プレイメイト(SM連作短編)

馬 並子

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初めて乳首イキした日のことは、今でもはっきり覚えています。 2/3

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 工藤に指示されたとおり、ベッドに座って二つのクリップで自分の両の乳首を挟んだ。クリップの力は強くはないが、既に腫れている雛木の乳首は横向きに潰れ、じんっとした痛みと甘い痺れにぴくりと眉根が寄る。

 三十分以内に乳首への刺激だけで絶頂すること。
 それが工藤の命じた罰だった。

 雛木の乳首は敏感になっているとはいえ、まだ一度もそこだけで達したことはない。いけそうかも、と思うほど気持ちよかったことは何度もあったが、工藤はあえてそこで追い込むことをしなかったのだ。きっと何か思惑があったのだろう。
 そんな開発途上の乳首が、激痛だというパルス責めで快楽を感じられるだろうか。既に、尻を鞭打たれたり全身を縛られたりといった痛みや苦しみで感じるようにはなっていたが、甘やかされてきた乳首への激痛で達するのは多分難しい。
 だが、その厳しい命令は雛木への単なる罰というだけでなく、嫉妬めいた工藤の甘い怒りをぶつけられているようで、雛木はなんとしてでも言われたとおりに達してみせたかった。

 二つのクリップから伸びたリード線の先にある機械を手に、工藤は軽く引っ張って、クリップがしっかりと雛木の乳首を噛んでいることを確認した。そんな些細な刺激にも、雛木は「んっ」と甘い声を上げてしまう。
 しかし、心地よい刺激はそこまでだった。
「では、素敵なイキ顔を見せて下さいね」
 そう言って工藤が見せつけるように0と1の間にダイヤルをセットした途端、乳首を捻られるような強烈な電流が雛木の両の乳首に襲い掛かったのだ。
「うああぁっ!」
 雛木は痛みに思わず大きな声を上げる。
「うるさいですよ」
 工藤から発せられる冷たい声音にも、声を堪えることができない。
 絶え間なく送られてくるパルスは目に見えず、クリップも見た目にはまるで変化しないのに、一定のリズムで乳首に強烈な痛みが襲いかかる。神経に直接作用するような暴力的な力は、パルス責めという言葉からイメージされるようなビリビリとしたものではなく、むしろ見えない針で無遠慮に乳首を突き刺され、万力でぎゅうぎゅうと押し潰されているような物理的な刺激だった。

「ううぅ……ううぅ……」
 ぎゅううーっ、ぎゅううーっ、と一定のリズムで送り込まれるパルスの刺激に、雛木はシーツを握りしめ呻きを上げて耐えている。
 最初の衝撃が去ると、針で刺されるような痛みは多少和らいだが、乳首だけを無機質に責められていることがかえって意識されてくる。パルスには撫でられり吸われたりするような甘美な刺激はないのに、工藤の手で無機質な責め苦を与えられていると思うと、不思議と甘い疼きが生まれてきた。
 しかも、パルスが流れる度に腹の奥を絞るように力が入ってしまうので、雛木は自然と尻から腹にかけての空洞を意識させられて、早く何か埋め込んでてほしいと腰をもじつかせずにいられない。性器への刺激がなくとも尻だけで十分達せるようになっている雛木は、パルスの強い刺激に自然と蠢く肉筒が、触れられてもいないのにざわざわと快感を拾い上げようとしていることに気付いていた。 

 ぺたりとベッドに座り込み、シーツを掴んで呻く雛木をしばらく無言で見つめていた工藤だったが、時計を確認すると手にしていた機械を差し出した。
「自分でできますね?」
 有無を言わさぬ口調に、雛木は小さな声で「はい」と答えて受け取るしかない。
 工藤に責められていると思えばこそ喜びも感じられる痛みだったが、自分で責めるとなると純粋な罰でしかなくなる。しかし、工藤がそれを命じるのなら、断る理由は雛木にはなかった。

 一切飾り気のない機械の二つのダイヤルには、それぞれアルファベットと数字が割り当てられていた。二つのダイヤルの目盛りは、今はaというアルファベットと、0と1の間を指している。
「aからeまでパルスの種類が五つありますから、どの刺激が好きか自分で味わって確認してください」
 まるで好みのウィスキーの銘柄を尋ねるように上品に促され、震える指でダイヤルに触れる。
「あと25分」
 冷たく告げる声が雛木の背を押した。カチリという軽い手応えでダイヤルの目盛りがbを指す
 と、途端にパルスのパターンが変化した。

 ――ぎゅうーっぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ
「あぁーっ」
 強く引き絞られた後、小刻みに潰されるような刺激に、雛木は思わず高い声で鳴いた。刺激の強さは先ほどと同じでも、パターンが変わるだけでまた新たに針で貫かれるような痛みが復活してしまう。
 顔を紅潮させ、浅い息をつきながら見やれば、工藤はいつのまにかソファに腰かけ、雛木をじっと見つめていた。その瞳から感情は読み取れなかったが、視線も合わせてくれなかったことを思えば、見ていてくれるだけで嬉しい。
 その視線に、言われたとおりにやってみせなくてはと心を強く持ち直し、雛木は続けざまにアルファベットのダイヤルを回していった。

 ――ぎゅっぎゅっぎゅっぎゅっ
 ――ぎゅっぎゅうーーーーぎゅっぎゅうーーー
 ――ぎゅうううううーっ

 アルファベットごとに割り当てられたリズムが異なって、刺激が変化する度に堪え切れない悲鳴が迸る。一つのアルファベットの刺激をなんとかやり過ごせたと思いきや、ダイヤルを回すと、また一から痛みを味わうことになる。
 機械を持った手をぶるぶると震わせ、それでもなんとか耐えぬいてアルファベットを二巡し、かろうじて耐えられそうなパターン、痛すぎるパターンとなんとか把握する。
 しかし、目的は刺激に耐えることではなく、あと25分以内に乳首への刺激だけでイくことなのだ。

 雛木は震える指で、自分が一番感じた「d」の目盛りにカチリとダイヤルを合わせた。
 ――ぎゅっぎゅうーーーーぎゅっぎゅうーーー
 緩急をつけ、尚且つ長く絞り上げられる「d」のパターンは、少しの余裕も与えてくれない。雛木はパルスに合わせて、「あうぅ……」と何度も声を漏らしてしまう。
 しかし、針で刺した上に絞り上げられるような痛みを感じる度に、雛木は胸を突き出し、たまらないといった様子で仰のいた。膝はいつの間にか大きく開き、小さな布地に覆われた股間は形を変え、わずかに染みを作っている。

 少しの時間耐えていると、やはり針を突き刺されるような尖った痛みは徐々に収まり、面で潰されるような乳首全体への痛みに変わっていく。それは確かに同じように痛みではあるのに、雛木が上げる悲鳴はいつのまにか、工藤に尻を鞭打たれる時のような、嬲られることを悦ぶ艶を含んだ声色に変化していた。
 また、直接的な痛みだけではなく、工藤に与えられたアブノーマルな玩具の、どのダイヤルが一番感じるのかを自分でアピールしているという恥ずかしさも、雛木の性感を震わせていた。

「気持ちがいいだけでは罰になりませんから、強弱のダイヤルは5まで上げてください」
 工藤は雛木がようやく快感を得始めたことに気付いているだろうに、そこに甘んじることを許してはくれない。
 強弱を操るダイヤルはいまだ0と1の間を指し、5までは程遠い。しかし、この状態では確かに痛みと快感を得られても、いつまでたってもいけそうにはなかった。
「残り20分です」
 残り時間が減っていく事実だけを突き付ける工藤の声に、震えながらダイヤルを回し、目盛りを一気に2に上げた。

 ――ぎゅっぎゅうーーーーっ! ぎゅっぎゅうーーーっ!
「ふう゛う゛う゛う゛っ」
 堪えることのできない叫びが口を突く。
 芽生え始めた快感は霧散し、ただ痛みだけが雛木の乳首を襲う。縛って貰っていないので、痛みから逃れようと思わず手が胸元に動いてしまったが、クリップを外す寸前でなんとか耐えた。クリップに触れないよう胸を鷲掴んで爪を立て、歯を食いしばるが、悲痛な呻きが漏れる。
 胸を突き出してガクンガクンと仰のく雛木の目尻から、一滴の涙が零れ落ちた。
 痛い。痛くてたまらない。
 乳首を針で刺し万力で押し潰すような激痛が、容赦のないリズムで絶え間なく襲ってくる。それはこれまで工藤に教えられたどんなプレイより、一番痛みに特化した苦痛だった。

 しかし雛木は、与えられ続ける痛みの中に、痛みとよく似た焼けつくような快感が紛れ込んでいることに気付き始めていた。まるで、痛みを縒り合せた糸の中に、幾筋もの細い快感が分かちがたく編み込まれているかのようだった。
 紛れ込んだ快感は、強烈な苦痛を与えられている乳首では微かにしか感じられなかったが、それは毒のように乳首からペニス、アヌス、腹の中にまで流れ込み、脳さえも徐々に蝕んでいく。
 だんだん時間の感覚がなくなり、痛みと体を巡る快感だけを追いかけ朦朧としてくる。その一方で、下腹部のざわめきは大きくなっていくばかりだった。

 しばらく経つと、雛木の全身は汗ばみびくりびくりと痙攣して、下着からはみ出さんばかりに膨張したペニスから、たらたらと透明な滴を零すようになっていた。
「あぁぁ……あぁぁ……」
 食い締められていた唇はいつのまにか半開きになり、パルスのリズムに合わせて茫洋とした喘ぎが漏れる。痛みが強すぎて気持ちいいという自覚も持てないのに、剥き出しの尻をシーツに擦りつけ、何も挿れてもらっていない空洞を切なく締め付けながら、雛木の頭の中では “痛い” “欲しい” “気持ちいい” という言葉がグルグルと回っていた。
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