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同僚の本当の秘密 3/3

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 麻縄でホテルのテーブルの上にはりつけにされ、無理に股関節を開かれ続けているせいで、雛木の太腿はぶるぶると痙攣し出していた。
 貞操帯を付けられ、一度も射精を許して貰えないまま数時間が経過したペニスが、透明の筒に封じ込められてパンパンに腫れ上がっている。
 しかし、その周囲の内腿は、赤黒く腫れたペニスとは対照的に白く滑らかで、青い血管が透けて見えた。元々薄かった雛木の体毛は、麻縄に巻き込まれないよう、自身の意志で完全に剃り落とされている。一見清らかなその内腿は、しかし、先程まで別の男の脚を挟み込んでいた罪深い場所だった。
 工藤の奴隷としてふさわしくあるよう心を込めてケアしてきた美しい肌が、その主人にどれだけ痕を残したいと思わせていたのか、雛木は知らない。嗜虐の欲望を堪えて大切に扱われていたのに、その肌で他の男に触れ、あまつさえ絶頂しようとしたのは、雛木が自覚している罪とは微妙に異なる大きな罪だった。

「ここで、馬越君の大腿四頭筋を感じましたね? 引き締まった体型をしていた彼のことです。きっと太腿も男らしい固さだったことでしょう」
 すっと内腿を撫でられ、雛木は痙攣だけではない震えにがくがくと脚全体を揺らした。黒が濃い工藤の瞳に、怒りの青い炎が灯っているように見える。決して声を荒げることのない工藤の本気の怒りを、雛木は内腿の薄い皮膚越しに嫌というほど感じ取っていた。
「ご……めんなさい……」
 押し出した謝罪の言葉が空しく空気に呑み込まれる。自分の左手にパンッパンッと軽くパドルを打ちつける工藤には、慙愧ざんきの念が届いていないことは明らかだった。

 だがそれでも、雛木にとっては、工藤にこうして縛ってもらえたことは限りない喜びだった。震える手でホテルの部屋のドアをノックし、中から工藤が能面のような無表情で現れたのを目にしたとき、くしゃりと顔が歪んだのは恐怖のせいなどでは決してなかった。
 ――まだ、俺を待っていてくれた。
 雛木は心底安堵し、その場にくずおれそうになったのだ。
 だが……。
「これから私がしようとしていることは、プレイではなく奴隷への懲罰です。あなたにとっては痛いだけですし、一生消えない傷痕が残る可能性もあります。けれど、過ちを犯した奴隷を罰さずに、手元に置いておくことはできません。懲罰を受けるのが嫌なら、私の奴隷であることを今すぐ辞めると言いなさい。そうすれば、プレイメイトとして気持ちよくして差し上げます」

 奴隷であることを辞める。
 その言葉に目の前が真っ暗になった。
 これまでプレイを中止するかと問われたことはあっても、主従関係の解消を言葉にされたことは一度もなかった。それだけ工藤の怒りが深いのだとわかるし、そう言われても仕方がないことをした自覚もあるが、口にされた言葉はあまりにも重く、雛木を打ちのめした。
 絶対に嫌だった。この体が、心が、工藤の奴隷でなくなって放り出されるなど、考えただけでもあまりにも絶望的な恐ろしい自由だった。
「嫌です! あなたの奴隷でいさせてください!」
 反射的に叫んだが、工藤は尚も怒りを秘めた瞳のままだ。どうすれば、気持ちが伝わるのだろうか。
 雛木は涙を浮かべながら、工藤の奴隷であり続けるために言葉を重ねた。
「本当に申し訳ありませんでした。俺は全て……心も体も全て、工藤さんの物です。工藤さんの気が済むまで罰してください。痛いだけでも、傷になっても、喜んで受け入れます。何をして頂いても構いません。でもどうか、俺を、捨てることだけはしないで下さい……」
 最後には涙を流しながら、情けない格好のまま懇願した。
 今まで恋人と別れ話になっても、こんな風にすがり付いたことなどない。縋るくらいなら失恋の痛手にも耐えようと、プライドを立てて自分を守ってきた。だが、工藤に対してだけは、いくらでも、何度でも、みっともなく縋ることができた。

 雛木にとって工藤は、恋する相手である以上に、自分の体も考え方も全て変えてしまった、創造主といっても過言ではない存在だった。この体が、心が、工藤にいたぶられ、奴隷の底なし沼に突き落とされることを望んでいる。
 どんなにセックスが巧みな相手でも、こんな風に自分の全てを支配して欲しいとは思わない。自分が何を望んでいるか気付かせてくれた、限りない優しさと残酷さでいたぶってくれた工藤だからこそ、全身全霊で身を任せたいと思えるのだ。
 決して、工藤が万能だと思っているわけではない。雛木はただ、自分の主人だと心に決めた工藤に、いつまでも奴隷として支配されたかった。

「お願いします。俺をあなたの奴隷でいさせてください。そのためなら、どんな苦痛にも耐えます。俺は、あなたの側を離れたくない……!」
 必死に搾り出した言葉だったが、それに応える工藤はどこか苦しげだった。
「どんな苦痛にも耐える、と? そんなこと、簡単に言うものではありませんよ。あなたは嗜虐癖に支配される人間の業の深さを知らない。今は手加減できそうにないのです。痛みに泣き喚かれても興奮するばかりで、潮時を逃して怪我をさせてしまうかもしれません」
 怒りに燃える工藤の瞳の中に、一抹の悲しみが見えた。それは雛木が初めて目にした、強い嗜虐心を持て余す工藤の隠された一面だった。
「そんな……俺は罰されて当然なのに……。手加減なんてしないで下さい」
 心から、手加減なんていらないと思っている。他の男の前で勝手にイきかけたばかりか、両足で縋り付いて腰を振るなど、工藤の奴隷としてありえない。もし仮に、絶対に嫌だが、もし仮に工藤が他にも奴隷を飼っていて、その奴隷がこんなことをしたら、そいつはあなたが飼うには相応しくないと進言していただろう。
 だが、そんな雛木の必死さを受け入れることなく、工藤は皮肉に唇を歪めた。
「私が怒りのままに折檻したら、充分仕込んだ奴隷でも病院に運ばれる羽目になります。今のあなたでは、一時間ともたずに再起不能ですね」
 工藤の瞳にはもう悲しみの影はない。いつも通り、うまく隠されてしまった。しかし、工藤だけをひたむきに欲する雛木の心には、一瞬零れた工藤の悲しみが恐ろしいほどの刃となって突き刺さった。雛木の目から、ぼろぼろと涙が零れ落ちる。

 つまり工藤は、雛木を思いやるせいで、これまで全く本気を出せていなかったのだ。
 思い返してみれば確かに、プレイ後に筋肉痛を感じたり、数日で消える程度の縛り跡や痣が残ったことはあったが、所詮はその程度だった。入院や、ましてや再起不能になるほどの怪我には程遠い。
 雛木にとっては一つ一つが未知のプレイで、限界を超えるような刺激だったが、工藤にとっては児戯に等しかったのだろう。
 どれほどプレイの枠組みの中に工藤自身の欲望を抑え込んできたのかと思うと、申し訳なさに涙が止まらなくなった。
 工藤も楽しいと、興奮すると言ってくれてはいたが、雛木は工藤が欲望を解放した瞬間を見たことはない。何しろ雛木は、工藤の裸ですら見たことがないのだ。
『私は、プレイとセックスは明確に線引きをしたいと考えています。ですから、どうしてもセックスがしたければ、他で相手を調達してきて下さい。もちろん、プレイメイトへの最低限の礼儀として、私には気づかせないようにして頂きたいですが』
 出会った最初の頃にそう言われて、サディストとはそういうものなのかと納得した。
『調教を受けたことのないあなたの体を責められれば、私は充分に興奮し、満足できます』
 そう言った工藤の言葉は、何割が本音だったのだろうか。

 本当は、どんなプレイをしたかったのだろうか。手加減せずに鞭打ち、締め上げたかった? それとも、殴ったり蹴ったり? 最初にNGだと伝えた撮影や、スカトロプレイが好みだったりするのだろうか。
 教わり、調教して貰う側だからと、全てを工藤の判断に委ねてきた。いつも怪我をさせないよう、無理をさせすぎないように細心の注意を払ってくれていると知っていながら、それにただ甘えていた。
 嗜虐趣味を持つ工藤が、同時にどれほど優しい人か、わかっていたはずなのに。
 烈しいはずのサディストの怒りや欲求を堪え、こんな時でさえプレイメイトのまま別れる道を用意してくれる工藤の優しさが、申し訳なくて可哀想で、そして愛しくて仕方がなかった。
 ――あなたは支配者です。俺のご主人様です。だから、我慢せずに、怒りも欲望も俺にぶつけていいんです。
 気付けば雛木は、そんな思いのまま叫んでいた。
「あなただけの奴隷でいたいんです! あなたになら、ペニスを切り落とされたって構いません!」

 虚を突かれたように、工藤の目が見開かれた。その後、感情を押し殺したいかのように、視線がうろうろと動く。
 似合わない明らかな動揺を見せる工藤とは対照的に、雛木は涙を流しながらも強く迷いのない視線で自分の主人を見つめた。
 男のアイデンティティであり、快感の中心であるペニスであっても、工藤に捨てられることを思えばいくらでも手放せると本気で思えた。
 とっさに紡いだ言葉に真実が宿ることがある。雛木は猟奇的とすら思える服従の言葉を口にしながら、あぁ自分は心から工藤を愛しているのだと、場違いな歓喜に胸を震わせた。
「どうか、俺をあなたのお側に置いてください」
 最早痛みを受け入れることに何の抵抗もなかった。決心を込めて見据えれば、工藤はなぜか、何かを堪えるように顔を歪めた。
「馬鹿な人、ですね……」

 そこから先は、工藤の表情を見ることはできなかった。目隠しをされ、ボールギャグを咥えさせられたのだ。雛木のためというより、工藤のために視線と言葉を封じられたと直感した。
 過ぎた苦痛や気に入らない行為に対して意思表示できるよう、普段であれば体のどこかしらは自由にされていた。だが今は、視線で手加減を請うことすら許されず、主人の気の済むまで折檻を受け続けるために拘束されていた。
 それはプレイのルールから外れる扱いだが、工藤が少しでも自分の思うままに折檻を加える気になってくれたなら嬉しくて、目隠しの下で雛木は安心したように泣き濡れた目を閉じた。


 パァン!
 何の前触れもなく、高い打擲音ちょうちゃくおんと共に、雛木の右の内腿に痛みが走った。
「っ!」
 びくりと身を竦めるが、すぐに努力して体の力を抜く。
 パァン!
 今度は左足の内腿に痛みが走る。熱い風船を押し付けて割られたような、面で熱を感じる痛みだった。きっと、工藤が手にしていたパドルで打たれているのだろう。
 パドルは打擲面が広く、凹凸がない分、一打一打は音の大きさに比べて痛みは少ない。だが、元々皮膚の薄い内腿は、一度打たれただけでも熱を持ち、同じ場所を五度六度と続けて打たれると、飛び上がる程の痛みに苦しめられた。
 パァン! パァン! と音高く脚の付け根から膝のすぐ上まで万遍なく打ち据えられ、内腿が発火してしまったかと思うほどの熱を持つ。ひりひり、じりじりとした絶え間ない痛みは、いっそとどめをさしてほしいというような、どうしようもない疼きを生んだ。
 そこを更に打ち据えられると、痛みが内腿から腰を伝って脳天まで突き抜ける。雛木は声を出しているという自覚も無いままに、打たれる度に「ふぅぅぅっ! ぐうぅぅぅっ!」とくぐもった悲鳴を漏らした。
 視界を封じられているせいでいつ痛みに襲われるかわからず、愛する工藤の振り下ろすパドルだとわかってはいても恐怖を感じる。大きく振りかぶった時にはひゅっと空を切る音が聞こえるが、近くではたくようにされると、何の前触れもなく唐突に痛みが襲うのだ。
 工藤はパンパンパンッと続けざまに近くから打ったかと思うと、雛木が不安に思うほど間を置いてから音高くパァン! と打ち据え、リズムを掴ませない。
 これまで何度も鞭やパドルで打たれたことがあったが、今回は明らかに一番長く、多く打たれている。ボールギャグの穴からは、悲鳴の合間にひゅうひゅうと荒い呼吸が漏れ、革製の目隠しは涙でじっとりと濡れた。

 最初の内は打たれる回数を頭の中で数えていたが、三十を超えた辺りで数えることを放棄した。ひりひりとしていた内腿は、今では打たれていない時でもズキズキと激しく痛んでいる。
 スラックス越しに感じた馬越の太腿の感触など、とうに遠のいてもう少しも思い出せない。
 皮膚が切れた感覚は無かったが、こう何度も打たれれば、薄い皮膚に血が滲んでいても不思議ではなかった。目隠しのせいでどうなっているか確認はできないが、明らかに、数日で痕が消えるレベルの痛みではない。
 それでもまだ、工藤の打擲ちょうちゃくは止まらない。無言で振り下ろされるパドルに皮膚が上げる悲鳴は、相変わらずパァンパァンと小気味いいほどの切れ味だが、雛木のくぐもった悲鳴は徐々に掠れていく。
 痛い。と、打たれる度に思うが、本当にそれが痛みなのかもわからなくなってきていた。セーフワードと呼ばれる、プレイを中断する言葉を口にする自由もないまま嬲られ続け、雛木はただ悲鳴を上げながら痙攣する肉人形に堕とされた。
 時間の感覚が無くなるほど嬲られ続け、雛木の集中力は完全に切れていた。緊張と弛緩を繰り返す肉体は、疲労し切って泥のように重い。音高く打たれる度に呻いて痙攣するのは、痛みではなく最早ただの条件反射だった。
 むしろ、打たれる度に反射で後孔のプラグを締め付けてしまうのが、たまらなく気持ちいいとすら思えてきた。内腿の痛みから無意識に逃れようとしているのか、プラグに抉られる媚肉の快感ばかりを追ってしまう。
 プラグは相変わらず静かに振動を続けていて、その大きさにすっかり馴染んだ内壁を震わせ続けている。呑み込む時にはあれほど苦しかったのに、打擲の痛みを絶え間なく与え続けられた今となっては、酷く優しく心地よく、どこか愛しいとすら感じられた。

 プラグに与えられる快感に逃げた雛木の悲鳴には、徐々に甘えるような響きが混じり始めている。しかしその声はとっくに掠れ切り、ぐったりとした全身の様子は、明らかに限界を訴えていた。
 工藤にボールギャグを外されても、口は半開きになったまま閉じようとせず、端からたらたらと唾液を溢れさせる。パドルがしばらく振り下ろされないでいると、その口からは夢見るように「あ……ん……う……」と意味をなさない吐息交じりの小さな声が漏れた。
  
 だが突然、これまでと異なる、バシイィッという重い音が響いた。
「うああああっ」
 あまりの衝撃に雛木は絶叫し、縛られた体を身悶えさせ、続いてガクガクと痙攣する。
 工藤が打ち据えたのは、貞操帯に包まれた雛木のペニスだった。雛木は朦朧としていて気づいていなかったが、ボールギャグを外された際に、貞操帯の革ベルトも解かれていた。きついシリコンの筒はいまだに雛木のペニスを包んではいたが、革ベルトを外されたことで貞操帯を引っ張る力は消え、コックリングにスナップで取り付けられただけの状態になっている。筒自体が下向きに成形されてはいるが、コックリングの力もあり、ペニスは小さい筒の中で窮屈そうにしながらもゆるく勃ち上がっていた。
 そこを、パドルで打たれたのだ。急所への打擲は、脳が揺れたかと思うほどの痛みをもたらした。
 
 しかし、その一瞬の鋭い痛みが過ぎ去ると、腰全体がじぃんと痺れるような鈍く疼く痛みに変化する。
 鋭かろうが鈍かろうがどちらも痛みだというのに、長時間打たれ続けて痛みに馴染んだ体は、鋭い痛みに比べればその疼く痛みは快感なのだと縋りつく。痺れを味わうように、ペニスがひとりでにひくひくと上下に揺れた。
 その時、深く呑み込んだアナルプラグの振動が一気に強くなった。
「あああっ」
 工藤がリモコンで振動を最大にしたのだ。それまでごく静かだったプラグのモーター音が、疲労した雛木の耳にも届く程大きくなっている。
 ペニスを打たれた痛みは後を引いているのに、プラグに与えられる強い快感と混じり合って、どうしようもないもどかしさを生む。
 ウエストに回された麻縄を外され、次いで両膝も、足の甲も縄を外されると、自由になった腰がくなくなと勝手に動いた。長時間割り開かれていた股関節は痛み、脚は思うように閉じられず、全身に力が入らない。それなのに、腰だけが別の生き物にでもなってしまったかのように、快楽を求めて貪欲にうねる。

「ああ……ああん……」
 快感を追いたい欲求が、遂には痛みを凌駕する。両腕はいまだ麻縄で拘束されたままだったが、無意識のうちに足の裏をテーブルにつけ、腰を持ち上げてグラインドさせ始める。恥ずかしい場所で、プラグをもっと味わいたいのだ。
 腰を激しく振るほどに、打たれ続けた内腿がずくんずくんと脈に合わせて痛み、アヌスを犯されているかのような感覚が強くなる。
「ああん……ああんっ」
 雛木は掠れた甘ったるい喘ぎ声を上げながら、無心で腰を動かした。
 もうすぐいける。もうすぐ。
 勝手にイってはいけないだとか、これは懲罰なのだとか、全ての事柄が頭からすっぽり抜け落ちていた。雛木の脳みそはふわふわとしていて、絶え間なく感じているはずの痛みすら、快感と渾然一体となる。
 しかし、意識を飛ばすことは許さないとでもいうかのように、性器へ向けて続けざまに二度パドルが振り下ろされた。
「うあああんっ! ああああんっ!」
 酷く打たれたというのに、雛木は絶頂を思わせる激しい嬌声を上げる。ペニスは耐え難い痛みに痺れていたが、その分アヌスに逃げた意識が強い快感を増幅して、信じられないほど気持ち良かった。
 そっと目隠しを外されたが、ガクガクと全身を震わせる雛木の視線は定まらず、虚空に向けて茫洋と半眼に開かれていた。

「あなたは本当に奴隷の素質がありますね。こんなにされても感じるなんて。……あなたにのめり込んでしまいそうで、本当は少し怖いのです」
 工藤は雛木が誓いの口付けを刻んだ手の平で、赤紫色に腫れ上がり所々うっすらと血を滲ませる内腿をそっと撫でた。
 朦朧とする雛木の耳には、工藤の独白は届かない。それでも、その優しい手の感触が与えてくれるビリビリとした痛みに、嬉しくて堪らないといった声で鳴いた。
「ああんっ、ああんっ、ああんっ! い……くぅ……」
 最後は噛み締めるような小声になりながら、雛木は射精しないまま絶頂を極めた。数度の痙攣の後、ようやく本当の弛緩を許された体は、磔にされたテーブルに呑み込まれるようにぐったりと力を失う。
 弛緩した足の間から、温かい液体がちょろちょろと流れ出す。股間を失禁で濡らしながら、雛木は少し微笑み、それきり意識を手放した。
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