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いろいろ開き直った、というか腑に落ちた私は、結婚後の過ごし方について、あんなに悩んでいたことが嘘のようにあれこれ思いつき、考えついては彼らに伝え、ざくざくと実行に移していった。
……パノラマビューを誇る私とレオン様の広大な寝室は、そのまま使うことにした。
基本的には今のとおりレオン様と私が二人で利用する。けれど、まあその、……もろもろの場合によっては複数での利用も前提とする。そのためには、あの巨大な寝台は不可欠なのだ。
それ以外のエヴァンジェリスタ城の最上階、すぐその下の階は大々的な改装が実施された。
私の居間は現状維持。レオン様だけの寝室、つまり私が初めてマッパでこの世界に現れた寝室はもうずっと彼は使っていなかったのだけれど、この際だからと広い浴室に変えてしまった。あの部屋にあの寝台があると、君が元の世界へ戻ってしまいそうで怖いんだとレオン様は恥ずかしそうに言いつつも、あのときのままにしたいならそうしようか、とも言って下さったのだけれど、私はお断りしたのだ。私はもうこの世界に骨を埋める気でいる。というより、私の「異世界転移」が、ありえないほどわずかな確率の天体の奇跡の結果なのだとしたら。そんなものが再び起こる可能性など皆無に等しいだろうから(レオン様と出会ったばかりの時に、そんな話をしたことを覚えている)、この後に及んで元の世界のよすがを残しておこうというのは間違っているだろう。
だからあの部屋は結婚を機に潰して、風呂好き民族の出身たる私が陣頭指揮をとり、広いスパのような素敵な浴室に生まれ変わった。
(……が、この広い浴室でとんでもなく破廉恥なあれこれが繰り広げられることになるとは、迂闊にも全く想像しなかった。そう遠くない後日の話である。)
あとはとにかく間取り変更と模様替えの繰り返し。当然、衣裳部屋とか衣裳部屋とか衣裳部屋が(私が贅沢過ぎるのではなく、公爵様方プラス途中参戦のオルギールによる贈り物合戦のせいだと力説したい)最上階だけでは足りなくなり、すぐ下の階も使うことになったため大がかりな改装となったことはやむを得ない。
変更した間取りを使って何をしたかと言えば、夫たちの寝室を人数分作ってもらったのだ。
……私は基本的にエヴァンジェリスタ城にいることに決めていた。異世界から来た私にとって、これ以上の劇的な環境の変化を望まなかったから。
とはいえ結婚後、レオン様とばかり過ごすわけにはゆかないし、私だって他の夫たちとも一緒にいたい。だから夜、お仕事を済ませたらこちらへ来て頂くことにした。忙しくて来られないならそれでいい。でも来られるならエヴァンジェリスタ城へ来て頂いて、談笑したり、一緒に眠ったり、一緒に眠らない場合は、今のオルギールみたいに隣接する寝室でお休み頂く。だから人数分の夫たちの寝室が必要なのだ。
通い婚の進化系、と私は考えている。
そこで、同じことができるように、わがままを言って全員のお城を同じ条件で改装してもらったのである。今のところはずっとエヴァンジェリスタ城にいる。少なくとも、レオン様が筆頭公爵である間はほぼアルバから動かないわけだから、だったらできるだけ一緒にいる。けれど、筆頭公爵が他の二人のどちらかに移行し、レオン様も城を空ける事が出てきたら、他のお城に行くかもしれない。ひとり寝は寂しいから。
イメージとしては、「そのときの筆頭公爵の城に私が滞在する」感じなのだけれど、決まり事にするのは避けた。気が向いたら移動する。気が向かなかったらずっとそこに滞在する。
とにかく気楽に、気ままに。
共用の広い寝室と浴室、人数分の寝室と浴室、全員で過ごせる居間。
これらを必須条件に、ここ、エヴァンジェリスタ城はもちろん、オーディアル城、ラムズフェルド城、そしてヘデラ城。全ての改装が完了した頃、もう結婚式は目前に迫っていた。
……戦場のように忙しかったのは十日くらい前までのことで、以降は私の周辺は静かなものとなった。
台風の目が無風なのと同じことである。
この日まで式次第のおさらいをし、当日のパレードのルートを確認し、婚礼衣装と夜の晩餐会の衣装、その装身具が決まってしまえば、あとはひたすら綺麗になるためのブライダルエステに励んだ。
エステに気合を入れ過ぎて、式の夜までは全員と致すのをお断りしたくらいである。
彼らと夜を過ごすようになってから(一対一、複数を問わず)、所有印をむやみにつけないこと、と赤裸々な申し入れをしたのだけれど、それでも「ついうっかり」羽目を外すひとは必ずいて(頻度の差こそあれほぼ全員である)、いつも私のからだにはどこかしら紅い花びらが散っていたのだけれど、純白の花嫁衣裳を纏うのに「しるし付き」のからだは嫌だと主張したのだ。
衣装の脱着でいつもより多くの人目につく。恥ずかしい。
エステでからだをさらす。今さらもじもじするつもりはないけれど、やはり荒淫の痕跡は恥ずかしい。
当然、絶倫な彼らは不平不満の大合唱であり、「痕をつけなければよろしいのでしょう?」と特に強硬に反対をしたひとが約一名いたが(誰とは言わないが)、そういう問題ではないと全力で拒否った。よろしいのでしょうという当の本人が一番痕跡をつけるひとなのだから話にならない。説得力がないですよと言い張ったら他の三名がなんと私の加勢に回り、気がつけば私は結婚前の十日間、たいへん静かな夜を過ごすことに成功したのだった。出陣してからの数日以外、あまりに久しぶりでいつからイチャコラせず寝ていなかったのかなかなか思い出せない(言っては何だが月のものの時でさえ、ぴったり抱き合うか、からだを撫で回されるか、挿入以外のあんなことやこんなこと、が日常茶飯事であった)。
……反動は怖いが考えないことにする。
******
そして、葡萄月十一日。秋らしい、爽やかに晴れ渡った青空。
私の結婚式当日。
十日間の「反動」は予想通りやってきて、朝も早くから大騒ぎになった。
なんと着替えているうちに(つまり半裸である)、すっかり支度を整えたレオン様とオルギールが襲来したのである。
「やっぱり来たか」
「ご自分を棚に上げるおつもりですか」
互いに目を眇めて言う。
どちらの台詞か、解説は不要だと思う。
「リヴェアの花嫁姿を一番に見るのは俺だ」
「私もお忘れなく」
「お二方とも、姫君のお仕度が終わるまでは居間でお待ちを」
助っ人で駆り出されている頼もしいケイティの厳しい声が飛んだ。
もちろん、その程度で怯む二人ではなかったが。
「ここでおとなしく見てるだけだ」
「なんなら私は着付けの手伝いもできますよ」
「俺だってできるぞ」
「私なら髪の結い上げも可能です」
レオン様もオルギールもいかれているとしか思えない。
侍女たちが動揺してざわめく。
そして、お静かにして頂けるならよろしいのではと言う者まで出てくる。
彼らが言い出したら聞かないとわかっているミリヤムさんとヘンリエッタさんである。
彼女たちもいかれている。
「お二人とも。姫君は見世物ではございません」
怖いもの知らずのケイティはわからずや二名の前で言い募った。
「あと少しのこと。我慢なさいませ!」
「いやだな」
「だから手伝うと言っている、ケイティ」
「なんと聞き分けのない。……恐れながらユリアス様やシグルド様を見習われませ!!」
とうとうケイティは半ギレで言った。
「ユリアス様は常に姫君第一に考えられ、節度ある態度をとっておられますのに」
結局、彼女は主を上げ、他を下げたいのだなと丸わかりである。
はらはらする。
ダメな子を叱るのに、他を引き合いに出してはいけないのに。
教育方法として間違っている。ふてくされたり開き直らせたりするだけなのである。
「……ふん、何を言うかケイティ」
案の定、レオン様はせせら笑った。
オルギールはケイティを無視することにしたらしく、半裸の私に歩み寄ると「肌が輝くようですねリア」とすごく恥ずかしいことを言った。
お式のために誂えられた、びっくりするほど煌びやかな礼装に身を包んだオルギールは壮絶なまでに美しく、突然の二人の乱入に当初こそ抵抗を示し、私の回りで人垣を作ってくれていた侍女たちも、あっけなくオルギールの接近を許してしまっていた。やむを得ないとは思う。彼を見慣れたはずの私ですら、意識が飛びそうなほどの人外の美貌なのだ。容姿だけで警戒態勢を解除させてしまうオルギール、相変わらずあっぱれである。
半裸の私の前でオルギールは甘く目を細め、「風邪をひきますよリア、早く衣装を」と言った。
……その傍らで。
「お前はユリアスを持ち上げたいだけだ」
身も蓋もなく、レオン様は断罪する。
心外でございます!とケイティは言い張る。
「あいつらは‘まだ’来ないだけだ。城の位置関係の問題だ。ヘデラ城よりちょっと離れてるからな。どうせ来るぞ」
「そのようなこと、けっして……!」
ございません!と抵抗するケイティの声とほぼ同時に、いきなり複数の力強い足音が近づいてくる。
……もう、見なくてもわかる気がする。
姫君はお仕度中で、と無駄な抵抗をする侍女の声がするけれど、それと同時に扉が勢いよく開いた。
「姫!」
「リヴェア!」
まだか!?まだだな!?
と、シグルド様とユリアスは肩で息をしながら言った。
達観したおももちで彼らを迎えた半裸の私を(まだ下着姿なのである)とらえると、とたんに二人の眼差しが蕩けた。
「間に合ってよかった」
「先を越されてはいないようで安心した」
「誰よりも早く花嫁姿を見たいと思ってな」
二人は目を細めて言う。まだ着ていないようだなと下着姿の私を遠慮なく眺め、安堵の色をあらわにしている。
ユリアス様、とケイティが茫然と呟いている。
レオン様は言っただろうケイティと大人げなくドヤ顔をした。
オルギールは侍女の手から衣装を取り上げると、「さあリア」と微笑む。
結婚式の当日、どこの花嫁が夫となるひとの(正確には‘人々’だ。この時点でありえないのだが)監視と協力のもと身支度を整えるというのか。
……もう笑うしかない。
くすくす、では足らず、次第にあはは、と本当にお腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「皆さま」
私は笑いながら手を差し伸べた。
光り輝く太陽神のレオン様。
氷の魔王、オルギール。
繊細な美貌に逞しいからだ。火竜の君、シグルド様。
知性と色気のクールビューティ、ユリアス。
皆、器用なのを知っている。隅に置けないことに、女性の身支度に通じていることも知っている。
「手伝って下さいますか?」
******
婚姻誓約書への署名、捺印を済ませ、式典を執り行ったグラディウス一族の霊廟を出るや否や、熱気に満ちた歓声に包まれた。
これから、パレードが始まる。
手を振って応えつつ、無蓋馬車に乗り込む。たくさんの見知った顔に囲まれながら。
公爵様方の「くっつけ隊」たちはもうずっと滂沱の涙を流しっぱなしだ。
すっかり顔色のよくなったレオン様の副官二名の姿も見える。やっぱり泣いている。
わずかに笑みを浮かべたジュスト少佐の姿も見える。渋い。
そして。
私の警護にあたる親衛隊長、アルフはすぐそばにいてくれる。
きっと、これからもずっとそばに。
……「異世界転移」をした日。
はじまりは悲しくてつらくて、泣き寝入りして目覚めたらマッパだった。
今では幸せで気持ちよくて、快楽に啼かされて目覚めるとマッパである。
苦くて甘くて、幸せな彼我の差を噛みしめつつ周りを見渡せば、旗手が捧げ持つ旗が見える。三本、三色の剣を背に立つ女神様。それらをつなぐ金色の蔦。
オルギールに連れられて、初めてエヴァンジェリスタ城を巡ったとき。
筆頭公爵が掲げる、グラディウス一族の旗と教えられた、華麗な旗。
それはあの時のように吹いてきた風を受けて、今も力強くたなびいている。
……パノラマビューを誇る私とレオン様の広大な寝室は、そのまま使うことにした。
基本的には今のとおりレオン様と私が二人で利用する。けれど、まあその、……もろもろの場合によっては複数での利用も前提とする。そのためには、あの巨大な寝台は不可欠なのだ。
それ以外のエヴァンジェリスタ城の最上階、すぐその下の階は大々的な改装が実施された。
私の居間は現状維持。レオン様だけの寝室、つまり私が初めてマッパでこの世界に現れた寝室はもうずっと彼は使っていなかったのだけれど、この際だからと広い浴室に変えてしまった。あの部屋にあの寝台があると、君が元の世界へ戻ってしまいそうで怖いんだとレオン様は恥ずかしそうに言いつつも、あのときのままにしたいならそうしようか、とも言って下さったのだけれど、私はお断りしたのだ。私はもうこの世界に骨を埋める気でいる。というより、私の「異世界転移」が、ありえないほどわずかな確率の天体の奇跡の結果なのだとしたら。そんなものが再び起こる可能性など皆無に等しいだろうから(レオン様と出会ったばかりの時に、そんな話をしたことを覚えている)、この後に及んで元の世界のよすがを残しておこうというのは間違っているだろう。
だからあの部屋は結婚を機に潰して、風呂好き民族の出身たる私が陣頭指揮をとり、広いスパのような素敵な浴室に生まれ変わった。
(……が、この広い浴室でとんでもなく破廉恥なあれこれが繰り広げられることになるとは、迂闊にも全く想像しなかった。そう遠くない後日の話である。)
あとはとにかく間取り変更と模様替えの繰り返し。当然、衣裳部屋とか衣裳部屋とか衣裳部屋が(私が贅沢過ぎるのではなく、公爵様方プラス途中参戦のオルギールによる贈り物合戦のせいだと力説したい)最上階だけでは足りなくなり、すぐ下の階も使うことになったため大がかりな改装となったことはやむを得ない。
変更した間取りを使って何をしたかと言えば、夫たちの寝室を人数分作ってもらったのだ。
……私は基本的にエヴァンジェリスタ城にいることに決めていた。異世界から来た私にとって、これ以上の劇的な環境の変化を望まなかったから。
とはいえ結婚後、レオン様とばかり過ごすわけにはゆかないし、私だって他の夫たちとも一緒にいたい。だから夜、お仕事を済ませたらこちらへ来て頂くことにした。忙しくて来られないならそれでいい。でも来られるならエヴァンジェリスタ城へ来て頂いて、談笑したり、一緒に眠ったり、一緒に眠らない場合は、今のオルギールみたいに隣接する寝室でお休み頂く。だから人数分の夫たちの寝室が必要なのだ。
通い婚の進化系、と私は考えている。
そこで、同じことができるように、わがままを言って全員のお城を同じ条件で改装してもらったのである。今のところはずっとエヴァンジェリスタ城にいる。少なくとも、レオン様が筆頭公爵である間はほぼアルバから動かないわけだから、だったらできるだけ一緒にいる。けれど、筆頭公爵が他の二人のどちらかに移行し、レオン様も城を空ける事が出てきたら、他のお城に行くかもしれない。ひとり寝は寂しいから。
イメージとしては、「そのときの筆頭公爵の城に私が滞在する」感じなのだけれど、決まり事にするのは避けた。気が向いたら移動する。気が向かなかったらずっとそこに滞在する。
とにかく気楽に、気ままに。
共用の広い寝室と浴室、人数分の寝室と浴室、全員で過ごせる居間。
これらを必須条件に、ここ、エヴァンジェリスタ城はもちろん、オーディアル城、ラムズフェルド城、そしてヘデラ城。全ての改装が完了した頃、もう結婚式は目前に迫っていた。
……戦場のように忙しかったのは十日くらい前までのことで、以降は私の周辺は静かなものとなった。
台風の目が無風なのと同じことである。
この日まで式次第のおさらいをし、当日のパレードのルートを確認し、婚礼衣装と夜の晩餐会の衣装、その装身具が決まってしまえば、あとはひたすら綺麗になるためのブライダルエステに励んだ。
エステに気合を入れ過ぎて、式の夜までは全員と致すのをお断りしたくらいである。
彼らと夜を過ごすようになってから(一対一、複数を問わず)、所有印をむやみにつけないこと、と赤裸々な申し入れをしたのだけれど、それでも「ついうっかり」羽目を外すひとは必ずいて(頻度の差こそあれほぼ全員である)、いつも私のからだにはどこかしら紅い花びらが散っていたのだけれど、純白の花嫁衣裳を纏うのに「しるし付き」のからだは嫌だと主張したのだ。
衣装の脱着でいつもより多くの人目につく。恥ずかしい。
エステでからだをさらす。今さらもじもじするつもりはないけれど、やはり荒淫の痕跡は恥ずかしい。
当然、絶倫な彼らは不平不満の大合唱であり、「痕をつけなければよろしいのでしょう?」と特に強硬に反対をしたひとが約一名いたが(誰とは言わないが)、そういう問題ではないと全力で拒否った。よろしいのでしょうという当の本人が一番痕跡をつけるひとなのだから話にならない。説得力がないですよと言い張ったら他の三名がなんと私の加勢に回り、気がつけば私は結婚前の十日間、たいへん静かな夜を過ごすことに成功したのだった。出陣してからの数日以外、あまりに久しぶりでいつからイチャコラせず寝ていなかったのかなかなか思い出せない(言っては何だが月のものの時でさえ、ぴったり抱き合うか、からだを撫で回されるか、挿入以外のあんなことやこんなこと、が日常茶飯事であった)。
……反動は怖いが考えないことにする。
******
そして、葡萄月十一日。秋らしい、爽やかに晴れ渡った青空。
私の結婚式当日。
十日間の「反動」は予想通りやってきて、朝も早くから大騒ぎになった。
なんと着替えているうちに(つまり半裸である)、すっかり支度を整えたレオン様とオルギールが襲来したのである。
「やっぱり来たか」
「ご自分を棚に上げるおつもりですか」
互いに目を眇めて言う。
どちらの台詞か、解説は不要だと思う。
「リヴェアの花嫁姿を一番に見るのは俺だ」
「私もお忘れなく」
「お二方とも、姫君のお仕度が終わるまでは居間でお待ちを」
助っ人で駆り出されている頼もしいケイティの厳しい声が飛んだ。
もちろん、その程度で怯む二人ではなかったが。
「ここでおとなしく見てるだけだ」
「なんなら私は着付けの手伝いもできますよ」
「俺だってできるぞ」
「私なら髪の結い上げも可能です」
レオン様もオルギールもいかれているとしか思えない。
侍女たちが動揺してざわめく。
そして、お静かにして頂けるならよろしいのではと言う者まで出てくる。
彼らが言い出したら聞かないとわかっているミリヤムさんとヘンリエッタさんである。
彼女たちもいかれている。
「お二人とも。姫君は見世物ではございません」
怖いもの知らずのケイティはわからずや二名の前で言い募った。
「あと少しのこと。我慢なさいませ!」
「いやだな」
「だから手伝うと言っている、ケイティ」
「なんと聞き分けのない。……恐れながらユリアス様やシグルド様を見習われませ!!」
とうとうケイティは半ギレで言った。
「ユリアス様は常に姫君第一に考えられ、節度ある態度をとっておられますのに」
結局、彼女は主を上げ、他を下げたいのだなと丸わかりである。
はらはらする。
ダメな子を叱るのに、他を引き合いに出してはいけないのに。
教育方法として間違っている。ふてくされたり開き直らせたりするだけなのである。
「……ふん、何を言うかケイティ」
案の定、レオン様はせせら笑った。
オルギールはケイティを無視することにしたらしく、半裸の私に歩み寄ると「肌が輝くようですねリア」とすごく恥ずかしいことを言った。
お式のために誂えられた、びっくりするほど煌びやかな礼装に身を包んだオルギールは壮絶なまでに美しく、突然の二人の乱入に当初こそ抵抗を示し、私の回りで人垣を作ってくれていた侍女たちも、あっけなくオルギールの接近を許してしまっていた。やむを得ないとは思う。彼を見慣れたはずの私ですら、意識が飛びそうなほどの人外の美貌なのだ。容姿だけで警戒態勢を解除させてしまうオルギール、相変わらずあっぱれである。
半裸の私の前でオルギールは甘く目を細め、「風邪をひきますよリア、早く衣装を」と言った。
……その傍らで。
「お前はユリアスを持ち上げたいだけだ」
身も蓋もなく、レオン様は断罪する。
心外でございます!とケイティは言い張る。
「あいつらは‘まだ’来ないだけだ。城の位置関係の問題だ。ヘデラ城よりちょっと離れてるからな。どうせ来るぞ」
「そのようなこと、けっして……!」
ございません!と抵抗するケイティの声とほぼ同時に、いきなり複数の力強い足音が近づいてくる。
……もう、見なくてもわかる気がする。
姫君はお仕度中で、と無駄な抵抗をする侍女の声がするけれど、それと同時に扉が勢いよく開いた。
「姫!」
「リヴェア!」
まだか!?まだだな!?
と、シグルド様とユリアスは肩で息をしながら言った。
達観したおももちで彼らを迎えた半裸の私を(まだ下着姿なのである)とらえると、とたんに二人の眼差しが蕩けた。
「間に合ってよかった」
「先を越されてはいないようで安心した」
「誰よりも早く花嫁姿を見たいと思ってな」
二人は目を細めて言う。まだ着ていないようだなと下着姿の私を遠慮なく眺め、安堵の色をあらわにしている。
ユリアス様、とケイティが茫然と呟いている。
レオン様は言っただろうケイティと大人げなくドヤ顔をした。
オルギールは侍女の手から衣装を取り上げると、「さあリア」と微笑む。
結婚式の当日、どこの花嫁が夫となるひとの(正確には‘人々’だ。この時点でありえないのだが)監視と協力のもと身支度を整えるというのか。
……もう笑うしかない。
くすくす、では足らず、次第にあはは、と本当にお腹の底から笑いがこみ上げてくる。
「皆さま」
私は笑いながら手を差し伸べた。
光り輝く太陽神のレオン様。
氷の魔王、オルギール。
繊細な美貌に逞しいからだ。火竜の君、シグルド様。
知性と色気のクールビューティ、ユリアス。
皆、器用なのを知っている。隅に置けないことに、女性の身支度に通じていることも知っている。
「手伝って下さいますか?」
******
婚姻誓約書への署名、捺印を済ませ、式典を執り行ったグラディウス一族の霊廟を出るや否や、熱気に満ちた歓声に包まれた。
これから、パレードが始まる。
手を振って応えつつ、無蓋馬車に乗り込む。たくさんの見知った顔に囲まれながら。
公爵様方の「くっつけ隊」たちはもうずっと滂沱の涙を流しっぱなしだ。
すっかり顔色のよくなったレオン様の副官二名の姿も見える。やっぱり泣いている。
わずかに笑みを浮かべたジュスト少佐の姿も見える。渋い。
そして。
私の警護にあたる親衛隊長、アルフはすぐそばにいてくれる。
きっと、これからもずっとそばに。
……「異世界転移」をした日。
はじまりは悲しくてつらくて、泣き寝入りして目覚めたらマッパだった。
今では幸せで気持ちよくて、快楽に啼かされて目覚めるとマッパである。
苦くて甘くて、幸せな彼我の差を噛みしめつつ周りを見渡せば、旗手が捧げ持つ旗が見える。三本、三色の剣を背に立つ女神様。それらをつなぐ金色の蔦。
オルギールに連れられて、初めてエヴァンジェリスタ城を巡ったとき。
筆頭公爵が掲げる、グラディウス一族の旗と教えられた、華麗な旗。
それはあの時のように吹いてきた風を受けて、今も力強くたなびいている。
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闘いで力を発揮するシーンもワクワクして読んでおります。
非力なお嬢様と思っていたら、とてつもない戦いのプロフェショナルだと分かった 男性共の反応が面白くて楽しいです。
麗しくてまばゆくもあります。
面白い物語を有難うございました。
芹香様、こんばんは。感想を下さりありがとうございます!!(お返事が遅くなりまして申し訳ありません)
物理で強いヒロインのお話をワクワク頂けたようでうれしいです^^
それに、「まばゆい」と表現頂いたのも、とてもうれしい。
わたしはキラキラして華やかで、芹香様が表現してくださったように「まばゆい」キャラが大好きなのです。
こちらこそ、ありがとうございます。
亀よりのろいですが続編も書いてまいりますので、引き続きよろしくお願い致します。
何回目かの読み返しをしようとして、書籍化を知りました!おめでとうございます!当然購入しました!エピソード少し変わっていて、そちらはもう読めないと思うとちょっと寂しい気もしますが、全体的に読みやすくなってる印象でした!続刊楽しみにしています。
あさゆいママ様、コメント有難うございます❗️
また、ご購入頂けたのはもちろんのこと、読み返しのつもりで、と言うところがとてもとても嬉しいです。私もお気に入りは何度でも読みます…
読みやすくなってましたか?勢いで書いたものなので、粗も多くて、改稿は頑張りました🤭
ゆっくりですが本編の続編も始まっていますので、お楽しみ頂けますと幸いです♥️
引き続きどうか宜しくお願いします❗️
書籍を拝読して、続きが知りたくてこちらに参りました。
セクシーな閨シーン、ワクワクする戦いのシーン、どれも面白く 楽しく読ませて頂きました。
異世界人だから 好かれて、珍しい黒目黒髪だから愛されて、最初から逆ハーレムとかいうテンプレートじゃなくて、ヒロインの能力や胆力 その他の要素で好かれるというのが魅力的でした。
こういう終わり方をするのだと 興味深かったです。
一つだけ気になるのは、子孫問題です。子作りどうするんですか? 第二夫人を皆で娶るのでしょうか?それともヒロインにお任せ?少なくとも4回は出産しないといけないですよね。
嫡出子が必要なんだろうと思ったら 気になりました。誰の子供かも どうやって区別するんでしょう。
面白いお話を有難うございました。二巻のお早い刊行をお待ちしております。
芹香様、こんばんは!
書籍のお買い上げ&こちらにお越しいただきコメントまで下さるとは……
有難うございますっ!!
物理で強い「戦うヒロイン」というのはこのお話の重要な要素でして。
軍人であることがポイントで結果的に逆ハーになった、という点を評価頂けてとても嬉しいです♡
そして後継者問題ですね^^逆ハーではどうなっちゃうの、というこれまた重要ポイント。
彼女、丈夫ですし、四回は大変だけれど出産頑張って頂こうかな、と考えておりますと同時に、
「一人の母と四人の父」という感じでまとめて育てて、髪と目の色で推定できる場合以外は、
相性を見ながらそれぞれの三公爵、または侯爵のところへ跡取りとしてゆかせてもいいし、とか。
続編の完結をめざしておりまして、実はあまり考えていなかったのです(>_<)
本当は子供が生まれてからのネタも脳内にはあって、書きたくてたまらないのですが、
芹香様のおっしゃる疑問点のあたりを設定しておかないと、と思い、まだ書けず。
丁寧なコメントを下さりありがとうございました!
よろしければ続編の「姫将軍は身がもたない!」もお楽しみくださいませ(亀更新ですが必ず完結をさせるつもりです)
ひきつづき宜しくお願いいたします!