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 唐突に、目が覚めた。

 ゆっくりと意識がはっきりしてゆくのではなくて、ゼロからいきなり百パーセント、という感じ。
 しかし、せっかく思考はクリアーでも、自分の置かれた状況が把握できないままである。

 頬にかかる、自分の髪を払いのけた。さらさらだ。
 妙に、動きづらい。そして、温かい。
 ……温かい?

 私のからだに、首の下に回された腕。触れ合う肌。硬い胸。
 裸の男のひとのからだ。

 あれ?
 私に、裸で添い寝するひとと言えば。

 「……レオン様?」
 「違いますよ」

 頭上から、耳に心地よい、優しいテノールが聞こえた。
 見上げるより先に、頭の上に、柔らかな唇の感触を受ける。
 私を抱くそのひとが、ずず、と、少しだけ、私の頭の位置にあわせて、からだを移動させてくれた。

 非の打ち所がない白皙。最上級の宝石のような紫の瞳。

 「オルギール??」
 「おはようございます、リヴェア様」

 優しく細められる瞳。いつも無表情に取り澄まして見える唇は、少しだけ端が持ち上がって、ほんのりと笑みを浮かべている。
 
 なぜ!どうして!?

 「おはようって、ちょ、これ、どして」

 うろたえて何を言っているのか自分でもわからない。
 ようは、動揺し、同衾の正当な理由を求めている、ということだ。
 
 「気を失ってしまわれたので」
 
 額に、冷たい唇がそっと押し当てられた。
 なんで、気を失った?
 ……思い出したくない。

 「私が清めさせて頂きました。そして、そのまま私もお側に」
 「でも、なぜ、裸」

 思わず、口をついて素朴な疑問が零れ出た。

 「……それは、まあ、リヴェア様」

 ふ、と微笑む気配がした。
 そして、その唇がまた、今度は私の目尻に寄せられる。

 「私も、男ですから」

 言葉とともに、長い脚が私のからだに絡みつく。
 
 オルギールの、筋肉質の硬い脚。それから、私の肌に擦り付けられる、ごつごつした熱くて硬いもの。

 このひと。……下穿き、はいてない。
 私も、オルギールも、マッパだ。

 身じろぎするともっとまずいことになりそうだし(どう動いてもソレにあたる)、下手に抗議すると墓穴を掘りそうだし(だって何といえばいい?)、私は緊急避難的にマグロと化した。

 「……あなたは、柔らかくて、なめらかで。吸い付くような肌で、温かくて」

 くちづけのあとは、頬ずりをされた。
 からだに回された手が、ゆっくりと私の背を撫で、お尻を撫でる。

 「レオン様が片時もあなたを離そうとなさらないのも頷けます」

 ぐぐ、と絡みつくオルギールの脚に、さらに力が加わった。
 そして、ますます硬度を増した感のあるそれが力強く押し当てられて、ちょっと痛いくらいだ。

 「リヴェア様。……リア」
 「え?」

 その、呼び方。
 ぴく、となった私の緊張を解くように、私の耳元に限りなく甘く、囁きかける。

 「リア、とお呼びしても宜しいでしょう?」

 お尻を撫でていた手が、今度は下から上へと撫で上げられた。
 からだも手足も動かさず、顔も抱き込まれたまま動かせず、思わず自分の口だけが動いた。

 「よろしいけれど。……でも、なぜ、その呼び方を?」
 「あの男が、あなたのことをそのように」

 ちゅう、と耳朶を軽く吸われた。

 あの男。アルフのことだ。
 オルギールは、アルフを「あの男」呼ばわりして私にさんざん無体なことを。
 

 気を失うまでのとんでもないあれこれが、記憶の奔流となって私の脳内に溢れかえった。
 ……赤面、では足りないくらいに、私の顔は真っ赤になったに違いない。

 「あの男だけに許した呼び方なのですか?」

 耳朶を咥えたまま、オルギールは言った。
 あくまでも優しい声なのに、どこかしら、恐ろし気な響きを感じる。

 「私がお呼びするのはいけない?」
 「そんなことはありません」

 即答した。
 寒気がした。ぶるり、と震えたのは刷り込みによる恐怖のせいだ。

 「どうぞ、お好きなだけお呼びになって」

 へんな敬語になった自分はおかしいけれど、からだも声も震えてしまう。
 
 「リヴェア様。……リア、なぜ、震えておられるのですか?」
 
 相変わらず、耳朶はオルギールの口の中だ。舐め転がしながら話すのはお願いだからやめてほしいのに。

 「耳まで真っ赤になって。からだを震わせて」

 ふ、と耳の中に息を吹きかけられて、また、大きくからだを波打たせてしまった。
 今のは、不覚にもからだが反応してしまったせいだ。でも声が震えるのもさっきぶるったのも、あなたが怖いせいなのです。
 ……と、言えたら楽なのに。それともそんなことを言ったら、もっと怖い目に合うのだろうか。

 「感じていらっしゃる?」
 「あぁ!」

 いきなりオルギールの手が、ぴったり重なった私と彼のからだの間に差し込まれた。
 肉の割れ目をかきわけて、迷うことなく一番敏感なところを探り当てる。
 気を失う前、とても卑猥な事を言われたところ。

 「まだ、のようですね」

 笑みを含んだ声が、吐息と共に耳に流し込まれる。
 なにが、まだ?
 
 「あなたの赤珊瑚は、慎ましやかだ。……見せて頂きましょうか」
 「オルギールっ!!」

 悲鳴のような私の声は、オルギールのくちづけに飲み込まれた。

 首の下に回されていた腕は、私の片足を抱え上げて、大きく割り開く。
 オルギールの指が的確に、容赦なく敏感なところを擦り、刺激して、ほどなくして飛び出した粒をさらにかわいがる。
 その頃には、溢れる愛液で、彼の手はとっくにびちゃびちゃだ。
 そして、さっきから存在を主張している硬いものからは、熱いぬめり。
 それを、肉粒に擦り付けられた。繰り返し。何度も。

 「んん、あう」
 「夜明けまでは、まだ時間がありますので」

 ろくに、物が言えない。
 快感で頭が霞む。唇が離れても、息継ぎしかできない。妙な声しか出せない。

 「出立したらしばらくおあずけですから。もう一度よく見せて下さい、リア」

 彼の声が少し遠ざかる気配とほとんど同時に、私の両足は極限まで開かされた。
 彼の息がそこにかかって、更なる快感に腰が揺れる。既に飛び出しているに違いない突起に舌が這わされ、蜜塗れの膣にはかぎ状に曲げた指を挿入される。

 ──リア。……私の、至上の宝石。

 オルギールの呟きを遠くに聞きながら、私は声が枯れるまで嬌声をあげ続けた。
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