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▽サファイアを君に▽黒曜石が囁いている
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前半アレクシス後半ルシウス
本文
うちのアリシアちゃんは、いつも本を読んでいる。記憶にある限りずっとだから、よほど好きなんだろう。
ジャンルはまちまちで、図書館の本をまさに濫読。
この間は鉱物の本を読んでいたが、1番好きなのはロマンス小説なのだと思う。いつもとても真剣な面持ちで手に汗握り読んでいるのだが、ロマンス小説って、そんな冒険小説のようなシーンに溢れていただろうかと首を捻る。
アリシアちゃんは王子様が好きなんだろうな、と、とりあえず、勉強も音楽もダンスも乗馬も、王子様要素がありそうなものは手当り次第に優を取っている。
アリシアちゃんは製菓が上手だ。
何があったのか忘れたが、泣きわめいた時に、溜息をついてどこかに消えてしまったことがある。置いていかれたことに更に絶望して使用人を振り切って、呼吸が覚束無い程に声を枯らして泣いていたら、どこからか、スっとピンクのぷるぷるした物体を持ったアリシアちゃんが戻ってきて、口の中に冷たいそれをスプーンにのせて運ばれた。甘くて、冷たくて、美味しくて、びっくりして泣き止んだ。
それ以来、アリシアちゃんは、誰に習ったでもない名前の無い菓子を、僕にだけ振舞ってくれるようになった。
僕はアリシアちゃんの特別なのだと言われているようで、それだけで、ほっぺが落ちてしまいそうなほど幸福だった。
ある日、ロマンス小説の王子様が現実に現れて、アリシアちゃんと将来を共にするのだと言った。
金ピカの髪、柔らかな性格、僕にも微笑みかけてくれたけど、いけ好かなかった。
なのに、僕の特別なお菓子を勝手に食べた王子様は、さっきまでのメッキがボロボロ崩れ落ちて本物の王子様になっていく。
…アリシアちゃんの、王子様に、なっていった。
いつかは来るとわかっていた日は早かったけれど、僕にだって、心はあるのだから。
『ありしあたん、そのごほん、おもしろいの?』
『あれく、これはさふぁいあというのよ。きれいね。』
…あれくのひとみと、おなじいろ。きれいね。
あなたが誰かのものになってしまう前に、君の前に膝を着いてサファイアに誓おう。
×××
騎士というのは、無駄に騒がず冷静でいて常に心を燃やし続けなければいけない。
幼馴染の誕生日パーティーに呼ばれるのは毎年のことだし、行かなきゃ行けない。
でも今年はその後、大好きな幼馴染に婚約者が出来たお披露目会が付いてくるから行きたくない。
しかも、俺はめちゃくちゃ幼馴染に嫌われているから、行ったら彼女は嫌な気持ちになるかもしれない。…彼女の気持ちは今までなら無視していたからただの言い訳の一個にしただけだけど。
ぐるぐるぐるぐる複雑な気持ちが胸を押さえつけて苦しくて、こんなのぜんぜん絵本の騎士様じゃない。
ちょっと前までピタッとくっついても…怒られたけど、近くには毎日いたし、たまに頼られることだってあったし…その後とうさまに怒られたりしたけど、幸せだったなぁ。と、辛い訓練があった時とか思い出す。
「あ、おたんじょうびぷれぜんと、どうしよう!」
去年までは、「るしうす!わたしあのおみせのちょこれーとがたべたいから、ぷれぜんとはそれになさい。」とか、俺が悩む前に決めてくれたのに。あのキラリと光る真っ黒な一対の瞳で永遠に見つめられていたかった。
そこで、どこかの貴族があねさまの瞳を宝石に例えていた事を思い出した。
確かその石は宝石商で買えるのだ。
会場に山と積まれたプレゼントに忍び込ませたブローチは、今俺が使っているカフスと対になっている。
もしかしたら、開くことなく目にすることも無いかもしれないプレゼント。
でも、万が一、使ってくれたらと想いを込めて、明日からも君のナイトになる為に努力しようと誓った。
後書き
自分をあげたい人と、ペアを持ちたい人。
本文
うちのアリシアちゃんは、いつも本を読んでいる。記憶にある限りずっとだから、よほど好きなんだろう。
ジャンルはまちまちで、図書館の本をまさに濫読。
この間は鉱物の本を読んでいたが、1番好きなのはロマンス小説なのだと思う。いつもとても真剣な面持ちで手に汗握り読んでいるのだが、ロマンス小説って、そんな冒険小説のようなシーンに溢れていただろうかと首を捻る。
アリシアちゃんは王子様が好きなんだろうな、と、とりあえず、勉強も音楽もダンスも乗馬も、王子様要素がありそうなものは手当り次第に優を取っている。
アリシアちゃんは製菓が上手だ。
何があったのか忘れたが、泣きわめいた時に、溜息をついてどこかに消えてしまったことがある。置いていかれたことに更に絶望して使用人を振り切って、呼吸が覚束無い程に声を枯らして泣いていたら、どこからか、スっとピンクのぷるぷるした物体を持ったアリシアちゃんが戻ってきて、口の中に冷たいそれをスプーンにのせて運ばれた。甘くて、冷たくて、美味しくて、びっくりして泣き止んだ。
それ以来、アリシアちゃんは、誰に習ったでもない名前の無い菓子を、僕にだけ振舞ってくれるようになった。
僕はアリシアちゃんの特別なのだと言われているようで、それだけで、ほっぺが落ちてしまいそうなほど幸福だった。
ある日、ロマンス小説の王子様が現実に現れて、アリシアちゃんと将来を共にするのだと言った。
金ピカの髪、柔らかな性格、僕にも微笑みかけてくれたけど、いけ好かなかった。
なのに、僕の特別なお菓子を勝手に食べた王子様は、さっきまでのメッキがボロボロ崩れ落ちて本物の王子様になっていく。
…アリシアちゃんの、王子様に、なっていった。
いつかは来るとわかっていた日は早かったけれど、僕にだって、心はあるのだから。
『ありしあたん、そのごほん、おもしろいの?』
『あれく、これはさふぁいあというのよ。きれいね。』
…あれくのひとみと、おなじいろ。きれいね。
あなたが誰かのものになってしまう前に、君の前に膝を着いてサファイアに誓おう。
×××
騎士というのは、無駄に騒がず冷静でいて常に心を燃やし続けなければいけない。
幼馴染の誕生日パーティーに呼ばれるのは毎年のことだし、行かなきゃ行けない。
でも今年はその後、大好きな幼馴染に婚約者が出来たお披露目会が付いてくるから行きたくない。
しかも、俺はめちゃくちゃ幼馴染に嫌われているから、行ったら彼女は嫌な気持ちになるかもしれない。…彼女の気持ちは今までなら無視していたからただの言い訳の一個にしただけだけど。
ぐるぐるぐるぐる複雑な気持ちが胸を押さえつけて苦しくて、こんなのぜんぜん絵本の騎士様じゃない。
ちょっと前までピタッとくっついても…怒られたけど、近くには毎日いたし、たまに頼られることだってあったし…その後とうさまに怒られたりしたけど、幸せだったなぁ。と、辛い訓練があった時とか思い出す。
「あ、おたんじょうびぷれぜんと、どうしよう!」
去年までは、「るしうす!わたしあのおみせのちょこれーとがたべたいから、ぷれぜんとはそれになさい。」とか、俺が悩む前に決めてくれたのに。あのキラリと光る真っ黒な一対の瞳で永遠に見つめられていたかった。
そこで、どこかの貴族があねさまの瞳を宝石に例えていた事を思い出した。
確かその石は宝石商で買えるのだ。
会場に山と積まれたプレゼントに忍び込ませたブローチは、今俺が使っているカフスと対になっている。
もしかしたら、開くことなく目にすることも無いかもしれないプレゼント。
でも、万が一、使ってくれたらと想いを込めて、明日からも君のナイトになる為に努力しようと誓った。
後書き
自分をあげたい人と、ペアを持ちたい人。
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