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思い出が現実に!? 5.
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──貴奈の肩に載っていた手は、いつの間にか腰に回されている。
「あの、ドゥーカス様」
「アレクだ。……アナ、どうした?」
おずおずと、しかし存外にしっかりとした声で貴奈に呼びかけられると、アレクシオスはとたんに目元を和ませる。
「何でも言ってくれ。……ああ、秘書を断わるのは許さんからな。それ以外で」
貴奈に対しては何とも言えない甘さを漂わせて話しかけるアレクシオスだが、俺様で強引なのは間違いないらしい。
腰を引き寄せながら貴奈のつむじに向かって、「アナ、遠慮せず何でも言え」と囁きかけている。
これはずいぶんとご執心だな、と鬼先は呆れ声で呟き、毬子様は無意識に歯ぎしりをした。
「ドゥーカス様。断る、というより、あなたほどの方の秘書は私には務まりません」
腰に回った手を掴み、そっと引きはがしながら、貴奈は諭すように言った。
暴れて抵抗するのではなく、静かで毅然とした態度はなかなか雄弁なもので、さすがのアレクシオスもいったん貴奈を解放してやることにしたようだ。
残念そうに、剥がされた手と貴奈を見比べている。
日本語でも英語でもない言葉で何かぶつぶつ言っているが、恐らく彼の母国語、ギリシャ語であり、アレクと言えって言ってるのにとかアナは強情だとか、大体そんなところだろうと貴奈は想像した。
「務めるからにはきちんとお仕事をしたいです。けれど、私はまだ駆け出しの学芸員に過ぎません」
「そうかもしれないが、しかし」
「あなたなら既に何人もの秘書の方がいらっしゃるでしょう?」
「……三人いる」
アレクシオスは歯切れの悪い口調で言った。
貴奈はふんわりした微笑みを見せる。
「四人目が必要な理由を聞かせて下さい、ドゥーカス様」
「全員、日本に慣れてない」
がぜん、勢いを取り戻してアレクシオスは即答した。
貴奈が目を丸くするのを「可愛いな、喰っちまいたいな」と眺めながら続ける。
「思いつきだけで言っているのじゃない。俺の業務上は確かに今までの第三秘書まででいい。でも今回の買収でしばらく日本にいることになりそうだし、日本のことを教えてくれる秘書がいてもいいじゃないか」
「……」
日本滞在中のガイド的秘書が欲しいのは本当だから、言葉にも力がこもる。
「アナは真面目だからそういうが、とにかく秘書ったって気楽に構えてほしいんだ。俺は日本語は不自由がないが、日本に来たのは初めてだ。考え方とか作法とか、ちょっとした日本人ならでは、って細かいことがあるだろ?それを俺に教えてくれたらいい」
貴奈が体勢を立て直す前にと言わんばかりの勢いでまくしたてたが、貴奈は簡単に言いくるめられる女性ではなかった。
少し考え込んでから口を開いたかと思えば。
「……礼儀作法や慣習。……それは、私でなくて専門家がよいのでは」
「うるさい!俺が決めると言っただろう!」
やはり、最後は権力で押し切った。
そして、一度は不承不承解放してやった細い腰をもう一度引き寄せる。
びくりと反射的に力が入るのをあえて押さえ込むように、今度はしっかりと抱いた。
「工藤貴奈。これはドゥーカスのCEOとしての命令だ。逆らうことは許さない」
今度こそ、反論めいた言葉の一つも聞く気はないとの意思表示である。
貴奈もそれは察したのだろう。
あきらめたように小さく嘆息して、ようやく「承知致しました」と言った。
「そうか!よろしく頼む!」と、現金にも喜色満面の笑みを浮かべるアレクシオスは、貴奈を抱いたままダンスでも踊り出しかねない機嫌の良さだったが、
「──アレク、浮かれるのはわかるがちょっといいか」
アレクシオスと貴奈の二人に、興味深げな視線を向けていた鬼先が、少し真面目な声を発した。
「あの、ドゥーカス様」
「アレクだ。……アナ、どうした?」
おずおずと、しかし存外にしっかりとした声で貴奈に呼びかけられると、アレクシオスはとたんに目元を和ませる。
「何でも言ってくれ。……ああ、秘書を断わるのは許さんからな。それ以外で」
貴奈に対しては何とも言えない甘さを漂わせて話しかけるアレクシオスだが、俺様で強引なのは間違いないらしい。
腰を引き寄せながら貴奈のつむじに向かって、「アナ、遠慮せず何でも言え」と囁きかけている。
これはずいぶんとご執心だな、と鬼先は呆れ声で呟き、毬子様は無意識に歯ぎしりをした。
「ドゥーカス様。断る、というより、あなたほどの方の秘書は私には務まりません」
腰に回った手を掴み、そっと引きはがしながら、貴奈は諭すように言った。
暴れて抵抗するのではなく、静かで毅然とした態度はなかなか雄弁なもので、さすがのアレクシオスもいったん貴奈を解放してやることにしたようだ。
残念そうに、剥がされた手と貴奈を見比べている。
日本語でも英語でもない言葉で何かぶつぶつ言っているが、恐らく彼の母国語、ギリシャ語であり、アレクと言えって言ってるのにとかアナは強情だとか、大体そんなところだろうと貴奈は想像した。
「務めるからにはきちんとお仕事をしたいです。けれど、私はまだ駆け出しの学芸員に過ぎません」
「そうかもしれないが、しかし」
「あなたなら既に何人もの秘書の方がいらっしゃるでしょう?」
「……三人いる」
アレクシオスは歯切れの悪い口調で言った。
貴奈はふんわりした微笑みを見せる。
「四人目が必要な理由を聞かせて下さい、ドゥーカス様」
「全員、日本に慣れてない」
がぜん、勢いを取り戻してアレクシオスは即答した。
貴奈が目を丸くするのを「可愛いな、喰っちまいたいな」と眺めながら続ける。
「思いつきだけで言っているのじゃない。俺の業務上は確かに今までの第三秘書まででいい。でも今回の買収でしばらく日本にいることになりそうだし、日本のことを教えてくれる秘書がいてもいいじゃないか」
「……」
日本滞在中のガイド的秘書が欲しいのは本当だから、言葉にも力がこもる。
「アナは真面目だからそういうが、とにかく秘書ったって気楽に構えてほしいんだ。俺は日本語は不自由がないが、日本に来たのは初めてだ。考え方とか作法とか、ちょっとした日本人ならでは、って細かいことがあるだろ?それを俺に教えてくれたらいい」
貴奈が体勢を立て直す前にと言わんばかりの勢いでまくしたてたが、貴奈は簡単に言いくるめられる女性ではなかった。
少し考え込んでから口を開いたかと思えば。
「……礼儀作法や慣習。……それは、私でなくて専門家がよいのでは」
「うるさい!俺が決めると言っただろう!」
やはり、最後は権力で押し切った。
そして、一度は不承不承解放してやった細い腰をもう一度引き寄せる。
びくりと反射的に力が入るのをあえて押さえ込むように、今度はしっかりと抱いた。
「工藤貴奈。これはドゥーカスのCEOとしての命令だ。逆らうことは許さない」
今度こそ、反論めいた言葉の一つも聞く気はないとの意思表示である。
貴奈もそれは察したのだろう。
あきらめたように小さく嘆息して、ようやく「承知致しました」と言った。
「そうか!よろしく頼む!」と、現金にも喜色満面の笑みを浮かべるアレクシオスは、貴奈を抱いたままダンスでも踊り出しかねない機嫌の良さだったが、
「──アレク、浮かれるのはわかるがちょっといいか」
アレクシオスと貴奈の二人に、興味深げな視線を向けていた鬼先が、少し真面目な声を発した。
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