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零ノ伍 蟻鬼夜行

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「――ギキ?」
 僕は思わず聞き返した。
「そ。蟻ぐらいの大きさで、蟻みたいに列を成すから、蟻の鬼で、蟻鬼ぎき
 蟻サイズの鬼?
 そんなモノが、この現代に存在するわけがない。
 いや、そもそも昔にだって、妖怪や幽霊など存在していなかったのかもしれないのだ。
「お前、また疑ってるよな?」
 彼は僕を軽く睨みながら見下ろした。そんな彼を僕は一蹴する。
「だって、妖怪とか幽霊とか、非現実的じゃないか。科学的に証明されてないことなんだから」
「今回のはマジだって!」
「それ言うの何回目?」
 僕は彼をジトっと見上げる。
 彼はいつも「これはほんとに本当だ」などと言っているが、本当だった試しがない。
「俺、この目で見たんだよ」
「それこそ本当の蟻じゃないの?」
「いや、見間違いなんかじゃない。あれは蟻鬼だった。絶対に」
 そんなに疑わしいならお前も見に来てみろよ、と彼は言う。
「分かった。もしそれで嘘だと判明したら、ジュース1杯奢ってもらうよ」
 僕はそれを条件に了承した。逆に、本当に存在していたら僕が彼に奢ることになったが、どうせそんなことはないだろう。

 放課後、僕は彼と一緒に帰っていた。どうやら蟻鬼は、同じ時間の同じ場所に現れるらしいのだ。
 僕と彼は、彼の家の近くの団地まで歩いていく。そして階段に着いた。
「この階段の上で待ってるとな、そのうち蟻鬼が横切るんだよ」
 ふうん、と僕は興味なさげに返事をし、本の続きを読むことにした。
 ――数分読んでいると。
「来たっ! 来た来た来た来たぁ!」
 隣に座っている彼が急に叫び出した。何かと思い、彼の視線の先――僕の右数メートルを見る。と、そこには本当にいた。蟻鬼が。
 一瞬蟻かと思ったが、蟻ではなかった。小人のような生物が、手を挙げ足を弾ませ、踊りながら練り歩いているのだ。まるで、小さな百鬼夜行のようだ。
「な!? ほんとにいただろ!?」
 彼は興奮しながら僕に語りかける。
「っ……!?」
 僕は言葉を返せなかった。
 ぐにゃりと歪んだソレは、彼ではなかった。
「ん? ドウシた?」
 ソレは怪訝そうな声を上げる。自分では気づいていないのか……?
「……蟻鬼これを見るのって……今回で何回目だ?」
「じュウ3かイメだよ」
 13回目。
 僕の脳裏に、嫌な予感が過ぎる。
 と同時に、僕は走り出した。
 一刻も早く、そこから逃げ出したかった。

 翌日。
 彼は学校に来なかった。
 その後もずっと。
 そしてあの日以来、僕はあの場所には行っていない。

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