鋼翼の七人 ~第二次異世界大戦空戦録 A.D.1944~

萩原 優

文字の大きさ
上 下
47 / 51
◆last day

第46話「ぎりぎりの終局」【挿絵】

しおりを挟む
”あの時ほど竜神の加護に感謝した時はありませんでした。
 颯爽と駆け付けてくれた彼は、神話の英雄のようでしたよ”

南部隼人のインタビューより


Starring:南部隼人

『南部中尉! 約束の件は果たしてもらうぞ!』

 ワルゲス・ゾンバルト見参!
 無線越しに聞こえてきただみ声は、まさしくあのワルゲス中佐だった。

『南部、良く持ちこたえた! 突っ込むのは俺達に任せて、お前はお前の戦い方をしろ!』
「了解です! こちらはお任せを!」

 隼人は元気よく答える。生きていた菅野なおしは、銀翼をはためかせて突入してゆく。
 旧式機と言えど、〔96艦戦きゅーろくかんせん〕は翼面荷重の低い。つまり旋回性能に優れるので、狭い空間で戦う限り勝利の目はある。
 ただし、それなりの腕があることは必須である。
 隙を突いて一矢報いる事もできるかも知れない。何しろパイロットはあの菅野なおしなのだ。

『ミズキ中尉を救出に行く! 中佐! ついてきてくれ!』
『応とも!』

 急降下してゆく2機の旧式機を見送る。

「あれ、本当にワルゲス中佐か?」

 南部隼人は、不遜な事を呟いてしまう。飛び交う飛行機の爆音で事なきを得たが。
 すぐぐに頭を切り替え、左後方から襲ってきた〔FM-2〕に対処する。
 あとはもう、ここに留まる理由はない。菅野たちと呼応して、ただちに戦場を離れるべきだ。隼人の判断は早かった。

「戦闘止め、各個に離脱せよ!」

 爆撃を終えた早瀬沙織機が離脱を開始すると、引き上げの指示を出して沙織のバックアップに専念する。リーム・ガトロンやグレッグ・ニールは心配だが、まずはリィル・ガミノを優先せねばならない。

 脱出は困難を極めた。

 速力を出そうと機体を上昇コースに乗せた瞬間、横合いから新手が襲ってくるのだ。砲弾もほぼ撃ち尽くし、燃料もかなり危ない。
 被弾覚悟の強行突破を決断しかけた時……。

 ”それ”は現れた。

 はるか北方に、黒い砂をばらまいたような点が一面に広がっていった。
 敵機はこちらを無視し、泡を食ったように高度を上げてゆく。

 だが、間に合わない。

 駆けつけた〔隼鷹じゅんよう〕〔飛鷹ひよう〕所属の艦上戦闘機〔海燕かいえん〕は上方じょうほうからガミノ軍機と格闘戦に入る事になった。つまり優位戦である。



 〔海燕〕は陸軍の〔飛燕改ひえんかい〕を艦上化した戦闘機だ。
 既存の機体に空冷エンジンを繋げただけの手堅い飛行機でありながら、使い勝手の良い万能機として重宝されていた。
 格上のハイテク戦闘機と言えど、上方からの攻撃を受ければ、結果など見えている。高度の落ちきった〔コルセア〕に急降下急上昇戦法ダイブアンドズームは使えない。

 この時参戦したパイロットは語る。

 「入れ食い状態だった」と。


◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 〔海燕〕に続き現れた〔瑞山ずいざん〕艦上攻撃機が防空網を突破。爆弾と魚雷を投下してゆく。



 攻撃隊は空母を最優先目標とした為〔アラスカ〕に被害は無かったが、〔ワスプ〕級2隻はそうはいかなかった。
 〔瑞山〕が投弾した二五番250キロ爆弾が旗艦〔ワスプ〕の飛行甲板を貫通、格納庫内で炸裂した。

 〔ワスプ〕級は開放型格納庫の持ち、爆風をある程度逃すような構造をしているが、航空母艦としては過渡期のフネに過ぎない。
 後の〔エセックス〕級大型空母のように第一甲板ヴァイタルパートに装甲は張られていないのだ。構造の脆さはいかんともし難かった。
 彼女はただ一発の爆弾で空母としての機能を喪失してしまう。

 旗艦の〔エルスト・ガミノⅠ世〕も無事では済まなかった。
 爆撃機は直掩の〔FM-2〕が必死に追い払ったが、彼らの目が上空に向いた瞬間、海面スレスレで突っ込んできた〔瑞山〕の反跳爆撃スキップボミングが横腹で炸裂する。巨大な火球と共に、大量の海水が流れ込んだ。
 飛行甲板こそ無事だったが、優速を誇っていた船足ふなあしは、見る影もなく落ち込んだ。

 ガミノ艦隊にとって救いだったのは、ダバート海軍機が遠距離からの攻撃だったために、十分な攻撃時間が取れなかったことだ。
 それでも、空母2隻をほぼ使用不能にされ、艦隊としては死に体であると言って良い。
 中型とは言え、戦闘用に設計された正規空母が、商船改造の戦時急造空母に一方的に叩きのめされたのだった。

 原因は明白だ。僅か7機の戦闘機に翻弄されて周囲の警戒を怠り、偵察機の増派を具申する参謀長を遠ざけた司令官に責がある。アンドレイ・ナイフ中将は、その責任を最後まで自覚することは無かったが。

 また、ガミノ艦隊は運にも見放されていた。

 このクラスの艦隊になるとレーダー装備のピケット艦を艦隊外周に配備し、攻撃を察知する戦術をとる。そのピケット艦は海底にその身を横たえていた。
 クーリル諸島に艦隊来襲を警告した〔伊-6〕い・ろく潜水艦が、単艦で行動するピケット艦を発見し、これ幸いと魚雷の一撃を見舞ったのだ。そして、ナイフは代替の駆逐艦の配置を命じたが、条約軍の攻撃隊が上空を通過した後だった。

 南部隼人は後に艦隊の不運を下記のように評した。
 「前世のミッドウェイを上回る間の悪さ」と



 もはやガミノ軍の構えたナイフ・・・は、ケーキを切り分ける立場にはなかった。

 第一撃の戦果を見て、救援艦隊では第二次攻撃隊の編成が行われた。
 しかし、護衛艦隊を指揮する海上護衛総隊かいじょうごえいそうたい牟田口むたぐち中将は断固として主張した。

「それでは間に合わん!」と。

「第二次攻撃隊は簡易護衛空母の〔大鷹たいよう〕〔沖鷹ちゅうよう〕から出す! 主力部隊は帰還する第一次攻撃隊を拾いながら敵艦隊との距離を詰めて頂きたい! そうすれば第二次攻撃隊は〔隼鷹〕〔飛鷹〕で収容できる!」

 外様である海上護衛総隊からねじ込まれた作戦に、なんてとんでもない提案をするのだと艦隊司令部は皆頭を抱えた。
 牟田口と言う男、中東の治安維持任務で性根を叩きなおされても、陸軍仕込み・・・・・の敢闘精神だけは治らなかったようだ。

 だが実際問題、敵空母を仕留めるかどうかの瀬戸際である。
 それに同じ護衛空母でも、〔大鷹〕〔沖鷹〕はより船体が大きい。米国や後発の急造型護衛空母と比べ、ある程度の艦隊戦にも対応できる設計だった。
 艦載機も〔海燕〕及び〔瑞山〕と、少数ながら〔隼鷹〕型2隻と同じ機体を揃えている。

 艦隊司令は、この提案に乗る事にした。

 こうして、ガミノ海軍第3艦隊の運命は決した。
しおりを挟む
本作の設定などはwebサイトで公開しております。ライズ世界の歴史やテクノロジーについても触れているので、興味を持っていただけたら、是非遊びに来てください(`・ω・´)b王立銃士隊https://jyushitai.com/
感想 0

あなたにおすすめの小説

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

転生少女は大戦の空を飛ぶ

モラーヌソルニエ
ファンタジー
薄っぺらいニワカ戦闘機オタク(歴史的知識なし)が大戦の狭間に転生すると何が起きるでしょう。これは現代日本から第二次世界大戦前の北欧に転生した少女の空戦史である。カクヨムでも掲載しています。

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 五の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1941年5月、欧州大陸は風前の灯火だった。 遣欧軍はブレストに追い詰められ、もはや撤退するしかない。 そんな中でも綺羅様は派手なことをかましたかった。 「小説家になろう!」と同時公開。 第五巻全14話 (前説入れて15話)

蒼穹(そら)に紅~天翔る無敵皇女の冒険~ 四の巻

初音幾生
歴史・時代
日本がイギリスの位置にある、そんな架空戦記的な小説です。 1940年10月、帝都空襲の報復に、連合艦隊はアイスランド攻略を目指す。 霧深き北海で戦艦や空母が激突する! 「寒いのは苦手だよ」 「小説家になろう」と同時公開。 第四巻全23話

猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~

橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。 記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。 これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語 ※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります

―異質― 邂逅の編/日本国の〝隊〟、その異世界を巡る叙事詩――《第一部完結》

EPIC
SF
日本国の混成1個中隊、そして超常的存在。異世界へ―― とある別の歴史を歩んだ世界。 その世界の日本には、日本軍とも自衛隊とも似て非なる、〝日本国隊〟という名の有事組織が存在した。 第二次世界大戦以降も幾度もの戦いを潜り抜けて来た〝日本国隊〟は、異質な未知の世界を新たな戦いの場とする事になる―― 日本国陸隊の有事官、――〝制刻 自由(ぜいこく じゆう)〟。 歪で醜く禍々しい容姿と、常識外れの身体能力、そしてスタンスを持つ、隊員として非常に異質な存在である彼。 そんな隊員である制刻は、陸隊の行う大規模な演習に参加中であったが、その最中に取った一時的な休眠の途中で、不可解な空間へと導かれる。そして、そこで会った作業服と白衣姿の謎の人物からこう告げられた。 「異なる世界から我々の世界に、殴り込みを掛けようとしている奴らがいる。先手を打ちその世界に踏み込み、この企みを潰せ」――と。 そして再び目を覚ました時、制刻は――そして制刻の所属する普通科小隊を始めとする、各職種混成の約一個中隊は。剣と魔法が力の象徴とされ、モンスターが跋扈する未知の世界へと降り立っていた――。 制刻を始めとする異質な隊員等。 そして問題部隊、〝第54普通科連隊〟を始めとする各部隊。 元居た世界の常識が通用しないその異世界を、それを越える常識外れな存在が、掻き乱し始める。 〇案内と注意 1) このお話には、オリジナル及び架空設定を多数含みます。 2) 部隊規模(始めは中隊規模)での転移物となります。 3) チャプター3くらいまでは単一事件をいくつか描き、チャプター4くらいから単一事件を混ぜつつ、一つの大筋にだんだん乗っていく流れになっています。 4) 主人公を始めとする一部隊員キャラクターが、超常的な行動を取ります。ぶっ飛んでます。かなりなんでも有りです。 5) 小説家になろう、カクヨムにてすでに投稿済のものになりますが、そちらより一話当たり分量を多くして話数を減らす整理のし直しを行っています。

旧陸軍の天才?に転生したので大東亜戦争に勝ちます

竹本田重朗
ファンタジー
転生石原閣下による大東亜戦争必勝論 東亜連邦を志した同志達よ、ごきげんようである。どうやら、私は旧陸軍の石原莞爾に転生してしまったらしい。これは神の思し召しなのかもしれない。どうであれ、現代日本のような没落を回避するために粉骨砕身で働こうじゃないか。東亜の同志と手を取り合って真なる独立を掴み取るまで… ※超注意書き※ 1.政治的な主張をする目的は一切ありません 2.そのため政治的な要素は「濁す」又は「省略」することがあります 3.あくまでもフィクションのファンタジーの非現実です 4.そこら中に無茶苦茶が含まれています 5.現実的に存在する如何なる国家や地域、団体、人物と関係ありません 6.カクヨムとマルチ投稿 以上をご理解の上でお読みください

転生一九三六〜戦いたくない八人の若者たち〜

紫 和春
SF
二〇二〇年の現代から、一九三六年の世界に転生した八人の若者たち。彼らはスマートフォンでつながっている。 第二次世界大戦直前の緊張感が高まった世界で、彼ら彼女らはどのように歴史を改変していくのか。

処理中です...