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相性最高だったらしい。1.
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風も波も凪いでいる。
満月になる直前の丸い月が眩いほどに輝いて、濃い藍色の水面と、そこに浮かぶ船を照らしている。
──そして、絡み合う男女の姿も。
「ん!ふう、んんんんっ!」
「……声、聞かせろ」
「や、ああああん!」
ぐぐ、と最奥のさらに先をこじ開けるように突かれて、こらえきれない嬌声が漏れた。
それでいい、と呟いた男の引き締まった唇がわずかにゆるむ。
「アナ、気持ちいいか?」
低いのに妙に響きのよい男の声は、それさえも愛撫のように彼女の鼓膜から全身を巡り、知らず男を咥えた部分を締め上げる。
「!?……くそっ」
男は何かをこらえるように眉を顰め悪態をついた。
男の経験は少なくない。むしろ多いほうだろう。
恵まれた容姿、才能、家柄。放っておいても自分に自信のある女性が、数は少ないが男性までも、彼の前にはその身を捧げてきた。
深入りせず、適度に楽しむ。刹那の関係。ゲームか、スポーツのようなもの。
繰り返すうちに、「そういう技術」は勝手に身に付いた。
なのに。
なぜ、この女には、この自分がこれほどまで?
暴れたがる剛直を必死になって制止しつつ、せめてもと女の背中を舐めあげれば、男を収めたままの柔肉はそれだけの刺激にすら妖しく騒めいて、また彼に忍耐を強いる。
細い腰。きゃしゃな骨格。
かたちのよい尻も胸も決して大きくはなく、お世辞にもそそる体つきとは言えない。
それなのに、先ほどからともすれば我を忘れてがっついてしまうのが不思議でたまらない。
自慢の技術を、一晩かけて実践してやろうと思ったのに。
なめらかな背中にじわりと玉の汗が浮かび、月光を反射してきらきらと煌めいている。
腰に添えた手から伝わる彼女の体温は、まだようやく温まってきたと感じる程度なのに、彼女のナカときたら焼けるように熱い。侵入を許した男のものを、溢れる蜜で絡めとるようにうねうねと動く。
きつく閉じた隘路、その奥の、経験したことがないほど極上の感覚。
数回突き上げただけでもっていかれそうになって、男は唇をかみしめた。
さっきからその繰り返しなのだ。
動きを止めて多少我に返ると、震えながら小さく喘ぐ女の声がもっと聴きたくなってまた抽挿を開始する。
するとまた、女はさらさらの黒髪を左右に散らしながら控えめに啼き、きゅうきゅうと彼を締め上げるのだ。
「アナ、おい、こら、締めすぎ……っ」
「や、そんな、わから、ないっ」
アナと呼ばれた女は涙目で振り向き、彼を視界に捉えるなりふるふると首を振った。
自分の動きで刺激が増したのか、またも彼女の胎内はぎちりと侵入物を喰い絞める。
うう、と男は呻いた。
「っ、ア、アナ、だから、やめろって……っ!」
じゅぼん!と湿った水音とともに、彼はすんでのところで自身を引き抜いた。
とたんに、あきれるほどの量の白濁が、女の尻と、板張りのデッキにまき散らされた。
なんという早さ……!
じぶん史上、最速である。間違いなく。
女を既に何回かイかせてあったのがせめてもの救いだ。何がどう救いなのか微妙だが。
男は茫然としながら少し勢いを失ったそれと、腹立たしい噴出物を交互に見比べた。
「アレクさん。……?」
おずおずと女が──アナがゆっくりと身を起こし、体ごと彼のほうへ向き直った。
腰に置かれた大きな手をそっと外し、今までアナがつかまっていた手すりに背を預ける。
伏し目がちな彼女の黒い瞳も、今日のような明るい月夜には黒曜石のように光を宿してそれは美しい。「黒なんて地味」とアナは言うが、神秘的で哲学的でとても綺麗だと思う。
快感の名残に潤んだ瞳で見上げられ、アレクシオスは少し気を取り直して女の細い体をぎゅっと抱きしめた。柄にもなく混乱している自分の顔を見られたくなかったというのもある。
抱き返してくれればいいなと思っているのに、アナは大人しく男の腕の中で呼吸を整えているらしい。けれど、くたりと柔らかいその体に、よけいな緊張が入っていないことでとりあえずよしとする。
「……アレクさん」
「……好きだ」
ぽろりと口をついて零れ落ちた男の言葉と、アナが彼を呼びかけるのが同時になったのは互いにとって幸運と言う他なかった。
なぜならば、男はまるで自覚していなかったから。
アナには聞こえなかったらしいが、ほとんど無意識で発せられた言葉に、一瞬遅れて男は愕然とした。
(なんだ、いったい!?今夜の俺はいったいどうした!?)
アナを抱きしめ、指通りのよいその真っ直ぐな黒髪を撫でてごまかしながら男は混乱の最中にいた。
(好きだ、って言ったな俺?そうだ言った、言っちまった、どういう気で俺は)
落ち着け俺、と唱えながら、アナのつむじに唇を寄せたり頬ずりをしたり、髪を梳かないほうの手は、けしからんことにアナの裸の背中や尻を撫でまわしている。
満月になる直前の丸い月が眩いほどに輝いて、濃い藍色の水面と、そこに浮かぶ船を照らしている。
──そして、絡み合う男女の姿も。
「ん!ふう、んんんんっ!」
「……声、聞かせろ」
「や、ああああん!」
ぐぐ、と最奥のさらに先をこじ開けるように突かれて、こらえきれない嬌声が漏れた。
それでいい、と呟いた男の引き締まった唇がわずかにゆるむ。
「アナ、気持ちいいか?」
低いのに妙に響きのよい男の声は、それさえも愛撫のように彼女の鼓膜から全身を巡り、知らず男を咥えた部分を締め上げる。
「!?……くそっ」
男は何かをこらえるように眉を顰め悪態をついた。
男の経験は少なくない。むしろ多いほうだろう。
恵まれた容姿、才能、家柄。放っておいても自分に自信のある女性が、数は少ないが男性までも、彼の前にはその身を捧げてきた。
深入りせず、適度に楽しむ。刹那の関係。ゲームか、スポーツのようなもの。
繰り返すうちに、「そういう技術」は勝手に身に付いた。
なのに。
なぜ、この女には、この自分がこれほどまで?
暴れたがる剛直を必死になって制止しつつ、せめてもと女の背中を舐めあげれば、男を収めたままの柔肉はそれだけの刺激にすら妖しく騒めいて、また彼に忍耐を強いる。
細い腰。きゃしゃな骨格。
かたちのよい尻も胸も決して大きくはなく、お世辞にもそそる体つきとは言えない。
それなのに、先ほどからともすれば我を忘れてがっついてしまうのが不思議でたまらない。
自慢の技術を、一晩かけて実践してやろうと思ったのに。
なめらかな背中にじわりと玉の汗が浮かび、月光を反射してきらきらと煌めいている。
腰に添えた手から伝わる彼女の体温は、まだようやく温まってきたと感じる程度なのに、彼女のナカときたら焼けるように熱い。侵入を許した男のものを、溢れる蜜で絡めとるようにうねうねと動く。
きつく閉じた隘路、その奥の、経験したことがないほど極上の感覚。
数回突き上げただけでもっていかれそうになって、男は唇をかみしめた。
さっきからその繰り返しなのだ。
動きを止めて多少我に返ると、震えながら小さく喘ぐ女の声がもっと聴きたくなってまた抽挿を開始する。
するとまた、女はさらさらの黒髪を左右に散らしながら控えめに啼き、きゅうきゅうと彼を締め上げるのだ。
「アナ、おい、こら、締めすぎ……っ」
「や、そんな、わから、ないっ」
アナと呼ばれた女は涙目で振り向き、彼を視界に捉えるなりふるふると首を振った。
自分の動きで刺激が増したのか、またも彼女の胎内はぎちりと侵入物を喰い絞める。
うう、と男は呻いた。
「っ、ア、アナ、だから、やめろって……っ!」
じゅぼん!と湿った水音とともに、彼はすんでのところで自身を引き抜いた。
とたんに、あきれるほどの量の白濁が、女の尻と、板張りのデッキにまき散らされた。
なんという早さ……!
じぶん史上、最速である。間違いなく。
女を既に何回かイかせてあったのがせめてもの救いだ。何がどう救いなのか微妙だが。
男は茫然としながら少し勢いを失ったそれと、腹立たしい噴出物を交互に見比べた。
「アレクさん。……?」
おずおずと女が──アナがゆっくりと身を起こし、体ごと彼のほうへ向き直った。
腰に置かれた大きな手をそっと外し、今までアナがつかまっていた手すりに背を預ける。
伏し目がちな彼女の黒い瞳も、今日のような明るい月夜には黒曜石のように光を宿してそれは美しい。「黒なんて地味」とアナは言うが、神秘的で哲学的でとても綺麗だと思う。
快感の名残に潤んだ瞳で見上げられ、アレクシオスは少し気を取り直して女の細い体をぎゅっと抱きしめた。柄にもなく混乱している自分の顔を見られたくなかったというのもある。
抱き返してくれればいいなと思っているのに、アナは大人しく男の腕の中で呼吸を整えているらしい。けれど、くたりと柔らかいその体に、よけいな緊張が入っていないことでとりあえずよしとする。
「……アレクさん」
「……好きだ」
ぽろりと口をついて零れ落ちた男の言葉と、アナが彼を呼びかけるのが同時になったのは互いにとって幸運と言う他なかった。
なぜならば、男はまるで自覚していなかったから。
アナには聞こえなかったらしいが、ほとんど無意識で発せられた言葉に、一瞬遅れて男は愕然とした。
(なんだ、いったい!?今夜の俺はいったいどうした!?)
アナを抱きしめ、指通りのよいその真っ直ぐな黒髪を撫でてごまかしながら男は混乱の最中にいた。
(好きだ、って言ったな俺?そうだ言った、言っちまった、どういう気で俺は)
落ち着け俺、と唱えながら、アナのつむじに唇を寄せたり頬ずりをしたり、髪を梳かないほうの手は、けしからんことにアナの裸の背中や尻を撫でまわしている。
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