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すれ違いの原因2
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涙が鼻の奥に流れて、鼻が完全に詰まっている。
そして口周りはいまだリウトの厚い手で布ごと覆われていて、満足に息もできない。
リウトの腕を何度もぺちぺちと叩くと、ようやく察したリウトが手を離し、むしり取るように布を下げた。
「ぷはっ、はっ」
口で大きく息を吸い、命を繋いだと思ったのに、次の瞬間にはまた口を塞がれた。
今度は、口で。
いつの間にかリウトの手が、胸を、体をまさぐっている。いつもより忙しないが、的確だ。左の胸の頂、右の鎖骨、少し背中側の腰のくびれ、膝頭、そして秘所。弱いところを片手で順に責められて、体はびくびくとのたうった。
息が苦しくなる都度少しだけ猶予を与えられて、溺れる人のように必死に息継ぎをする間に、わけがわからなくなっていく。
やがてリウトが吸い込んで嬲った下唇を放ち、上体を起こすと、シャルフィの顔にはまた布が当てられた。大きな手が、かろうじて空気が通るほどの力加減で細い顎と布を固定する。
「そのまま、俺のにおいを嗅がなければいい。嗅覚の異常は、後でゆっくり解決しよう。完璧な騎士なら、君の回復を最優先にするべきだろうけど、もう俺は騎士じゃない、夫だ。夫として、君との距離を埋められる機会を逃したくない。絶対に。でもできるだけ負担をかけたくないから、暴れないで」
騎士だった男に押さえつけられて、シャルフィが暴れるほどの抵抗をできるはずがない。
今だって、顔を動かすことすらできず、シャルフィは瞳だけを痛むほど下に動かして、リウトがゆっくりと胸に顔を埋めるのを見た。
口づけに溺れ、体中に官能の火を灯され、さらに限界間際の息継ぎでぐったりとしたシャルフィの下肢は、リウトの太い腰を挟んで為されるがまま宙に広がっている。
濡れた音を立てているのは、胸を貪っているリウトか、あるいは、そのもう片手の訪いを迎え入れたシャルフィか。
息が、みるみる上がっていく。首を振ろうにも、万力のような腕はびくともしない。
空気が足りない。苦しい。
力の入らない両手をぶるぶると震わせながらリウトの片手を掴み、思い切り爪を立てた。
はっと身を起こしたリウトの口元が煌めいているのは、唾液だろうか。どこか遠い感覚でそれを眺めながら、緩んだ手ごと布を掴んで遮二無二引いた。
できたわずかな隙間から、息を吸う。
涙はとうに止まって、鼻の奥には通り道ができていた。
あれほど、求めていたリウトのにおい。
リウトの実在を示すような、甘く優しく、絡みつくようなにおいが、シャルフィの中に勢いよく入ってきた。
その瞬間こみ上げた吐き気に、シャルフィは打ち上げられた魚のように激しく身体をよじった。そして、はっとリウトがシャルフィの上から退くと、顔を寝台に叩きつけるように伏した。
「う、うえええええええ」
「シャルフィ!?」
まだ、奇跡的に大丈夫だ。かろうじて吐かないで済みそうだ。
ただし、悪心はだらだらと続き、足りない空気のせいで、眼裏に星が瞬いて意識を不快に刺激する。
返事をする余裕などない。
全身の血の気が失せて、背中まで青白くなったシャルフィを見てか、リウトは素早く寝台から降りて窓を二カ所開けてくれた。外の少し冷えた空気が入り、室内のこもった空気を押し出してくれる。
においが薄まり、悪心が少しだけ落ち着く。
シャルフィはわずかに顔を上げ、犬のように荒い音を立てて空気を貪ってから。
「う、うううわああああん!」
子供のように、大声をあげて泣き伏した。
そして口周りはいまだリウトの厚い手で布ごと覆われていて、満足に息もできない。
リウトの腕を何度もぺちぺちと叩くと、ようやく察したリウトが手を離し、むしり取るように布を下げた。
「ぷはっ、はっ」
口で大きく息を吸い、命を繋いだと思ったのに、次の瞬間にはまた口を塞がれた。
今度は、口で。
いつの間にかリウトの手が、胸を、体をまさぐっている。いつもより忙しないが、的確だ。左の胸の頂、右の鎖骨、少し背中側の腰のくびれ、膝頭、そして秘所。弱いところを片手で順に責められて、体はびくびくとのたうった。
息が苦しくなる都度少しだけ猶予を与えられて、溺れる人のように必死に息継ぎをする間に、わけがわからなくなっていく。
やがてリウトが吸い込んで嬲った下唇を放ち、上体を起こすと、シャルフィの顔にはまた布が当てられた。大きな手が、かろうじて空気が通るほどの力加減で細い顎と布を固定する。
「そのまま、俺のにおいを嗅がなければいい。嗅覚の異常は、後でゆっくり解決しよう。完璧な騎士なら、君の回復を最優先にするべきだろうけど、もう俺は騎士じゃない、夫だ。夫として、君との距離を埋められる機会を逃したくない。絶対に。でもできるだけ負担をかけたくないから、暴れないで」
騎士だった男に押さえつけられて、シャルフィが暴れるほどの抵抗をできるはずがない。
今だって、顔を動かすことすらできず、シャルフィは瞳だけを痛むほど下に動かして、リウトがゆっくりと胸に顔を埋めるのを見た。
口づけに溺れ、体中に官能の火を灯され、さらに限界間際の息継ぎでぐったりとしたシャルフィの下肢は、リウトの太い腰を挟んで為されるがまま宙に広がっている。
濡れた音を立てているのは、胸を貪っているリウトか、あるいは、そのもう片手の訪いを迎え入れたシャルフィか。
息が、みるみる上がっていく。首を振ろうにも、万力のような腕はびくともしない。
空気が足りない。苦しい。
力の入らない両手をぶるぶると震わせながらリウトの片手を掴み、思い切り爪を立てた。
はっと身を起こしたリウトの口元が煌めいているのは、唾液だろうか。どこか遠い感覚でそれを眺めながら、緩んだ手ごと布を掴んで遮二無二引いた。
できたわずかな隙間から、息を吸う。
涙はとうに止まって、鼻の奥には通り道ができていた。
あれほど、求めていたリウトのにおい。
リウトの実在を示すような、甘く優しく、絡みつくようなにおいが、シャルフィの中に勢いよく入ってきた。
その瞬間こみ上げた吐き気に、シャルフィは打ち上げられた魚のように激しく身体をよじった。そして、はっとリウトがシャルフィの上から退くと、顔を寝台に叩きつけるように伏した。
「う、うえええええええ」
「シャルフィ!?」
まだ、奇跡的に大丈夫だ。かろうじて吐かないで済みそうだ。
ただし、悪心はだらだらと続き、足りない空気のせいで、眼裏に星が瞬いて意識を不快に刺激する。
返事をする余裕などない。
全身の血の気が失せて、背中まで青白くなったシャルフィを見てか、リウトは素早く寝台から降りて窓を二カ所開けてくれた。外の少し冷えた空気が入り、室内のこもった空気を押し出してくれる。
においが薄まり、悪心が少しだけ落ち着く。
シャルフィはわずかに顔を上げ、犬のように荒い音を立てて空気を貪ってから。
「う、うううわああああん!」
子供のように、大声をあげて泣き伏した。
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