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第7章 Ⅲ

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第7章 Ⅲ


夢を見ているようだった。
すごく神秘的で、幻想的で、だけど、どこか儚くて。
白い光がわたしを包む。
それは月の光でも、人工的な光でもない。
柔らかくて、わたしのことを祝福してくれているような、優しい光。
「海々?」
何の根拠もないのに、わたしはそう直感した。
「どこにいるの?」
何故かはわからない。
わからないけど、呼べば返事が返ってくる確信があった。
だって、ほら。
『碧』
こうやって、ちゃんと返ってくる。
「どこ? どこにいるの?」
さっきの質問を、もう一度した。
『ここにいるよ』
ここ?
『目を、開けてみて』
言われて、初めて目を閉じていることに気付いた。
わたしは言われた通りに、ゆっくりと瞼を開いた。

「はぁ……」
その光景に、わたしはただ嘆息するしかなかった。
「輝いてるね、海々」
比喩的な表現じゃない。
本当に、真っ白な光に包まれた海々が、月を背にして宙に浮いていた。
銀色にも近い白に輝いている海々は、全てを赦すような、今までで1番優しい微笑みを浮かべている。その姿は、まるで天使を彷彿させた。
いや、『まるで』はいらない。
天使そのものだった。
この世界に、天使が舞い降りてきた。
「碧だって輝いてるよ」
「え?」
見惚れていると、海々がくすくすと笑みをこぼした。
わたしは両手を顔の前に持ってくる。
「ホントだ……」
真っ白な光に包まれて、強く輝きを放っていた。
だけど、それは決して眩しくはなくて、むしろ瞳が澄んでいくような感覚。
「そっか、これが……」
唐突に理解した。
「この光が、わたしを助けてくれたんだね……」
全てを赦し、傷を癒す光。
一度は消えたわたしの存在を、もう一度照らし出してくれた。
「ふふっ」
なんだか、おかしくなってきた。
「どうしたの?」
「いやぁ、傷を癒す光だなんて、まるでゲームの世界みたいだなぁ、って」
「あぁ、言われてみれば、確かにそうかもねっ」
「死んだ人間が生き返るなんて、ね」
「海々も空飛んじゃってるしね」
「人間じゃ有り得ないよね」
「うん、まったくだよ」
他愛もない、世間話のような会話。
「海々、降りてこれる?」
もっと、近くで海々の顔を見たい。
もっと、近くで海々の声を聞きたい。
「んっと、どうやったら降りられるのかわかんない……」
「うわ、だっさ」
素直に感想を漏らしてやる。
「でっ、でもでもっ、碧を持ち上げることなら出来るから!」
海々は慌てて繕うと、両手をわたしに差し出してきた。
そして、その手をゆっくりと上に持っていく。
その手に導かれるように、わたしの体が持ち上がる。
「わっ」
不思議な気分だった。
重力というものを一切感じない。地面に落ちる気が全くしない。
ホント、つくづく人間離れしているなぁ。
徐々に近付いていく。
あれだけ会うことを切望して、取り戻すって心に決めた相手に。
今になって気付いた。源泉湖が白く、光を反射する鏡のように輝いている。それは、まるで海々に呼応しているように。
「碧……」
上昇が止まった。
その相手が、目の前にいる。
ずっと求めていた相手が、目の前にいる。
たかが1週間と少しの間だけなのに、すごく長かった気がする
失って。
捜し続けて。
絶望して。
再起して。
戦って。
取り返して。
見失って。
照らされて。
そして。
「海々」
ようやく、辿り着くことが出来た。
「わたし達、人間じゃないみたいだけどさ」
「うん」
「こんな力がある以上、人間になりきれないかもしれないけどさ」
「うん」
「これから、辛いこととか、色々あるかもしれないけどさ」
「うん……」
「わたし達は、人間らしく生きていこうね」
「う、ん……」
「人間らしく、ずっと……、ずっと、仲良くしていこうねっ」
「……うんっ!」
運命だとか、引かれ合うとか、そんなものはどうでもいい。
わたしと海々は、同じ高校に入学して、同じクラスになった。
たったそれだけ。
当たり前のように邂逅を迎えて、当たり前のように仲を深めてきただけ。
それ以上でもそれ以下でもない。
人間だろうと宇宙人だろうと天使だろうと。
わたしはわたし。
海々は海々。
お互いが、お互いにとって、大切なトモダチ。
そう、たったそれだけ。
わたしは、涙で頬を濡らした海々を、そっと抱き締めた。


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