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もっとトイレが好きになるプレイ 2/7

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 貸会議室の利用率自体そう高くないのか、トイレはしんとしていて、しばらく人が出入りした気配がないようだった。床は硬質な黒タイル張りで、靴音が大きく響く。小便器は五つで、それと向かい合って三つ並んだ個室は全て、かなり余裕をもった広さで設置されているようだ。いかにもオフィス然としたシンプルな内装は、否応なしに自分の職場のトイレを思い出させた。
 工藤がトイレの入り口付近で立ち止まり、雛木の背に手を添えて、“さあ”と言わんばかりに無言で促す。
 今は人の気配がないとはいえ、声を出すリスクは明らかだ。思い切り声を出してよがる習慣が骨の髄まで染みこんでしまった雛木は、自分に無言を言い聞かせるようにきゅっと唇を結び、一人で真ん中の個室に入った。
 タンクレスで蓋のないタイプのすっきりとした便器と、トイレットペーパーホルダー、そして便器の後ろに作り付けの小さな棚板と荷物を吊るす複数のフックがついた壁があるだけのシンプルな個室だ。掃除は行き届いているが、人の出入りが少ないせいか、少し肌寒い。およそ色気とは程遠い場所だが、工藤はこの場所にどんな魔法をかけてくれるのだろうか。

 愛用の通勤鞄を便器の後ろの壁のフックの一つにかけ、高まる期待に急いで服を脱ごうとしたが、しんとした空間では衣擦れの音さえ意外と大きく響いた。
 喜んでいそいそと服を脱いでいるのだと工藤に知られるのは、さすがに恥ずかしい。もちろん工藤は雛木の体が禁欲に焦れて熟れ切り、責めを渇望していることを誰よりもよくわかっているだろうが、それでもせめて最初くらいは慎ましい態度を見せたいではないか。
 雛木はできるだけ音を立てないようにゆっくりとジャケットを脱ぎ、丁寧に畳んで便器の後ろの棚板に置いた。次いでワイシャツ、インナーシャツと脱いで、畳んで上着の下にしまい込む。すぐにでもドアを開けて慎みなく強請ってしまいそうだったので、冷たい空気に触れて固く凝った乳首は見ないようにした。
 右足の靴を脱いで、スラックスを足から抜き取る。新品の黒い靴下のぴんとした生地が、どれだけこの時を待ちわびていたかを思い知らせるようで、やたらと目に痛い。左足も抜いて靴を履き直すと、ベルトをつけたままのスラックスも丁寧に畳み、重ねた服の一番下に入れた。これで、工藤に命じられた通り、下着と靴と靴下のみを身につけた、みっともない姿になった。

 綺麗に畳まれ積み重ねられたスーツ一式は、セックスに向けた勢いを物語る脱ぎ散らかされた衣服とは異なり、これから”プレイ”を始めるのだという事実を突きつける。
 そう、これからこのトイレの個室で、工藤にSMプレイをしてもらうのだ。
 セックスではなく、被虐心を満たしてもらうための、ただただいやらしい行為だ。個室の中だから裸になっても誰に見られる心配もないのに、そう意識すると酷くいけないことをしている気分になってくる。
 これから工藤の言うところの『もっとトイレが好きになるプレイ』が始まるのだと思うと、欲望まみれの期待を抑えきれなくなり、勃ち上がったペニスの先端が浅穿きの下着のウエストからはみ出してしまった。大きく腫れ上がった乳首もビンビンに勃ち上がり、その肉芽の赤さと便器の輝かしい白さとのコントラストが卑猥だ。
 トイレという日常的で不浄な場所にも関わらず、プレイへのはち切れそうな期待を如実に表すこの姿を、これから工藤に見せるのだ。

 震える息を一つ吐き、極々小さい音で内側から扉をノックすると、外側から同じように軽やかなノックの音が聞こえた。雛木が鍵を外すと、工藤がじれったいほどゆっくりと個室内に入ってくる。その間、靴下と靴と卑猥な下着だけを身に着けた雛木の体は、外に晒されている。誰もいないとわかってはいるが、今にも誰かが入ってくるのではないかと思うと、不安と緊張に肌が粟立った。
 たった数秒のことだったが、両手をぐっと握りしめて、やたらと長く感じる時間に耐える。工藤は静かに個室の扉を閉じて鍵をかけると、目を細めて雛木の全身を眺めた。

「今日はまた、とても素敵な下着ですね。面積の小ささも、光沢のある布地も、ジッパーを開ける作りも、触って欲しがりなあなたによく似合っています。黒地にゴールドのジッパーという色味も、わかりやすくセクシーで私は好きですよ。私に見せるためにこんないやらしい下着を買って、仕事中も身に付けていたのだと思うと、とても嬉しいですね」
 工藤に褒められ、緊張に強張っていた雛木の頬に朱が上る。誰かに見てもらうために、いやらしいと思ってもらうために下着を選ぶなんて、もちろん工藤と出会う前は考えたこともなかった。そんな風に言ってもらえるだけで、雛木の股間にはずくずくとした熱が蠢いてしまう。
 当然、そんなはしたない雛木は、工藤に褒めてもらえるだけでは済まない。
「……でも、そんな風にペニスをはみ出させていては、ジッパーを開く楽しみが半減してしまうでしょう?」
 工藤のごくごく潜めた吐息混じりの叱責に、びくりと体を震わせる。プレイを開始した工藤の饒舌さが、雛木の官能を打ち据えた。
 立ち尽くしたまま工藤の視線に発情し切った体を晒し、羞恥に耐える。しかし、下着のウエストのゴムから顔を出したペニスは雄弁で、先端の窪みに透明な蜜がわずかに溜まり始めてしまう。言葉を惜しまず褒められた後にはしたなさを叱られ、雛木は惑う心のまま小声でごめんなさいと返した。
 しかし、謝罪に誠意がこもっていないことは、自分でもわかってしまった。工藤の口からペニスという単語が出ると、いつも雛木はふにゃふにゃとくずおれてしまいそうなほど欲情してしまうのだ。

「乳首もそんなに真っ赤に腫らして。また大きくなったのではありませんか? 確かにどれほど熟れた乳首になっているか楽しみだとメールに書きはしましたが、そんなになるほど弄るなんて。あなたは本当に、乳首を乱暴に虐められるのが好きなんですね」
 本当のことだが、改めて口にされると恥ずかしくて、言葉もなく俯いた。だが一方で、こんな風に自分の体のいやらしさをひとつひとつ工藤に確かめてもらうのは、嬉しさと、一種の誇らしさもあった。
「乳首を虐められるのが好きなんでしょう? それとも、私の趣味に付き合ってくれているだけですか?」
 そんなはずはないと知っているのに、工藤はこうして雛木に恥ずかしい言葉を言わせるよう仕向ける。男のくせに乳首を責め苛まれてよがる自分を自覚させられる、そのプレイ“らしさ”に、またたまらなく興奮してしまうのだ。
「好きです……。俺は……工藤さんに乳首を虐めてもらうのが……大好きです」
 しんとしたトイレの空気の中に、小声で発した自分の言葉がくっきりと浮かび上がる。
 認めるのにはずいぶん勇気がいるけれど、実際のところ雛木は、乳首を虐めてもらうのが好きだ。
 それは工藤に教えてもらった恥ずかしい快感だった。工藤に出会う前とは比べ物にならないくらい肥大したいやらしい場所を、虐めてもらうのが好きじゃないはずがない。痛みですら気持ちよくて仕方がないのだ。
 けれどそれは、改めて口にすると、なんていやらしくて恥ずかしい事実なのだろうか。
「よろしい。では、沢山虐めて差し上げないといけませんね。せっかくここまで真っ赤に腫らしているのですから、更に痛めつけて目を覆うほど卑猥な姿にしてみますか? 流血する寸前まで押し潰すのもいいですが、思い切り引っ張って元に戻らないくらい変形させてしまうのも、きっとあなた好みですよ。服で隠し切れない程大きくて長い乳首になれば、街ですれ違う人にさえあなたが変態だとわかってもらえます。想像してごらんなさい」
 小声の優しい口調で示された責めは恐ろしく、魅力的だった。いたぶられる予感に乳首がずくずくと疼く。できれば流血する寸前まで押し潰すのも試してほしいが、工藤に勧められれば従う以外の選択肢など無い。雛木は頬を紅潮させ、うっとりと瞳を濡らし、自分好みだと言われた責めを強請ねだった。
「思い切り引っ張ってほしいです。乳首をもっといやらしい形に変えて、元に戻らないようにしてほしいです」
 工藤は満足げに微笑み、手にしていた革のボストンバッグから、フック状の道具を取り出した。
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