は桃太郎の行動と突然若さを取り戻し始めた己の摩羅に、不思議なもんじゃと首を捻りながらも、これは婆に言うわけにはいかぬと頭を抱えるのでした。
鳥は卵から生まれて空を飛び、人間は女陰から生まれて大地を踏みしめる。そういう当たり前の決まりに従って、桃の精は桃から生まれる予定でありました。
しかし何の仏罰であったのか、桃が実をつける時期に大量の雨が降り、重くしなった枝から桃の精が入った果実が一つ千切れ落ちてしまいました。
桃の木はあいにくなことに旧街道の川沿いにあり、千切れ落ちた桃は川を流され、なすすべなく辺鄙な村へと流れ着いてしまったのでした。
芳醇な果肉は、幼い桃の精の成長の糧となるために肉厚です。本来であれば内側から果肉を食べてゆっくり育ち、十分に成長した後に桃を食い破って生まれるはずでした。
しかしどんぶらこっこと流されてしまった桃は、たまたま川に洗濯に来ていた婆に拾われ、柴刈りに行っていた爺の鉈で真っ二つにされたのでした。
果肉から十分に栄養を吸収できなかった幼子は、鉈を振るわれた恐怖で失禁したことを誤魔化すかのように泣き叫びます。
――こんな未熟な肉体で外界に出られるか!
しかし言葉も話せず立ち上がれもしません。その未成熟な姿は、人間の赤子とそっくりでした。子供がいなかった爺婆は、この赤子を桃から生まれた桃太郎と名付け、自分達が育てることにしました。
桃太郎にとって桃から生まれるのは当たり前のことですから、わざわざ二つ名のように「桃から生まれた」と冠されるのは居心地が悪いことこの上ありません。また、桃太郎という名前も、言ってみれば人間が人間太郎と名付けられるようなもので、大層不満でした。
とはいえ幼い体では話すこともできず、自分が入っていたあの桃を食わせろと泣いても、爺婆は理解してくれません。桃太郎の成長のために不可欠だった桃は、細かく切り分けられ、村中の人々に配られてしまいました。
若い衆が男も女も出稼ぎに行ってしまった村には爺婆しかおりませんでしたが、桃太郎の大切な桃を食べた村人達は皆一様に元気になり、まるで十ほども若返ったようだと喜びました。
さて、一方の桃太郎はお腹を空かせて泣きわめきます。山羊の乳も飲まず、粥も食べません。
せめてもの慰めにと婆に萎びた乳房を口に含まされましたが、当然お乳は出ず、かさかさとした舌触りの乳首は空腹をまぎらわせてもくれませんでした。
弱った婆は桃太郎を爺に預け、隣村まで貰い乳をしにいきました。
芝刈りに精を出す爺の背に負われた桃太郎は、このままでは死んでしまうと悲痛な泣き声を上げます。その声があまりにも煩くて、爺は何かを桃太郎の口に放り込もうと探しますが、手頃な物が見つかりません。
生来乳首が窪んでおり慰めにも桃太郎に吸わせてやれない爺は、考えあぐねて力のない摩羅を桃太郎の口に含ませました。
婆より十も年下の爺は、桃太郎の桃を食べたおかげもあって、老いたりといえども摩羅を吸われれば少しは形が変化します。角度がほんの少し変わり、舌触りも固くなって、口寂しい桃太郎は喜びました。そのままちゅうちゅうと吸い、小さな歯でかぷかぷと噛み付けば、ごく薄い子種がとぷりと口に広がりました。
多少えぐみがあるものの、生命の源である子種は桃の果肉のように体を作る源となるものだと本能的に感じ、桃太郎は喉を鳴らして飲み込みました。
するとどうでしょう。爺の摩羅は先程出したばかりだというのに、またむくむく大きくなるではありませんか。
これには爺も桃太郎も大喜びです。桃太郎は夢中でしゃぶりつき、調子づいた爺は腰を前後にかくかくと動かしました。そして、爺はうむぅと呻くと、再び子種を桃太郎の口の中に放出しました。
先程よりよほど濃く、量も多い子種を、桃太郎はごくごくと喉を鳴らして飲み干します。口から腹、そして全身へと行き渡り、体が活力を得ていくのを感じました。
どろりと濃くなった子種の後味を楽しみながら、桃太郎は桃の果汁の代わりに子種を飲めば生きていけそうだと確信しました。
爺は桃太郎の行動と突然若さを取り戻し始めた己の摩羅に、不思議なもんじゃと首を捻りながらも、これは婆に言うわけにはいかぬと頭を抱えるのでした。
1
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説


甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる