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わたし、頑張る。2
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結局、アメリアは事細かに親友の初めてを聞かされたのだった。
もとい、聞かされただけではない。アメリアもおおいに興味を持ち、未知の世界を聞きほじった。
そしてチャート式にそれらについて理解を深め、分析した。
初めてはとても痛いらしい。
↓
二回目以降は気持ちよくなる場合が多い。(ちなみにウルリーケは気持ちよくなかったとしょんぼりしていた)
↓
彼女みたいに気持ちよくならないひとはけっこう多い。その理由は二通り。
↓
分岐1. 男がヘタクソ。(ウルリーケのお相手は童貞だったらしい。処女と童貞、何ともほほえましいものだ)
または
↓
分岐2. 女がマグロ。(くすぐったいのか痛いのかわからなかったのと彼女は言った。で、じっとしていたと)
親友のお初をフローチャートにするとこんな感じか、とアメリアは冷静に分析した。
そして、もうひとつのパターンもあるらしい、と探求心旺盛なアメリアはそちらについても脳内フローチャートを展開する。
初めては通常はとても痛いらしい。(コレについては普遍性がある!とアメリアはどういうわけか思い込んだ。)
↓
でも最中から妙な感覚が生まれてくる。
↓
ぞわぞわしてあんあん言ってるうちに。
↓
処女でも中イキすることもあるらしい。(ウルリーケはこんなのありえなーい!と言っていた。彼女自身がそうだったのだろう。それはともかく中イキに成功した女性の場合)
↓
結果1. 処女からすぐに快感に目覚める。
残念ながら中イキできなかった方々の場合
↓
結果2. あんあんしてるのだけれど達しない。(わたしがそうだったの!とウルリーケは克明に語った)
──はじめは目を白黒させられたものの、アメリアは小さい頃から母の教え、すなわち「初めては好きなひととね」を守ろうを思っていたので、発展家で恋愛脳の持ち主・ウルリーケの話は「いつかきっとわたしにも参考になる!」と心から思い、友情に感謝していた。
いや、正直に言おう。
ウルリーケは家族に言えないからアメリアをはけ口にあけすけな話をしたかっただけなのだろう、と、賢明なアメリアにはよくわかっていたのだ。けれど、感謝していたのも本当だ。「わたしは好きなひとに巡り合うまで自分を大切にするわ!」と思っていたから。
知識はいくらあっても邪魔にならないわ!と思っていたから。
あとは時が来たら実践あるのみ!と思っていたから。
王太子妃だの隣国の王子だの。「わたしだけの王子様」に会ったら初めてを捧げて、痛いのは我慢して、でも恥じらいつつも快感を得て、好きなひとの腕の中で女性として開花するのだわ……!
と、大真面目に妄想していたから。
──なのに。なのになのに。
思い出すとアメリアはいつも口の中が酸っぱくなる。
……十八の誕生日の日。侯爵家の惣領姫、ということでそれは盛大にお祝いの会が開かれた。
国家公認魔導士が招かれ、招待客の前で私の魔力値を測り、属性を確認するというのが最高潮になるはずだった。
両親は当然、アメリアの一族は皆、水準よりも相当高い魔力を持っていたから。
アメリアは賢かったし早熟だったから、どれほど見事な魔力値をたたき出すのだろう、と囁かれたものだ。
だがしかし。
(ゼロだったのよね)
昨日のことのように思い出す。
招待客の沈黙、その後のざわめき。両親の、一族のうろたえ顔。魔導士の動揺。
結局は、報酬以外に心づけをたっぷりと貰う予定だった魔導士が、「あまりに高い潜在能力を持つ子は二十頃まで魔力が顕現しないことがある」と苦し紛れに、かつ鬼気迫る表情で言ったものだから、なんとかその場は収まったのだ。それになんといってもアメリア・フォン・ローレンツ家は王国一、二を争う名門。そこの惣領姫の魔力がゼロなんて!シャレにもならない。何かの間違い。希少な酒、山海の珍味がふんだんに振舞われる誕生日会、大いに楽しみたいし。
魔導士の出まかせ、招待客の希望と忖度の結果、誕生日会は一応つつがなく終了した。
本当は、サプライズで王太子がアポなし訪問してアメリアを祝う、という素敵なイベントも予定されていたのに、それはキャンセルされた。侯爵家の敷地の前まで来た王太子にアメリアの魔力値の異変が知らされ、回れ右して王太子御一行は帰ってしまったのだ。
(無論、アメリアは後日それを知らされた。それがどういうことを意味するかもわかるから、悔しくて泣いた)
──いろいろあった。それから激動の二年間を経た。
縁談、はあるにはあったが、貴族という地位と財産狙いの新興商人とか、後妻の口ばかり。釣書に載せる魔力値ゼロのアメリアには、王侯貴族からのお話なんてこれっぽっちもなかった。
それでもアメリアは努力してなんとかなるのではと、二十までは、と、それはそれは涙ぐましい努力をした。容姿端麗、才媛と謳われたアメリアは、努力の尊さもわかっていたのだ。
しかし、アメリアは理解する。理解するまでに二年を要した。理解せざるを得なかったのだ。
努力ではどうにもならないことがあることを。
ゼロはどれだけ努力してもゼロでしかないことを。
……それを悟ったアメリアは数日の逡巡を経て今に至る。
まず、「初めて」とさよならしよう。耳学問には限界がある。
親友・ウルリーケももう人妻。あけすけ話が聞けるにしたって、今までの華麗な遍歴はどこへやら、「運命の人!」とやらにであったのなら、今後はもっぱら御夫君とのあれこれに特化されるだろう。サンプルが固定化されるのはよくない。友人の体験談と侍女に頼んで手に入れた本で得た知識には限界があるというものだ。
さよならするにはどうするか?道端に立つわけにもゆくまい。秒で屋敷へ連れ戻される。
そんな決意を秘めて、アメリアは今、王都・クラナッハ一の娼家の前に立っている。
魔力ゼロ→ろくな縁談もない→おそらく家も継げない→一人で生きてゆく→でもそれでは寂しい→でもやっぱり魔力ゼロだとろくな相手もいない……
衝撃の十八歳の誕生日から二年。努力に努力を重ねてもゼロはゼロのままと知ったのが先日の、十八の時のそれに比べると大変小規模で、イタい感じに終わった二十歳の誕生日会。それからずっと、アメリアの頭の中はこの無限ループに陥り、ようやく到達した結論は以下の通りである。
魅了の魔力代わりに媚薬使いになろう!
媚薬と言えば娼家!娼家で修業して王都・クラナッハの、いや、エルム王国の夜の世界で君臨する!
最強の媚薬使いになってわたしを「ゼロ姫」と笑ったやつらを意のままにしてやる!
──方向性に難ありとはいえ、アメリアはあくまでも努力のひとであった。
もとい、聞かされただけではない。アメリアもおおいに興味を持ち、未知の世界を聞きほじった。
そしてチャート式にそれらについて理解を深め、分析した。
初めてはとても痛いらしい。
↓
二回目以降は気持ちよくなる場合が多い。(ちなみにウルリーケは気持ちよくなかったとしょんぼりしていた)
↓
彼女みたいに気持ちよくならないひとはけっこう多い。その理由は二通り。
↓
分岐1. 男がヘタクソ。(ウルリーケのお相手は童貞だったらしい。処女と童貞、何ともほほえましいものだ)
または
↓
分岐2. 女がマグロ。(くすぐったいのか痛いのかわからなかったのと彼女は言った。で、じっとしていたと)
親友のお初をフローチャートにするとこんな感じか、とアメリアは冷静に分析した。
そして、もうひとつのパターンもあるらしい、と探求心旺盛なアメリアはそちらについても脳内フローチャートを展開する。
初めては通常はとても痛いらしい。(コレについては普遍性がある!とアメリアはどういうわけか思い込んだ。)
↓
でも最中から妙な感覚が生まれてくる。
↓
ぞわぞわしてあんあん言ってるうちに。
↓
処女でも中イキすることもあるらしい。(ウルリーケはこんなのありえなーい!と言っていた。彼女自身がそうだったのだろう。それはともかく中イキに成功した女性の場合)
↓
結果1. 処女からすぐに快感に目覚める。
残念ながら中イキできなかった方々の場合
↓
結果2. あんあんしてるのだけれど達しない。(わたしがそうだったの!とウルリーケは克明に語った)
──はじめは目を白黒させられたものの、アメリアは小さい頃から母の教え、すなわち「初めては好きなひととね」を守ろうを思っていたので、発展家で恋愛脳の持ち主・ウルリーケの話は「いつかきっとわたしにも参考になる!」と心から思い、友情に感謝していた。
いや、正直に言おう。
ウルリーケは家族に言えないからアメリアをはけ口にあけすけな話をしたかっただけなのだろう、と、賢明なアメリアにはよくわかっていたのだ。けれど、感謝していたのも本当だ。「わたしは好きなひとに巡り合うまで自分を大切にするわ!」と思っていたから。
知識はいくらあっても邪魔にならないわ!と思っていたから。
あとは時が来たら実践あるのみ!と思っていたから。
王太子妃だの隣国の王子だの。「わたしだけの王子様」に会ったら初めてを捧げて、痛いのは我慢して、でも恥じらいつつも快感を得て、好きなひとの腕の中で女性として開花するのだわ……!
と、大真面目に妄想していたから。
──なのに。なのになのに。
思い出すとアメリアはいつも口の中が酸っぱくなる。
……十八の誕生日の日。侯爵家の惣領姫、ということでそれは盛大にお祝いの会が開かれた。
国家公認魔導士が招かれ、招待客の前で私の魔力値を測り、属性を確認するというのが最高潮になるはずだった。
両親は当然、アメリアの一族は皆、水準よりも相当高い魔力を持っていたから。
アメリアは賢かったし早熟だったから、どれほど見事な魔力値をたたき出すのだろう、と囁かれたものだ。
だがしかし。
(ゼロだったのよね)
昨日のことのように思い出す。
招待客の沈黙、その後のざわめき。両親の、一族のうろたえ顔。魔導士の動揺。
結局は、報酬以外に心づけをたっぷりと貰う予定だった魔導士が、「あまりに高い潜在能力を持つ子は二十頃まで魔力が顕現しないことがある」と苦し紛れに、かつ鬼気迫る表情で言ったものだから、なんとかその場は収まったのだ。それになんといってもアメリア・フォン・ローレンツ家は王国一、二を争う名門。そこの惣領姫の魔力がゼロなんて!シャレにもならない。何かの間違い。希少な酒、山海の珍味がふんだんに振舞われる誕生日会、大いに楽しみたいし。
魔導士の出まかせ、招待客の希望と忖度の結果、誕生日会は一応つつがなく終了した。
本当は、サプライズで王太子がアポなし訪問してアメリアを祝う、という素敵なイベントも予定されていたのに、それはキャンセルされた。侯爵家の敷地の前まで来た王太子にアメリアの魔力値の異変が知らされ、回れ右して王太子御一行は帰ってしまったのだ。
(無論、アメリアは後日それを知らされた。それがどういうことを意味するかもわかるから、悔しくて泣いた)
──いろいろあった。それから激動の二年間を経た。
縁談、はあるにはあったが、貴族という地位と財産狙いの新興商人とか、後妻の口ばかり。釣書に載せる魔力値ゼロのアメリアには、王侯貴族からのお話なんてこれっぽっちもなかった。
それでもアメリアは努力してなんとかなるのではと、二十までは、と、それはそれは涙ぐましい努力をした。容姿端麗、才媛と謳われたアメリアは、努力の尊さもわかっていたのだ。
しかし、アメリアは理解する。理解するまでに二年を要した。理解せざるを得なかったのだ。
努力ではどうにもならないことがあることを。
ゼロはどれだけ努力してもゼロでしかないことを。
……それを悟ったアメリアは数日の逡巡を経て今に至る。
まず、「初めて」とさよならしよう。耳学問には限界がある。
親友・ウルリーケももう人妻。あけすけ話が聞けるにしたって、今までの華麗な遍歴はどこへやら、「運命の人!」とやらにであったのなら、今後はもっぱら御夫君とのあれこれに特化されるだろう。サンプルが固定化されるのはよくない。友人の体験談と侍女に頼んで手に入れた本で得た知識には限界があるというものだ。
さよならするにはどうするか?道端に立つわけにもゆくまい。秒で屋敷へ連れ戻される。
そんな決意を秘めて、アメリアは今、王都・クラナッハ一の娼家の前に立っている。
魔力ゼロ→ろくな縁談もない→おそらく家も継げない→一人で生きてゆく→でもそれでは寂しい→でもやっぱり魔力ゼロだとろくな相手もいない……
衝撃の十八歳の誕生日から二年。努力に努力を重ねてもゼロはゼロのままと知ったのが先日の、十八の時のそれに比べると大変小規模で、イタい感じに終わった二十歳の誕生日会。それからずっと、アメリアの頭の中はこの無限ループに陥り、ようやく到達した結論は以下の通りである。
魅了の魔力代わりに媚薬使いになろう!
媚薬と言えば娼家!娼家で修業して王都・クラナッハの、いや、エルム王国の夜の世界で君臨する!
最強の媚薬使いになってわたしを「ゼロ姫」と笑ったやつらを意のままにしてやる!
──方向性に難ありとはいえ、アメリアはあくまでも努力のひとであった。
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