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壱ノ壱 能力
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あたしは、超人的な能力を持っている。
それは、“世界を思いのままに歪める力”。
すなわち、あたしが思ったことが全てそのまま現実になるということ。生殺与奪も全てが、あたしの思い通り。
その力に覚醒したのは、まだあたしが幼稚園児だった頃だ。
当時、近所に、あたしを見かけるといつも話しかけてくるおばさんがいた。その人は話が長く、あたしはいつもうんざりしていた。
だからある時思ったのだ。こんな人、いなくなっちゃえばいいのに、と。
子供であるがゆえの、短絡的な思考。
でもそれが、思考に留まらず、実現してしまった。
次の日外に出ると、そのおばさんの家は空き家として売りに出されていた。母親に訊くと、そんな人は知らないと言う。
それからあたしは近所中に聞いて回ったが、誰も知らないと言っていた。
この時はまだ、変だなぁ、おかしいなぁ、としか思っていなかった。
でも、その2年後、小学校低学年の頃に、またその能力が発動した。
その年の担任は、魅力的な人で、誰からも好かれる先生だった。男性ということもあり、あたしは彼に恋心のようなものを抱いていた。
あたしのことを好きになってくれたらいいのにな。そう思っていた。
そしてある日、それが現実になったのだ。
誰の目から見ても、彼があたしに贔屓していることは明らかで、あたしは優越感に浸っていた。
もちろん、あたしに嫉妬する人もいた。でもそれは、幼く小さな気持ち。嫉妬より羨望の方が強かったのだろう、誰もあたしにきつく当たったりする人はいなかった。
そんなことが、また次の年に起こった。その次の年は2回。
あたしが成長していくにつれて、あたしが認知する感情や願望も増えていき、それが実現する回数も多くなっていった。
あたしはこの力を、そしてそんな力を使える自分を、恐れていた。
あたしの少しの感情の起伏で、人を殺してしまう。存在を消してしまう。気持ちを180度変えてしまう。
それが、怖かった。
加えて、その代償も怖かった。
いや、代償そのものは怖くない。失った時の自分が怖いのだ。
その代償とは?
寿命? 体力? 魂? 来世?
そんなもんじゃない。
――正気。
それが、この能力の代償だ。
正気を失い、狂気に染まっていく。正常が、異常に変わっていく。
狂気に、異常になる。
それはすなわち、他者を傷つけることを意味する。
物理的に、殴って蹴って踏んで傷つける。
また、精神的に、暴言を吐いて罵って傷つける。
その間、あたしは自我を失う。
我に返ったとき、あたしは傷つく。またこんなことをしてしまったのか、と。
しかも、その状態が続く時間が、毎回伸びているのだ。
だから、今が正気なのか狂気なのか、自分でも判断がつかなくなってきている。
――生まれてこなきゃよかった。
最近、よくそう思う。
あたしがいるから人が死ぬ。あたしがいるからみんなが不幸になる。
それならあたしは、いない方がよかった。存在しなきゃよかった。
そう思って、――あたしは思いついた。
この能力で、自分を消せばいいんだ。
世界を思い通りに変えられるなら、自身だって能力の対象のはずだ。だから、自分を消してしまえばいい。いなかったことにすればいい。
なんで今までこんなことに気づかなかったんだろう?
あたしは1人、乾いた笑い声を漏らした。
その日、あたしは自分に消えろと願い続けた。
――でも、次の日。
あたしは、消えなかった。
次の日も。その次の日も。その次の日も。
なんで……? なんで消えないの……?
次の日、首を吊った。
死ななかった。
次の日、喉を包丁で切った。
死ななかった。
次の日、風呂の中に顔を浸けた。
死ななかった。
あたしは、絶望した。涙は、枯れていた。
永遠に、この能力と付き合っていかなきゃいけないの……?
それは、“世界を思いのままに歪める力”。
すなわち、あたしが思ったことが全てそのまま現実になるということ。生殺与奪も全てが、あたしの思い通り。
その力に覚醒したのは、まだあたしが幼稚園児だった頃だ。
当時、近所に、あたしを見かけるといつも話しかけてくるおばさんがいた。その人は話が長く、あたしはいつもうんざりしていた。
だからある時思ったのだ。こんな人、いなくなっちゃえばいいのに、と。
子供であるがゆえの、短絡的な思考。
でもそれが、思考に留まらず、実現してしまった。
次の日外に出ると、そのおばさんの家は空き家として売りに出されていた。母親に訊くと、そんな人は知らないと言う。
それからあたしは近所中に聞いて回ったが、誰も知らないと言っていた。
この時はまだ、変だなぁ、おかしいなぁ、としか思っていなかった。
でも、その2年後、小学校低学年の頃に、またその能力が発動した。
その年の担任は、魅力的な人で、誰からも好かれる先生だった。男性ということもあり、あたしは彼に恋心のようなものを抱いていた。
あたしのことを好きになってくれたらいいのにな。そう思っていた。
そしてある日、それが現実になったのだ。
誰の目から見ても、彼があたしに贔屓していることは明らかで、あたしは優越感に浸っていた。
もちろん、あたしに嫉妬する人もいた。でもそれは、幼く小さな気持ち。嫉妬より羨望の方が強かったのだろう、誰もあたしにきつく当たったりする人はいなかった。
そんなことが、また次の年に起こった。その次の年は2回。
あたしが成長していくにつれて、あたしが認知する感情や願望も増えていき、それが実現する回数も多くなっていった。
あたしはこの力を、そしてそんな力を使える自分を、恐れていた。
あたしの少しの感情の起伏で、人を殺してしまう。存在を消してしまう。気持ちを180度変えてしまう。
それが、怖かった。
加えて、その代償も怖かった。
いや、代償そのものは怖くない。失った時の自分が怖いのだ。
その代償とは?
寿命? 体力? 魂? 来世?
そんなもんじゃない。
――正気。
それが、この能力の代償だ。
正気を失い、狂気に染まっていく。正常が、異常に変わっていく。
狂気に、異常になる。
それはすなわち、他者を傷つけることを意味する。
物理的に、殴って蹴って踏んで傷つける。
また、精神的に、暴言を吐いて罵って傷つける。
その間、あたしは自我を失う。
我に返ったとき、あたしは傷つく。またこんなことをしてしまったのか、と。
しかも、その状態が続く時間が、毎回伸びているのだ。
だから、今が正気なのか狂気なのか、自分でも判断がつかなくなってきている。
――生まれてこなきゃよかった。
最近、よくそう思う。
あたしがいるから人が死ぬ。あたしがいるからみんなが不幸になる。
それならあたしは、いない方がよかった。存在しなきゃよかった。
そう思って、――あたしは思いついた。
この能力で、自分を消せばいいんだ。
世界を思い通りに変えられるなら、自身だって能力の対象のはずだ。だから、自分を消してしまえばいい。いなかったことにすればいい。
なんで今までこんなことに気づかなかったんだろう?
あたしは1人、乾いた笑い声を漏らした。
その日、あたしは自分に消えろと願い続けた。
――でも、次の日。
あたしは、消えなかった。
次の日も。その次の日も。その次の日も。
なんで……? なんで消えないの……?
次の日、首を吊った。
死ななかった。
次の日、喉を包丁で切った。
死ななかった。
次の日、風呂の中に顔を浸けた。
死ななかった。
あたしは、絶望した。涙は、枯れていた。
永遠に、この能力と付き合っていかなきゃいけないの……?
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