上 下
2 / 5

わたし、頑張る。2

しおりを挟む
 結局、アメリアは事細かに親友の初めてを聞かされたのだった。

 もとい、聞かされただけではない。アメリアもおおいに興味を持ち、未知の世界を聞きほじった。
 そしてチャート式にそれらについて理解を深め、分析した。



 初めてはとても痛いらしい。
 ↓
 二回目以降は気持ちよくなる場合が多い。(ちなみにウルリーケは気持ちよくなかったとしょんぼりしていた)
 ↓
 彼女みたいに気持ちよくならないひとはけっこう多い。その理由は二通り。 
 ↓
 分岐1. 男がヘタクソ。(ウルリーケのお相手は童貞だったらしい。処女と童貞、何ともほほえましいものだ)
 
 または
 ↓
 分岐2. 女がマグロ。(くすぐったいのか痛いのかわからなかったのと彼女は言った。で、じっとしていたと)

 
 親友のお初をフローチャートにするとこんな感じか、とアメリアは冷静に分析した。
 
 そして、もうひとつのパターンもあるらしい、と探求心旺盛なアメリアはそちらについても脳内フローチャートを展開する。

 
 初めては通常はとても痛いらしい。(コレについては普遍性がある!とアメリアはどういうわけか思い込んだ。)
 ↓
 でも最中から妙な感覚が生まれてくる。
 ↓
 ぞわぞわしてあんあん言ってるうちに。
 ↓
 処女でも中イキすることもあるらしい。(ウルリーケはこんなのありえなーい!と言っていた。彼女自身がそうだったのだろう。それはともかく中イキに成功した女性の場合)
 ↓
 結果1. 処女からすぐに快感に目覚める。
 
 残念ながら中イキできなかった方々の場合
 ↓
 結果2. あんあんしてるのだけれど達しない。(わたしがそうだったの!とウルリーケは克明に語った)


 ──はじめは目を白黒させられたものの、アメリアは小さい頃から母の教え、すなわち「初めては好きなひととね」を守ろうを思っていたので、発展家で恋愛脳の持ち主・ウルリーケの話は「いつかきっとわたしにも参考になる!」と心から思い、友情に感謝していた。

 いや、正直に言おう。

 ウルリーケは家族に言えないからアメリアをはけ口にあけすけな話をしたかっただけなのだろう、と、賢明なアメリアにはよくわかっていたのだ。けれど、感謝していたのも本当だ。「わたしは好きなひとに巡り合うまで自分を大切にするわ!」と思っていたから。
 知識はいくらあっても邪魔にならないわ!と思っていたから。
 あとは時が来たら実践あるのみ!と思っていたから。
 王太子妃だの隣国の王子だの。「わたしだけの王子様」に会ったら初めてを捧げて、痛いのは我慢して、でも恥じらいつつも快感を得て、好きなひとの腕の中で女性として開花するのだわ……!
 
 と、大真面目に妄想していたから。


 ──なのに。なのになのに。

 思い出すとアメリアはいつも口の中が酸っぱくなる。


 ……十八の誕生日の日。侯爵家の惣領姫、ということでそれは盛大にお祝いの会が開かれた。
 国家公認魔導士が招かれ、招待客の前で私の魔力値を測り、属性を確認するというのが最高潮になるはずだった。
 両親は当然、アメリアの一族は皆、水準よりも相当高い魔力を持っていたから。
 アメリアは賢かったし早熟だったから、どれほど見事な魔力値をたたき出すのだろう、と囁かれたものだ。
 
 だがしかし。
 
 (ゼロだったのよね)

 昨日のことのように思い出す。
 
 招待客の沈黙、その後のざわめき。両親の、一族のうろたえ顔。魔導士の動揺。

 結局は、報酬以外に心づけをたっぷりと貰う予定だった魔導士が、「あまりに高い潜在能力を持つ子は二十頃まで魔力が顕現しないことがある」と苦し紛れに、かつ鬼気迫る表情で言ったものだから、なんとかその場は収まったのだ。それになんといってもアメリア・フォン・ローレンツ家は王国一、二を争う名門。そこの惣領姫の魔力がゼロなんて!シャレにもならない。何かの間違い。希少な酒、山海の珍味がふんだんに振舞われる誕生日会、大いに楽しみたいし。
 
 魔導士の出まかせ、招待客の希望と忖度の結果、誕生日会は一応つつがなく終了した。
 
 本当は、サプライズで王太子がアポなし訪問してアメリアを祝う、という素敵なイベントも予定されていたのに、それはキャンセルされた。侯爵家の敷地の前まで来た王太子にアメリアの魔力値の異変が知らされ、回れ右して王太子御一行は帰ってしまったのだ。
 (無論、アメリアは後日それを知らされた。それがどういうことを意味するかもわかるから、悔しくて泣いた)


 ──いろいろあった。それから激動の二年間を経た。

 縁談、はあるにはあったが、貴族という地位と財産狙いの新興商人とか、後妻の口ばかり。釣書に載せる魔力値ゼロのアメリアには、王侯貴族からのお話なんてこれっぽっちもなかった。
 
 それでもアメリアは努力してなんとかなるのではと、二十までは、と、それはそれは涙ぐましい努力をした。容姿端麗、才媛と謳われたアメリアは、努力の尊さもわかっていたのだ。

 しかし、アメリアは理解する。理解するまでに二年を要した。理解せざるを得なかったのだ。
  
 努力ではどうにもならないことがあることを。
 ゼロはどれだけ努力してもゼロでしかないことを。
 

 ……それを悟ったアメリアは数日の逡巡を経て今に至る。
 
 まず、「初めて」とさよならしよう。耳学問には限界がある。

 親友・ウルリーケももう人妻。あけすけ話が聞けるにしたって、今までの華麗な遍歴はどこへやら、「運命の人!」とやらにであったのなら、今後はもっぱら御夫君とのあれこれに特化されるだろう。サンプルが固定化されるのはよくない。友人の体験談と侍女に頼んで手に入れた本で得た知識には限界があるというものだ。
 
 さよならするにはどうするか?道端に立つわけにもゆくまい。秒で屋敷へ連れ戻される。
 
 そんな決意を秘めて、アメリアは今、王都・クラナッハ一の娼家の前に立っている。

 魔力ゼロ→ろくな縁談もない→おそらく家も継げない→一人で生きてゆく→でもそれでは寂しい→でもやっぱり魔力ゼロだとろくな相手もいない……

 衝撃の十八歳の誕生日から二年。努力に努力を重ねてもゼロはゼロのままと知ったのが先日の、十八の時のそれに比べると大変小規模で、イタい感じに終わった二十歳の誕生日会。それからずっと、アメリアの頭の中はこの無限ループに陥り、ようやく到達した結論は以下の通りである。

 魅了の魔力代わりに媚薬使いになろう!
 媚薬と言えば娼家!娼家で修業して王都・クラナッハの、いや、エルム王国の夜の世界で君臨する!
 最強の媚薬使いになってわたしを「ゼロ姫」と笑ったやつらを意のままにしてやる!

 
 ──方向性に難ありとはいえ、アメリアはあくまでも努力のひとであった。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巨根王宮騎士の妻となりまして

天災
恋愛
 巨根王宮騎士の妻となりまして

国王陛下は悪役令嬢の子宮で溺れる

一ノ瀬 彩音
恋愛
「俺様」なイケメン国王陛下。彼は自分の婚約者である悪役令嬢・エリザベッタを愛していた。 そんな時、謎の男から『エリザベッタを妊娠させる薬』を受け取る。 それを使って彼女を孕ませる事に成功したのだが──まさかの展開!? ※この物語はフィクションです。 R18作品ですので性描写など苦手なお方や未成年のお方はご遠慮下さい。

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

大嫌いな次期騎士団長に嫁いだら、激しすぎる初夜が待っていました

扇 レンナ
恋愛
旧題:宿敵だと思っていた男に溺愛されて、毎日のように求められているんですが!? *こちらは【明石 唯加】名義のアカウントで掲載していたものです。書籍化にあたり、こちらに転載しております。また、こちらのアカウントに転載することに関しては担当編集さまから許可をいただいておりますので、問題ありません。 ―― ウィテカー王国の西の辺境を守る二つの伯爵家、コナハン家とフォレスター家は長年に渡りいがみ合ってきた。 そんな現状に焦りを抱いた王家は、二つの伯爵家に和解を求め、王命での結婚を命じる。 その結果、フォレスター伯爵家の長女メアリーはコナハン伯爵家に嫁入りすることが決まった。 結婚相手はコナハン家の長男シリル。クールに見える外見と辺境騎士団の次期団長という肩書きから女性人気がとても高い男性。 が、メアリーはそんなシリルが実は大嫌い。 彼はクールなのではなく、大層傲慢なだけ。それを知っているからだ。 しかし、王命には逆らえない。そのため、メアリーは渋々シリルの元に嫁ぐことに。 どうせ愛し愛されるような素敵な関係にはなれるわけがない。 そう考えるメアリーを他所に、シリルは初夜からメアリーを強く求めてくる。 ――もしかして、これは嫌がらせ? メアリーはシリルの態度をそう受け取り、頑なに彼を拒絶しようとするが――……。 「誰がお前に嫌がらせなんかするかよ」 どうやら、彼には全く別の思惑があるらしく……? *WEB版表紙イラストはみどりのバクさまに有償にて描いていただいたものです。転載等は禁止です。

前世変態学生が転生し美麗令嬢に~4人の王族兄弟に淫乱メス化させられる

KUMA
恋愛
変態学生の立花律は交通事故にあい気付くと幼女になっていた。 城からは逃げ出せず次々と自分の事が好きだと言う王太子と王子達の4人兄弟に襲われ続け次第に男だった律は女の子の快感にはまる。

R18 優秀な騎士だけが全裸に見える私が、国を救った英雄の氷の騎士団長を着ぐるみを着て溺愛する理由。

シェルビビ
恋愛
 シャルロッテは幼い時から優秀な騎士たちが全裸に見える。騎士団の凱旋を見た時に何で全裸でお馬さんに乗っているのだろうと疑問に思っていたが、月日が経つと優秀な騎士たちは全裸に見えるものだと納得した。  時は流れ18歳になると優秀な騎士を見分けられることと騎士学校のサポート学科で優秀な成績を残したことから、騎士団の事務員として採用された。給料も良くて一生独身でも生きて行けるくらい充実している就職先は最高の環境。リストラの権限も持つようになった時、国の砦を守った英雄エリオスが全裸に見えなくなる瞬間が多くなっていった。どうやら長年付き合っていた婚約者が、貢物を散々貰ったくせにダメ男の子を妊娠して婚約破棄したらしい。  国の希望であるエリオスはこのままだと騎士団を辞めないといけなくなってしまう。  シャルロッテは、騎士団のファンクラブに入ってエリオスの事を調べていた。  ところがエリオスにストーカーと勘違いされて好かれてしまった。元婚約者の婚約破棄以降、何かがおかしい。  クマのぬいぐるみが好きだと言っていたから、やる気を出させるためにクマの着ぐるみで出勤したら違う方向に元気になってしまった。溺愛することが好きだと聞いていたから、溺愛し返したらなんだか様子がおかしい。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

処理中です...