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思い出が現実に!? 7.
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いつも学者バカだと邪険に扱っていた鬼先が、この美貌のCEOと親し気に言葉を交わしている。
そもそも、今日は予想外の意地悪をこの男から言われたのだった。
またその時のムカつきが蘇ってきて、毬子様の柳眉が跳ね上がる。
「鬼先さん、あなたこちらの方とどういったご関係ですの?」
「そうですよ、鬼先さん。ご友人なんですか?」
アナ、なぜ俺に聞かないんだ、とアレクシオスが不平を漏らしているが、貴奈は悪意なくスルーした。
鬼先はアレクシオスを見て、それからついでに毬子様を見て肩をすくめている。
「友人、というか師弟関係、というか。……ギリシャの発掘現場で知り合ったんだ。俺がまだ研究者の卵、アレクは趣味で掘りに来ていて」
「ケンとは歳が近くてね。発掘箇所もちょっと視点が違うというか、他のお偉い先生方とは一風変わっててうまが合ったんだ」
「鬼先さん、ケン、ってどうして?」
貴奈は小首を傾げて尋ねた。
またこの子ったらあざとい、と毬子様は貴奈に対してもイライラが止まらない。
「鬼先さんの下の名前ってケンさんじゃないですよね。ええと」
「剣、が正しいけれど、呼びにくそうだったからケンでいいって言ったらそうなった」
漢字はいろいろに読めて興味深いな、とアレクシオスは頷いている。
鬼先剣が、鬼先のフルネームである。
中二病を患ったような名前だが、読み方だの画数だのにこだわって彼の両親は大真面目に命名したのだそうだ。
名字だけではなく、フルネームで名乗っても字面で書いてもとんでもなく強そうだが、「俺は腕っぷしはまったくだめ、名前負け」と鬼先は聞かれる前に言ってからからと笑った。
快活に話し、遠慮なく言いたいことを言い、よく笑う鬼先は、まるでキャラ変したかのようだ。
水を飲みながら「工藤さんが残ってくれるなら安心だね」とマイペースに呟く館長は、鬼先のこういう顔も知っていたのかもしれないが、毬子様と貴奈は言葉を失ってしばし黙り込んでいる。
「じゃあ、今日はこのへんで。また俺も顔を出させてもらう」
アレクシオスは今度こそ、とばかりに入ってきた方向へと向かおうとした。
「今日だけ特別な」と言って、貴奈をしっかりと捕まえたまま。
午前は秘書だの午後は博物館だのと、さきほどは殊勝気に言っていたが、さっそく例外を適用するらしい。
「……あの、鬼先さん」
貴奈は怪訝そうに眉を寄せたまま言った。
どうしても、腑に落ちない。
エスコートとは到底言えぬほど強引にアレクシオスに連行され、よろめきながらも、なんとか鬼先を振り返る。
「どうしたの、工藤さん」
「あの、あのですね、鬼先さんがこちらへ来られたのは、って、あっ!」
「行くぞ、アナ」
焦れたアレクシオスは、とうとう貴奈を片手で抱き上げた。
ちょっと体が浮く程度だったが、うろたえた貴奈が足をばたつかせると、「もっと派手に抱き上げてやってもいいんだぞ」と凄みを利かせ、ただちに抵抗を封じてしまう。
獲物を仕留めたハンターさながらに、意気揚々と歩み去るアレクシオスを手を振って見送りながら、「聞きたいことはアレクから聞くといいよ、工藤さん」と、鬼先は誰に言うともなしに呟いた。
そもそも、今日は予想外の意地悪をこの男から言われたのだった。
またその時のムカつきが蘇ってきて、毬子様の柳眉が跳ね上がる。
「鬼先さん、あなたこちらの方とどういったご関係ですの?」
「そうですよ、鬼先さん。ご友人なんですか?」
アナ、なぜ俺に聞かないんだ、とアレクシオスが不平を漏らしているが、貴奈は悪意なくスルーした。
鬼先はアレクシオスを見て、それからついでに毬子様を見て肩をすくめている。
「友人、というか師弟関係、というか。……ギリシャの発掘現場で知り合ったんだ。俺がまだ研究者の卵、アレクは趣味で掘りに来ていて」
「ケンとは歳が近くてね。発掘箇所もちょっと視点が違うというか、他のお偉い先生方とは一風変わっててうまが合ったんだ」
「鬼先さん、ケン、ってどうして?」
貴奈は小首を傾げて尋ねた。
またこの子ったらあざとい、と毬子様は貴奈に対してもイライラが止まらない。
「鬼先さんの下の名前ってケンさんじゃないですよね。ええと」
「剣、が正しいけれど、呼びにくそうだったからケンでいいって言ったらそうなった」
漢字はいろいろに読めて興味深いな、とアレクシオスは頷いている。
鬼先剣が、鬼先のフルネームである。
中二病を患ったような名前だが、読み方だの画数だのにこだわって彼の両親は大真面目に命名したのだそうだ。
名字だけではなく、フルネームで名乗っても字面で書いてもとんでもなく強そうだが、「俺は腕っぷしはまったくだめ、名前負け」と鬼先は聞かれる前に言ってからからと笑った。
快活に話し、遠慮なく言いたいことを言い、よく笑う鬼先は、まるでキャラ変したかのようだ。
水を飲みながら「工藤さんが残ってくれるなら安心だね」とマイペースに呟く館長は、鬼先のこういう顔も知っていたのかもしれないが、毬子様と貴奈は言葉を失ってしばし黙り込んでいる。
「じゃあ、今日はこのへんで。また俺も顔を出させてもらう」
アレクシオスは今度こそ、とばかりに入ってきた方向へと向かおうとした。
「今日だけ特別な」と言って、貴奈をしっかりと捕まえたまま。
午前は秘書だの午後は博物館だのと、さきほどは殊勝気に言っていたが、さっそく例外を適用するらしい。
「……あの、鬼先さん」
貴奈は怪訝そうに眉を寄せたまま言った。
どうしても、腑に落ちない。
エスコートとは到底言えぬほど強引にアレクシオスに連行され、よろめきながらも、なんとか鬼先を振り返る。
「どうしたの、工藤さん」
「あの、あのですね、鬼先さんがこちらへ来られたのは、って、あっ!」
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獲物を仕留めたハンターさながらに、意気揚々と歩み去るアレクシオスを手を振って見送りながら、「聞きたいことはアレクから聞くといいよ、工藤さん」と、鬼先は誰に言うともなしに呟いた。
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