少年少女怪奇譚 〜一位ノ毒~

しょこらあいす

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零ノ壱 幻聴

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 今はもう聞こえないが、5年くらい前から4年間、俺は寝る時によく、幻聴が聞こえていた。
 どうしてそう思うのかというと、今もだが、弟がいたからだ。
 俺と弟は同室で、寝る時は二段ベッドを使っている。これは弟が1人で寝られるようになってからずっと今まで変わっていない。
 その弟が、寝る時には声は聞こえないと言っていたのだ。それは明らかに弟の声ではなかったから、弟がふざけて言っているわけではないと分かっていた。つまり、弟の言葉を信じるなら、俺だけに聞こえる幻聴ということになるのだ。
 その声は、最初は大したことは言わなかった。「あ~」とか「う~」とかうめき声のようなものだった。そして、次第に言葉を喋りだした。「ママ」とか「だいちゅき」とかっていう、赤ちゃん言葉だが。それも次第にきちんとした言葉になっていって、今では文を喋るようになっている。
 それから、最初は部屋のどこで発しているのか分からなかったのだが、最近はだんだん俺に近づいてきているように思えた。
 そして、その声が文を言い始めた時くらいからか、ホラーめいたフレーズを言うようになった。許さないだの何だのと、誰かに対する怨念のようなものが感じられた。

 ある日のことだ。
 俺が深夜寝ようとしていると、また声が聞こえてきた。
「早く寝て」
 今日は眠くねぇんだけどな。俺は心の中で突っ込む。
 しかし催促は止まらず、俺はそれをBGMにして寝ようと考えた。
 しばらくして、俺はふと目覚めた。
 後ろに何か気配がした。弟かと一瞬思うが、弟は上で絶賛睡眠中。いびきと寝言が聞こえてきたから間違いない。
 俺は、怖さで振り向けなかった。
 その時、またあの声がした。
「もう1回寝てよ~。じゃないと連れていけないよ」
 俺はその瞬間、凍りついた。
 連れていく。それはつまり……。
 それから俺は、絶対に寝ようとしなかった。眠くなったら口の中を噛んで、痛みで目を覚ましたりした。今度寝たら、絶対に連れていかれる、そんな恐怖心しか心になかった。
 そのままなんとか寝ずに朝を迎え、日光で室内が明るくなった時、その気配は消えた。逆に言えば、それまでずっと背後にいたわけだ。ソレが。
 俺はその日、親に事情を話した。すると、驚くべき真実を知ることになった。
 どうやら、前日は今から5年前に流産した三男の命日だったそうなのだ。このことを、まだママっ子で母親によくくっついていた弟は知っていたのだが、俺はある程度親から離れていた時期だったので知らなかったらしい。まだ小学生ということで、流産の事実を伝えると悲しむかと思い、両親は俺に何も言わなかったそうだ。
 5年前の流産。弟は知っていて俺は知らなかったこと。5年前から聞こえるようになった声。怨念のこもったフレーズ。昨日の「連れていく」という言葉。
 俺の中で、ジグソーパズルが完成した。
 そして、本当の意味で寒気が走った。
 理由が分かったからこその恐怖。
 ……何も知らなくて、ごめんな。お前は、仲間が、家族が欲しかったんだな。あっちで一緒に遊べる人が。そのために俺を連れていこうとしたんだな……。
 でも、そのうち誰かがそっちに行くと思う。じいちゃんやばあちゃんはもう歳だ。死んでほしいって思いは一切ねぇけど、そろそろ死ぬんじゃねぇかな。だから、それまで待っててくれねぇか。
 兄弟は確かに歳が近いから話してて楽しいってのもあるかもしれねぇ。けど、世代の違う人達と話すのもなかなかいいもんだから。な?

 それからは、幻聴はなくなった。
 だが、その数日後に、祖父は亡くなった。老衰だという。
 じいちゃん、巻き込んじまって、ごめん。でも許してほしい……。

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