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最終章
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昼休み。
チャイムが鳴ったと同時に三人のクラスメートがわたしの席に寄ってくる。
そして揃って拳を出した。
「最初はグーっ」
二宮が持ち前の爽やかさで鮮やかにスタートがきってとられ、
「ジャンケン……」
綿谷が厳つい顔にはとても似つかない、だけどリズミカルに音頭をとり、
「ポン!」
ジャンケンを心から楽しんでいるような、満面の笑みを浮かべた海々が号砲を上げた。
ひとりがチョキで、あとは全員がグーだった。
「うわっ、俺かよっ」
二宮が悔しそうに天井を仰ぐ。
「ま、しょうがねぇか。猛さんは何にします?」
「チョコバナナのロールケーキとイチゴ餅パン。それからミルクココア」
もう何も言うまい……。
「了解ですっ。チョコバナナのロールケーキとイチゴ餅パン、それとミルクココアでっ。沙理沢は?」
「わたしと海々は弁当があるからジュースだけでいいよ。わたしはミルクティーで。海々は何にする?」
「んー、じゃあザクロジュースでいいや」
「え? なに? マグロ? 二宮、マグロジュースだって!」
「了解っ、ミルクティーとマグロジュースでっ」
「そんなのいらないーっ!」
海々が叫んだ頃には既に時遅し、二宮は軽快に教室から出ていった。
最近、わたし達は4人で昼食を食べることがたまにある。
机をくっつけて、世間話でもしながら気ままに過ごす。
わたし達は、もうそこら辺にいる仲良しグループの一つと変わらない。
最初は周囲の注目を浴びたけど、今ではだいぶ慣れてきているようだ。
『あの光景』を見た朱漢組が誰かに口を割らないか不安だったけど、それは杞憂に終わった。
綿谷が連中に箝口令を敷いてくれたらしく、それを破った奴には厳罰を課すことにしたそうだ。おかげでそれらしい噂が流れた様子はない。
これは素直に感謝だね。
連中はわたし達への態度を変えることをせず、今までと全く同じように接してきてくれている。むしろ結託して海々を助けたこともあって、以前よりも好意的に交流している。
「どう、海々? マグロジュースおいしい?」
「全然おいしくないよっ! だいたい、なんでこんな変なのが売ってるのっ!」
「まぁまぁ、落ち着けよ、杞蕾。スルメジュースなんて物もあったぞ。明日はそれにしてみないか?」
「いいねぇっ、その響きっ。海々、もう飲むしかないよっ」
「自分が飲んでよっ! 海々は普通のジュースが飲みたいの! 魚はあんまり好きじゃないんだから」
「杞蕾よ、好き嫌いはよくない。苦手だからっていつまでも引き離していると、克服出来るものも出来なくなる。わしらのためにマグロやスルメは命を落としているのだ。そいつらの犠牲に報いるためにも、わしらはちゃんと食して、栄養にしてやるのが筋ってものではないのか?」
「言ってることはもっともだけどなんかおかしいーっ!」
いいことだよね、きっと。
家に帰ると、いつもと同じように明音さんが迎えてくれる。
海々と一緒に夕飯を作る手伝いをして、出来上がれば3人でディナータイム。
『あの日』、夜中に帰ったにも関わらず、明音さんは起きて待っていた。
それから海々の姿を認めると、今までないくらいに顔を歪めた。
綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして、愛娘の帰宅を抱擁で迎えた。
海々も同じように泣き崩れて、見ていたわたしも泣いちゃった。
それから色々なことを包み隠さず話をした。
わたしと海々を拾った女のことや、海々が意図的に明音さんに預けられたこと。
それから、わたし達が人間ではないこと。
明音さんの心は随分と揺れたようだけど、それでも、わたし達のことを受け入れてくれた。
「おっ、このスープ、絶妙においしいですねっ」
「うんっ、海々も思ってた!」
「本当? 海々ちゃんと碧ちゃんに気に入ってもらえてよかったわ」
「野菜もお肉も入ってるのに、何かまた別の不思議なコクがありますね」
「そうなの。面白い物が売ってたから、隠し味にスープに入れてみたのよ」
「へぇ、どんなの?」
「これこれ」
「むぐっ!」
「マ、マグロジュース……」
「ん……、……ぷはっ、ふぅ……。ちょっと、お母さん!」
「どうしたの? いきなり喉に詰まらせて」
「どうしてそんな変なのをスープに入れるのよっ!」
「でも、海々ちゃん、おいしいって言ったじゃない」
「そ、そうだけどぉ……」
「最近、マグロが流行ってたっけ……?」
本当に、明音さんには敵わない。
夕食後は課題を済ませて、お風呂に入って、あとは寝るだけ。
電気を消して、並べて敷いた布団に身を預ける。
「碧、起きてる?」
「ん、起きてるよ。どうかした?」
「前々から思ってたんだけどさ、碧っていつになったら海々を『親友』にしてくれるの?」
「は……?」
意味がわからない。
「海々は碧のことを親友って言うけど、碧からそう言われたことって、今まで一度もないから……」
「あぁ、そういえば」
わたし自身、ずっと疑問に思っていたことだ。
海々を『親友』と表現することに、ずっと違和感を覚えていた。
「なんかしっくり来なかったんだ」
でも、今ならわかる。
「それって、海々は親友の器じゃないってこと?」
「はは、違うよ。親友って、親しい友達って書くじゃない?」
「う、うん……」
「わたし達は人間同士じゃない。でも、もう超親しいでしょ。だから、親友って表現じゃ全然足りないんだよ」
だからね。
「わたし達は、心から深く真の神の如く親友。もうシンシンシンシンシンユウだよ」
海々が吹き出すように笑う。
バカみたいだとは自分でも思っている。
でも、間違ってもない。
「そっか、そうだね」
いつまでも、ずっと一緒にいられる。
これからも、大好きな海々の笑顔を見ていられる。
「海々達は」
「うん、わたし達は」
ずっと、シンユウだよ――。
昼休み。
チャイムが鳴ったと同時に三人のクラスメートがわたしの席に寄ってくる。
そして揃って拳を出した。
「最初はグーっ」
二宮が持ち前の爽やかさで鮮やかにスタートがきってとられ、
「ジャンケン……」
綿谷が厳つい顔にはとても似つかない、だけどリズミカルに音頭をとり、
「ポン!」
ジャンケンを心から楽しんでいるような、満面の笑みを浮かべた海々が号砲を上げた。
ひとりがチョキで、あとは全員がグーだった。
「うわっ、俺かよっ」
二宮が悔しそうに天井を仰ぐ。
「ま、しょうがねぇか。猛さんは何にします?」
「チョコバナナのロールケーキとイチゴ餅パン。それからミルクココア」
もう何も言うまい……。
「了解ですっ。チョコバナナのロールケーキとイチゴ餅パン、それとミルクココアでっ。沙理沢は?」
「わたしと海々は弁当があるからジュースだけでいいよ。わたしはミルクティーで。海々は何にする?」
「んー、じゃあザクロジュースでいいや」
「え? なに? マグロ? 二宮、マグロジュースだって!」
「了解っ、ミルクティーとマグロジュースでっ」
「そんなのいらないーっ!」
海々が叫んだ頃には既に時遅し、二宮は軽快に教室から出ていった。
最近、わたし達は4人で昼食を食べることがたまにある。
机をくっつけて、世間話でもしながら気ままに過ごす。
わたし達は、もうそこら辺にいる仲良しグループの一つと変わらない。
最初は周囲の注目を浴びたけど、今ではだいぶ慣れてきているようだ。
『あの光景』を見た朱漢組が誰かに口を割らないか不安だったけど、それは杞憂に終わった。
綿谷が連中に箝口令を敷いてくれたらしく、それを破った奴には厳罰を課すことにしたそうだ。おかげでそれらしい噂が流れた様子はない。
これは素直に感謝だね。
連中はわたし達への態度を変えることをせず、今までと全く同じように接してきてくれている。むしろ結託して海々を助けたこともあって、以前よりも好意的に交流している。
「どう、海々? マグロジュースおいしい?」
「全然おいしくないよっ! だいたい、なんでこんな変なのが売ってるのっ!」
「まぁまぁ、落ち着けよ、杞蕾。スルメジュースなんて物もあったぞ。明日はそれにしてみないか?」
「いいねぇっ、その響きっ。海々、もう飲むしかないよっ」
「自分が飲んでよっ! 海々は普通のジュースが飲みたいの! 魚はあんまり好きじゃないんだから」
「杞蕾よ、好き嫌いはよくない。苦手だからっていつまでも引き離していると、克服出来るものも出来なくなる。わしらのためにマグロやスルメは命を落としているのだ。そいつらの犠牲に報いるためにも、わしらはちゃんと食して、栄養にしてやるのが筋ってものではないのか?」
「言ってることはもっともだけどなんかおかしいーっ!」
いいことだよね、きっと。
家に帰ると、いつもと同じように明音さんが迎えてくれる。
海々と一緒に夕飯を作る手伝いをして、出来上がれば3人でディナータイム。
『あの日』、夜中に帰ったにも関わらず、明音さんは起きて待っていた。
それから海々の姿を認めると、今までないくらいに顔を歪めた。
綺麗な顔をぐしゃぐしゃにして、愛娘の帰宅を抱擁で迎えた。
海々も同じように泣き崩れて、見ていたわたしも泣いちゃった。
それから色々なことを包み隠さず話をした。
わたしと海々を拾った女のことや、海々が意図的に明音さんに預けられたこと。
それから、わたし達が人間ではないこと。
明音さんの心は随分と揺れたようだけど、それでも、わたし達のことを受け入れてくれた。
「おっ、このスープ、絶妙においしいですねっ」
「うんっ、海々も思ってた!」
「本当? 海々ちゃんと碧ちゃんに気に入ってもらえてよかったわ」
「野菜もお肉も入ってるのに、何かまた別の不思議なコクがありますね」
「そうなの。面白い物が売ってたから、隠し味にスープに入れてみたのよ」
「へぇ、どんなの?」
「これこれ」
「むぐっ!」
「マ、マグロジュース……」
「ん……、……ぷはっ、ふぅ……。ちょっと、お母さん!」
「どうしたの? いきなり喉に詰まらせて」
「どうしてそんな変なのをスープに入れるのよっ!」
「でも、海々ちゃん、おいしいって言ったじゃない」
「そ、そうだけどぉ……」
「最近、マグロが流行ってたっけ……?」
本当に、明音さんには敵わない。
夕食後は課題を済ませて、お風呂に入って、あとは寝るだけ。
電気を消して、並べて敷いた布団に身を預ける。
「碧、起きてる?」
「ん、起きてるよ。どうかした?」
「前々から思ってたんだけどさ、碧っていつになったら海々を『親友』にしてくれるの?」
「は……?」
意味がわからない。
「海々は碧のことを親友って言うけど、碧からそう言われたことって、今まで一度もないから……」
「あぁ、そういえば」
わたし自身、ずっと疑問に思っていたことだ。
海々を『親友』と表現することに、ずっと違和感を覚えていた。
「なんかしっくり来なかったんだ」
でも、今ならわかる。
「それって、海々は親友の器じゃないってこと?」
「はは、違うよ。親友って、親しい友達って書くじゃない?」
「う、うん……」
「わたし達は人間同士じゃない。でも、もう超親しいでしょ。だから、親友って表現じゃ全然足りないんだよ」
だからね。
「わたし達は、心から深く真の神の如く親友。もうシンシンシンシンシンユウだよ」
海々が吹き出すように笑う。
バカみたいだとは自分でも思っている。
でも、間違ってもない。
「そっか、そうだね」
いつまでも、ずっと一緒にいられる。
これからも、大好きな海々の笑顔を見ていられる。
「海々達は」
「うん、わたし達は」
ずっと、シンユウだよ――。
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