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寝台でしっかり本格的に眠るのもいいけれど、寝椅子でうとうとするのもとても気持ちがいいものだ。
レオン様にかけてもらった柔らかな肌掛けにくるまって幸せな気持ちでまどろんでいたのだけれど、レオン様はなかなか戻ってこなかった。
確か、ここで待っていてくれ、って言っていらしたよね。
だんだん目が覚めてくると、現金なもので、寝椅子というのは居心地がよろしくない。私はむっくり起き上がった。髪はくしゃくしゃ、汗はかいたし、埃っぽい。眠っているならやむを得ないけれど、起きてこのままレオン様を待つのは女子としての尊厳が許さない。
私は先に浴室を使って、髪とお肌のお手入れを入念に施すことにした。このあと、レオン様とのアレコレを期待しているから、では、断じてない(常々、ヤリ過ぎだと思っている。ヤらない日があってもいいと思う)。眠る前の髪とお肌のお手入れは、これもまた女子の尊厳を保つためにはマストだと思う。
──今日も、色々あった。
訓練は、すこぶる順調だ。心配はない。思い出すのは、ラムズフェルド公に「ムカつく」と言われたことと(公爵とは思えない幼稚な理由でびっくりした。逆に、本当だろうか、と思ってしまう)、オーディアル公の暴走だ。あれには驚いた。ここ数日の間に、好意を持たれていることは承知していたけれど、まさかあれほどとは。というか、「割と好き」から、名前呼びによって一足飛びに「好き好き大好き」になってしまったような。思い込みが強そうだしね。まあ、優しくて強くてあの容姿だし、場面によってはどきどきしている自分も自覚しているけれど、今はまだ困惑している、というのが正直なところだ。
──それに、レオン様。
私は、延々と続いた馬上でのくちづけを思い出して、羞恥のあまり転げ回りたくなった。
そもそも、お風呂を済ませて綺麗にして起きて待っていたら、間違いなくレオン様は勝手に誤解する。
レオン様は遅いし、どこかで存分に転げ回りたいし、申し訳ないけれど、先に寝室に入ることにした。
──イラつく、って仰っていた。レオン様の気持ちを正しく理解していないから、と。
お風呂から上がっても、まだレオン様は戻っていなかった。
私は、広い寝台に這いあがり、中心を避けて、ちょっとだけ隅っこに近いところに丸くなった。
愛されているとは、思っている。それを疑ってはいない。でも、私からすれば、私のほうがずっとレオン様のことを好きだと思っているのだけれど、違うのだろうか。すぐみとれてしまうし、くちづけ一つ、軽い愛撫一つですぐに蕩けてしまう。ヤリ過ぎだの今日はダメだの言っても、我ながら説得力はゼロ。結局は、いつもいつも思い出すのも恥ずかしいくらい啼いて、乱れてしまう。
レオン様だけじゃない。私も淫乱、ってことか。恥ずかし過ぎる。
私は羞恥に塗れて身悶えし、広い寝台を右に左にころころ転がり、最終的には突っ伏した。
──今日も必ず、間違いなく、起きていたら致すことになる。オーディアル公のこととか、馬上でのこととか、情事になだれ込む理由はたっぷりあるし。
少し卑怯だけれど、私はこのまま先に眠ることにした。今日はなんだかその気になれない(ような気がする。断言できない自分がすごくイヤだけれど)。ぐっすり眠っていれば、さすがにレオン様も手を出さないだろう。だろうと思う。思いたい。
******
「──ヴェア、リーヴァ!」
何時間、たったのだろう。
頬を、叩くというのはなく、撫でるように触れられ、ゆすぶられて私は目を覚ました。
「レオン、様……?」
至近距離に、とても心配気なレオン様の顔があった。
アレコレはせずに先に眠ったはず。……お誘いか?とねぼけた頭で一瞬思ったけれど、私を見下ろすレオン様の表情は見たことがないほど真剣で、心配そうだ。とてもあやしい雰囲気ではない。
失礼しました。
頭の中でだけレオン様に詫びて、私は頬をさする彼の手に自分の手を添えた。
「レオン様、どうなさったの?」
「……俺が聞きたい」
レオン様は片肘をついて体を横たえて、私を引き寄せた。
表情は硬いままだ。本当に、どうしたのだろう?
わけがわからない。
抱き込まれたまま首を傾げていると、私の怪訝な表情が作り物ではないことがわかったらしく、レオン様はちょっとだけ表情を緩め、小さく息をついた。
「レオン様?」
「……夢を、見ていたのではないのか、リーヴァ?」
「夢?」
そんなものは、見ていない。
私は小さいころから、見た夢は逐一覚えている。だから、何も記憶がなければ、夢は見ていないことになるはずだ。
私はそのことを説明し、今も夢を見てはいない、と断言した。
「無自覚、か」
レオン様は凛々しい、形のよい眉を顰めた。
そして今度は、その金色の瞳に沈痛な色を浮かべて、私を覗き込む。
「……久しぶりに聞いた。初めてではないんだ」
「?」
「君は、眠りながら泣いて謝っている。……ごめんなさい、ごめんなさい、と何度も」
泣いて……?私が?
思わず、自分の手で自分の眼に触れてみると。
ひんやりとした睫毛は、確かに、涙を含んで重く、じっとりと湿っていた。
レオン様にかけてもらった柔らかな肌掛けにくるまって幸せな気持ちでまどろんでいたのだけれど、レオン様はなかなか戻ってこなかった。
確か、ここで待っていてくれ、って言っていらしたよね。
だんだん目が覚めてくると、現金なもので、寝椅子というのは居心地がよろしくない。私はむっくり起き上がった。髪はくしゃくしゃ、汗はかいたし、埃っぽい。眠っているならやむを得ないけれど、起きてこのままレオン様を待つのは女子としての尊厳が許さない。
私は先に浴室を使って、髪とお肌のお手入れを入念に施すことにした。このあと、レオン様とのアレコレを期待しているから、では、断じてない(常々、ヤリ過ぎだと思っている。ヤらない日があってもいいと思う)。眠る前の髪とお肌のお手入れは、これもまた女子の尊厳を保つためにはマストだと思う。
──今日も、色々あった。
訓練は、すこぶる順調だ。心配はない。思い出すのは、ラムズフェルド公に「ムカつく」と言われたことと(公爵とは思えない幼稚な理由でびっくりした。逆に、本当だろうか、と思ってしまう)、オーディアル公の暴走だ。あれには驚いた。ここ数日の間に、好意を持たれていることは承知していたけれど、まさかあれほどとは。というか、「割と好き」から、名前呼びによって一足飛びに「好き好き大好き」になってしまったような。思い込みが強そうだしね。まあ、優しくて強くてあの容姿だし、場面によってはどきどきしている自分も自覚しているけれど、今はまだ困惑している、というのが正直なところだ。
──それに、レオン様。
私は、延々と続いた馬上でのくちづけを思い出して、羞恥のあまり転げ回りたくなった。
そもそも、お風呂を済ませて綺麗にして起きて待っていたら、間違いなくレオン様は勝手に誤解する。
レオン様は遅いし、どこかで存分に転げ回りたいし、申し訳ないけれど、先に寝室に入ることにした。
──イラつく、って仰っていた。レオン様の気持ちを正しく理解していないから、と。
お風呂から上がっても、まだレオン様は戻っていなかった。
私は、広い寝台に這いあがり、中心を避けて、ちょっとだけ隅っこに近いところに丸くなった。
愛されているとは、思っている。それを疑ってはいない。でも、私からすれば、私のほうがずっとレオン様のことを好きだと思っているのだけれど、違うのだろうか。すぐみとれてしまうし、くちづけ一つ、軽い愛撫一つですぐに蕩けてしまう。ヤリ過ぎだの今日はダメだの言っても、我ながら説得力はゼロ。結局は、いつもいつも思い出すのも恥ずかしいくらい啼いて、乱れてしまう。
レオン様だけじゃない。私も淫乱、ってことか。恥ずかし過ぎる。
私は羞恥に塗れて身悶えし、広い寝台を右に左にころころ転がり、最終的には突っ伏した。
──今日も必ず、間違いなく、起きていたら致すことになる。オーディアル公のこととか、馬上でのこととか、情事になだれ込む理由はたっぷりあるし。
少し卑怯だけれど、私はこのまま先に眠ることにした。今日はなんだかその気になれない(ような気がする。断言できない自分がすごくイヤだけれど)。ぐっすり眠っていれば、さすがにレオン様も手を出さないだろう。だろうと思う。思いたい。
******
「──ヴェア、リーヴァ!」
何時間、たったのだろう。
頬を、叩くというのはなく、撫でるように触れられ、ゆすぶられて私は目を覚ました。
「レオン、様……?」
至近距離に、とても心配気なレオン様の顔があった。
アレコレはせずに先に眠ったはず。……お誘いか?とねぼけた頭で一瞬思ったけれど、私を見下ろすレオン様の表情は見たことがないほど真剣で、心配そうだ。とてもあやしい雰囲気ではない。
失礼しました。
頭の中でだけレオン様に詫びて、私は頬をさする彼の手に自分の手を添えた。
「レオン様、どうなさったの?」
「……俺が聞きたい」
レオン様は片肘をついて体を横たえて、私を引き寄せた。
表情は硬いままだ。本当に、どうしたのだろう?
わけがわからない。
抱き込まれたまま首を傾げていると、私の怪訝な表情が作り物ではないことがわかったらしく、レオン様はちょっとだけ表情を緩め、小さく息をついた。
「レオン様?」
「……夢を、見ていたのではないのか、リーヴァ?」
「夢?」
そんなものは、見ていない。
私は小さいころから、見た夢は逐一覚えている。だから、何も記憶がなければ、夢は見ていないことになるはずだ。
私はそのことを説明し、今も夢を見てはいない、と断言した。
「無自覚、か」
レオン様は凛々しい、形のよい眉を顰めた。
そして今度は、その金色の瞳に沈痛な色を浮かべて、私を覗き込む。
「……久しぶりに聞いた。初めてではないんだ」
「?」
「君は、眠りながら泣いて謝っている。……ごめんなさい、ごめんなさい、と何度も」
泣いて……?私が?
思わず、自分の手で自分の眼に触れてみると。
ひんやりとした睫毛は、確かに、涙を含んで重く、じっとりと湿っていた。
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