溺愛三公爵と氷の騎士、と私。

あこや(亜胡夜カイ)

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異世界バレンタイン!~御方様、チョコレート作りを思いつく~10.

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 べったべたになった私の体中をすみずみまで丁寧に清め、仕上げにもう一度大きな柔らかな布でくるみ込みながら、「リアのせいですよ、今日のことは」と、オルギールは言った。

 「私の、せい?」

 さっぱりとしてもらって、オルギールの膝の上で冷たい果実水を飲ませてもらうと、ようやく私も声を発することができた。
 
 さんざん喘いで、白濁を注がれ続けた私の喉はイガイガになっていたのだけれど、恥ずかしいことにそれなりに私にも経験値はついてきていて、立ち直るのは早い。
 それに、回数はまあまあとはいえ、今日の行為は「短期決戦!」というべきか、長時間に及ぶ執拗な前戯を伴うものではなかったから、やはり体力的なダメージはそれほどではなかったようだ。

 私はもそもそと布の中で蠢いて体勢を整え、オルギールの白皙を見上げた。
 「今日はまだ余力がありそうですね」と不穏な発言をしつつ、オルギールはわずかに口角を上げて私を見下ろしている。

 「正確には、リアが作ってくれたもののせいでしょう」
 「──テオブロムか」

 レオン様の声がした。
 
 つい先ほどまで私をさんざん淫らに翻弄させた人とは思えぬほど冷静な声だ。
 冷静、というか正気に返った、というか。

 「俺も、おかしいと思う」
 「美味かったのに」

 ユリアスとルードも口々に言う。
 やはり、すっかり通常モードの彼らの声だ。

 「何よ、食べ物のせいにするの?」
 
 イラっとした。
 いつもは一番穏やかなルードが突然「暑い!」と言い始め、その後オルギール以外の三人にスイッチが入ったのは確かにおかしなことだが、せっかく頑張って作ったテオブロムがやり玉にあがるのは腹立たしい。
 私のせい、とさっきオルギールは言ったが、妙なもので自分自身よりも自分の力作についてどうこう言われる方がカチンとくる。
 いきなり盛り上がって私の体を好き放題にしたあげく、何を言い出すのやら。

 彼らに抗議しようともぞもぞしていると、すぐに察したオルギールが、顔が見えるように抱えなおしてくれた。
 
 怒涛の行為にもつれ込んだ三人の夫たちは、それぞれ素肌の上にローブを羽織っていて、広いベッドの上でなんとなく車座のように座っている。
 
 全員、もれなくすっきりした顔になっているのは気のせいではないだろう。

 「いったいなにが起こったんだ?」

 レオン様は手元にテオブロムの箱を引き寄せて言った。
 眉根を寄せて首を傾げている。
 くんくん、と高い鼻をひくつかせながら、

 「二種類入っているな?牛乳の風味の強い、甘いのと、イルルー産の酒が入ったほう。酒入りは黒いしほろ苦みも強くて、俺はこちらが特にうまいと思ったが」

 手を伸ばしてまた一つ、取り出しているのに、匂いを嗅いだり少し舐めるだけで口に運ぼうとはしない。
 名残惜しそうにしているからお気に召したのは本当なのだろうけれど、劇物扱いみたいになってしまった力作を見るのは悲しい。

 かといって、またもりもり食べたあげく貪られるのは困るけれど。
 複雑な心境でそんなレオン様を眺めていると、

 「リヴェア。さっきは急に脳が茹ったみたいになってしまったんだ。悪かった」

 ずずず、とシーツの上を膝行してきたルードが私の手を取った。
 背を丸めて私の顔を下から上目遣いに覗きこんでいる。
 その間、手を撫でたりちゅっとしたりするのはお約束だから気にしないとして、大柄で快活なルードが眉尻を下げて申し訳なさそうにしているのは見ていられない。
 ルードは美しい大型犬のイメージなので、おいたをして叱られる(のを覚悟している)犬のように見えてしまう。
 オルギールに言わせると、「あの方はそれをわかっていらっしゃる」と身も蓋もないが、今みたいにしゅんとして大きな体を丸くしている姿ときたら、本当に伏せをするわんこみたいだ。

 「本当にうまいテオブロムだった。それにあなたが俺のために頑張って作ってくれたと思ったらもういてもたってもいられず」
 「ルード、俺たちのために、作ってくれたんだ。そこ、間違えるな」

 ユリアスは冷静に指摘した。
 ルードは「些末なことだ」と言い捨てて、ずうっと私の手をいじくり続けている。

 「オルギール。俺たちが急にその気になったのはこれのせいか?」
 
 ユリアスはテオブロムの箱を目の高さにかざして軽くゆすった。
 たくさん作ったからたくさん食べてもまだそれなりに残っているのだろう。
 がさがさと重そうな質量を伴う音がした
 揺れて中身がぶつかりあうことでいっそう香りが濃厚になり、私も夫たちも、あらためて鼻をうごめかしてしまう。
 味も香りも一級品、のはずのテオブロム。

 「そうです、そのすばらしく美味で罪なものですよ」

 オルギールは私を見下ろして、ふ、とその秀麗な口元を緩めた。
 まるで、あなた自身のようですね、と呟いて。

 「正確には、それとイルルー産の酒が引き起こした、と思われますが」
 「なぜ断定できる?」
 
 打てば響く、という素早さでレオン様は尋ねた。
 
 「イルルー産じゃなければそうならなかったということか」
 「断定はできません。が、その可能性は高いかと」
 「あなたは酒が飲めないからわからないかもしれないが」

 ルードが後を引き取った。

 ちなみに、いまだにまだ私の手を離そうとしないので、とうとう「そろそろちょっと離して」と言って預けていた手を引き抜くと、とたんにあからさまに残念そうな顔をした。
   落胆を隠そうともしない。
 まったく、どこまで私の手が好きなんだ、と思う。

 「イルルー産の蒸留酒は特殊なんだ。一般的に流通しているのは色々な原酒を混ぜたり、または原酒そのものの醸造過程で風味付けに香草を混ぜるんだが、イルルーはほぼほぼ大麦だけで作っている。醸造所もかたくなに1ヵ所だけだ」

 言うなればシングルモルト、という感じだろうか。
 なにしろ飲めないから詳しくないのだけれど。

 「混ぜ物がないんだ。酒は嗜好品だから混ぜたから不味いとか安物、とは言い切れないが、やはりイルルー産のは純粋な大麦だけの蒸留酒、それに20年経過していないものは市場に出さないとのこだわりで希少性は高く、味も風味も独特なんだ」

 ルードは力説した。
 夫たちはみな酒豪だが、それぞれ好みはあるらしく、ルードは蒸留酒がお好きらしい。

 どうやら、蒸留酒、こちらの言葉で言うとアクアヴィテ(命の水)の風味がするテオブロムを、誰よりもたくさん、一気にパクパク食べたのがルードだったようだ。

 「見ていましたが、シグルド様が一番早く、たくさん召し上がったでしょう。これを」

 形のよい指でひとつつまんだお酒いりのほうを、オルギールは初めて口にした。

 「あ、オルギール」
 「……これは、美味ですね。酒の風味と濃いテオブロムの酸味と苦味が」

 ゆっくりと舌の上でとかすようにしながら、オルギールは評した。

 咥内全体で、喉ごしまでもを味わうかのように丁寧に食べて、嚥下して。

 「リア、とてもおいしいです」

 そう言って、オルギールはふわりと笑んだ。
 
 「くっ……」

 至近距離の極上の笑みに、思わず息を飲む。
 人外の美貌にはとっくに慣れているはずなのに、無表情が標準仕様の人なので、やはりまだこういう不意打ちにはくらっとする。

 リーヴァをたぶらかすつもりか、笑うな、とレオン様が鋭く牽制する。

 「人聞きの悪い。 どちらかと言えば私がリアにたぶらかされているのです」

 ね、リア?とオルギールはさらに駄目押しの悩殺スマイルを浮かべて、もうひとつテオブロムを__やっぱりお酒入りのほうを口に入れた。

 「私の推測なのですが」
 
 これは本当に美味ですね、と、またひとつ口にいれる。
 また次も。さらにその次も。

 「おい、オルギール、お前そんなに一度に食べて大丈夫なのか」
 「お前、今まで口にせずにいたくせにその勢いで食べたら」

 ユリアスとルードがざわめきはじめたけれど、オルギールは意に介さない様子だ。
 何となく不穏な気がして、彼の膝から降りようとしてみたが、無理だった。
 シーツで蚕みたいになった体を、オルギールにガッチリと抱き込まれている。
 
 「__推測ですが、大麦のみで作られた蒸留酒。テオブロムの濃度。それらの相互作用で催淫効果が増大したと思われます」
 「増大?」
 「そうです、リア」

 オルギールはテオブロムの香りのする指で私の頬
をするりと撫でた。
 そしてまた、次々とテオブロムを食べている。
 食べ続けている。
 大丈夫なのだろうか、と不安になってオルギールを見上げても、いっけんしたところその白晳に変化はない。

 「テオブロムには強壮作用の他に催淫作用もある。それはもともと現地の者からも聞いておりましたが、びっくりするほど一度に多量に接種しないと催淫作用は発現しないらしくて、気にしていなかったのですがね」
 「しかし一定量のテオブロムにイルルー産の酒を混ぜると、こうなる。そういうことか」
 「おそらくそういうことです、レオン様」

 オルギールは頷いて、また私の頬を撫でた。
 一回で終わらず、何回も。
 合間にせっせとテオブロムを口に運んでいる。

 「リア。テオブロムや砂糖、牛乳などの分量は記録していますか?」
 「ええ、もちろん」

 適当に、えいやで始めようとした私に、厨房長は「今後のこともありますゆえ、ぜひ分量材料は記録なされませ」と言っていたから。
 
 「再現できるわよ。というより、再現しないほうがいいわね?」
 「__これは、門外不出としましょう」

 静かに、けれどきっぱりと、オルギールは言った。
 
 「そんな!バレンタイン!!」
 
 私の体を抱き込んでいる大きな手を、精一杯の抗議を示すため叩いたりつねったりする。
 
 楽しいイベントをはやらせたいと頑張ったのに。
 この世界でもチョコレート、つまりテオブロムを広めよう、もっと研究を重ねておいしくしようと思ったのに。
 
 「お酒を混ぜなきゃいいでしょ!?」
 「門外不出と言ったのですよ、リア。これはまだまだ研究の余地がある。だからグラディウスの、この城の厨房だけで研究を続けましょう。外部には秘匿」
 「今回関わった者たちだけとするのがよかろう」

 すこぶるまっとうな相づちをうったのは、すっかり平静を取り戻したルードだ。
 仰せのとおり、とそれに頷きだけを返してオルギールは続けた。

 「これは美味ですし民が知ればおそらく大流行となるでしょう。でも、もう少し研究しませんと。もしも妙なことに使われてしまったら?リアの本意ではないでしょう?」
 「それは、そうだけれど……」
 「バレンタインそのものはとてもよいと思いますよ。だからテオブロム以外の菓子でそういった行事を流行させればよろしいのでは?」
 「まあ、そうかもしれないわよね……」

 オルギールは口がうまい。
 彼の口調で、彼の言葉で語られたら、たいていのことは「そうよねえ」と同調せざるを得ない気がする。

 「__けれど、リア。リアの手作り、というだけで私は本当に嬉しかったですよ。おまけにこんなに美味だし」
 「そう?……て、あれ、ちょっと、オルギール」

 淡々とした口ぶりにうっかりしていたら、彼の手は不埒な動き方を始めていた。
 巻き付けたシーツを丁寧にほどいて、緩めて、中途半端にシーツをまとわせたまま、足の間から手が滑り込んできて。

 「あ、や、待って」
 「待ちません」
 「ああ!」

 意地悪な指が、敏感な芽を積んだ。
 こすり、つまみ、私の腰が揺れそうになると刺激を送るのをやめてしまう。
 
 「オルギール、お前一人でずるいぞ」
 「こうなるとわかってたのか」

 外野がブーイングを唱え始める頃には、恥ずかしいことに私のそこは濡れそぼっていて。
 羞恥で顔が火照る。
 あんなに夫たちに貪られたあとなのに、いとも容易く反応する自分が嫌だ。
 浅ましい顔を見られたくなくて横を向いたのに、顔中に口づけを落とすオルギールが背けた顔を追うように覗き込んでくる。

 「わかっていはいませんよ。観察していただけです。それに」
 「んんっ!」

 ぐちゅり、と音を立てて、オルギールは一度に二本の指を突き立てた。

 「はあ、ああんっ」
 「ご覧になりたい方はそのままで。余裕がおありならぜひご一緒に」
 
 とんでもないことを平然と口にするオルギールの体温が少し高いのは気のせいだろうか?
 蜜洞を暴く指が熱い。
 だらしなく喘ぎ始めた私の唇をなぞる、彼の舌先も。彼の吐息も。
 淫猥な水音と刺激で私をさんざん昂らせてから引き抜いた指を、オルギールは妖艶な笑みと共に見せつけるようにして舐めた。

 「__さあ、リア」

 やっぱりこれは邪魔ですねと言って、オルギールはシーツを剥ぎ、自分も着衣を脱ぎ捨てた。
 天を衝く勢いでそそり立つものに軽く手を添えて、私の中心にあてがう。

 「オルギール、早く……っは、ああ!!」
 「リア……!」
 
 灼熱の剛直が一突きで最奥に到達した。
 彼を欲しがる柔襞が歓迎するようにうねり、締め上げる。

 いつものオルギールよりも明らかに性急に感じる。
 突き上げ、抉り回しながら、熱っぽく私の名を呼び続ける。呼びながら、私の胸の先を左右交互に舐めしゃぶり、歯を立てる。唾液まみれの胸から、濃厚なテオブロムとお酒の香りがする。

 喘いで、よがり啼く私の口の中にもいつのまにかお酒の香るテオブロムが押し込まれて。 
 やはりいつのまにか、他の夫たちも再び行為に加わっていて。
 口もあそこもお尻も手も、全身で快楽を得るうちに訳がわからなくなってきたのだけれど。

 私はふと思い出したのだ。

 破片だけ、それも三人で分ける厨房の者はともかくとして。
 アルフは大丈夫だったのだろうか、と。

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