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~昔話と宇宙人~
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暑さも一段落して、最近では時折赤とんぼが飛び交い、サウナを連想させるような熱波もいつも間にかおさまっていた。からっとした空気と過ごしやすい気温になったせいか、空のさんま雲を見ると、着実に季節が進んでいる事に気が付かされる。
いなり横丁でも暑い季節に活躍した葦簀や縁台などはいつの間にか仕舞われて、静かに夏の風景は姿を消している。そんな横丁だったが、小料理屋『竜宮』の入り口にはいつもと変わらず麻の暖簾がかけられ、いつもと変わらない様子で店の営業を始めていた。
「――どこかにお金持ちのいい男いないかしら」
ビールのトマトジュース割りを片手に猫さんがため息交じりに呟いていた。
「例の大判焼きの彼氏は?」
小鉢に煮物を盛り付けていた女将が手を止めて猫さんに訊いた。
「あの浮気者。今度入った女の子に乗り換えちゃったのよ」
吐き捨てるようにそう言うと、猫さんは負け惜しみなのか「嘘つきに騙されるところだったわ」と言うと、「そんな訳だから、玉の輿計画は仕切り直し」とすまし顔になる。
「…切り替え早いわね」
「あんなカスにいつまでも執着していても時間の無駄だもの」
玉の輿に乗れると相手のことを褒め倒してはしゃいでいたのもどこへやら、今ではカス扱いなのだから酷いものである。
「かぐや姫みたいに、複数の権力者やお金持ちにプロポーズする人がいたら、一人や二人ダメでも安泰なんだけどなぁ」
猫さんは『下手な鉄砲でも数打てば当たる』という方向に軌道修正出来ないものか? と考えているらしかった。
「竹取物語だと、最初にしつこく言い寄ってきた者は、かぐや姫に要求されたものの偽物を持ってきたり、手に入れるのを失敗したりしていたわよね?」
そんな女将のツッコミに猫さんは意気消沈するどころか、「最後は帝に見初められたんだから問題無し」と強く主張した。
「外国の王様や王子様の愛人でも私は構わないんだけど」
そう言いながら猫さんはぐっとグラスの中身を飲み干して不敵な笑顔を浮かべる。
「竹取物語ってSFファンタジーっぽくて素敵な話なのに、貴方の玉の輿やら愛人やらって話を聞いていると、一気に生臭い話題になっちゃうわね」
苦笑交じりの女将の言葉を猫さんは「ファンタジーでおまんまは食えないわ」とバッサリと切る。
「まあ、そりゃそうだけど…」
「即物的と言われようがそれで結構。私はお金も宝石も欲しいし、キレイなおべべも着たい。贅沢三昧できればそれでいいのよ」
「そ…そう…」
そこまではっきりきっぱり言い切れるのだから、ある意味立派である。
「だいたい、竹藪の中に光る竹に女の子を見つけて連れて帰ったら、三カ月で絶世の美女に成長しただの、満月の夜に月からお迎えが来てそれを阻止しようとしてもこちらの武器は効かないわ無力化されて手も足も出ないなんてありえない」
「竹取物語の内容だと月に高度な文明を持つ宇宙人がいて、かぐや姫もその宇宙人って考えるのが自然ではあるけれど…」
考え込んだ女将を猫さんは鼻で笑う。
「SF映画やアニメじゃあるまいし。月に宇宙人なんている訳ないじゃない」
「宇宙は広いんだから、宇宙人がいるって考えた方が楽しいと私は思うんだけどな」と女将はそう言いつつ「…宇宙船にしては小さすぎるから、光る竹は脱出ポットみたいなものと考える方が自然かしらね?」と、頭の中でいろいろ妄想をしているようだった。
二人は意見の相違で喧嘩する訳でもなく、それぞれどう考えるかは自由なので、お互いが思い浮かんだ事を好きなように口にするというような奇妙な状態だった。
「かぐや姫も嫌なら月に帰らなきゃいいのにね。嫌な事をする相手に従うなんて私は全くごめんだわ」
「…立場とかあるんじゃない?」
「そんな事知った事ではないわ」
猫さんは自由人でそれを貫いてきたのだろう。それを聞いた女将は肩を竦める。
「でもね、竹取物語で出てくる、お迎えが羽衣をかぐや姫に着せたって話はちょっと興味あるけど」
猫さんはそう言ったが、その後の「羽衣って高級品かしら?」という言葉は即物主義者の彼女らしかったので、女将があきれ顔になる。
「他の昔話に出てくる天女の羽衣伝説との共通性が気になるとかじゃないんだ…」
「羽衣伝説って、基本は天女が貧乏人の男をお金持ちにしてくれるって話だから、女には関係なさそうだし」
そう言うと猫さんは「羽衣があれば天女は要らないし」と屈託なく笑う。
「…じゃあ不老不死の薬は?」
「ああ、かぐや姫が月に帰る時に残した不老不死の薬? 不老不死の薬だけじゃなく若返りの薬も一緒に飲めるなら欲しいかも」
確かに若返ってから不老不死なら理想かもしれない。
「若い身体で不老不死になったらどうしたいの?」
「もちろん玉の輿に乗って、相手が先に死んだら全財産は私のもの」
それを聞いた女将は、愚問だったとがっくりと首をうなだれた。
私は横丁の入り口で配られていたチラシを受け取った。内容はその場では読まず、それを手にすると迷う事なく小料理屋へ足を向ける。
今日のおすすめである鶏とナスの南蛮漬けをビールで流し込みながら、貰ったチラシに目を通し始めた。そこには『お月見はうさぎ堂』と大きく書かれていて、どうやら来月のお月見イベントの告知チラシらしかった。
「ああ、もう秋ですものね」
私が見ていたチラシが気になったのか、女将がチラシをちらっと見てそう言うと感慨深い表情を浮かべた。
「今年もそろそろ残り四分の1になっちゃうわね」
「この間お正月だった気がするのに、月日が経つのは早いですね」
「年々、時間が加速をつけて過ぎ去っていくような気がするわ」
それは私も同じように感じていたので女将の意見に同意した。
「——うさぎ堂さんは毎年、中秋の名月の時に餅つきイベントをするのよ。この横丁では秋の名物イベントね」
女将のチラシのイベント解説を聞いて、餅つきなんて子供の頃に少し体験だけの私は興味を持った。
「…うさぎ堂さんって和菓子屋さんですか?」
この横丁に通いだしてまだ1年経っていない私は、まだ知らないお店や横丁の名物イベントも多いので女将に質問する。
「うさぎ堂さんは漢方薬の薬局よ。和菓子屋さんは東雲堂っていう老舗のお店」
「漢方薬ですか…」
いなり横丁のお店で買い物をする事はないので、その店がどこにあるのかさえ知らなかった。
「お月見の餅つきイベントを漢方薬局がするって…どうしてなんでしょう?」
和菓子屋ならわかる気もするが、それが私には不思議だった。そんな私の言葉を聞いて女将は意外そうな表情を浮かべる。
「あら…月でうさぎが搗いているのって、本当はお餅じゃなくて不老不死の薬っての知らない?」
「そうなんですか?」
そんな話を耳にしたのは初めてだったので、私は女将に訊き返した。
「月にうさぎが居るという話は中国の伝説からきていて、餅つきの餅は日本の暦である『望月』が『餅つき』に転じたものって説もあるわね」
文化の伝来は物だけではなく仏教なども海を渡ってきたのは知っていたが、伝説の様なものにも影響しているのは少し意外だった。
「中国の餅は小麦や粟や稗の雑穀、ジャガイモなんかの粉を練って丸く伸ばしたものを意味するから、厳密には日本の米を蒸して潰したものとは全然違うものなの」
さすが料理に詳しい女将である。
「日本にお月見の行事が中国から伝来したのは平安時代らしいけど、あくまで宮中行事で貴族の間で行われていたもので、庶民がお月見の行事をするようになったのは江戸時代になってからのものらしいわ」
庶民レベルでは比較的歴史が浅い事を知って正直驚いた。
お月見は収穫祭の意味合いが強かったらしく、中秋の名月の別名が芋名月などという名なのもそういう理由かららしい。
「食べ物は神様からの恵みだし、旬のものをいただくと若返るだとか、寿命が延びるなんて言われているから、不老不死伝説との関連性もあるかもね」
そう言うと女将は微笑んだ。
「中国やインドでは月の伝説になると『不老不死』が必ずついて回るのが不思議ですよね」
「月の満ち欠けが不老不死を連想させるからって説を聞いた事があるけれど…」
そう言いながら女将は何か考えを巡らせるように黙り込む。
「——竹取物語の伝説には月に住んでいる人たちは、みんな不老不死という記述があるのよね…もしそれが本当なら『形あるものはいつか(劣化して)壊れる』っていう原則を超越するオーバーテクノロジーの文明があるって事にならない?」
宇宙は広いのでどんな可能性も否定はできないが、宇宙人という話になると胡散臭く感じるのは気のせいだろうか?
「宇宙人やUFOの話だと、矢追純一のUFO特番みたいですね」
昭和の時代、ゴールデンの時間帯にドキメンタリーという体裁で定期的に放送していたUFO関連の人気番組を私は思い出していた。
「最初の頃はUFOは実在するって話だったのに、回を重ねるにつれアメリカ政府がメキシコ国境に墜落したUFOから回収したリトルグレイを隠蔽しているだの、宇宙人と密約して作った秘密基地(エリア56)があるとか、真実を隠す為にブラックマン達が活動しているって話になっていったんだっけ?」
女将も同じ番組を見て育ったのか、細かい事をよく覚えていたので私はつい笑ってしまった。
「番組が流れなくなるちょっと前の放送では、取材している私たちも真実を知りすぎたのでブラックマンに目を付けられて監視されている…みたいなお話でしたよね」
「そうそう。どんどんUFO特番の放送頻度も減っていって、しばらくしてからハリウッドのブラックマンの映画が作られたのよね」
「あの映画を観た時、ああ、ブラックマンって本当にいるもかもって思いました」
私の言葉に女将が「地球には既に様々な宇宙人が住んでいるんだけど、普通の人間はそれに気が付かないようにブラックマンが活動してるってのが、UFO特番を見て育ってきた世代には妙にツボにはまっちゃって…」と言いながら笑う。
女将が言うように、胡散臭くは感じるが、どこかで実在していてもおかしくはないと思っている自分もいるのを認めざるを得なかった。
「実は人間が神様だと思っているのは高度な文明を持つ宇宙人だったのかもね――古代人に今の私たちが気象観測技術をつかって天気予報をすれば、日照りを予言したとか嵐を予言したってなる訳だから、案外間違っていないかも」
そう言うと女将は悪戯っ子の様に笑う。
あなたの知らない世界…神が高度な文明を持つ宇宙人だとしたら、妖怪なんかも異形の宇宙人の可能性もある。案外彼らは、今でも我々の身近にいるのかもしれないと私は思った。
いなり横丁でも暑い季節に活躍した葦簀や縁台などはいつの間にか仕舞われて、静かに夏の風景は姿を消している。そんな横丁だったが、小料理屋『竜宮』の入り口にはいつもと変わらず麻の暖簾がかけられ、いつもと変わらない様子で店の営業を始めていた。
「――どこかにお金持ちのいい男いないかしら」
ビールのトマトジュース割りを片手に猫さんがため息交じりに呟いていた。
「例の大判焼きの彼氏は?」
小鉢に煮物を盛り付けていた女将が手を止めて猫さんに訊いた。
「あの浮気者。今度入った女の子に乗り換えちゃったのよ」
吐き捨てるようにそう言うと、猫さんは負け惜しみなのか「嘘つきに騙されるところだったわ」と言うと、「そんな訳だから、玉の輿計画は仕切り直し」とすまし顔になる。
「…切り替え早いわね」
「あんなカスにいつまでも執着していても時間の無駄だもの」
玉の輿に乗れると相手のことを褒め倒してはしゃいでいたのもどこへやら、今ではカス扱いなのだから酷いものである。
「かぐや姫みたいに、複数の権力者やお金持ちにプロポーズする人がいたら、一人や二人ダメでも安泰なんだけどなぁ」
猫さんは『下手な鉄砲でも数打てば当たる』という方向に軌道修正出来ないものか? と考えているらしかった。
「竹取物語だと、最初にしつこく言い寄ってきた者は、かぐや姫に要求されたものの偽物を持ってきたり、手に入れるのを失敗したりしていたわよね?」
そんな女将のツッコミに猫さんは意気消沈するどころか、「最後は帝に見初められたんだから問題無し」と強く主張した。
「外国の王様や王子様の愛人でも私は構わないんだけど」
そう言いながら猫さんはぐっとグラスの中身を飲み干して不敵な笑顔を浮かべる。
「竹取物語ってSFファンタジーっぽくて素敵な話なのに、貴方の玉の輿やら愛人やらって話を聞いていると、一気に生臭い話題になっちゃうわね」
苦笑交じりの女将の言葉を猫さんは「ファンタジーでおまんまは食えないわ」とバッサリと切る。
「まあ、そりゃそうだけど…」
「即物的と言われようがそれで結構。私はお金も宝石も欲しいし、キレイなおべべも着たい。贅沢三昧できればそれでいいのよ」
「そ…そう…」
そこまではっきりきっぱり言い切れるのだから、ある意味立派である。
「だいたい、竹藪の中に光る竹に女の子を見つけて連れて帰ったら、三カ月で絶世の美女に成長しただの、満月の夜に月からお迎えが来てそれを阻止しようとしてもこちらの武器は効かないわ無力化されて手も足も出ないなんてありえない」
「竹取物語の内容だと月に高度な文明を持つ宇宙人がいて、かぐや姫もその宇宙人って考えるのが自然ではあるけれど…」
考え込んだ女将を猫さんは鼻で笑う。
「SF映画やアニメじゃあるまいし。月に宇宙人なんている訳ないじゃない」
「宇宙は広いんだから、宇宙人がいるって考えた方が楽しいと私は思うんだけどな」と女将はそう言いつつ「…宇宙船にしては小さすぎるから、光る竹は脱出ポットみたいなものと考える方が自然かしらね?」と、頭の中でいろいろ妄想をしているようだった。
二人は意見の相違で喧嘩する訳でもなく、それぞれどう考えるかは自由なので、お互いが思い浮かんだ事を好きなように口にするというような奇妙な状態だった。
「かぐや姫も嫌なら月に帰らなきゃいいのにね。嫌な事をする相手に従うなんて私は全くごめんだわ」
「…立場とかあるんじゃない?」
「そんな事知った事ではないわ」
猫さんは自由人でそれを貫いてきたのだろう。それを聞いた女将は肩を竦める。
「でもね、竹取物語で出てくる、お迎えが羽衣をかぐや姫に着せたって話はちょっと興味あるけど」
猫さんはそう言ったが、その後の「羽衣って高級品かしら?」という言葉は即物主義者の彼女らしかったので、女将があきれ顔になる。
「他の昔話に出てくる天女の羽衣伝説との共通性が気になるとかじゃないんだ…」
「羽衣伝説って、基本は天女が貧乏人の男をお金持ちにしてくれるって話だから、女には関係なさそうだし」
そう言うと猫さんは「羽衣があれば天女は要らないし」と屈託なく笑う。
「…じゃあ不老不死の薬は?」
「ああ、かぐや姫が月に帰る時に残した不老不死の薬? 不老不死の薬だけじゃなく若返りの薬も一緒に飲めるなら欲しいかも」
確かに若返ってから不老不死なら理想かもしれない。
「若い身体で不老不死になったらどうしたいの?」
「もちろん玉の輿に乗って、相手が先に死んだら全財産は私のもの」
それを聞いた女将は、愚問だったとがっくりと首をうなだれた。
私は横丁の入り口で配られていたチラシを受け取った。内容はその場では読まず、それを手にすると迷う事なく小料理屋へ足を向ける。
今日のおすすめである鶏とナスの南蛮漬けをビールで流し込みながら、貰ったチラシに目を通し始めた。そこには『お月見はうさぎ堂』と大きく書かれていて、どうやら来月のお月見イベントの告知チラシらしかった。
「ああ、もう秋ですものね」
私が見ていたチラシが気になったのか、女将がチラシをちらっと見てそう言うと感慨深い表情を浮かべた。
「今年もそろそろ残り四分の1になっちゃうわね」
「この間お正月だった気がするのに、月日が経つのは早いですね」
「年々、時間が加速をつけて過ぎ去っていくような気がするわ」
それは私も同じように感じていたので女将の意見に同意した。
「——うさぎ堂さんは毎年、中秋の名月の時に餅つきイベントをするのよ。この横丁では秋の名物イベントね」
女将のチラシのイベント解説を聞いて、餅つきなんて子供の頃に少し体験だけの私は興味を持った。
「…うさぎ堂さんって和菓子屋さんですか?」
この横丁に通いだしてまだ1年経っていない私は、まだ知らないお店や横丁の名物イベントも多いので女将に質問する。
「うさぎ堂さんは漢方薬の薬局よ。和菓子屋さんは東雲堂っていう老舗のお店」
「漢方薬ですか…」
いなり横丁のお店で買い物をする事はないので、その店がどこにあるのかさえ知らなかった。
「お月見の餅つきイベントを漢方薬局がするって…どうしてなんでしょう?」
和菓子屋ならわかる気もするが、それが私には不思議だった。そんな私の言葉を聞いて女将は意外そうな表情を浮かべる。
「あら…月でうさぎが搗いているのって、本当はお餅じゃなくて不老不死の薬っての知らない?」
「そうなんですか?」
そんな話を耳にしたのは初めてだったので、私は女将に訊き返した。
「月にうさぎが居るという話は中国の伝説からきていて、餅つきの餅は日本の暦である『望月』が『餅つき』に転じたものって説もあるわね」
文化の伝来は物だけではなく仏教なども海を渡ってきたのは知っていたが、伝説の様なものにも影響しているのは少し意外だった。
「中国の餅は小麦や粟や稗の雑穀、ジャガイモなんかの粉を練って丸く伸ばしたものを意味するから、厳密には日本の米を蒸して潰したものとは全然違うものなの」
さすが料理に詳しい女将である。
「日本にお月見の行事が中国から伝来したのは平安時代らしいけど、あくまで宮中行事で貴族の間で行われていたもので、庶民がお月見の行事をするようになったのは江戸時代になってからのものらしいわ」
庶民レベルでは比較的歴史が浅い事を知って正直驚いた。
お月見は収穫祭の意味合いが強かったらしく、中秋の名月の別名が芋名月などという名なのもそういう理由かららしい。
「食べ物は神様からの恵みだし、旬のものをいただくと若返るだとか、寿命が延びるなんて言われているから、不老不死伝説との関連性もあるかもね」
そう言うと女将は微笑んだ。
「中国やインドでは月の伝説になると『不老不死』が必ずついて回るのが不思議ですよね」
「月の満ち欠けが不老不死を連想させるからって説を聞いた事があるけれど…」
そう言いながら女将は何か考えを巡らせるように黙り込む。
「——竹取物語の伝説には月に住んでいる人たちは、みんな不老不死という記述があるのよね…もしそれが本当なら『形あるものはいつか(劣化して)壊れる』っていう原則を超越するオーバーテクノロジーの文明があるって事にならない?」
宇宙は広いのでどんな可能性も否定はできないが、宇宙人という話になると胡散臭く感じるのは気のせいだろうか?
「宇宙人やUFOの話だと、矢追純一のUFO特番みたいですね」
昭和の時代、ゴールデンの時間帯にドキメンタリーという体裁で定期的に放送していたUFO関連の人気番組を私は思い出していた。
「最初の頃はUFOは実在するって話だったのに、回を重ねるにつれアメリカ政府がメキシコ国境に墜落したUFOから回収したリトルグレイを隠蔽しているだの、宇宙人と密約して作った秘密基地(エリア56)があるとか、真実を隠す為にブラックマン達が活動しているって話になっていったんだっけ?」
女将も同じ番組を見て育ったのか、細かい事をよく覚えていたので私はつい笑ってしまった。
「番組が流れなくなるちょっと前の放送では、取材している私たちも真実を知りすぎたのでブラックマンに目を付けられて監視されている…みたいなお話でしたよね」
「そうそう。どんどんUFO特番の放送頻度も減っていって、しばらくしてからハリウッドのブラックマンの映画が作られたのよね」
「あの映画を観た時、ああ、ブラックマンって本当にいるもかもって思いました」
私の言葉に女将が「地球には既に様々な宇宙人が住んでいるんだけど、普通の人間はそれに気が付かないようにブラックマンが活動してるってのが、UFO特番を見て育ってきた世代には妙にツボにはまっちゃって…」と言いながら笑う。
女将が言うように、胡散臭くは感じるが、どこかで実在していてもおかしくはないと思っている自分もいるのを認めざるを得なかった。
「実は人間が神様だと思っているのは高度な文明を持つ宇宙人だったのかもね――古代人に今の私たちが気象観測技術をつかって天気予報をすれば、日照りを予言したとか嵐を予言したってなる訳だから、案外間違っていないかも」
そう言うと女将は悪戯っ子の様に笑う。
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