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少しずつ見えてきて3

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 息苦しさと咳に苦しめられ、二日ほど、満足に食事を取れなかったシャルフィは、三日目の朝、透き通ったスープだけ、なんとか完食した。

「奥様、よかった。召し上がれましたね」
「昨夜は少し眠れたから。エネも夜通し付き添ってくれてありがとう。心配をかけるようなことをして、ごめんなさい」

 喜ぶエネに、シャルフィは食事だけで少し上がった息を整えながら詫びた。
 あの時はあれほど抗いがたい衝動だったのに、落ち着いてしまえば、子供の癇癪と同じだとわかってしまう。

「人伝に気遣ってはくれるけど、一緒には喜んでくれないし、今ここにいないくせにって思ったら、急に何もかも嫌になったの」
「……お気持ち、よくわかります。けど奥様、もう本当に無理は止めてくださいね」

 無理。無理じゃないもの。喉元まで出かけた言葉を、シャルフィはふっと笑って吹き飛ばした。
 シャルフィにとって、窒息しそうに咳き込んでも、目的地にたどり着ければ成功だ。無理ではない。
 だがそれを正直に口にすると、誰もがシャルフィを異様な目で見た。理解できない、触れると危険な劇物のように恐れて、あるいは「無自覚に」無理をするのを心配もして、シャルフィの行動を制限しようとする。

 ただリウトだけが、ずっとすべてを許してくれて、ただ隣にいてくれた。
 だからシャルフィは、許してくれず、隣にもいないリウトを受け入れられないのだ。






「だから、わざと無理をして見せた、と?」

 アナ医師に淡々と尋ねられて、シャルフィは急にとても恥ずかしくなった。

「わかりません。助けに来てくれるかと期待したのは確かです。あるいは、やっぱり無理だろう、ほら見たことかと、思い切り言われるかな、とも。でもあれから」

 無理を言って家令に持って来させても、財産管理の書類を読んでいるだけで疲れてしまう。いつもは集中力を高めてくれる紅茶も飲むことができない。苛々する時にエネが差し出してくれる柑橘味の飴は、いつの間にか朝枕元に置いてあった。

 庭へ出るためによく使う階段には、毛足の詰まった絨毯が敷き詰められた。真夏に相応しくない分厚さだが、涼しげな青が心を落ち着けてくれるようだ。青は、リウトにも似合う。そう思いながら降りきって、一番下の段で少し躓いて、でも取り澄まして歩いて、ふとテラスへの出口で視線だけ振り返ると、階上に背の高い影が隠れるところだった。

 庭にはもともと控えめな香りの花ばかり。椅子が置かれていた場所には据え付けのベンチが設置され、新しくこしらえられた蔦の天蓋が通路を心地よい日陰にした。ほんの小さな噴水があちこちに配置され、流れる水の音が暑さを和らげた。その散歩道のどこからでも、二階の露台付きの大きな窓が見える。そこは、リウトの執務室だ。

 そんなことが少しずつ見えてきて。

「なんとなく、私が何かしなくても、いつも見てくれてはいるみたいだと気がつきました」
「まあ、そうでしょうね」
「え?」
「いえ、こちらの話です」

 まだ、アナ医師の微笑みの意味はわからなかったけれど。

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