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零ノ弍 コンコン、見えぬ

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 ある日の朝学活の前。
「ねぇねぇ、みんな。Nちゃん、Mくん、Rくん、Dくん、私で縁狐えんこ神社に行ってみない?」
 そう言って、友達のKちゃんが私に話しかけてきた。ちなみに、Nちゃんというのが私のことだ。
 この5人が、このクラスでのイツメンだった。
「縁狐神社……っていえば、裏山の頂上にあるH神社だよね?」
 私はKちゃんに確認を取る。すると、Kちゃんは私の確認を肯定した。
「うん」
 縁や狐と何の関係があるのかは分からないが、H神社の通称は縁狐神社なのだ。
「でもあそこって確か、俺たちの体力じゃかなりキツそうなとこにあるよな? それに親にも止められてるし……」
 そう言ったのはMくん。
 確かに、小学校中学年が行くには辛い高低差だなぁ。
 それからも色々話し合った結果、今日の午後4時に学校の正門に集合になった。

 そして、午後4時。
「よし、それじゃあ行くか」
 全員が揃い、私たちは山に登ることにした。
 夏とはいえ、鬱蒼とした山の中を歩いているとさすがに肌寒い。だが、まぁ登っているうちに暖まるか、と私は思い直した。
 登っている途中、無言だとテンションもモチベーションも下がるということで、話しながら登ることになった。その内容は、今回の縁狐神社に関する逸話や日々の愚痴など様々。
「それでさ」
 Dくんがそう続けようとした瞬間である。
「――?」
 何かが変わった。そんな感じがした。
 まだ神社までは200メートルほどあるのに。あまり近づいてもいないのに。でも何故か、空気が変わった。
「今の、何だろ……」
 私は思わず呟く。
「Nも感じた? 俺もなんだけど」
 Rくんがそう言うと、周りも賛同する。どうやら、全員感じたようだ。
「……まぁ、何なのかちゃんとは分からないし、気にしないでいいんじゃない?」
 私は例によって持ち前のポジティブ思考を発揮し、みんなを元気づけた。
 でも、Dくんが口を開いた。
「あのさ……やけに静かじゃない?」
 ……確かに、そう言われてみれば静かな気もするけれど……。
「そうか?」
 Rくんは賛同しない。私も同じ思いだ。いつもより静かだなとは感じるが、大したことないだろう。そんな感じ。
 でも、Kちゃんは何かに気づいたようで、その場で固まった。
「待って……これ……」
「ん? 何だ?」
 Mくんが続きを促す。
「……動物が出す音すら、一切聞こえないんだけど……」
 ……嘘でしょ。
 そう思い、私たちは誰からともなく黙る。耳を澄ましてみるが、Kちゃんが言う通り、鳥の鳴き声や何か獣が動く音はしなかった。さっきまでは確実に聞こえていたのに。
「マジかよ……」
「これ普通にやべえやつじゃ……」
「嫌だ、帰りたい……」
 そう震え出したのは男子3人。反対に、Kちゃんと私は行く気満々だ。
 私が「せっかくここまで来たんだし、行こうよ」と言ったことで、3人もついてくる気になったようだった。
 そこからまた数分歩いていく。
 気のせいか、神社に近づくにつれて、空気が悪くなっていくように思える。体調も全員悪くなってきているみたいだ。
 また、神社との距離を縮めていくと、和楽器が奏でる奇妙なメロディと、歌声が聞こえてきた。明らかに日本語ではないその音楽は、聞いていると頭がおかしくなりそうだ。
 それでもやはり歩を進めていき、私たちはやっとのことで縁狐神社に着いた。
 でも。
「――え?」
「どういう、こと……?」
 私たちは全員目を疑った。
 そこには、楽器も人間もいなかった。
「なあ、これって……」
 Mくんが言う。その先を聞かぬうちに、私を含め他の4人は察した。
 背筋に寒気が走る。
 私はすぐさま後ろを振り向いた、
「え」
 帰り道が、なかった。今まで歩いてきたところは、木で覆われていた。山道とはいえ、辛うじて人の手は入っており、それとわかるくらいには土が踏まれていたのに。
 そして私はもう一度振り返った、
「え」
 同じ声がもう一度出た。
 誰も、いなかった。

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