17 / 38
同僚の本当の秘密 2/3
しおりを挟む
雛木は裸体に貞操帯だけを身に着け、工藤の足元で四つん這いになっていた。
いや、正確には三つん這いとでも言うべきか。わずかに緩めて貰った貞操帯のベルトの隙間から指を捻じ込み、脂汗を浮かべながら自分の後孔を必死で解しているのだ。
苦しいのは三本の指を飲み込んでいるせいなどでは当然なく、その刺激でどうしても膨らんでしまうペニスが貞操帯に圧迫されているせいだった。
できるだけ何も感じないよう、事務的に指を動かすように努めてはいるが、工藤に見られていると思うだけで、どうしても雛木の性感は高まってしまう。
しかも、その工藤は、雛木の目の前で突起だらけの巨大なアナルプラグにローションを塗り込んでいるのだった。
粘度の高いローションは垂れることなくプラグの表面に留まり、てらてらと光っている。自分を責めるために突起の一つ一つにまで丁寧に潤滑剤を塗りこんでくれている主人を、雛木は床に這ったまま切なげに見上げた。
雛木のペニスは今、中途半端な大きさで筒の中をみっちりと満たしているが、あんな物を入れて貰ったら勃起せずにいられるはずがない。巨大で凶悪な物を嵌められるアヌスも、勃起を許されないペニスも、きっと同じくらい辛いに違いなかった。
「これでアヌスを塞いでおけば、節操のないあなたでも安心ですね。静音性に優れていますから、あなたさえ普通の顔をしていれば大丈夫です。まさかこんな巨大な玩具をお尻に入れながら話しているなんて、馬越君は思いもしないでしょう」
なんと、凶悪な造形の上に振動までするらしい。そんなものを嵌められ、ペニスを封じられながら馬越とこれから会うなんて、考えただけで頭がおかしくなりそうだった。
普段の社内での馬越の顔を思い浮かべるが、その現実感のなさに、雛木はぬらぬらと濡れ光るプラグを呆けたように見つめるしかない。
しかし、全ては雛木が望んだ結果の責め苦だった。
雛木はカーペットにつけた額で上体を支え、両手で自ら尻肉を割り開いて、ずぶずぶと埋め込まれる凶悪な造形を受け入れた。あまりの太さと突起の大きさに、力を抜きすぎると入口が内側に引き込まれて痛みを覚えたため、軽くいきんで押し出す動きで内側からもアヌスを開く。雛木のこめかみには脂汗が伝い、口からはハァハァと荒い息が漏れた。
体の中でおそらく一番無防備な場所を、未知の凶器で抉られる。もちろん、恐怖心を抱かないはずがない。
しかし、意識的に開いた敏感な肉筒を抉られる刺激は、アナルセックスに慣れた人間にとっては、恐怖心を遥かに凌駕する快感だった。
雛木は我慢できずに「あーっ」と上ずった声を嬉しげに上げた。しかし、即座に「あうっ……ううっ……」と呻く。アヌスへの快感を得て膨らんだペニスが、ギリギリと締め付けられるのだ。
感じてしまえば自分が苦しむだけだとわかっていた。突起が入口を擦る度に皮膚が引きつり、締め上げてしまいそうになるのを、雛木は必死で堪えて尻肉を割り開く両手に力を込める。
媚肉はみっしりと突起に絡みつくが、それを振り払うかのように抉り進まれて、苦しさと歓喜に背筋が震えた。
指が届かず広げきれなかった奥の肉襞まで、プラグは容赦なく突き入る。めりめりと音がしそうなほど奥深くまで押し開かれて、息ができないくらい苦しい。しかし、そこには一種の充足感もあり、雛木は「あぁ……こんな……」と意味をなさない感嘆を漏らすのだった。
かなりの時間をかけて、プラグの太い部分がほぼ全て肉筒に収まり、もうこれ以上は入らないというところでようやく侵入が止まった。ぜぇぜぇと荒い息をつきながら、太いプラグに押し開かれたままの括約筋を緩め、尻肉から手を放して四つん這いに戻る。
その瞬間、雛木の体外に露出していたプラグの石突部分が、工藤の掌底でどんっと突き込まれた。
「うああああぁっ」
衝撃に悲鳴を上げ、前のめりに倒れこむ。工藤に突き込まれたせいで、行き止まりだと思われた奥の壁がたわみ、侵入が更に深くなる。くぷりと音を立てて入口の輪が閉じ、括れたストッパー部分をしっかりと食んだのが、雛木にも感覚でわかった。
奥深くを抉られた衝撃からすぐには立ち直れず、雛木は腹を両手で守るように押さえて、転がったまま体を丸める。息がつけず、ハッハッと暑がる犬のような浅い呼吸を繰り返すことしかできない。
だが工藤は許さず、
「立ちなさい。今すぐに」
と命じた。
ずっしりと重く感じる腹を抱え、雛木はよろよろと立ちあがる。
「貞操帯を締め直しますから、お尻をこちらに向けてください」
雛木は工藤に促されるままローテーブルに両手をついて、腰を突き出した。
太い部分を全て雛木の体内に収めたプラグは、丸く平らな石突部分だけが体外に表出している。まるで、シリコンの円がアヌスを覆い隠しているかのようだ。
「抜けてしまわないように、しっかりと締めておきましょうね。きつい方があなたも好みでしょう?」
工藤は雛木の返事を待たず、プラグを嵌めるために緩めていた貞操帯の革ベルトを、改めてプラグの石突の真ん中を通るように調節し、思い切り締め上げた。
「ぐうぅ……っ!」
雛木が潰れた悲鳴を上げても構わずに、工藤は革ベルトをギリギリと締め上げ、深く食い込ませる。雛木のペニスは蟻の門渡りに埋没し、アナルプラグは抜け落ちようのない深さで固定された。
前も後ろも刺激的な道具で封じられ、もう指一本入る余地はない。腹を深く抉られた衝撃にも萎えることのなかったペニスは、時間と共にどんどん痛みを増していた。
「そろそろ馬越君が新宿に着く頃ですね。さぁ、服を着て」
促され、よろめきながらシャツに袖を通す。シャワーで濡らされた下着は当然まだ乾いていないので、シャツもスラックスも素肌に直接身に着けるしかなかった。
「では、レイの店に向かいましょう」
そう言って雛木の前を歩く工藤は、ホテルの廊下に出た瞬間、ポケットに入れていたプラグのリモコンをオンにした。
馬越と落ち合うまでの時間は、長く甘い苦しみの連続だった。
充電式らしい無線のプラグは、確かに振動音こそ驚くほど静かだったが、大きく膨らんだ部分の刺激のパターンは多彩で、根元から先端まで複雑に震え、突起が内壁を抉る。突起の先端がギザギザと波型になっているため、あらゆる場所に食い込み、狂おしく媚肉を揺さぶっていた。
その上、いわゆる上級者向けの玩具なのだろう、括約筋が締め付けるストッパーとなる括れもかなり太く、その部分までも激しく振動した。
プラグを嵌め込まれた雛木の肉筒は、大きく押し広げられ無数の突起で抉られる上、特に敏感な入口部分まで常に刺激されている状態だ。肛虐を愛する雛木にとって、その快感は到底抗えるようなものではない。いけないと思ってはいても、アヌスは勝手に収縮を繰り返し、玩具を心ゆくまで味わおうとしてしまう。
しかし、振動のままに腰を振って快感を追えば、どうしようもなく膨らむペニスがぎっちりと締め付けられる。
せっかく工藤が注文してくれたウイスキーにも、口をつける余裕がまるでない。
工藤だけでなく、レイにも見られているのにも関わらず、雛木は「うぅ……あひ……あうぅ……」と喘ぎ交じりの悩ましい呻きを上げ続けるしかなかった。
「雛木くんは、女性化貞操帯が気に入ったようですね。良かったですね?」
意味ありげに流し目を送るレイに対し、お前には関係ないとばかりに工藤がふんと鼻を鳴らす。
とろんとした目で、悦びと苦痛に喘ぎながらスツール上でもじもじと腰をくねらせ続ける雛木は、心ここにあらずだ。工藤がこの数日で知り合いの玩具職人を説き伏せ、今夜のために特殊な形状の貞操帯を急いで作らせたことなど知るよしもない。
雛木の身を守りつつ、雛木がプレイを楽しめるように必要な物を用意する。それは手間も金もかけた、確かな工藤の愛情表現だった。
とはいえ工藤の本心では、雛木には今夜だけと言わず、常に貞操帯を付けさせたいのである。
ペニスにピアス通して貞操帯を固定し、奴隷の射精を完全に管理するのは、工藤にとっては基本中の基本だった。かつての奴隷達にはもれなくそうしてきたし、何なら奴隷の体に焼き印やタトゥーを入れて、完全に所有し、管理してきた。
人を人とも思わないようなその所業は、もちろん工藤の愛ゆえだ。大切に思えば思うほど、相手の全てを所有し、自分専用に作り替えたい欲求が強くなる。それは、サディストの愛であり、業だった。
ありとあらゆるいやらしい責めを施し、思うままに痛めつけたい。そして愛する奴隷には、そんな身勝手な欲望の全てを許し、自分の足元に跪きながら寄り添っていてほしい。
だが雛木に対しては、プレイの枠を超えないように、そのドロドロとした感情を抑え込んできた。
確かめてはいないがおそらく真っ当な職に就いている、自分に会うまでは多少被虐嗜好があるだけだった雛木を、工藤の好み通りに仕立て上げた本物の奴隷に堕とすのは憚られる。
何しろ工藤は過去に何人も、陽の光の下を歩けないような、戻れないところまで追い込んでいた。中には、取り返しのつかない可哀想な目に遭わせてしまった奴隷もいる。
もうこれ以上、自分のエゴで不幸なマゾヒストを増やしたくはない。そう思ったから、全ての奴隷を手放して、自分の意思でこの世界と手を切ったのだ。
そんな工藤が雛木を手に入れたのは、完全に成り行きだった。もう誰も不幸にしたくなかったのに、うっかり手放せなくなってしまった。
だからせめて、雛木が将来後悔するような、厳しい調教はしたくない。自分の奴隷になりたいと健気に訴える雛木を、せいぜい愛玩用の奴隷として可愛がっていたい。自分のためにも、雛木のためにも、ある程度のところで留めておくべきなのだ。
……と、昨日までは思っていた。
不幸にすまいと、サディストの欲望を堪えて大切に大切に育ててきたのに、ここへ来て他の男にその熟れつつある体を晒し、欲情されるなどもっての外だった。他の男に与えるくらいなら、もう二度と引き返せないくらい、その体をとことんまで奴隷の色に染め上げてやりたい。
要は、嫉妬だ。
馬越との話を聞いてから、工藤の中には今まで以上の葛藤が渦巻いていた。雛木を完全なる自分の奴隷に堕としてしまいたいという思いと、あくまでもお互いにプレイと割り切れる範囲で楽しめる今の距離感を壊したくないという思い。冷静な支配者の仮面の下には、常に激情が渦巻いている。
工藤の雛木に対する所有欲と独占欲は、雛木が考えているよりはるかに強いものだった。
「そろそろ馬越君は新宿に着いた頃でしょうか。せっかくですから、より女性らしく見えるように、時間ぎりぎりまで乳首を刺激して大きくしておきましょうね」
そう工藤に命じられ、カウンターの端でシャツの上から乳首を自分で弄らされても、雛木は悦びこそすれ工藤の嫉妬を感じることはなかった。そんな複雑なことは考えたり感じたりする余裕がなかった、という方が正確かもしれない。
たまらず反応してしまうペニスの痛みに涙目になりながら、乳首を少しでも大きくしようと一生懸命ぐりぐりと揉んだ。レイが皮肉たっぷりに「大サービスですね」と笑う前で、羞恥と快感にイきそうになりながらも乳首を引っ張り続けていた。
そして、たっぷり十五分は経った頃。通路を進んでくる靴音が店内に届いた。ガッガッという無遠慮な急ぎ足が、いかにも馬越らしい。工藤が頷いたので、雛木はようやく乳首から手を離し、ジャケットの襟元を整えた。
「言うまでもないことですが、彼の前でイったりしないように。心がけではなく、命令です」
入口近くのスツールに離れて座った工藤の低い声を最後に、雛木・工藤・レイの三者は口を噤み、重い木の扉が開かれるのを待った。
隠しカメラ越しに工藤とレイに見られていると思えば思うほど、他の男を誘惑する罪悪感に胸が掻き毟られ、同時にどうしようもなく昂ぶった。
馬越と落ち合った時点で、既に雛木の体は達する寸前まで追い詰められていたから、官能の炎は熾火どころではなく、周囲の空気を焦がすほどに渦を巻いていた。乳首はじくじくと疼き、ペニスは膨らんで貞操帯に締め付けられ、突起だらけの玩具の振動にアヌスを抉られ続ける。普段は何とも思わない馬越の男臭い顔や汗混じりの体臭でさえ、油を染み込ませた薪のように官能の炎を燃え立たせた。
あまり近づくとプラグの振動音が聞かれてしまうかと思って、大きめのBGMをレイにリクエストしたのは雛木自身だったが、どうかこのトランスミュージックが自分の本気の喘ぎを掻き消してくれと心から願った。
工藤の命令通り、絶対にやり遂げなければならない。自分が撒いた種なのだから、工藤に命じられた方法で必ず刈り取らなければならない。
その一心で、自ら扇情的に振る舞う。だが、乳首への物理的な刺激や、工藤に装着された玩具のせいだけではなく、ストレートのはずの馬越が自分の痴態に股間を固くしている姿を見て、より興奮してしまったのも紛れも無い事実だった。
工藤にいやらしく育ててもらった乳首を弄くり回し、それで興奮する別の男を見るのは、確かに新しい快感だった。みるみる固くなりスラックスを突き上げる馬越の股間も、荒い息をつきながら食い入るように自分の痴態を見つめる視線も、雛木を大いに興奮させた。
それでいて決して自分は勃起を許されず、ペニスとアヌスを玩具でいたぶられ続けていたのだ。乳首への刺激だけで簡単に達することができる雛木にとって、確かにそれは、拷問に近い過ぎた刺激ではあった。
だからといって、命令に背いていい理由にはならない。乳首でイきそうになったとき、雛木は本気で狼狽していた。
――ダメだっ! 絶対にダメ! あぁでもどうしよう、どうしよう、気持ちいい、止まんない……!
突起まみれの振動するプラグを締め付けながら、意思に反して腰が勝手に動き、射精を伴わない絶頂へと駆け上がるのを止められなかった。
「いやだっ! いっちゃうっ、いっちゃうっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
防犯カメラ越しに見ているはずの工藤に、切羽詰った謝罪を叫ぶ。駄目だと思うのに、絶対に駄目だと思うのに、ガクガクと前後する腰は止まらない。ペニスは締め付けられて最早痛みしか感じられないのに、熟れ切った乳首から全身に散る火花は、音を立てて燃え広がる圧倒的な絶頂の炎の中に雛木を巻き込んだ。
「ごめんなさいっ! ああっ! ああっ! いくぅっ……!」
見かねたレイが扉をノックしなければ、馬越の前でイくなという命令を守れなかったことは明白だ。
自分が犯した罪が、工藤を失望させただろうと思うと、身を切られるような申し訳なさと恐怖が雛木を苛んだ。
バーカウンターのスツールは、やはりもう空になっていた。お会計は済んでいますよ、と言ったレイの困ったような微笑みが、席を立った工藤の怒りようを思わせた。
性器どころか体にさえ触れられたわけでもないのに、命令に背いて他の男の前で勝手にイきそうになるなど、工藤の奴隷としてあってはならないことだった。きっと工藤は不愉快になり、呆れ、馬越相手に気持ち良くなれるならわざわざ自分が調教してやる必要もないと思っただろう。
雛木は自分の体と心を心底不甲斐なく思った。酷く感じやすくなった体は工藤の調教の賜物だと思えばこそ愛しいのであって、工藤を裏切ってしまうなら何の意味もない。快楽の奴隷ではなく、心も体も工藤の奴隷でありたいのだ。
だが今頃工藤は、もっと自分にだけ忠実で淫乱な慎み深い奴隷を探そうと、荷物を纏めてホテルを後にしているかもしれない。
許してもらえるなら何でもしよう。自分に差し出せる物なら何でも差し出そう。
工藤に捨てられるかもしれない不安に押し潰されそうになりながら、絶頂の寸前で逸らされた重い体を引きずって、雛木はバーを後にした。
もちろん、秘密の部屋に残された馬越のことなど、髪の毛の先ほども思い出しもしない。
バーの店内には、口をつけられないまますっかり氷が溶け切った雛木のロックグラスを手に、タブレットの画面を見つめるレイだけが残された。リアルタイムで映る、スーツ姿の男が一心不乱に己の性器を扱く映像をつまみに、琥珀色の液体を大胆に呷る。
その唇の端は、至極楽しげに吊り上がっていた。
いや、正確には三つん這いとでも言うべきか。わずかに緩めて貰った貞操帯のベルトの隙間から指を捻じ込み、脂汗を浮かべながら自分の後孔を必死で解しているのだ。
苦しいのは三本の指を飲み込んでいるせいなどでは当然なく、その刺激でどうしても膨らんでしまうペニスが貞操帯に圧迫されているせいだった。
できるだけ何も感じないよう、事務的に指を動かすように努めてはいるが、工藤に見られていると思うだけで、どうしても雛木の性感は高まってしまう。
しかも、その工藤は、雛木の目の前で突起だらけの巨大なアナルプラグにローションを塗り込んでいるのだった。
粘度の高いローションは垂れることなくプラグの表面に留まり、てらてらと光っている。自分を責めるために突起の一つ一つにまで丁寧に潤滑剤を塗りこんでくれている主人を、雛木は床に這ったまま切なげに見上げた。
雛木のペニスは今、中途半端な大きさで筒の中をみっちりと満たしているが、あんな物を入れて貰ったら勃起せずにいられるはずがない。巨大で凶悪な物を嵌められるアヌスも、勃起を許されないペニスも、きっと同じくらい辛いに違いなかった。
「これでアヌスを塞いでおけば、節操のないあなたでも安心ですね。静音性に優れていますから、あなたさえ普通の顔をしていれば大丈夫です。まさかこんな巨大な玩具をお尻に入れながら話しているなんて、馬越君は思いもしないでしょう」
なんと、凶悪な造形の上に振動までするらしい。そんなものを嵌められ、ペニスを封じられながら馬越とこれから会うなんて、考えただけで頭がおかしくなりそうだった。
普段の社内での馬越の顔を思い浮かべるが、その現実感のなさに、雛木はぬらぬらと濡れ光るプラグを呆けたように見つめるしかない。
しかし、全ては雛木が望んだ結果の責め苦だった。
雛木はカーペットにつけた額で上体を支え、両手で自ら尻肉を割り開いて、ずぶずぶと埋め込まれる凶悪な造形を受け入れた。あまりの太さと突起の大きさに、力を抜きすぎると入口が内側に引き込まれて痛みを覚えたため、軽くいきんで押し出す動きで内側からもアヌスを開く。雛木のこめかみには脂汗が伝い、口からはハァハァと荒い息が漏れた。
体の中でおそらく一番無防備な場所を、未知の凶器で抉られる。もちろん、恐怖心を抱かないはずがない。
しかし、意識的に開いた敏感な肉筒を抉られる刺激は、アナルセックスに慣れた人間にとっては、恐怖心を遥かに凌駕する快感だった。
雛木は我慢できずに「あーっ」と上ずった声を嬉しげに上げた。しかし、即座に「あうっ……ううっ……」と呻く。アヌスへの快感を得て膨らんだペニスが、ギリギリと締め付けられるのだ。
感じてしまえば自分が苦しむだけだとわかっていた。突起が入口を擦る度に皮膚が引きつり、締め上げてしまいそうになるのを、雛木は必死で堪えて尻肉を割り開く両手に力を込める。
媚肉はみっしりと突起に絡みつくが、それを振り払うかのように抉り進まれて、苦しさと歓喜に背筋が震えた。
指が届かず広げきれなかった奥の肉襞まで、プラグは容赦なく突き入る。めりめりと音がしそうなほど奥深くまで押し開かれて、息ができないくらい苦しい。しかし、そこには一種の充足感もあり、雛木は「あぁ……こんな……」と意味をなさない感嘆を漏らすのだった。
かなりの時間をかけて、プラグの太い部分がほぼ全て肉筒に収まり、もうこれ以上は入らないというところでようやく侵入が止まった。ぜぇぜぇと荒い息をつきながら、太いプラグに押し開かれたままの括約筋を緩め、尻肉から手を放して四つん這いに戻る。
その瞬間、雛木の体外に露出していたプラグの石突部分が、工藤の掌底でどんっと突き込まれた。
「うああああぁっ」
衝撃に悲鳴を上げ、前のめりに倒れこむ。工藤に突き込まれたせいで、行き止まりだと思われた奥の壁がたわみ、侵入が更に深くなる。くぷりと音を立てて入口の輪が閉じ、括れたストッパー部分をしっかりと食んだのが、雛木にも感覚でわかった。
奥深くを抉られた衝撃からすぐには立ち直れず、雛木は腹を両手で守るように押さえて、転がったまま体を丸める。息がつけず、ハッハッと暑がる犬のような浅い呼吸を繰り返すことしかできない。
だが工藤は許さず、
「立ちなさい。今すぐに」
と命じた。
ずっしりと重く感じる腹を抱え、雛木はよろよろと立ちあがる。
「貞操帯を締め直しますから、お尻をこちらに向けてください」
雛木は工藤に促されるままローテーブルに両手をついて、腰を突き出した。
太い部分を全て雛木の体内に収めたプラグは、丸く平らな石突部分だけが体外に表出している。まるで、シリコンの円がアヌスを覆い隠しているかのようだ。
「抜けてしまわないように、しっかりと締めておきましょうね。きつい方があなたも好みでしょう?」
工藤は雛木の返事を待たず、プラグを嵌めるために緩めていた貞操帯の革ベルトを、改めてプラグの石突の真ん中を通るように調節し、思い切り締め上げた。
「ぐうぅ……っ!」
雛木が潰れた悲鳴を上げても構わずに、工藤は革ベルトをギリギリと締め上げ、深く食い込ませる。雛木のペニスは蟻の門渡りに埋没し、アナルプラグは抜け落ちようのない深さで固定された。
前も後ろも刺激的な道具で封じられ、もう指一本入る余地はない。腹を深く抉られた衝撃にも萎えることのなかったペニスは、時間と共にどんどん痛みを増していた。
「そろそろ馬越君が新宿に着く頃ですね。さぁ、服を着て」
促され、よろめきながらシャツに袖を通す。シャワーで濡らされた下着は当然まだ乾いていないので、シャツもスラックスも素肌に直接身に着けるしかなかった。
「では、レイの店に向かいましょう」
そう言って雛木の前を歩く工藤は、ホテルの廊下に出た瞬間、ポケットに入れていたプラグのリモコンをオンにした。
馬越と落ち合うまでの時間は、長く甘い苦しみの連続だった。
充電式らしい無線のプラグは、確かに振動音こそ驚くほど静かだったが、大きく膨らんだ部分の刺激のパターンは多彩で、根元から先端まで複雑に震え、突起が内壁を抉る。突起の先端がギザギザと波型になっているため、あらゆる場所に食い込み、狂おしく媚肉を揺さぶっていた。
その上、いわゆる上級者向けの玩具なのだろう、括約筋が締め付けるストッパーとなる括れもかなり太く、その部分までも激しく振動した。
プラグを嵌め込まれた雛木の肉筒は、大きく押し広げられ無数の突起で抉られる上、特に敏感な入口部分まで常に刺激されている状態だ。肛虐を愛する雛木にとって、その快感は到底抗えるようなものではない。いけないと思ってはいても、アヌスは勝手に収縮を繰り返し、玩具を心ゆくまで味わおうとしてしまう。
しかし、振動のままに腰を振って快感を追えば、どうしようもなく膨らむペニスがぎっちりと締め付けられる。
せっかく工藤が注文してくれたウイスキーにも、口をつける余裕がまるでない。
工藤だけでなく、レイにも見られているのにも関わらず、雛木は「うぅ……あひ……あうぅ……」と喘ぎ交じりの悩ましい呻きを上げ続けるしかなかった。
「雛木くんは、女性化貞操帯が気に入ったようですね。良かったですね?」
意味ありげに流し目を送るレイに対し、お前には関係ないとばかりに工藤がふんと鼻を鳴らす。
とろんとした目で、悦びと苦痛に喘ぎながらスツール上でもじもじと腰をくねらせ続ける雛木は、心ここにあらずだ。工藤がこの数日で知り合いの玩具職人を説き伏せ、今夜のために特殊な形状の貞操帯を急いで作らせたことなど知るよしもない。
雛木の身を守りつつ、雛木がプレイを楽しめるように必要な物を用意する。それは手間も金もかけた、確かな工藤の愛情表現だった。
とはいえ工藤の本心では、雛木には今夜だけと言わず、常に貞操帯を付けさせたいのである。
ペニスにピアス通して貞操帯を固定し、奴隷の射精を完全に管理するのは、工藤にとっては基本中の基本だった。かつての奴隷達にはもれなくそうしてきたし、何なら奴隷の体に焼き印やタトゥーを入れて、完全に所有し、管理してきた。
人を人とも思わないようなその所業は、もちろん工藤の愛ゆえだ。大切に思えば思うほど、相手の全てを所有し、自分専用に作り替えたい欲求が強くなる。それは、サディストの愛であり、業だった。
ありとあらゆるいやらしい責めを施し、思うままに痛めつけたい。そして愛する奴隷には、そんな身勝手な欲望の全てを許し、自分の足元に跪きながら寄り添っていてほしい。
だが雛木に対しては、プレイの枠を超えないように、そのドロドロとした感情を抑え込んできた。
確かめてはいないがおそらく真っ当な職に就いている、自分に会うまでは多少被虐嗜好があるだけだった雛木を、工藤の好み通りに仕立て上げた本物の奴隷に堕とすのは憚られる。
何しろ工藤は過去に何人も、陽の光の下を歩けないような、戻れないところまで追い込んでいた。中には、取り返しのつかない可哀想な目に遭わせてしまった奴隷もいる。
もうこれ以上、自分のエゴで不幸なマゾヒストを増やしたくはない。そう思ったから、全ての奴隷を手放して、自分の意思でこの世界と手を切ったのだ。
そんな工藤が雛木を手に入れたのは、完全に成り行きだった。もう誰も不幸にしたくなかったのに、うっかり手放せなくなってしまった。
だからせめて、雛木が将来後悔するような、厳しい調教はしたくない。自分の奴隷になりたいと健気に訴える雛木を、せいぜい愛玩用の奴隷として可愛がっていたい。自分のためにも、雛木のためにも、ある程度のところで留めておくべきなのだ。
……と、昨日までは思っていた。
不幸にすまいと、サディストの欲望を堪えて大切に大切に育ててきたのに、ここへ来て他の男にその熟れつつある体を晒し、欲情されるなどもっての外だった。他の男に与えるくらいなら、もう二度と引き返せないくらい、その体をとことんまで奴隷の色に染め上げてやりたい。
要は、嫉妬だ。
馬越との話を聞いてから、工藤の中には今まで以上の葛藤が渦巻いていた。雛木を完全なる自分の奴隷に堕としてしまいたいという思いと、あくまでもお互いにプレイと割り切れる範囲で楽しめる今の距離感を壊したくないという思い。冷静な支配者の仮面の下には、常に激情が渦巻いている。
工藤の雛木に対する所有欲と独占欲は、雛木が考えているよりはるかに強いものだった。
「そろそろ馬越君は新宿に着いた頃でしょうか。せっかくですから、より女性らしく見えるように、時間ぎりぎりまで乳首を刺激して大きくしておきましょうね」
そう工藤に命じられ、カウンターの端でシャツの上から乳首を自分で弄らされても、雛木は悦びこそすれ工藤の嫉妬を感じることはなかった。そんな複雑なことは考えたり感じたりする余裕がなかった、という方が正確かもしれない。
たまらず反応してしまうペニスの痛みに涙目になりながら、乳首を少しでも大きくしようと一生懸命ぐりぐりと揉んだ。レイが皮肉たっぷりに「大サービスですね」と笑う前で、羞恥と快感にイきそうになりながらも乳首を引っ張り続けていた。
そして、たっぷり十五分は経った頃。通路を進んでくる靴音が店内に届いた。ガッガッという無遠慮な急ぎ足が、いかにも馬越らしい。工藤が頷いたので、雛木はようやく乳首から手を離し、ジャケットの襟元を整えた。
「言うまでもないことですが、彼の前でイったりしないように。心がけではなく、命令です」
入口近くのスツールに離れて座った工藤の低い声を最後に、雛木・工藤・レイの三者は口を噤み、重い木の扉が開かれるのを待った。
隠しカメラ越しに工藤とレイに見られていると思えば思うほど、他の男を誘惑する罪悪感に胸が掻き毟られ、同時にどうしようもなく昂ぶった。
馬越と落ち合った時点で、既に雛木の体は達する寸前まで追い詰められていたから、官能の炎は熾火どころではなく、周囲の空気を焦がすほどに渦を巻いていた。乳首はじくじくと疼き、ペニスは膨らんで貞操帯に締め付けられ、突起だらけの玩具の振動にアヌスを抉られ続ける。普段は何とも思わない馬越の男臭い顔や汗混じりの体臭でさえ、油を染み込ませた薪のように官能の炎を燃え立たせた。
あまり近づくとプラグの振動音が聞かれてしまうかと思って、大きめのBGMをレイにリクエストしたのは雛木自身だったが、どうかこのトランスミュージックが自分の本気の喘ぎを掻き消してくれと心から願った。
工藤の命令通り、絶対にやり遂げなければならない。自分が撒いた種なのだから、工藤に命じられた方法で必ず刈り取らなければならない。
その一心で、自ら扇情的に振る舞う。だが、乳首への物理的な刺激や、工藤に装着された玩具のせいだけではなく、ストレートのはずの馬越が自分の痴態に股間を固くしている姿を見て、より興奮してしまったのも紛れも無い事実だった。
工藤にいやらしく育ててもらった乳首を弄くり回し、それで興奮する別の男を見るのは、確かに新しい快感だった。みるみる固くなりスラックスを突き上げる馬越の股間も、荒い息をつきながら食い入るように自分の痴態を見つめる視線も、雛木を大いに興奮させた。
それでいて決して自分は勃起を許されず、ペニスとアヌスを玩具でいたぶられ続けていたのだ。乳首への刺激だけで簡単に達することができる雛木にとって、確かにそれは、拷問に近い過ぎた刺激ではあった。
だからといって、命令に背いていい理由にはならない。乳首でイきそうになったとき、雛木は本気で狼狽していた。
――ダメだっ! 絶対にダメ! あぁでもどうしよう、どうしよう、気持ちいい、止まんない……!
突起まみれの振動するプラグを締め付けながら、意思に反して腰が勝手に動き、射精を伴わない絶頂へと駆け上がるのを止められなかった。
「いやだっ! いっちゃうっ、いっちゃうっ、ごめんなさいっ、ごめんなさいっ!」
防犯カメラ越しに見ているはずの工藤に、切羽詰った謝罪を叫ぶ。駄目だと思うのに、絶対に駄目だと思うのに、ガクガクと前後する腰は止まらない。ペニスは締め付けられて最早痛みしか感じられないのに、熟れ切った乳首から全身に散る火花は、音を立てて燃え広がる圧倒的な絶頂の炎の中に雛木を巻き込んだ。
「ごめんなさいっ! ああっ! ああっ! いくぅっ……!」
見かねたレイが扉をノックしなければ、馬越の前でイくなという命令を守れなかったことは明白だ。
自分が犯した罪が、工藤を失望させただろうと思うと、身を切られるような申し訳なさと恐怖が雛木を苛んだ。
バーカウンターのスツールは、やはりもう空になっていた。お会計は済んでいますよ、と言ったレイの困ったような微笑みが、席を立った工藤の怒りようを思わせた。
性器どころか体にさえ触れられたわけでもないのに、命令に背いて他の男の前で勝手にイきそうになるなど、工藤の奴隷としてあってはならないことだった。きっと工藤は不愉快になり、呆れ、馬越相手に気持ち良くなれるならわざわざ自分が調教してやる必要もないと思っただろう。
雛木は自分の体と心を心底不甲斐なく思った。酷く感じやすくなった体は工藤の調教の賜物だと思えばこそ愛しいのであって、工藤を裏切ってしまうなら何の意味もない。快楽の奴隷ではなく、心も体も工藤の奴隷でありたいのだ。
だが今頃工藤は、もっと自分にだけ忠実で淫乱な慎み深い奴隷を探そうと、荷物を纏めてホテルを後にしているかもしれない。
許してもらえるなら何でもしよう。自分に差し出せる物なら何でも差し出そう。
工藤に捨てられるかもしれない不安に押し潰されそうになりながら、絶頂の寸前で逸らされた重い体を引きずって、雛木はバーを後にした。
もちろん、秘密の部屋に残された馬越のことなど、髪の毛の先ほども思い出しもしない。
バーの店内には、口をつけられないまますっかり氷が溶け切った雛木のロックグラスを手に、タブレットの画面を見つめるレイだけが残された。リアルタイムで映る、スーツ姿の男が一心不乱に己の性器を扱く映像をつまみに、琥珀色の液体を大胆に呷る。
その唇の端は、至極楽しげに吊り上がっていた。
11
お気に入りに追加
618
あなたにおすすめの小説




怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?


ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる