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~和菓子と双子~
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収穫の季節である秋は、様々な美味しい食べ物を楽しむことが出来る。
特に芋・栗・南瓜は子供や女性が好きな秋の味覚として有名であるが、スイーツであれば男女年齢問わず好きな人間は多いのではないだろうか。
秋の和菓子と言えば栗饅頭や栗や芋の羊羹が人気であったが、菊や紅葉をモチーフにした美しい生上菓子がショーケースに華やぎを添え、訪れた客たちの目を楽しませている。
いなり横丁の和菓子屋『東雲堂』では、秋のお彼岸が近いせいか朝からおはぎを買い求める客達がひっきりなしでやってきていた。
「おはぎと、きなこのおはぎが5個ずつですね」
東雲堂の看板娘の薫が客の注文を確認すると持ち帰り用の紙箱に和菓子を詰め、華の双子の姉の薫がそれを包装紙で包む。双子の連携に無駄な動きは無いように思われた。
「相変わらず、息ぴったりね」
二人の仕事っぷりを見た顔なじみの客達がそう言うと、薫と華は笑顔で同時に頭を下げる。シンクロしているような動きを見た客達は、さすが双子と思うのだった。
和菓子屋という商売柄のせいか客は年配の女性客が比較的多いのだが、そんな客達に交じって売れないロック歌手の様な風体の青年——小僧さんが和菓子のショーケースを覗き込んでいた。
「栗饅頭ひとつ、三色団子1本下さい」
「いつもありがとうございます」
薫が愛想よく小僧さんにそう言うと、和菓子を箱に詰め始める――どうやら小僧さんがこの店で和菓子を買いに訪れるのは初めてではないようだった。
「…この間の柿羊羹美味しかったです」
「ありがとうございます」
薫と華が同時に礼を言うと、小僧さんは照れくさそうな表情を浮かべる。
「和菓子お好きなんですね」
薫がそう言うと小僧さんは「芋栗羊羹もひとつ」と注文を追加した。
いつものように薫が和菓子を入れた箱を華に手渡す。それを丁寧に包装してゆく華の様子を小僧さんはじっと見つめていた。
和菓子の代金を支払い、店を出て言った小僧さんの姿が見えなくなると、薫が楽しそうな様子で華に話しかける。
「あの人、絶対、華目当てだよね」
「ええ?」
大人しくておっとりした華は驚いた様子で薫を見返す。活発な薫はそんな姉の鈍さが可笑しいのかクスクスと笑った。
「買いに来るたびに華を見てるの…華は気が付いてなかったの?」
薫の言葉に華は首を横に振った。そんな華に薫は「鈍すぎ~」と再び笑う。
「売れないロック歌手みたいな恰好してるけど、目が優しいから悪い人ではないんじゃない?」
「それ、どういう意味?」
「告白された時にどうするか今から考えておかないと」
「告白⁈」
薫の話の飛躍に華は驚きの声をあげた。そんな姉の反応が可笑しいのか、薫は面白くて仕方がないといった様子で「とりあえず付き合っちゃえ」と無責任な事を言い放つ。今まで異性とお付き合いした事などない華はただ戸惑うばかりだった。
小僧さんの和菓子屋通いはそれからも続いていた。小僧さんは出勤前に和菓子屋に寄ってから、自分のたこ焼き屋を開けるというルーティンを続けていたが、和菓子を買いに行っても会話をするのはおしゃべりな薫の方で、華とは会釈を交わす程度。二人の関係は一向に恋愛に発展する気配はみられなかった。
「ああっ…もう、あの人、何考えてるのかしら⁈」
最初は華に気がある様子だから、そのうち小僧さんが告白するのではと面白がっていた薫だったが、毎日店を訪れるようになって数週間経っても何の進展もみられない事にいら立ちを覚える様になっていた。
「好きなら好きってはっきり言えばいいのに!」
「薫の気のせいじゃない?」
「うんにゃ、私の目に狂いはないわ」
この双子見た目はそっくりであるが、性格の方は本当に正反対である。
「どんな人か気になるじゃない?」
薫は小僧さんの人物像に興味を抱いたらしく、それを知る為の作戦を練り始めた。
「…あ、悪い顔してる」
何かひらめいたような薫を見て、嫌な予感を覚える華だった。
「ありがとうございました」
今日も和菓子屋の看板娘たちのユニゾンに送り出され、和菓子が入った包を手に上機嫌で歩く小僧さんの後を離れてつける華の姿がそこにあった。見失っては元も子もないので、二人の距離はつかず離れずの微妙な間隔である。
華につけられているとは夢にも思っていない小僧さんは、鼻歌交じりに開店時間が迫った自分の店へ向かって歩いてゆく。開店準備を進める横丁の各店舗の顔なじみたちが小僧さんと朝の挨拶を交わしていた。
「…ふうん、あいつこの辺の店の人間と顔なじみなんだ」
横丁の商店主の集まりには、和菓子屋の主である祖父が出ているので、薫自身はそのあたりの付き合いはよく分かってはいない。小僧さんについての情報を集めるという意味では後をつけたのは正解だったと思う薫だった。
横丁の中心部を通り抜け小僧さんはどんどん奥の方に歩いて行き祠の前で足を止めた。そして祠に向かって手を合わせると頭を下げてから祠の扉を開いて何やらゴソゴソやり始める。
「何やっているんだろ?」
そんなに大きくない祠なので小僧さんが何をしているのか、薫からはよく見えない。しかし、これ以上距離を詰めると気が付かれてしまうので、建物の隙間に身を隠しながら小僧さんの様子を伺うしかなかった。
小僧さんは作業を終えたのか祠へ再び手を合わせてしゃがみ込んだ。何やら小声で何か言っているようだが、薫の耳では何をいっているかまではわからない。
数分が経ち、ようやく気が済んだのか小僧さんは立ち上がると、薫がいる方向に向かって歩き出した。それを見て薫は慌てて建物の奥へ身を押し込む。その前を小僧さんは通り過ぎて行った。
祠で何をやっていたのか気になるし、小僧さんの行方も気になる薫は少し悩んだ後、今日の追跡は諦めて祠の確認をする事にした。
「お地蔵様?」
小奇麗に掃除された祠の中にはお地蔵さまが安置されていて、その前には見慣れた和菓子がお供えされていた。
「うちの栗きんとん…」
それは自分の店で小僧さんが購入したばかりの和菓子だった。どうやら買った和菓子をお地蔵さまにお供えする為にここへ立ち寄ったらしい。
無造作にまとめた長髪に耳には大きなピアス、皮ジャンにGパンというファションの小僧さんだったが見た目とは裏腹に信心深いらしい。意外そうな表情を浮かべた薫は、小僧さんが消えた横丁の中心部の方へ視線を向けるのだった。
「年齢20代半ばで独身。職業は横丁のたこ焼き屋。近所の評判は真面目な青年だって」
数日、小僧さんの後を追い続けて情報収集した薫は、華にその成果を報告していた。
「ふうん」
「うちで買った和菓子は毎日お地蔵様にお供えして、夜、帰る時にそのお下がりを持って帰っているのは確認」
「…まるで探偵ね」
薫の報告を聞いていた華が呆れたような顔になる。そんな華を気にすることなく薫は「彼、毎朝お地蔵様の祠を掃除してるにはびっくりしちゃった。人は見掛けにはよらないね~」と言葉を続けた。
「…で?」
華の方は小僧さんにそんなに興味がないのか、薫に結論を求める。しかし薫の方は「あの人いい人みたい。きっと付き合ったら大事にしてくれそうだよ」と言うので、華は深くため息を吐く。
「…あのさ、薫、その詮索癖やめた方がいいよ」
「え? なんで?」
自分の行動に何の疑問もいだいていない薫は不思議そうに華を見た。
「興味本位で人を詮索するのを自分がされたら嫌でしょ?」
「…う」
「それに、好意の目と恋愛対象を見る目の違いも薫は分からない訳⁈」
今回の薫行動はかなり華を不快にさせていたのか、華はかなり怒っていた。普段大人しく怒らない人間が怒るとかなり怖い。怒られてシュンとなった薫に華は深く息を吐くと「私の幸せを思ってくれてありがとう」と言ってほほ笑んだ。
二人とも二十代前半だがどちらも恋愛経験は皆無だった。特に少女漫画や恋愛ドラマ好きの薫はときおり恋に恋する乙女な部分が顔を出す。華もそれは理解していたので暴走する薫に釘を刺す形で事態の収拾を図る事にしたようだった。
「…白馬の王子様が来るなんて思わないけれど、運命の出会いはきっとあると思う」
そう言う華も十分乙女だった。
「…やっぱ太ったなぁ」
体重計の表示を目にした小僧さんは腹のぜい肉をつまんで情けない表情でつぶやいた。
和菓子は洋菓子に比べてカロリーは低いというものの、毎日数個の和菓子を食べていれば太るのは当然である。お腹が出た体型で大好きなファンキーな服装をするのは小僧さんの美学に反するらしかった。
「しばらく和菓子を止めるか…」
小僧さんはダイエットを決意したらしく、その日を境に東雲堂に顔を出さなくなった。そんな小僧さんの事情を知らない双子にすれば、毎日のように和菓子を買いに来ていた客が急に来なくなったのだからその理由が気になって仕方がない。数日は我慢していたが、一週間が過ぎた頃、後で華に怒られるのを承知で薫は小僧さんの店へ向かった。
「こんにちは」
たこ焼き屋に着いた薫はたこ焼きを注文すると、さっそく小僧さんに体調はどうかと尋ねる。「見ての通り元気いっぱい…」と答えた所で小僧さんは客が東雲堂の看板娘だった事に気が付き慌てて会釈した。
最近店に顔を出さないから心配していたと小僧さんに伝えた薫は「元気そうで何より」と笑顔を見せた。
「あ…すみません」
薫がたこ焼きを買いに来た理由をなんとなく察した小僧さんは、バツが悪そうな表情を浮かべ「実は…」とダイエットを始めたのだと事情説明をする。
「なあんだ、華を嫌いになった訳じゃなかったのね」と言って笑う薫に小僧さんは怪訝な表情を浮べた。
「華…さん?」
「私の双子の姉。いつも商品を包装しているところ見てるじゃないですか」
薫の説明を聞いて小僧さんはようやく誰のことを言っているのかを理解したらしく、「いつもきれいに包装されているんで、そのコツを盗ませていただいてました」と言って笑う。
「…包装のコツ?」
今度は薫が怪訝そうな表情を浮かべ首を傾げ小僧さんを見る。
「うちの商品は包装紙で包む必要がないから問題ないんですが、僕、包装が苦手でいつも包み紙が皺だらけになるんですよね」
「…見てたのは華の手先?」
「そうですが…何か?」
「…ええ⁈」
ようやく薫は自分が大きな勘違いをしていた事を悟り、驚きの声をあげた。そんな薫を小僧さんは不思議そうな顔で見る。
「私…てっきりお客さんは華目当てでうちに来てたのかと…」
それを聞いた小僧さんは笑い出した。
「僕は洋菓子より和菓子が好きで――確かにお二人とも可愛らしいですが、僕は年上の女性が好みなんで…」と小僧さんはそう言うと「まいったなぁ」と照れ笑いを浮かべた。
そんな小僧さんに薫はバツが悪そうに謝ると、注文していたたこ焼きを受け取り、逃げるようにたこ焼き屋を後にする。
「…男が和菓子屋に通ったらそんな風に思われるのか…これから気をつけよ」と小僧さんは苦笑いを浮かべると、そっと肩を竦めるのだった。
特に芋・栗・南瓜は子供や女性が好きな秋の味覚として有名であるが、スイーツであれば男女年齢問わず好きな人間は多いのではないだろうか。
秋の和菓子と言えば栗饅頭や栗や芋の羊羹が人気であったが、菊や紅葉をモチーフにした美しい生上菓子がショーケースに華やぎを添え、訪れた客たちの目を楽しませている。
いなり横丁の和菓子屋『東雲堂』では、秋のお彼岸が近いせいか朝からおはぎを買い求める客達がひっきりなしでやってきていた。
「おはぎと、きなこのおはぎが5個ずつですね」
東雲堂の看板娘の薫が客の注文を確認すると持ち帰り用の紙箱に和菓子を詰め、華の双子の姉の薫がそれを包装紙で包む。双子の連携に無駄な動きは無いように思われた。
「相変わらず、息ぴったりね」
二人の仕事っぷりを見た顔なじみの客達がそう言うと、薫と華は笑顔で同時に頭を下げる。シンクロしているような動きを見た客達は、さすが双子と思うのだった。
和菓子屋という商売柄のせいか客は年配の女性客が比較的多いのだが、そんな客達に交じって売れないロック歌手の様な風体の青年——小僧さんが和菓子のショーケースを覗き込んでいた。
「栗饅頭ひとつ、三色団子1本下さい」
「いつもありがとうございます」
薫が愛想よく小僧さんにそう言うと、和菓子を箱に詰め始める――どうやら小僧さんがこの店で和菓子を買いに訪れるのは初めてではないようだった。
「…この間の柿羊羹美味しかったです」
「ありがとうございます」
薫と華が同時に礼を言うと、小僧さんは照れくさそうな表情を浮かべる。
「和菓子お好きなんですね」
薫がそう言うと小僧さんは「芋栗羊羹もひとつ」と注文を追加した。
いつものように薫が和菓子を入れた箱を華に手渡す。それを丁寧に包装してゆく華の様子を小僧さんはじっと見つめていた。
和菓子の代金を支払い、店を出て言った小僧さんの姿が見えなくなると、薫が楽しそうな様子で華に話しかける。
「あの人、絶対、華目当てだよね」
「ええ?」
大人しくておっとりした華は驚いた様子で薫を見返す。活発な薫はそんな姉の鈍さが可笑しいのかクスクスと笑った。
「買いに来るたびに華を見てるの…華は気が付いてなかったの?」
薫の言葉に華は首を横に振った。そんな華に薫は「鈍すぎ~」と再び笑う。
「売れないロック歌手みたいな恰好してるけど、目が優しいから悪い人ではないんじゃない?」
「それ、どういう意味?」
「告白された時にどうするか今から考えておかないと」
「告白⁈」
薫の話の飛躍に華は驚きの声をあげた。そんな姉の反応が可笑しいのか、薫は面白くて仕方がないといった様子で「とりあえず付き合っちゃえ」と無責任な事を言い放つ。今まで異性とお付き合いした事などない華はただ戸惑うばかりだった。
小僧さんの和菓子屋通いはそれからも続いていた。小僧さんは出勤前に和菓子屋に寄ってから、自分のたこ焼き屋を開けるというルーティンを続けていたが、和菓子を買いに行っても会話をするのはおしゃべりな薫の方で、華とは会釈を交わす程度。二人の関係は一向に恋愛に発展する気配はみられなかった。
「ああっ…もう、あの人、何考えてるのかしら⁈」
最初は華に気がある様子だから、そのうち小僧さんが告白するのではと面白がっていた薫だったが、毎日店を訪れるようになって数週間経っても何の進展もみられない事にいら立ちを覚える様になっていた。
「好きなら好きってはっきり言えばいいのに!」
「薫の気のせいじゃない?」
「うんにゃ、私の目に狂いはないわ」
この双子見た目はそっくりであるが、性格の方は本当に正反対である。
「どんな人か気になるじゃない?」
薫は小僧さんの人物像に興味を抱いたらしく、それを知る為の作戦を練り始めた。
「…あ、悪い顔してる」
何かひらめいたような薫を見て、嫌な予感を覚える華だった。
「ありがとうございました」
今日も和菓子屋の看板娘たちのユニゾンに送り出され、和菓子が入った包を手に上機嫌で歩く小僧さんの後を離れてつける華の姿がそこにあった。見失っては元も子もないので、二人の距離はつかず離れずの微妙な間隔である。
華につけられているとは夢にも思っていない小僧さんは、鼻歌交じりに開店時間が迫った自分の店へ向かって歩いてゆく。開店準備を進める横丁の各店舗の顔なじみたちが小僧さんと朝の挨拶を交わしていた。
「…ふうん、あいつこの辺の店の人間と顔なじみなんだ」
横丁の商店主の集まりには、和菓子屋の主である祖父が出ているので、薫自身はそのあたりの付き合いはよく分かってはいない。小僧さんについての情報を集めるという意味では後をつけたのは正解だったと思う薫だった。
横丁の中心部を通り抜け小僧さんはどんどん奥の方に歩いて行き祠の前で足を止めた。そして祠に向かって手を合わせると頭を下げてから祠の扉を開いて何やらゴソゴソやり始める。
「何やっているんだろ?」
そんなに大きくない祠なので小僧さんが何をしているのか、薫からはよく見えない。しかし、これ以上距離を詰めると気が付かれてしまうので、建物の隙間に身を隠しながら小僧さんの様子を伺うしかなかった。
小僧さんは作業を終えたのか祠へ再び手を合わせてしゃがみ込んだ。何やら小声で何か言っているようだが、薫の耳では何をいっているかまではわからない。
数分が経ち、ようやく気が済んだのか小僧さんは立ち上がると、薫がいる方向に向かって歩き出した。それを見て薫は慌てて建物の奥へ身を押し込む。その前を小僧さんは通り過ぎて行った。
祠で何をやっていたのか気になるし、小僧さんの行方も気になる薫は少し悩んだ後、今日の追跡は諦めて祠の確認をする事にした。
「お地蔵様?」
小奇麗に掃除された祠の中にはお地蔵さまが安置されていて、その前には見慣れた和菓子がお供えされていた。
「うちの栗きんとん…」
それは自分の店で小僧さんが購入したばかりの和菓子だった。どうやら買った和菓子をお地蔵さまにお供えする為にここへ立ち寄ったらしい。
無造作にまとめた長髪に耳には大きなピアス、皮ジャンにGパンというファションの小僧さんだったが見た目とは裏腹に信心深いらしい。意外そうな表情を浮かべた薫は、小僧さんが消えた横丁の中心部の方へ視線を向けるのだった。
「年齢20代半ばで独身。職業は横丁のたこ焼き屋。近所の評判は真面目な青年だって」
数日、小僧さんの後を追い続けて情報収集した薫は、華にその成果を報告していた。
「ふうん」
「うちで買った和菓子は毎日お地蔵様にお供えして、夜、帰る時にそのお下がりを持って帰っているのは確認」
「…まるで探偵ね」
薫の報告を聞いていた華が呆れたような顔になる。そんな華を気にすることなく薫は「彼、毎朝お地蔵様の祠を掃除してるにはびっくりしちゃった。人は見掛けにはよらないね~」と言葉を続けた。
「…で?」
華の方は小僧さんにそんなに興味がないのか、薫に結論を求める。しかし薫の方は「あの人いい人みたい。きっと付き合ったら大事にしてくれそうだよ」と言うので、華は深くため息を吐く。
「…あのさ、薫、その詮索癖やめた方がいいよ」
「え? なんで?」
自分の行動に何の疑問もいだいていない薫は不思議そうに華を見た。
「興味本位で人を詮索するのを自分がされたら嫌でしょ?」
「…う」
「それに、好意の目と恋愛対象を見る目の違いも薫は分からない訳⁈」
今回の薫行動はかなり華を不快にさせていたのか、華はかなり怒っていた。普段大人しく怒らない人間が怒るとかなり怖い。怒られてシュンとなった薫に華は深く息を吐くと「私の幸せを思ってくれてありがとう」と言ってほほ笑んだ。
二人とも二十代前半だがどちらも恋愛経験は皆無だった。特に少女漫画や恋愛ドラマ好きの薫はときおり恋に恋する乙女な部分が顔を出す。華もそれは理解していたので暴走する薫に釘を刺す形で事態の収拾を図る事にしたようだった。
「…白馬の王子様が来るなんて思わないけれど、運命の出会いはきっとあると思う」
そう言う華も十分乙女だった。
「…やっぱ太ったなぁ」
体重計の表示を目にした小僧さんは腹のぜい肉をつまんで情けない表情でつぶやいた。
和菓子は洋菓子に比べてカロリーは低いというものの、毎日数個の和菓子を食べていれば太るのは当然である。お腹が出た体型で大好きなファンキーな服装をするのは小僧さんの美学に反するらしかった。
「しばらく和菓子を止めるか…」
小僧さんはダイエットを決意したらしく、その日を境に東雲堂に顔を出さなくなった。そんな小僧さんの事情を知らない双子にすれば、毎日のように和菓子を買いに来ていた客が急に来なくなったのだからその理由が気になって仕方がない。数日は我慢していたが、一週間が過ぎた頃、後で華に怒られるのを承知で薫は小僧さんの店へ向かった。
「こんにちは」
たこ焼き屋に着いた薫はたこ焼きを注文すると、さっそく小僧さんに体調はどうかと尋ねる。「見ての通り元気いっぱい…」と答えた所で小僧さんは客が東雲堂の看板娘だった事に気が付き慌てて会釈した。
最近店に顔を出さないから心配していたと小僧さんに伝えた薫は「元気そうで何より」と笑顔を見せた。
「あ…すみません」
薫がたこ焼きを買いに来た理由をなんとなく察した小僧さんは、バツが悪そうな表情を浮かべ「実は…」とダイエットを始めたのだと事情説明をする。
「なあんだ、華を嫌いになった訳じゃなかったのね」と言って笑う薫に小僧さんは怪訝な表情を浮べた。
「華…さん?」
「私の双子の姉。いつも商品を包装しているところ見てるじゃないですか」
薫の説明を聞いて小僧さんはようやく誰のことを言っているのかを理解したらしく、「いつもきれいに包装されているんで、そのコツを盗ませていただいてました」と言って笑う。
「…包装のコツ?」
今度は薫が怪訝そうな表情を浮かべ首を傾げ小僧さんを見る。
「うちの商品は包装紙で包む必要がないから問題ないんですが、僕、包装が苦手でいつも包み紙が皺だらけになるんですよね」
「…見てたのは華の手先?」
「そうですが…何か?」
「…ええ⁈」
ようやく薫は自分が大きな勘違いをしていた事を悟り、驚きの声をあげた。そんな薫を小僧さんは不思議そうな顔で見る。
「私…てっきりお客さんは華目当てでうちに来てたのかと…」
それを聞いた小僧さんは笑い出した。
「僕は洋菓子より和菓子が好きで――確かにお二人とも可愛らしいですが、僕は年上の女性が好みなんで…」と小僧さんはそう言うと「まいったなぁ」と照れ笑いを浮かべた。
そんな小僧さんに薫はバツが悪そうに謝ると、注文していたたこ焼きを受け取り、逃げるようにたこ焼き屋を後にする。
「…男が和菓子屋に通ったらそんな風に思われるのか…これから気をつけよ」と小僧さんは苦笑いを浮かべると、そっと肩を竦めるのだった。
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